5.アルスの価値
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
――カイと話をしていた日の夜。
「ふぁぁ。アルスおやすみなさい」
「おやすみメル」
メルがかわいらしく欠伸をして、そのまま布の上で寝始める。少しすると寝息をかき始めた。僕もこの硬い布で寝るのにようやく慣れてきた。
僕も寝ようと思い、入り口の方がぼんやりと赤く照らされている。松明の光だ。
今日の夜は、誰も松明を使う予定はないはずだよな? つまり、あの光は――。
急に嫌な予感がし、目に魔力を通す。壁があると精度が下がるが、今はそれでも情報が欲しい。魔力のモヤが外に大勢いる事を教えてくれている。
誰だこいつら。まずい!カイに連絡しなければ――。
だが、カイはすでに起きていて、ガストやレオと話しをしている。
灯りのない薄暗い空間で、魔力の光だけが三人をぼんやりと浮かび上がらせていた。
「カイ……」
「アルスか……お前よく俺たちが起きているのが分かったな」
「お前ら3人の魔力が見えたからな」
「?? まあいい。ちょうどお前の意見も聞きたかった」
カイが一瞬不思議そうな雰囲気を出したが、そのまま話を続ける。
よし。ここまでくれば外の光でカイたちの顔もある程度見える。
「外にごろつきが集まっている。数も多い」
レオが声を潜めていう。
「まずいな。逃げ道はここしかないんだよな……」
カイが人差し指を額に当てて考えている。最近一緒にいて分かったが、カイはこのしぐさをよくやる。
「……時間稼ぐ……俺が」
「ガスト。ありがたいが、これだけの人数には無意味だ。どうすればいい……」
カイが珍しく焦った声を出している。
「交渉するしかないな……」
俺は声を上げた。3人が俺を見ている雰囲気を感じる。
「ここで何もしないのは嫌だ。虚勢とハッタリ……頼む、通じてくれ」
「なんだそれ!大丈夫かよ….」
レオが一度声を大きくしたが、すぐに小さい声で聞いてきた。
「わからん……けど、ここにいても変わらない。任せてくれ」
「アルス、俺も行く」
「いや、カイは皆を頼む。起きてこられて出てこられるのも困る」
「……わかった」
俺は入口の方へ向かいゆっくり歩きだす。手が震えている。
……怖い。ちびりそうだ。
正直殺される可能性の方が高い。だけど、前世含め生きてきた。人生とは何があるか分からないものだ。
背後から大きな気配を感じる。
「……怖いなら、俺のうしろにいろ。……俺一番年上だし」
ガスト、お前は凄いと思う。
ちょっとだけ手の震えが収まってきた。
「ありがとう。ガスト」
ガストが少し笑った気がした。
――外に出ると、十数人ほどのならず者が、数歩先の入口を半円状に囲み、松明の炎がこちらを照らしていた。
その中から1人大男が出てきて言った。
「お前がこのアジトのボスか? ずいぶん小さいな……聞いていた話と違うな」
その時後ろから『いい、私が話す。どいていろ、メイズ』と声がした。
背の低い銀髪の女が静かに前へ出ると、周囲のならず者たちが息を呑み、自然と道を開けた。
「おい小僧! カイっていう小僧じゃねえな! 誰だてめえは!」
「僕はアルス! カイから交渉を任されている!」
簡潔に相手の問だけを答える。
「ほお。それで! そのアルスが何しに来た! 私が用があるのはカイって小僧だ!」
「言ったはずだ! 交渉を任されたと! 要件があるなら俺が全て聞く!」
「あああ? んだと?」
「僕は交渉の全権をカイに任されている!
だから僕の言葉はカイの言葉であり、僕たちの総意だ!」
僕はなるべく難しい言葉を使い、目の前の女に舐められないように虚勢を張っている。
「……ッチ! ガキの癖に妙に言葉使いがしっかりしてやがる……いいだろう! こちらの要件を話す!」
「まずは、所属と名前を聞かせてくれ!」
「くそ……やりにくいガキだよ。私は”灰月の手”頭、マーガレットだ!」
そしてそのまま言葉をつなぐ。
「ここにもうすぐ黒蛇の奴らが来るぞ。その前に逃げた方がいい」
「何故それを僕らに伝える!」
「こっちも仕事なんだよ! とりあえず、ここから移動して話をさせろ! 時間がないぞ!」
時間がないと、マーガレットという女は言った。
僕たちにわざわざ伝えに来た時点で、信用していいと直観が告げていた。
なら……すぐに動くべきだ。
「わかった。カイに話してそちらに行く!」
「お?おう……」
「ガスト。カイとみんなを呼んでくれ」
「……心配だ。あの女信用できるか?」
「任せてくれ、大丈夫だ」
ガストは俺を見てから、一度うなずくと中へ戻っていった。
――それからの五分の時間は本当に長く感じた。
「カイ、僕を信じてくれるか?」
「アルス……お前が信じられないなんてことはない。それは俺自身を疑うことだからな」
カイが青い瞳を細めて爽やかに笑った。
「みんな俺はアルスに交渉を任せた。
だからアルスが大丈夫というなら信じる。みんなも信じてほしい。」
カイが起きてきた面々に声をかける。皆、覚悟を決めた顔をしていた。
「アルス! なんで私を置いて行ったの! 1人で危ないよ!」
「メルごめんね。時間が無くて……」
「心配することはしちゃだめだよ。アルスが死んじゃったら……私、嫌だよ……」
「ごめんなさい」
ここはメルに平謝りだ。
弟が大勢の大人の前で殺されるかもしれなかったのだから……。
「俺がカイだ! そちらの話が本当ならありがたい知らせだ!」
「ああ。お前がカイだな。聞いていた通り青い瞳だ」
「……聞いていた? 誰か俺のことを知っているのか!」
カイが珍しく声を荒げてマーガレットに詰め寄る。
すぐに大男が女の前に立ちふさがるが、マーガレットはそのまま後ろを振り返り進む。
「まあ、まずはうちに来な。話はそこからだ」
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帝都アルベリア スラム街 黒蛇の帳 ゴーン
――その頃、黒蛇の帳のゴーンは城壁を吹き飛ばした後の静けさを不思議に思っていた。
おかしいな声が聞こえねぇ。
部下の一人が戻ってきて顔を青くしながら報告する。
「ああ? 誰もいねえだ?」
「へい! それが誰もいなくて……」
「どういうことだ! 逃げられたのか!?」
なんだと? 勘づかれた……灰月の手か?
俺がそんなことを考えていた――その瞬間だった。
「〈ファイヤーウォール〉」
「何!」
魔法がゴーンめがけて飛んできた。
「ぐわ!」
「カシラ! やばい敵だ!」
続けざまに矢が大量に飛んでくる。
「なんだ!」「何か飛んで…グ……」「どこからだ!さが…ウッ……」
「矢だ!闇の奥から矢が飛んできている!」
次々とゴーン配下の盗賊たちが倒される。
「カシラ! 灰月の手だ! 奴らが攻撃してきた!」
「ううぅ……くそがあ。一度体勢を立て直せ! 一旦後退しろ!」
――くそ! 右手が……まずい。
「逃がさない。先代の仇だゴーン」
「てめえ……メイズ……きたねえぞ!」
メイズが出てきやがった……戦力が足りねえ。
「ようやく表に出てきたな……ここで殺す! 〈フィジカル〉」
メイズの繰り出した剣が、俺の目の前にいた部下を2人同時に斬り伏せる 。
「くそ……てめえら! 俺を守れ! その間に魔法で援護する!」
「へい!」
俺の周りにいた部下10人ほどがメイズの前に出る。
――これで少しは時間が……。
「ゴーン。あんたはずっと甘いんだよ。
昔っから大事なところで、自分のことしか見えない阿呆だ」
「な! ぐっ……その声、は……」
ゴーンが振り返ると、腹に冷たい感触。
視線を落とすと、そこには長剣の柄だけが見える。
血が溢れ、膝が崩れ落ちる。
最後に見えたのは、昔自分が殺した男の娘――マーガレットの冷たい瞳。
「トップが死ぬときは、意外にあっけないものだろう?」
ゴーンは何か言おうとした。
しかし声は出ず周囲の喧騒が遠のき、世界が静まり返る中、視界が白く濁り――ゴーンは膝から崩れ落ちた。
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