熱に染められて
最近のルキ様は、私に化粧をすることがお気に入りらしい。
しかも――それが驚くほど上手なのだ。
「リリー、顔をあげてくれ」
今日は王宮で花嫁修行を終えたあと、ルキ様の執務室で一緒にティータイムを過ごしていた。
気づけば彼は当然のような顔で侍女に湯を用意させ、私の前へ腰を下ろしている。
そっと顎に触れる指先。
温かなタオルが肌を撫で、丁寧に化粧が落とされていく。
「……何度されても慣れないです」
「リリーは素顔も可愛いから問題ない」
「そう言えば良いと思って……」
さらりと言ってのけるから困る。
しかも――顔が近い。
ルキ様の黄金の瞳が、真っ直ぐこちらを見つめている。
その熱を帯びた視線に落ち着かなくなって、私は思わず小さく身じろぎした。
「……動くな」
彼の低い声が耳元で響く。
ぞくりと身体に熱が走る。
「で、でも……ルキ様、近いです……」
「リリーの大事な肌を傷つけたくないんだ」
真面目な顔で言われると、反論できない。
初めて彼に素顔を見せた時は、本当に恥ずかしかった。
けれど今では、こうして世話を焼かれる時間に、どこか安心している自分がいる。
最初は化粧を落とすことにも抵抗していた。
その時、ルキ様は静かな声でこう言ったのだ。
「なぜ嫌がる? いずれ結婚するんだろう。それとも……他に見せたい相手でもいるのか?」
あの時の視線を、今でも覚えている。
静かなのに、逃がす気など最初からないような目。
ぞくりと背筋が熱を持って、それ以上抵抗することなんてできなかった。
気づけば、化粧を落とし終えたルキ様は化粧筆を手にしていた。
真剣な表情。
けれどその眼差しは、どこか熱っぽい。
筆先が頬を撫でるたび、心臓が落ち着かなくなる。
そして私は――そんな時間を、嬉しいと思ってしまっていた。
鏡越しに映る自分を見る。
ルキ様の手で少しずつ整えられていく顔。
その光景を見ていると、まるで自分が彼に染められていくような気がした。
(……もっと)
一瞬、そんな考えがよぎる。
途端に我に返って、顔に熱が集まった。
(わ、私……今、何を……)
まるで。
ルキ様に管理されることを、望んでいるみたいじゃない。
その時、不意にルキ様が顔を覗き込んできた。
いつの間にか、化粧は終わっていたらしい。
「……リリー?」
「え、えっと……」
(……近い)
改めて見つめ返した黄金の瞳は、ひどく甘く熱を帯びていて。
逃げられない。
この人は、いつだって真っ直ぐに私を見つめてくれる。
大切にしてくれているのだと、触れるたびに伝わってくる。
普段は私が彼を甘やかすことの方が多いけれど――。
たまには、素直になってもいいのかもしれない。
「もっと……してください」
その瞬間。
ルキ様の目がわずかに見開かれた。
けれどすぐに、蕩けるように微笑む。
「――喜んで」
そっと、唇が重なる。
優しく触れたはずなのに、すぐに熱を孕んでいく。
ぬるりと舌先が唇をなぞり、塗ったばかりの口紅を掠め取っていった。
やがて唇が離れる。
視線を向けると、ルキ様の唇には薄く紅が移っていた。
「……また、付け直さないとな」
耳元へ落とされる低い声。
熱が一気に身体を駆け巡る。
「……お願いします」
そう答えると、ルキ様は満足そうに目を細めた。
――どうやら今日の化粧は、いつもよりずっと長くなりそうだった。
甘々番外編はやっぱり楽しいですね。
只今、新作を準備中です!




