6.マーガレットという女
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
僕たちはマーガレットの拠点にやってきた。そこは、スラム街でも珍しい二階建ての建物だ。壁は煤で黒ずみ、窓には鉄格子がはめられている。
カイを先頭に僕たちは、マーガレットの部下に案内される。
マーガレットは途中でメイズと言われていた人に耳打ちされて、凄くいい笑顔で引き返していった。
薄暗い倉庫の灯りが、マーガレットの笑顔をさらに冷たく見せていた。
目の前の部下の人を見ると熊の耳みたいのがついている。薄暗い倉庫の前で、その丸い耳がやけに目立って見えた。
「ねえ、アルス。あの人、獣人さん?」
「そうみたいだね。熊の獣人かな?」
すると、獣人が入口に入る前にこちらに顔を向けた。
「おい。俺は熊じゃねえ。アナグマだ」
「あ、はい。すみません」
「熊と一緒にすんな。昔から色々あってな……まあいい、入れ」
怒らせてしまったらしい。
倉庫の入り口には見張りが2人立っていた。錆びた鉄扉の前で、獣人の影がゆらゆら揺れている。
黙っていたほうが良さそうだ。
「アルス……お犬さんだ……!」
興奮してるのか、声を抑えているのが伝わった。
少しだけ声のボリュームを下げようか……。
「おい。マーガレットさんから言われて、この子たちを保護しろと言われている。中に入れてくれ」
「はっ!」
一瞬ちらっと見張りの人が見てきたが、顔を上げずにそのまま熊の――アナグマさんについていく。
「とりあえず、ここで汚れを落とせ。お前ら臭すぎるんだよ。灰月の手は獣人が多いから、皆嗅覚に敏感なんだ」
倉庫の一角に、木の壁が焦げたサウナがあった。
「終わったら声をかけろ」
そしてアナグマさんは外に出て行った。早速僕はカイに声をかけた。
「カイ。とりあえずサウナの使い方知ってる?」
「いや、俺もさすがにじじいからは教えてもらってないな」
「僕が教えるよ。服を脱いで、横の水場で軽く洗ってから入ろう」
皆、思い思いに脱ぎ始める。蒸気が白く立ちこめ、床は汗で黒く染みていた。
エルナはもう十歳前後だし、恥ずかしいからか、なかなか脱がない。
女の子を優先するしかないと思ってカイに話しかけた。
「先に女の子を入れてあげよう。恥ずかしいだろうし」
「そうだな」
カイはこういう時、自然に気遣いができる。エルナはどちらかというと、カイに見られるのが恥ずかしいんだろうと思う。
エルナは服の裾をぎゅっと握ったまま、目だけをそっとカイへ向けた。
「アルス。わたし使い方わからないから、あなたも一緒に来て」
「アルス! 一緒に入ろう!」
!!! 仕方がない僕が教えよう――
二回入ったせいで少しのぼせたが、体の汚れは落ちた。
そして、外で灰月の手組員と話しているアナグマさんを呼んだ。
名前を聞いたらボグというらしい。その時、ちょうどマーガレットとメイズと呼ばれた大男が帰ってきた。
そして、マーガレットは僕たちを見つけると声をかけた。
「お? 小僧どもきれいになったじゃないか。
いいな。わたしもサウナに入るか。メイズ! こいつらの服も適当なの用意しておけ。服だけこんなボロじゃ交渉相手の格がたりねえな」
「わかりました」
「それとめしも食わせてやれ。小僧たちくらいの歳じゃ、いつでも腹減ってんだろう?」
このマーガレットっていう人、思ったより柔らかい一面もあるのかもしれない。」
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帝都アルベリア スラム街 灰月の手アジト マーガレット
――カイたちがご飯を食べている頃。
サウナに入っているマーガレットは、銀髪にこびりついた血を丁寧に落としていた。血を落としながら先ほどの子供達のことを考えていた。
あのカイってやつは、随分とできた子じゃねえか。依頼じゃなきゃ、小間使いとしてほしいぜ。それよりも……あのアルスってやつ。
妙に胆力がありそうだ。あの歳で、あそこまで覚悟を決めているのは異常だ。
マーガレットは、返り血を全てふき取ったのを確認してからサウナに入った。
「お嬢」
サウナで汗を流した後、服を羽織る。外に出るとメイズが声をかけてきた。
「……なんだ?」
こいつのお嬢呼びをつっこむのは日に一回だ。そう決めている。
「奴が動きました。かなり動員しているようです」
「早いな……1人残らず消したが無理か」
「は、難しかったようです」
「仕方ない。こちらも全て動員しろ。相手はどのくらいの規模だ」
「軽く見積もっても300人。黒蛇の帳が本気で動いています」
壁に寄りかかって、メイズが差し出すパイプに火をつける。外では灰月の手の連中が怒号を上げ、スラムの夜気がざわついていた。
「……ふーー。まだそんなに残っていやがるのか。被害は?」
「まだそこまでは、しかし屑鉄市場のシマは劣勢です」
「しばらく時間を稼げ。屑鉄のシマはお前が出てどうにかしろ。
こっちの守りはボグに任せる。それと城壁付近にルビーを送れ」
メイズは何も言わずに頭を下げ離れていった。
「さてさて、こっちも交渉するかね。」
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部屋で待っているとマーガレットが戻ってきた。薄暗い室内には古いランプが一つだけ灯り、壁には武器らしき影がいくつも伸びていた。
少し銀の髪が湿っぽい。サウナの熱気がまだ残っているのか、髪先から微かに蒸気が立っていた。
羽織っているマントが前世のマフィアに似ている。
大人の女性って感じだな。目つきめちゃくちゃ怖いけど。
「さて、待たせたな。早速だがカイ。お前を引き取りたいってやつがいてな。
そいつからの依頼でお前たちを保護している」
「……誰だそいつは。今までそんな奴に会ったことはない」
「さあな。そこまで詳しく聞かねえからな。
どこかの貴族みたいだったが、流石にわたしも貴族ですか?なんて聞かねえし、聞きたくもねえ」
「……その話を断ったら、どうなるんだ」
「断るなら……依頼主は“お前だけ”を求めている。他は邪魔だと言っていたからな。殺すしかねえ」
瞬間。皆、反射的に魔力を高めた。
死と隣あわせで生きているから臨戦態勢だ。カイは歯を食いしばり、拳を震わせていた。
だがマーガレットも黙ってはいなかった。
「やる気か?」
マーガレットの魔力が高まる気配を感じる。
目に魔力を通した瞬間、空気そのものが震えた。青いモヤが広がるというより、部屋の空気が“押しつぶされる”ように沈んでいく。
呼吸をするたび、胸の奥がきしむ。魔力じゃない……体が勝手に怯える“圧”だ。
魔力が多い少ないの話じゃない。支配されている側の息苦しさだけが、はっきり分かる。耳の奥で、低い唸りが鳴った気がした。
青いモヤは、部屋の隅々まで満ちていたというより、空気の層が一段重くなったように感じた。カイ達もその魔力を見ていなくても感じてはいるのか、息をのんでいた。
「……冗談だ。どれだけ本気で仲間を守るか、試しただけだ」
急に魔力の圧がふっと部屋から消える。
「まあ座れよ。アルスは座ってるみたいだな。ほら、全権交渉人は交渉する気だぞ?」
「アルス……」
カイは額に汗を浮かべながらも、こちらを驚いた表情で見ていた。
「カイここは冷静になるべきだ。
殺す気なら、警告を僕たちにした時にカイだけ連れて行けばいいんだからな」
パチパチパチと、マーガレットが手をたたいていいるのが見えた。
「お前アルスだったか? お前どう見ても子供のくせによく考えてるし冷静だ」
パイプを右手に持ちながら、そのまま言葉を続ける。
「だからこそ……わたしはアルス――お前を殺したくなるよ。
その歳で冷静に見通すその目。
昔、わたしが唯一恐れた化け物がいたんだ。お前はそいつを思い出させる。
わたしはね、恐ろしい奴は先手必勝で殺す主義なんだよ」
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