第7話 過去の断絶
断絶のアーティファクトが発動した瞬間、音が消えた。色が抜ける。世界が灰色に沈む。景色が変わる。
薬草の匂いが満ちる薄暗い部屋、若者たちは眠りと悪夢の狭間で揺れているようだ。隣の寝台が空く理由を誰もが知りながら、口には出さない。
代わりに明るい調子で未来を語り、無理にでも仲間の心を支え続けている。
俺はここで精神鑑定を受ける為に訪れていた。
もう何回目になるかわからない仲間の死で受けた心の傷を視てもらう為。メンバーは6人と多かったが、その時のリーダーと魔導師を残して死んだ……リーダーは別の隊に配属された。
おそらく異常なしで次の現場だろう。もう慣れている……
キリアンは端にいた。彼は仲間を亡くした直後か荒れていた。
『どうせ、俺らは国に殺されるんだよ。何みんないい子ぶってんだよ。これが神の試練だというのなら俺は今ここで死んでやる。』
『やめろよ。命を粗末にすんな。そんな事をしても死んだ仲間の命は戻らないぞ。』
たまたま近くにいた俺がそう言い。彼を羽交い締めする。
体格は相手が上だったが活力がないのか簡単に大人しくなった。
『けっ、どうせ俺らは駒なんだよ。っその目はなんだ! 目が死んでんだよ! 俺は堕ちている奴が嫌いだ……俺達は駒ではない人間だ!!』
『……』
それが彼との初めての出会いだった。最悪の出会いだったが、この世界ではよくあることだ。
15歳までは手厚いが…それ以上の若い世代は使い捨て…能力のピークで無くなる25歳くらいになるまでは最前線に放り込まれる。
♢
その後、何かの縁か運命でキリアンと一緒になった。前から俺の仲間だった魔導師のリオナと数合わせで入った盾戦士のケイニーと“極ジムハーレ”を結成した。
それから2年が経った。
色んな場所へ行った。平原、山、荒野。魔物と戦い続ける日々。
俺達は運よく生き残った。
気づけば俺の今までの仲間で一番長い付き合いになった。
キリアンは最初の方は俺の指示を聞いていた。
ただ、どんどん自分勝手な行動が増えていった。
♢♢
『魔導師さんリーダーが俺の言う事を聞かないが、どうしたらいいだろうか……』
次の場面に変わる。
治療師が加入する少し前だ。砂漠の最前線の酒場でリオナに相談していた。
彼女はため息をついて答えた。
『あのね。私は魔導師でなくてリオナよ。職業名で呼ぶのやめてくれない。まあ、私はいいけど、目上の人は名前の方がいいよ。』
彼女はプイと少し怒った顔をした。いつもの事だ。
『わかったよ。長年の癖……知ってるだろ。で、どうしたらいい?』
『そんなこと言われてもね……なんかキリアン何かを企んでいるような気がするだよね。ちょくちょく何処かに連絡してるし気を付けた方がいいよ。』
『何を企んでいるんだろ……死にたくはないし気を付けるよ。もし、キリアンが何か仕掛けてきたら、その時魔導師さんはどうする?』
リオナは少し笑ったあと答えた。
『……ったく。えっと……もう目の前で誰も死なせたくないし、不安な方につくよ。
あんな思いはもうこりごり。んで安全が確保できたら、その時どうするか考えるわ』
『そっか、君らしい考えだね。』
『ねぇ、それより出発はまだだし、また買い物に付き合ってよ。市場でかわいい服見つけたの。』
『わかった。明日いつもの場所で待ち合わせしよう。』
『やった。カッコ良くして来てよ♪』
『……善処するよ。買い物後の食事とかも手配しとくよ。』
『ありがとう。そういう気遣いは出来るのにね。大丈夫。トライなら何とかなるよ。』
彼女は出会った時を考えるとよく笑うようになった。
仲間の精神ケアは大切だ。こういう頼み事は快く引き受けている。
俺の職業は商人。主にアイテムや魔道具等の管理をする専門家。それ以外の技能は鑑定、戦闘指示、魔力探知。精神ケア……
いつ死ぬかわからない世界、いつからか自分は駒だと考えていた。
もしかしたら、俺はいつの間にか自分だけでなく仲間達を駒のように扱っていたのかもしれない。
♢♢
場面が変わり今に戻る。
まだ目は覚めていないようだ。不思議な感覚だ。
空間が薄く裂け、見えない糸が俺の胸から遠くへ伸びているのが分かった。
元仲間達へと繋がる因果の線。
柄の無い巨大なハサミ、神物“断絶のアーティファクト”が静かに動きその線に近づこうする。
最初は探索者━━レミッチの線
今考えれば、キリアンが俺を追い出すために呼ばれたんだろう。本人はそんなつもりはないと思いたい。話し合えば上手く役割が分担でき分かり合えただろうか。
関係は半日しかないので簡単に線が切れる。
次は治療師━━プレシア ナーチカ。
魔力探知もでき、役割が俺と被っていたが後衛だったので完全に俺の役割は奪えなかった。
おそらくキリアンは彼女で俺を追い出そうとしたんだろう。
今思えば、俺が人を駒のように扱うのを、何処かで感じて彼女は距離をとっていたのだろう。
今なら話し合える気がする。線が一本静かに切れていく。
盾戦士━━ケイニー。
彼女はその盾で幾度も俺たちの命を救った。魔物の魔法を防ぎ、よく怪我をした。
面倒見がよく、厄介ごとの対処がうまかった。
彼女はキリアンと関わっていないと信じたい。ただ、もうそれを確認は出来ないだろう。
祖先を解放する為とはいえ、関係が切れるのを許してほしい。
線が切れる。
リーダー戦士━━キリアン アス クライス
彼は力は強いが精神的に弱いところがあって人間らしかった。
気の合う友達が大勢いて羨ましかった。
俺はしないがよく誰かと飲みに行き、二日酔いのところを仲間によく介抱されていた。
俺とはことある事に衝突した。
……特にあの場所での追放は拠点まで砂漠を歩く必要があるので死んでもおかしくない。生きているのは本当に運が良かった。
キリアンは本気で俺を殺そうとしたのか、今となってはわからない…。
……分かり合えるような気がしないが、一緒に飲み歩いて話し合えば何か変わったかもしれない。
線が切れる。
魔導師━━リオナ リン
彼女とはもう5年になるだろうか。
最初の出会い、彼女は仲の良かった幼馴染みを亡くしてずっと泣いてた。国は、後衛がいなかった当時の俺達のチームに無理やり彼女を入れた。
同い年だった事もあり、俺が手探りで彼女の精神ケアをした。
付きっきりで話をし色んな事を教えてくれた。
将来の夢はパティシエ。
趣味は料理 出身地 好きな食べ物 嫌いな物 癖 火の攻撃魔法が得意 おそらく彼女の事で知らない事はないだろう。
ただ、俺は何処かで線を引いていた。自分の命も何かの拍子で消える命。
どうせこの子を愛したところで、悲しませるだけだろう。
神物が胸から伸びる糸がリオナとの関係を切ろうとする。
彼女の顔が浮かぶ。よく泣いていたと思う。怒ることもあった。優しいこともあった。
彼女との関係を切らないで欲しい。そう願ってしまった。
俺は神物を使って何て事を考えていたんだ。
『もうやめてくれ、せめて彼女との繋がりを切らないでくれ。頼む。』
そう叫んでいた。
だが無情にも神物の動きは止まらない。
『バチン』彼女との線が切れる。
“極ジムハーレ”と過ごした記憶はある。だが誰かを思い出しそうとしても、モヤがかかって正確には思い出せない。
こんなことあったな……ぐらいの関係。
おそらく町などで彼らと会っても、あかの他人。関係は最初からだろう。
ただ、俺が今まで人と密に関わって来なかったツケ。報いを受けるべきだ。
例え明日どうなるかわからなくても、これからは何気無い人との関わりをもっと大切にしよう……
……意識が戻りそうだ。そういえば“祖先の願い“とは何だったんだろうか。
その時
手に持っていた遺物の欠片が脈打つように淡く光り始める。
次の瞬間、眩い閃光が弾けた。
逃げる間もなく光は主人公を飲み込み、輪郭すら溶かしていく。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
第7話では主人公の過去の話、前の仲間達との関係を神物を使って断つ内容を描きました。
一言:最初の構成ではリオナは一緒に離脱しているのでキリアンに焦点を置くつもりでした。キリアンとの衝突をメインに描くつもりがどうしてこうなった。
あと3話でこの物語は完結致します。次回は先祖と対峙します。




