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モブが世界を救うなら  作者: Rester
第一章
20/22

やってはいけない仕事

名前を訊く。

それは一見すると至って普通のことに見える。


・・・だけどそれは、SKの人なら――人間ならありえる行為でも、モブにとっては全く違う意味を持つのだ。


「え、あの・・・?」


私達の様子を不審に思ったのか、少年が声をかける。



「・・・ごめんね。ちょっとボーっとしちゃった。」


いつの間にか、普段は使わない〖モブ(少女)〗のお姉さん口調になってしまう。


「ねえ、もしかして、あなたには名前があったりするの?」

「はい!この依頼を受けたおかげで、僕には名前が付くことになりました!アドルフっていう名前です。聞いたところによると、モブ役の人はある程度実力が付くと名前が付く役をやって、そこで名前をもらえるようになるって・・・。お姉さんたちはベテランなんですよね?なら名前もきっともらっているんだろうな、って・・・。」



――ああ、なるほど。これが理由、か。


「ごめんね、私達には名前がないの。」「え?」

「そして、これは忠告だけど、その依頼は止めた方がいい。」


この依頼は、この依頼だけは・・・

決して、受けてはならないものだから。


===

モブ役には様々な仕事がある。

やられ役、取り巻き役、襲われる役、襲う役。

街を歩くのだって、モブの仕事だ。

2号がさっきまで受けていた依頼も、実際はセリフすらない。

せいぜい、“農場主の館の前を通り・・・”でおしまい。

それでも需要はある。人がそこにいると、生活しているのだと、主人公たちに認識させる役割。


しかしそこでも、彼らの名前はでない。

出るはずもないのだ。

一々名前紹介などしていたら画面が文字だらけになってしまうし、“X”の視聴者も疲れてしまう。


時々モブっぽい人の名前も出てくることはあるけど、実はその人はモブじゃない。

“脇役”という名の主人公に近い役職なのだ。

もちろん脇役も、その世界が偽りのものだとは知らない。


だけど、例外がある。

モブが名前をもらい、活躍する場面。それは・・・


『犠牲者役』だ。


たまにあるんだよね。

主人公が初めに知り合った人間が、命を落とす。

その時主人公は、この世界の命が散る瞬間を味わい、それを奪ったものに対して闘志をあらわにする。

名前はあるけど、もう二度と出番はない。

主人公の記憶の中にわずかに残るばかりの、そんな人物。


ふつうそれには、補償が付く。いや、ついていなければならない。

死ぬのは確実なのだから。

でも、この少年の犠牲者役にはおそらく・・・補償が、ない。


この世界はきっと“X”より治安がいいのだろうが、それでも完璧ではない。

こういう、実際に人が死ぬ悪質なものも、若干数存在する。

この手の役は、臨時依頼なのも特徴だ。

正式な依頼だと信頼性を問われるが、臨時依頼はスピードを問われるためあまりしっかりと審査が出来ていないのが現状らしい。

それで物語に影響はないのか、と言われると・・・じつはあんまりないのだ。

主人公の活躍はきちんと撮影されているが、別に四六時中撮られているわけでもない。

普段の生活は飛ばされ、大切な、イベントシーンだけが撮影される。


その隙間を、悪質な奴らは狙うのだ。

イベントが終わって少し間があくような時。

その時に犠牲者役を投入する。

そして犠牲者が実際に死に、主人公が大きな衝撃を受ける。

そして主人公は成長する。

だけど正式なイベントがあるのはしばらくたってからなので、その後成長した主人公を見ても、「あ、どこかで鍛錬したんだな」と、その強さを好ましく思うほかには何もないのだ。

そして犠牲者を使って非公式に撮られた映像は、“X”でスピンオフとして提供されるらしい。

人気作品のスピンオフは、やはり人気が高い。

彼らの存在がいなくならないのも、それが原因だ。


そして、この手の役を引き受けるのは、大抵が新人だ。

少し経験を積めば、この依頼に補償がないことをすぐ見抜ける。

だけど新人はそもそも補償の存在すら知らないことも多く、なんとなく「死んでも生き返れる」という認識しかない。

そしてその新人たちを、彼らは利用するのだ。





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