第一王子は弟の恋路に巻き込まれる(sideレオナード)
――数日後。
王宮、第一王子執務室。
「……で?」
目の前に立つ弟を見て、僕はゆっくりと口を開いた。
「結局、話し合いはどうなったんだ」
あの日、応接室を後にしてからというもの……気にはなっていた。
正直なところ、あまり考えたくはなかったのだが――
「解決しました」
即答だった。
しかも、やけに満足げな顔である。
(ああ、うん。知ってた)
あの空気で「解決していません」は逆におかしい。
「……どうやって?」
つい、聞いてしまった。
(ああ、僕はどうして聞いてしまったんだ……)
聞いた後、すぐに後悔した。
もうあんな面倒ごとに巻き込まれるのは、ごめんだからだ。
そんな葛藤をよそに、ルキウスはさらりと答えた。
「甘やかされました」
「……は?」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
「リリーに」
「いや、それは聞けばわかる」
思わず即ツッコミを入れる。
「具体的に、どういうことだ」
するとルキウスは、ほんのわずかに視線を逸らし――
「……頭を撫でられて」
「うん」
「抱きしめられて」
「うん?」
「甘やかされました」
「……語彙が死んでるのか?」
耐えきれず、額を押さえる。
(なぜこいつは要点をまとめる能力を失っているんだ)
いや違う。
まとめた結果がそれなのか。
そんなことを聞いた僕が間違っていた。
「それで、お前の機嫌が直ったと?」
「はい」
「……安いな」
思わず本音が漏れた。
だがルキウスは、まったく気にした様子もなく頷く。
「リリーがいれば、それでいいので」
(……重いな)
知っていたが、改めて言語化されると重い。
「兄上には理解できないでしょうね」
「できないな」
即答した。
「というか理解したくない」
「そうですか」
興味なさげに返される。
こいつ、本当に僕に対する扱いが雑じゃないか……?
小さく息を吐き、話題を変える。
「……で、幽閉塔はもう必要ないんだな」
「ええ」
あっさりと頷く。
「当分は」
「“当分”ってなんだ」
思わず身を乗り出した。
「いや、また喧嘩したら使うかもしれませんし」
「使わせるわけがないだろう!!」
机を叩く。
まったく反省していない。
というか、発想が物騒すぎる。
「兄上が許可を出さないのなら、別の場所でも構いませんが」
「そういう問題じゃない」
「誰にも邪魔されない場所であれば――」
「やめてくれ」
即座に遮った。
これ以上聞くと、ろくな未来が見えない。
深く息を吐き、こめかみを押さえる。
(どうしてこうなった)
あの日、幽閉塔の使用を止めた自分を褒めたい。
心の底から。
「……まあいい」
投げやりに呟く。
「とにかく、問題が解決したならそれでいい」
「はい」
満足げに頷くルキウス。
その様子を見て、ふと一つ気になった。
「リリアーナ嬢は、元気か?」
「ええ。少し呆れていましたが」
「……だろうな」
思わず遠い目になる。
あの令嬢は、本当に大変だ。
「ですが」
ルキウスが、ほんの少しだけ表情を緩めた。
「最後には、笑っていました」
「……そうか」
それなら、まあいいのだろう。
少なくとも、あの異様な空気は――
本人たちにとっては、ちゃんとした“幸せ”らしい。
(理解はできないが)
とはいえ、一度は心を揺さぶられた相手ではある。
少しだけ……胸が痛んだけれど。
それを口にするつもりは、最初からない。
奪略なんて……僕の正義に反する。
――それに。
あんな物騒な男が相手なんだ。
あまり関わりたくないのが本音だ。
小さく息を吐き、書類に視線を落とす。
「……仕事に戻るぞ。手伝ってくれ」
「はい」
珍しく素直な返事だった。
だが次の瞬間。
「終わったら、リリーのところへ行きます」
「今その情報はいらない」
反射的に返す。
ルキウスは気にした様子もなく、書類に手を伸ばした。
その横顔は、どこか満たされたように穏やかで。
――少しだけ。
本当に少しだけ、思う。
(……まあ、悪くはないのかもしれないな)
だが、すぐにその考えを打ち消した。
いや、やっぱりない。
あれはない。絶対にない。
幽閉塔なんて言い出す男なんだ。
……僕だけは、ちゃんと止めないと。
――そう結論づけながら、僕は再びペンを走らせた。
がんばれレオナード殿下!




