金色のカフス
金色のカフスボタンは、21話と47話で登場しているアイテムです。
ルキウス様と再婚約してからというもの、ほとんど毎日のように彼は時間を見つけては公爵家を訪れる。
今日もいつものように、異能で現れた彼に膝の上へと抱き上げられ、そのまま後ろから抱きしめられた。
最近は、この体勢がお気に入りらしい。
「リリー、ずっと思っていたのだが……あの棚にあるカフスボタンはなんだ?」
「え......?」
視線を辿ると、金色の石があしらわれたそれが目に入る。
――ああ、あれ。
街へ出た帰り道、彼に渡そうと選んだもの。
けれど、あの一件で機会を逃してしまい、そのままになっていた。
(ちょうどいいわ。今、渡してしまいましょう)
「あれはですね――」
「……男物だな?」
言葉を遮るように、腕に力がこもる。
「ずっと気になっていた。それにあの金色……兄上に渡すつもりだったのか?」
「ええっ......!?」
どうしてそうなるの。
慌てて振り返ると、細められた視線が真っ直ぐに射抜いてくる。
「どうして焦る。やはりリリーは――」
「もう、ルキ様……っ!」
両手で彼の頬を包み、逃がさないように顔を寄せる。
「あれは、ルキ様に渡そうと用意していたものなんです」
「だが、俺は何度もここへ来ていたのに……渡されていない」
「……タイミングを逃してしまって……」
「……本当か?」
まだ疑っている声に、思わず小さく息をつく。
(本当に……仕方のない人)
こつん、と額を合わせて囁いた。
「こんなにルキ様のことを想っているのに......まだ足りませんか?」
「だが……金色は兄上の色だ」
しゅん、と弱々しくなる彼に、思わず笑みがこぼれる。
確かに、レオナード殿下は金髪に金の瞳。
けれど――
「もう......ルキ様の瞳の色ですよ?」
「......え?」
「ふふ。私、ルキ様の綺麗な金色の瞳……大好きなんです」
そっと額に口付けを落とす。
「もちろん、それだけじゃありませんけど」
「大好きです、ルキ様」
ぱちりと目を見開いたあと、彼は堪えきれないように抱きしめてきた。
「……俺も、大好きだ」
腕に力がこもる。
「なあ、リリー」
「はい、なんでしょうか」
「キス……してもいいか」
「許可なんて、いりませんよ」
その言葉を待っていたかのように、唇が重なった。
最初は触れるだけの、確かめるような口付けだった。
「……っ、ルキ様……」
わずかに離れた隙間すら惜しむように、すぐにもう一度引き寄せられる。
今度は、逃がさないとでも言うように。
深く、熱を帯びた口付けに変わっていく。
息が絡んで、思考がほどけていく。
「リリー……」
低く掠れた声が、すぐ耳元で囁かれる。
その声音に、胸の奥がじわりと熱を持つ。
「……可愛い」
「……っ」
そう言って、もう一度唇を重ねられる。
それからしばらくは二人の世界だった。
この日も満足そうに微笑んで、ルキウス様は王宮へと帰っていった。
――そして。
ふと棚に視線がいく。
「......あ」
棚の上には、金色のカフスボタン。
――結局、その日も。
カフスボタンは、渡しそびれたままだった。
(でも......まあいいか)
私の思いは伝えたのだし。
もうルキウス様も勘違いすることはないだろう。
次にまた会えるのが楽しみだ。
そう思いながら、その夜は満ち足りた気持ちで眠りについた。




