表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

第9話  商人の再出発

 三人は砂漠の拠点を目指し歩き出した。

 陽炎の照りつける砂海の中、足元の砂が生き物のように波打つ。

 次の瞬間、地中からサンドワームが跳ね上がり、砂を撒き散らした。

 距離はあるのでまだ襲ってこない。


 これだけ過酷な環境でもあるのに関わらず、褐色肌で黒髪のアリスはラジレスから貰った水晶をさっきからずっと見ている。

 何を考えているのかその眼差しは真剣であった。

 ただ、砂漠の攻略に支障をきたすかも知れない。俺は声を掛けた。


「アリスさん、その水晶しまってもらっていいですか?」

「え、あっごめんなさい。トライセルさん考え事をしていました。集中しますね。」


 彼女らしくない言葉だ。その水晶に何があるのだろうか。

 流石にここまで来れる人達である。旅にも慣れている。難なく歩を進める。


 ♢


 夕方近く、三人は拠点にたどり着いた。

 拠点は出来てから日が浅く土で出来た簡易の外壁があり、門には、まだ門番がおらず冒険者が数人で交代で見張りをしている。

 俺達は冒険者に挨拶して通してもらう。


 ただ中の様子は出発する前と比べてかなり変わっていた。

 数えるほどだった建物が、砂漠船の来航で雑多に増築され、布張りの仮設住居が砂の上に広がっている。

 施設はまだ少ない、商いも個々任せのようだ。

 それでも全体に漂う雰囲気は、前より一段明るくなっていた。


 まず報告をする為ギルドを目指す。

 簡易に設置されたギルドのテントで、俺達は今までの報告をした。勿論あの場所で起こった事は一切報告していない。


「あと、途中で仲間がはぐれてしまったので捜索願いと後衛職の補充をお願いします。これがそれぞれの申告書です。また、これがはぐれた仲間ラジレスの情報です。」

「畏まりました。受理します。ただ、我々も人手が不足しているので捜索の手が足りません。申し訳ございませんが、ご自身での捜索をお願い致します。あとメンバーの補充ですが……ご存じの通り人がいないので希望者がいない限りかなり待つ事になります。よろしくお願い致します。」


 俺はギルド員と各々の手続きを行なった。ラジレスは神なので捜索は意味ない物だろう。冒険者の安否報告は義務なので手続きをした。

 ギルドに報告後フォックは言った。


「もういいだろ、わしは飲むぞ。」


 もう、50才は越えているはずなのにどこにそんな体力があるのか……俺はもう早く寝たい。


「はい。いいですよ。フォック様。好きにして下さい。」


 アリスが笑って答える。


「トライセル、今回の旅は楽しかったぞ。困ったら何でも言ってくれ」

「こちらこそ、ありがとうございました。また連絡しますね。」


 フォックはさっさと何処へ行った。チームを組んでいるのですぐに会えるだろう。俺達は宿を目指した。


 ♢


 宿を目指して歩いていると砂漠船の近くを通った。

 港に、低く響く鐘の音が三度鳴った。


「明朝出港だ、無事に町に着けるかわからねえ。それでもいいなら乗せてやる」


 と張り上げる声が響いた。

 甲板では赤い夕焼けの中、荷役たちが急ぎ積み荷を降ろし、重い箱が鈍い音を立てて並べられていく。

 砂漠船は壊れたと聞いたが直ったのだろうか。

 その中に4人の人影が見えた。そのうちの1人が近づいてくる。

 その人はアリスに手を振り話しかけた。


「アリス、いつ帰って来た。無事、良かった。」

「レミッチさん、行きしの砂上船以来ですね。今帰って来ました。明日発つのですか?」

「そうです。うちの、リーダーのキリアンとケイニー、医者に診せてもらう為。」


 他の3人を診ると確かにケイニーは松葉杖をついて負傷している事がわかる。キリアンも怪我をしているのだろうか。

 何故名前だけがすぐに出て来るのはわからなかった。彼らと一緒に旅した事もあったようだが、まるで本で読んでいるように他人事だ。


 アリスは少し考えた後聞き返した。


「キリアンさんも怪我したんですか?」

「精神のほう。向こうの町、着いたら極ジムハーレは解散。私はトンボ帰り。戻る予定。もう少しで船の手続き終わる。そっちの人は?」

「あ、新しく加わってもらったトライセルさんです。」

「……えー、初めましてかな?トライセル ステナドです。職業は商人です。よろしく」

「探索者、レミッチ イニファルです。こちらこそ……よろしく。」

「……」


 レミッチとも初めてではないはずだが、初めてのような気がして、俺は自己紹介をする。アリスは、神妙な顔で俺達を交互に見ている。


 ……沈黙が続く。


 その空気に耐えられないのかレミッチが言った。


「ね、アリスさん。旅のこと聞きたい。こっちも大変だった。」

「いいわよ。ごめんなさい、トライセルさん。先に宿に行ってください。ここで一旦お別れです。」

「ああ、本当に世話になった。」


 アリスとはここで別れる。同じくチームなので、また会えるだろう。


 ♢


 今日は色々なことが起きた。宿に着いたらすぐにでも寝ようと思っていた。

 夕日が照りつける中歩いていると、杖を持ったどこかで見た女性とすれ違う。

 何かに違和感を感じ振り返る。相手も振り返ったようで目が合う。


「……」

「……」


 小柄な体に夕焼けに溶けるような赤髪、赤を基調とした軽装の装い。優しい顔つきは不思議と敵意を見せず、ただ静かに相手を見据えていた。

 相手の名前はでてくる。リオナだ。ただ、名前だけだ。それ以外の記憶はもやのような物がかかる。思い出そうとしても何も浮かばない。


「すみません、人違いでした。」


 俺はそう言い、会釈してその場を去ろうとする。


「ト、ラ、イ……?」


 後ろで俺の名を呼ばれたような気がして振り返る。彼女は満面の笑みを浮かべていた。俺にはそれが何故だかわからなかった。


「また、後でね♪」


 何が後なのか理解できないが、彼女はそういって手を振り去って行った。俺は状況が理解できず立ちすくんでいた。


 ♢♢


 次の日

 あれから夕方に出会った女性が気になっていたが宿に着くと、直ぐに寝てしまった。

 宿で朝食を終えた頃、見計らったようにアリスが向かいの席に着いた。


「良かった、元気そうですね。よく眠れましたか? レミッチから貴方の前のチーム“極ジムハーレ”のことを聞きましたが、聞きます?」

「いや、聞かないです。あらかたの事は昨日聞きました……彼らの記憶はあります。昔一緒に仕事をしていた人達です。」


 そこで言葉を切る。


「……たぶんその話を聞いても、他人の話を聞いてる感じでしょう。」


 それが正直な感覚だった。アリスは静かに頷いた。


「そうですか。レミッチさんと昨日飲みました。トライセルさん事を聞きましたが、似たような反応で記憶はあるけど興味がない様子でした。おそらくあの神物はお互いの関係を切れるけど、記憶には干渉できないんでしょう。」


 しばらく沈黙が続く。俺は静かに答える。


「彼らとの縁は切れている。でも前まで俺は人を人として見てなかった。その報いだ。だから一から人との関係を築いていこうと思う。例えば……」

「例えば?」


 アリスが尋ねる。

 俺は少し考えてから答えた。


「一つ決めた。商会を作る。」


 アリスが瞬きをする。


「商会?」


 俺はテーブルに肘をつき指を一本ずつ降りながら答えた。


「遺跡調査、遺物取引、交易路の開発。物資も不足している。全部まとめてやろうと思う。特に商売は人との関わりが特に大事だ。一から頑張ってみようと思う。」


 アリスは少し考え、そして頷いた。


「なら私は記録係と交渉役をやります」


 俺は笑った。


「決まりですね。魔物退治と遺跡調査は国の依頼ですから商会は副業ですね。」


 ♢


 その日の午後、早速俺は市場に立っていた。

 遺跡で拾った小さな装飾品を手に取る。価値は高くない。遺跡で見つけた古い魔道具だ。それでも買い手はすぐ見つかった。

 銀貨数枚。大きな利益ではない。

 だが俺はそれを受け取り、軽く笑った。


「悪くない取引だ」

「最初の商売ですね……」


 隣にいるアリスが元気なさげに答える。さっきまでは元気そうだったが奥に引っ込んだ辺りから様子がおかしくなった。

 アリスはさっきからチラチラこっちを見ているような気がする。

 手にはラジレスから貰った水晶を持っている。あの魔道具の事で何かわかったのか?

 アリスは不安そうにこちらを見て話しかけてきた。


「あの、今日の夜時間ありません? ちょっと話したい事があって……何か他に予定があれば大丈夫です。」


「ここでは駄目なのか?」


「駄目です!」


 アリスは泣きそうになっている。こんな彼女を見るのは初めてだ。よっぽどの事のようだ。

 返事をしようとしたその時フォックが話しかけてきた。


「市場にいると聞いたが、こんなところで商売していたのか。探したぞ。ギルドから連絡があった。今日の夜、面談だ。トライセルお前がしないか? 女性の魔導師だ。火の攻撃魔法が得意だそうだ。無理そうならワシが返事をするが……」


 俺は悩んだ。順々に対応できそうだが……

 何故だか、わからないが順番が大事だと“直感“した。

 この“直感“は祖先の導きではない。俺の意思で決める。

 そして結果はどうであれ、人として誠実に対応しようと心に決めた。


 俺が先に選択するのは……


 ♢


 その頃━━

 遥か上空、雲より高い場所で。 別の視線が動き始めていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

第9話は神物を使った後の主人公の再出発を描きました。主人公の物語はこれにて終了です。

一言。最後の選択はメインヒロインがどちらになるかの選択です。アリスが先だと水晶の情報からラジレスが自分の親だと相談されます。リオナが先だとトライセルが神物の断絶を破ります。

どちらかのイベントしか発生しないです。またイベントが発生しなくてもリオナは加入します。

リオナルートは私の物語のテーマの1つです。

あと1話エピローグでこの物語は終了です。最後は神の話です。お楽しみ下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ