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8.屑鉄市場の戦い_上

文章がおかしい等、感想や誤字脱字お受けしております。


仕事遂に始まりました…。

毎日15時更新で頑張ります。ある程度前のエピソードの修正が終わりましたら、更新頻度も考えます。

「おい小僧。大丈夫なんだろうな。結構無茶苦茶だぞ」


 アジトの前には、身体強化の準備を終えた組員たちがずらり並んでいた。誰もが落ち着かず、足元の砂を踏みしめる音だけがやけに響いていた。


 マーガレットにそう言われても、絶対大丈夫なんて言えるわけがない。


「大丈夫だと思います」


「てめえ、ここでダメだったら光になっちまうぞ」


 光になってという表現はこの世界特有の表現だ。

 まあ、前世でいう「天国いき」という意味だろう。


「それでもいい方法だと思うんです。それに成功率も高いと思いますよ。貴族相手なら。」


 そう。この作戦は、相手側に“貴族”がいるからこそ成り立つ作戦だ。


 貴族――この世界、特にこの国では絶対的な存在だ。

 マーガレットの話では、貴族は大きく領主貴族と宮廷貴族に分かれるらしい。


 階級もやたら細かい。公爵を頂点に、侯爵・伯爵・子爵・男爵……さらに準男爵や騎士爵まである。

 中でも、公爵家の三家は旧王族の血筋で“大公”と呼ばれ、侯爵と合わせて“大貴族”として絶対的な権力を持つ。


 そしてこの国では、“魔力を持つこと”が貴族の絶対条件だ。魔力階位が高いほど、貴族としての価値も上がるらしい。

 魔力は単なる力じゃない。生まれながらに与えられる“身分そのもの”だ。亜人は貴族になれないらしいし、皇帝も病で政務を離れているから、今は大公と侯爵が国を動かしているらしい。


 ――いやあ。ちゃんと転生したなあ、と感じる。


 それだけ、この国の“貴族”という存在は重い。


「貴族だからってのは分かるけど、本当に貴族は前線に出てこないのか?」


 カイが俺の横で聞いてくる。


「どうだろう。でも、この辺りじゃ魔法をまともに使える場所が少ない。貴族がわざわざ自分で前線に出る必要もないだろうし、出てくる確率は低いと思う」


「そういうものか?」


「そういうものだよ。それに、平民でさえ見下している人が大半らしいから、きっとスラムの人間なら、なおのこと一緒には居たくないと思う」


「それはそうかもな……。前に城壁内で貴族が商業区の平民を殺しても、誰も文句言わなかったし」


 カイがその時を思い出して納得している。


 平時なら絶対に近づきたくない存在だ。

 前世の江戸時代にも「切り捨てごめん」なんて話があったけど、それに近いのかもしれない。


 平民でこれなら、スラムの僕たちなんて雑草と変わらない。


 まあ、今からその貴族様に近づく作戦を開始するんだけど。


「貴族ってもこんなスラムに高位貴族が来るとはおもえねえな。居るとしても準男爵や騎士爵クラスだろうよ。それならわたしくらいでも倒せる」


「どのくらい貴族がいるかってのも不明ですけど」


「それの方が問題だ。だが、そこまで多くはないだろうな」


 マーガレットがはっきりと言う。


「え? そうなんですか?」


「屑鉄市場でメイズを倒した奴は2人だったと聞いている。メイズが言っていたから間違いない」


「メイズさん意識がないって聞いてましたけど……」


「この作戦はアジトを空にするんだぞ。寝ている奴なんて邪魔なんだよ。無理やり起こしたに決まってんだろう」


 メイズさん。あなた、この上司で本当にいいんですか?前世のブラック企業もそこまでしないんじゃないかな。


「それで? 身体強化できる奴は集めたがこれで足りるのか?」


「えっと、四十人くらいですかね? カイたち九人を含めれば、五十人弱にはなるのか」


「本当にできるのか。俺たちそこまで力強くないぞ。子供だし」


 カイが心配そうに聞いてくる。


「カイたちはどちらかというと補助役だから、大丈夫だよ」


 さあ、作戦開始!

 やってみるだけやってみるしかない。



*************************************

帝都アルベリア スラム街 屑鉄市場 黒蛇の帳 バン


 ――一方黒蛇の帳も組員を集め、屑鉄市場の入り口前に集結していた。


「おいそこの奴」


「……おれですかい?」


「そうだ。お前が頭目であろう?」


 でっぷりとした頭に、やけに光沢のある赤帽子をちょこんと乗せた貴族が俺に声をかけてきた。

 最初に名乗ったはずだが名前は絶対に言わない。見下しているのが分かる。


「我々はこの場所から奥にはいかないぞ」


「は? ですがこれから灰月の手のアジトまで突入するん、だ……です。その時いてくれないと困るんですが?」


「こんな埃っぽい場所に行けというのか?この私たちに」


 赤帽子の男は、脂ぎった顔を揺らしながら鼻で笑った。


「お前、この貴族たる私たちに命令できる立場ではなかろう?」


 もう一人のガリガリで背の高い、同じような緑の帽子をかぶった貴族が声を出した。


「あの執事からの依頼で来ているだけだぞ? そうでなければ、こんなゴミ溜めに来るものか」


 緑帽子の男は、骨ばった指をひらひらと振り、こちらを虫でも払うように見下した。


 ブチッ!頭の中で何かが切れた気がした。胸の奥がじわじわと熱くなる。周囲の部下たちも一瞬息を呑んだように静まり返る。


 こいつら、メイズを倒した後は何もしてねえ。

 そもそも遠くから、周りに引火しねぇよう魔法を撃ち続けていただけだろう。

 俺たちの仲間にも当てやがったし、手当たり次第じゃねえか。屑鉄市場の入り口にいただけで、最初から中に入る気なんてなかったくせに。


「……わかりやした」


 まあいい。そもそもメイズは倒した。あとはルビーとマーガレットっていう女だけだ。

 ゴーンもメイズと戦っているときに後ろからマーガレットに不意打ちをくらったって聞いている。


 ゴーンは油断してやられただけだろうな。


 メイズさえ倒せば問題ないだろう。元々あいつは灰月の手で一番強かったからな。

 マーガレットってのもきっと大したことないだろうよ。


「それではこの周辺にいるということでしょうか」


「無論だ。灰なんとかのアジトに入って金髪のガキを捕まえたら呼びに来い。その後で、ここら一帯を吹き飛ばしてそちらに行く」


「そうだ。あの執事から、ここはガキを捕まえるまでは吹き飛ばすと困るといわれているからな。だが、アジトまで行って、その女のガキが捕まれば別に構わんだろう」


 まるで俺たちの存在などいないように言いやがる。

 まあいい。もともと屑鉄市場は奴らのシマだったんだ。吹き飛んでもそこまで問題ない。


「わかりやした」


 そう言い残し部下を引き連れて屑鉄市場に入る。


「いいんですかいあの貴族たちだけ残して」


 部下の一人が俺に聞いてくる。


「仕方ねえよ。行かねえって言ってんだ。それに、一応は中位の魔法使いだからな。大丈夫だろう」


 むしろ、俺たちが近くにいた方が何を言われるか分かったもんじゃない。


「とりあえず行くぞ」


「へい」


 屑鉄市場に足を踏み入れた瞬間、湿った鉄の匂いが喉に張りつき、息を吸うだけで胸が重くなる。どこかで鉄が擦れるような、キィ……という音が風に乗って聞こえてきた。

 普段から埃っぽい場所だが、今日は明らかに異常だ。

 

「おい! どういうことだ! なんでこんなに視界が悪いんだ! ほとんど見えねえ!」


「わからねえです! メイズを倒してからあいつら急に後退したんでさ。そのあとしばらく様子見ていたんですが。急に視界が悪くなってきやがって……」


「ちっ一体どうなってやがる。ここまで鉄粉が舞ってるような場所じゃなかったはずだ!」


 もともと鉄粉や煙、埃はすごかったが、視界がここまで悪くなることはなかった。鉄粉が霧のように漂い、光さえ鈍くなるほどだった。


「どうなってやがる!」


「バンのカシラ! どうしやすか!」


「……進むしかねえ! あいつらが奇襲を仕掛けてくるかもしれねえ! 

 用心しながら進め! 魔法は使ってこねえはずだ! あいつらもさすがにそこまで馬鹿じゃねえからな!」


 時間稼ぎのつもりか? それとも出口で待ち受けてやがるのか。


 だが、城壁側からも俺たちの仲間がなだれ込んでいる。ここで時間を稼いでも無駄だぜ。


 バンたちは警戒しながら、慎重に屑鉄市場の奥へと進んでいった。



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