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9.屑鉄市場の戦い_中

文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。

 僕は〈フィジカル(身体強化)〉の魔法について、ほとんど知らない。

 この魔法は魔力が続く限り身体能力を底上げする魔法だ。僕はこれすら満足に使えない。


「おらー! もっと砕けぇ!」


「うわ、ちょっと飛びすぎだって!」


 今、目の前では灰月の手の組員さんたちがガラクタを粉々にしている。鉄粉とほこりが舞い上がり、布でも巻いてないと気管支炎になりそうだ。


 屑鉄市場のガラクタは湿気と油で劣化し、粉状の錆に覆われていた。古い部品の中には指で押すだけで崩れるほど脆いものもある。


「アルス、あんまり近づくなよ。目に入ったら終わりだぞ」


「いや、もうちょっとで終わりそうだから……って、また飛んできた!」


 身体強化した拳が叩き込まれれば、鉄の山は爆ぜるように砕け、鉄粉が霧のように舞った。


 そんな山がそこら中にある場所で、五十人弱が同時に粉砕を始めれば――

 空気が黒く濁るのは、当然だった。


「ここ、聞いてたより鉄粉やほこりもすごそうだね」


「お前なあ。一応はうちのシマなんだぞ。まあ、ここで商売している奴は、戦闘の気配が始まればすぐにどこかに逃げるだろうがよ」


 マーガレットが前を見てそう愚痴る。

 

 屑鉄市場は湿気と油で劣化したガラクタが山積みになっていて、触れれば崩れるほど脆い部品も多い。

 小さな家が乱雑に立ち並び、まるでゴミ溜めのようだった。


「屑鉄市場で商売している人たちは、どこに逃げているんですか?」


 少し気になったことをマーガレットに聞く。


「うちのアジトはがら空きにするからな。さらに奥の川の方に逃げるようには言ってある。それ以上は知らん」


 なるほど、完全に守ってやる! とかそんな感じじゃないんだ。


「マーガレットさん。結構鉄粉が舞い始めて視界が悪くなってきました。これ以上やると仲間たちも見失いそうです」


 ボグさんが布を顔に巻いて報告に来る。気管支炎が怖いから皆につけるように言ってある。

 みんな布を巻いている。僕もマーガレットもだ。


「こんなもんでいいんじゃないか?意外に時間かかったな」


「そこのアルスっていう小僧が、ついでに通れそうな道をガラクタでふさげって言ってましたんで」


「てめえ。勝手に指示だすんじゃねえ」


 マーガレットがこちらを睨む。


「ま、まあ終わったならいいじゃないですか。これで少し目くらましと時間稼ぎになります」


 ごまかすように言葉をつなぐ。


「ち、まあいい。全員を集めろ」


「わかりました」


 ボグさんが走っていき、それと入れ替わるようにカイたちが戻ってくる。顔が全員真っ黒だ。


「ぺっ。少し口に入ったな。撒き終わったぞ」


 カイが唾を吐く。


「うええ、きたねえ」「でも楽しかったねー」「……悪くない……」「わたしはもうやりたくないわ」「僕たちは楽しかった…かも?」


 みんな好き勝手にしゃべっている。

 砂も舞ってきたけど、僕は何もしてないし文句を言うほど野暮じゃない。

 メルは僕の後ろで、真っ黒になったみんなの体を拭いてあげている。


「マーガレットさん全員集めました」


「よし、じゃあ――「あねきー。会いたかったですよー」」


 急に甘えた声がしたと思ったら、マーガレットに人影が抱きついた。その勢いで、すぐ横に立っていた僕は押し倒される。


 ……膝、すりむいた。


「ルビー! 今はそれどころじゃねえ! 貴族を倒しに行くんだよ!」


「でもー、ルビー頑張ったくないですかー? 一人で結構足止めしたんすよ?えらいですよね? 褒めてほしいです!」


「だああ。えらいえらい! 早く戻れ! 行くんだっつってんだろうがよ!」


「ええー適当……ん?なんすかこの子? なんで倒れてんすか? ぼく、川の方に逃げるんじゃなかったっけー?」


「こいつも含めてそこの小僧たちは連れてくんだよ! 聞いてないのか! 説明しただろうが!」


 マーガレットこの人絶対そういうの聞くタイプじゃないよ……。


 ピンク色の髪に琥珀色の目。口にタバコみたいなものをくわえているけど、どう見ても未成年だ。

 対してマーガレットは……たぶん二十代後半。怖くて聞けないけど。


 ルビーは1.6ルメドほどの小柄な体格なのに、1.8ルメドはあるハルバードを軽々と持っていた。


「いやいや! ちゃんと聞いてますって! カイでしたっけ?」


「僕はアルスです」


「はあーー。まあいい。こいつはこんなんだが、低位の中じゃ上の魔力を持ってる。ちょっと特殊な奴だが戦力としてはだいぶ強いぞ」


「あねきー! がんばりますよー! まかせてくださいー!」


 軽い感じだけど本当に大丈夫だよね? まあ、一番戦力外なの僕だけどね。


「とりあえず動くぞ。部下の話じゃ、黒蛇の帳はバンって後釜が率いているらしい。屑鉄市場の入り口付近で貴族2人と居てそのまま中に入ったらしい。今ならそのまま回り込んで貴族を倒せる」


「「おう!」」「あーい」


 1人不安な返事だけど、この人数なら貴族2人くらいは倒せるのかな。

 マーガレットさんが自信満々だから貴族のことはお任せだけど、この人どのくらい強いんだ?



 ――それからしばらく進み、屑鉄市場の入り口付近にたどり着いた。

 

 本当に貴族がいる。しかも2人だ。一応従者もいるな。後、フード姿の小柄なやつもいる。

 

 建物から少し伸びた……オーニング?っていうんだけ砂漠地方にある日差し除け。その下に普通に座っている。従者の人に何か命令している。


「いたな。報告通りだな」


「でも従者の人がいますよ」


 従者はざっと三十人ほどいて、周囲を固めていた。

 魔力を見てみると、従者の魔力はほとんどない。フードのやつに関しては――何も見えなかった。魔力を全く持っていない。


 マーガレットは呆れたように言った。


「こっちは倍近くいる。あんな連中、戦力として数える必要もねえ。それに周りの奴らはこちらの人数を見たら逃げるだろう。見たところ、低位の貴族だろう。すぐにやるぞ」


 マーガレットは腰に挿してある剣を抜く。マーガレットの剣は長剣だ。だがそこまで幅のある剣じゃない。どちらかというと細身の剣だ。

 そして、その剣と反対の手をルビーに向けて前へ振る。


「了解でーす。行きますよー。〈フィジカル(身体強化)〉」


 ルビーは鉄粉の霧を切り裂くように、貴族たちのいるオーニングへ向かって駆け出した。

 その背中を追うように、灰月の手の組員たちが一斉に走り出す。


「おいアルス。お前たち小僧どもはここでボグといろ。お前魔力を目に通せるんだろう?周りをみてろ」


「あ、はい」


 魔力を目に通していることは言っていないが、魔法使いなら見れば分かるものなのか?でも、今はそれどころじゃないか。後で聞こうかな。


 下を見ると、早速ルビーが従者の1人を切り倒していた。


「な、なんだ!」


「貴様等! 我々を貴族と知っているのか!」


 貴族2人が慌てた様子で、声を荒げているのが遠くからでも聞こえた。ルビーは、その言葉に反応もせず、もう1人の従者の首を吹っ飛ばした。

 他の組員の人たちが他の従者と戦っている。

 急に現れた灰月の手の面々になす術もなく倒されていく貴族の従者たち。混乱してるようだし、逃げ出してもいる。


「行くぞ! 魔法をぶっ放す! てめえら後退しろ! ルビー! てめえも下がれ!」


 マーガレットが魔法を放つ準備をしている。


「あーい」


 ルビーが目の前の従者を肩から両断して後ろに大きく跳ねる。


「〈エアブレイク(暴風)〉」


 マーガレットの手から放たれた風は、白い渦となって立ち上がり、金属片を巻き込みながら唸り声を上げて貴族へ突撃した。


「なに! なぜ中位魔法が! ちっ! 〈マイナーシールド(簡易障壁)!」


「くっ! 〈マイナーシールド(簡易障壁)!」


 腐っても貴族。薄い丸い膜みたいのが貴族たちを中心に展開された。


「は! そんな弱い障壁じゃぁ意味ないねえ! 〈アイスバレット(氷弾)〉」


 マーガレットが続けざまに、氷の弾を最初に作った竜巻の中に混ぜた。そして、その竜巻はそのまま貴族たちに直撃する。


 ガキン!ガガガッ!と音がする。


「ぬぅぅ。ま、まずい。や、破られてしまう……!」


「なぜ! こんなところに中位の魔法使いがいる! 話が違うぞ!」


 貴族たちがワーワー騒いでいる。


 どうやら予想外の攻撃だったようだ。そろそろ障壁もヒビが入り始めていた。


「このまま押し切るぞ! あいつ等は生かしてとらえる! 事情も詳しく聞きてえからな!」


 バキンッ!と音を立ててシールドが割れた。それと同時にマーガレットは魔法を止めた。

 

「よし。あいつ等を捕まえろ! いけてめえら!」


 順調そうだな。ほっと一息つき、2人の貴族と周りを魔力の通した目で見る。

 震えている。顔は青ざめ、完全に怯え切っている。


 ――なのに。

 赤い外套を着た貴族が、一人だけ笑っていた。


 そしてーー

 小柄な奴のフードを、ゆっくりと捲った。


「マーガレット! 何か怪しいよ! そいつ笑ってる!」


 マーガレットも気付き、とっさに指示を止めようとしたが――。


 その瞬間、見えてしまった。


 圧倒的な魔力量。マーガレットでさえ霞むほどだ。胸の奥が冷たくなり、足が一瞬すくむ。


 ……なんだ、これ……。


「……〈エアブレイク(暴風)〉」


 その声は、空気そのものを震わせるように澄んでいた。

 直後――


 ゴウッと凄まじい風が一帯を飲み込んだ。

 ーー次の瞬間、まるで世界が息を止めたように風が消えた。さっきまで聞こえていた怒号も、音もない。周囲には、倒れた組員たち。

 マーガレットもルビーも、糸が切れたように地面へ崩れ落ちていた。


 そして――


 その中心に、そいつは立っていた。


 長い耳。

 人間とは思えないほど整った顔立ち。

 白い髪が、風の余韻に揺れている。


 青い瞳は――


 何の感情も映していなかった。


「…………」


 僕は息を呑んだ。そいつの存在はよく知っている。前世のアニメや漫画でよく見る存在。


 ――エルフだ。

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