7.暗躍する者
5歳のアルスの一人称は俺→僕で変更します。
他の話も随時修正いたします。
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
マーガレットはその青い瞳で僕をじっと見ていた。
まるで、ここから逃がすつもりはないと、その目が語っているような気がする。
「アルス――あんたは何者だい? どうしてここにいる?」
薄暗い部屋の中で、マーガレットの青い瞳だけがやけに鋭く光って見えた。背筋を汗がじわりと撫でてくる。
「……言っている意味が分からない。僕たちはただの成り行きでここにいるだけだ」
マーガレットはパイプを咥えなおし、少し息を吸う。
「――ふう。まあいい。いまの話も半分は冗談だ。
だが、わたしの直感が一番やばいのはあんただと告げているんだよ。
いままで兄貴に殺されそうになった時も、この直感のおかげで生きているからな」
マーガレットは先ほどまでの雰囲気を少し和らげた。
半分って……残りの半分は本気で殺す気だったのかよ。
僕は何者なんだろう――前世でも分からなかった。
むしろ、分かっていたならもっと【いい人生】を選んで歩んでいたのかもしれない。
「――アルスは俺の仲間だ! そして、俺の友だ! それだけだ!」
カイは椅子から半ば立ち上がるようにして声をあげた。薄暗い部屋の空気が、カイの声で一瞬だけ震えた気がした。
カイ――ほんと主人公みたいだよな。
カイの人生はきっとこれからいい人生になるんじゃないか。そう思ってしまう。
そしてカイはこの空気を変えようと話を切り出す。
「それで、俺を引き取りたいっていう貴族の話はどうなんだ」
そうだった。その話が本題だ。
僕を殺したくなるなんて言うから、メルも僕に抱き着いてきてる。
いろんな意味で気が気じゃない。
「詳しいことは知らねえ。ただ――“カイを助けろ”って言われてる。
保護できるならしろ、嫌なら無理に連れてくるな……そんな感じだ」
「誰なんだその貴族は……」
「知らねえもんは知らねえよ。名前も顔もわからねえ中肉中背の男だ。フードをかぶっていたからな。
まあ、そいつの前に来た貴族みたいな奴はお前というより、そこの金髪のお前を殺せって言ってたけどな」
「え? わたし?」
メルがいきなり言われてびっくりしている。
僕もびっくりだ。
「お前、髪を黒く染めてるだろう? だが瞳の色まではごまかせねえ」
マーガレットの視線がメルの顔をなぞる。薄暗い部屋の中で、メルの瞳だけがわずかに光って見えた。
「依頼主は“金髪の女のガキ”って言ってた。もう一人は赤髪だ」
マーガレットはパイプを指で弾き、灰が机に落ちる。
「赤く染める染料なんて高くて買えねえし、そんな派手なガキがスラムにいたら嫌でも目立つ。どう考えてもお前しかいねえよ。
まあ、わたしはガキを殺す依頼なんざ受けねえ。追い払ってやったさ」
「ほっ……よかった……」
胸に手を当てたメルの肩が、かすかに震えていた。さっき僕を殺そうとした話は一体何だったんだ。解せない。
だが――
そいつは――おそらく、サリエラたちを殺した蒼炎傭兵団と繋がっている。
なんなら、その傭兵団に依頼したのも貴族かもしれない。
「とりあえずは、しばらくこのアジトにいろ。自由にさせて……」
「大変です!」
外の廊下から荒い足音が近づき、アナグマ――ボグさんが勢いよく扉を開けた。
「ちっ、どうした!」
「メイズの兄貴が……やられました! 屑鉄市場のシマがほぼ黒蛇の帳の勢力下になってしまいました!」
その報告を聞いたマーガレットは、パイプを机に叩きつけた。乾いた音が、静まり返った部屋にやけに響いた。
「ばか言うな!メイズがやられただと!」
「本当です!敵に……貴族がいます!」
「なっ!」
マーガレットの顔色が一瞬で変わる。普段は落ち着いている青い瞳が、わずかに揺れた。
あの人でも苦戦する相手なのか……。貴族というのは、それほどまでに強いのか?
僕は頭の中で階位の情報を整理する。
――貴族は中位以上。カイたちは低位~中位で、攻撃魔法は数発。身体強化が少し。
メイズさんは低位と中位の間。サリエラは中位。マルクやアリアも同じくらい。
要するに、屑鉄市場を落とした“貴族”は、メイズを正面から押し切れるほどの魔力量を持っている
「しかたねえ。わたしが出るしかねえか。メイズは生きてるか?」
「はい。けど意識はありません。奴らの味方ごと魔法を無差別に打ち込んできたんです。メイズの兄貴は部下を守るために、最後まで建物に残って応戦したそうです」
「くそが……。ボグ、こいつらを守れ。一時的にアジトの戦力を引き抜くから注意しろ」
マーガレットは短く舌打ちし、乱暴に椅子を蹴った。部屋の空気がさらに張り詰める。
状況はかなりまずい……。
待てよ――僕は頭の中で考えをまとめ、カイに向き直る。
「カイたちって攻撃魔法使えるのか?」
「ん。いや、身体強化を少し使えるかな。エルナだけが少し〈ファイヤーボール〉を使えるくらいだ」
「そうか……」
視線を一点に固定したまま、僕は思考を深める。メルが心配そうに覗き込むが、僕の耳には届かない。
「マーガレットさん」
「あああ?」
眉間のしわがさらに深くなる。薄暗い部屋の中で、その表情がやけに怖い。
「屑鉄市場ってどんなところですか?」
「てめえ、今それどころじゃ……いや、なにか策でもあるのかよ」
「はい」
マーガレットがこちらを凝視する。顔が僕の目の前まで寄ってくる。
「屑鉄市場は魔道具や盗品の吹き溜まりだ。砂埃と鉄粉で空気は汚ねえし、湿気で鉄はすぐ錆びる。
ガラクタの山と油まみれの地面……炎魔法なんて使ったら一発で吹き飛ぶぞ」
遠くで鉄屑が崩れる乾いた音が響き、油の匂いが鼻につくような場所だ。
――つまり、炎は使えない。湿気も多い。危険な地形。
魔力が頭に流れ込む感覚が強くなる。
左腕の腕輪がかすかに震え、鈍い光を帯び始めた。
「……おまえ……。その腕輪……」
マーガレットが腕輪に興味を示したようだ。
そうだ……。この方法が一番いい
「マーガレットさん僕の話をきいてくれますか?」
マーガレットは僕の瞳を再度じっと見つめるとニヤリと笑った。
「聞くだけはタダだ。いいぜ、きかせてみろよ小僧」
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帝都アルベリア スラム街 屑鉄市場 黒蛇の帳 バン
――その頃、屑鉄市場では。
黒蛇の帳のバンはゴーンが死んだとき、組織の長として後を継ぐはずだった。
ちっ。ゴーンが死んでようやく俺にも運が回ってきたと思っていたのによ。
薄暗いアジトの一室で、バンはひとり愚痴をこぼす。散らかった机と酒瓶の匂い、湿った床の臭気が、余計に苛立ちを募らせた。
これも全部、アイツが来てからだ。
クロ――大きな仕事を持ち込んで組織に入り、いつの間にか助言役にまでなりやがった。
灰月の手との抗争に関しては、特に何も言わずにいたが。
例の仕事を持ってきた貴族らしきやつも、クロが仲介していた。
だが、まさかクロ自身が貴族の屋敷で働いている奴だとは思わなかった。
いつの間にか、組織の意思決定までクロの言葉で決まるようになっちまった。
扉をたたく音が聞こえた。
「開いているぜ」
「おや、そうでしたか。ですが性分でしてね。ノックはマナーとして当然です」
「けっ。いけすかねえな」
白髪をオールバックにしたクロは、背筋をぴんと伸ばし、執事のような静かな足取りで部屋に入ってきた。
「それで、どうでしょうか?進捗状況は」
「屑鉄市場はあと少しですべて俺たちのものになるな。メイズが撤退したからアジトまで目前だ。
お前の情報だとそのカイってガキは灰月の手のアジトにいるんだろう?」
「ええ、わたしの“友人”からの連絡ですから間違いありませんよ」
クロは胸元から白い布を取り出し口元にあてる。
「お酒……ですか。まだ完全には仕事は終わっていませんが……」
「かてえこと言うな。お前の知り合いが連れてきた貴族様がいるおかげで一番の戦力は削れた。
もう勝ちは確定しているようなものだ。あと警戒するのはマーガレットとルビーくらいだ。
ボグは身体強化だけだからな。そんな大したことねえ」
「そうですか……。まあいいです。私はしばらくここを離れます」
眉間に皺を寄せながら、心底ここにいたくなさそうなのが伝わってくる。
「ああん?どこに行くんだよ」
「勢力をさらに拡大するのでしょう?なら、新しい仕事も必要かと思いまして。その間は任せますよ。」
「へっ。仕事熱心なことだな。その間は俺が取り仕切っていいのか」
「ええ。どうぞ。この後もずっとあなたが頭で問題ありませんよ」
そして、クロはドアノブに手をかけて部屋から出ていく。
「いけすかねえな。まあいい。ようやく俺がこのスラムの王になる時が来たな」
今から考えるとたまらねえな。
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帝都アルベリア スラム街 黒蛇の帳 アジト外 クロ?
クロは部屋から出た後、すぐにアジトの外へ出た。
「まったく、酷い所です。本当に。あまり何度も来たい場所ではありませんね」
クロは、服が汚れていないか確認した。泥と油の混じった路地に、クロの白い靴だけが場違いなほど浮いて見えた。
「まぁ、あの人たちが勝とうが負けようが、どちらでも構いません。主人の命令通り動いてもらえれば」
そしてクロは歩き出し……ふと足を止める。
「血染の騎士サリエラの孫……。なるほど、時代は変わるものですね。」
クロは薄い笑みを浮かべると、汚れた路地を踏みしめて歩き去った。
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