戦記97「娘とメイド」
もはや投稿などみていないと思っていた友人(自分視点)から、「なろうのカテゴリー編集したほうがいいよー」といわれて初めて、カテゴリーの再編がどういうものかを知った今日この頃。
とりあえず直したものの、カテゴリーに『戦記』があったから『ユウ王戦記』という名称にしたこともあり、なんか少し切ない…
そんな思いは一切篭ってない、戦記97。
名前と数行のセリフは出たことのあるあのメイドの詳細が明らかに!
戦記97「娘とメイド」
僅かな空気の流れにも沿うような細く長い髪、
刻一刻と姿を変える雲のような虹彩、
僅かな息遣いで多様な音を奏でるハーモニカのような声、
傷の少ない手は一箇所にとどまることを嫌うかのようにあちこちへと伸び、その手と声と視線と心でもって誰かを捕まえ、引き寄せる。
シンとした佇まいは人形のように精巧で優美なれど、一度動き出せばオーケストラのように賑やかで華々しい、少女と女性の間ぐらいの娘。
やがては夫人に代わりグラン家を取り仕切ることになるであろう彼女が、フォード・グラン。
「さ、お兄様、お帰りなさいの口付けをどうぞ私に」
目を閉じたフォードに紳士達から喝采が沸き、淑女達から顰蹙が飛ぶ。
フォードの頬が赤みを帯びているのは、相手がユウだからというよりは、急いで駆け寄ってきた結果であろうが…その相手がユウでなければ駆けなかったとすれば、ユウのせいともいえるのかもしれない。
いずれにしろ、どう贔屓目に見ても好意を表すフォードのその要請に対しユウは、
「では、僭越ながら」
会場の至る所で『アイツなら本当にやりかねない』といわんばかりの驚きが沸き起こる中、口付けた。
唇ではなく、その白い頬に。
「もぅ、意気地なしですのね」
ツン、とそっぽを向くフォードの芝居がかったセリフに笑いを堪えられぬ紳士達。
「お兄様になら、いつお持ち帰りいただいても構わない所存ですのに私」
「そんなことをしよう日には、夫人を筆頭にどれだけの人に恨まれるか…」
「ご心配なさらずに、例え家を勘当させられたとて、お兄様の一人ぐらい養ってみせます」
「俺が養われる方なの?」
「仮に竜でも王でもなかったとしたら、私達が不自由なく暮らすだけの稼ぎを得ること適いますかお兄様に?」
自信と冗談が混在した不敵ながらも不愉快ではないフォードの笑みに苦笑いで返すユウ。
「そのときはお世話になります」
「お任せ下さい」
「ま…とりあえずおかえり」
「はい、ただいま戻りました。お兄様もご無事なようで、本当に何よりです」
表情も声もさしてかわりなく…しかし大仰にすることないほどに知った仲ということなのだろう。
僅かながら二人だけに通じる時間が流れた後は、すぐさま二人を囲む人垣ができた。
「この度はお仕事で?」
「仕事というほどでもございません。お茶会のお誘いに出向いただけですわ。あ、そうそうその時におじ様が好きそうな小物を見つけたましたので取り寄せるよう手配しましたの」
「おぉ、それはありがたい」
「ちなみにお支払いは分割でよかったかしら?」
「プレゼントかと思いきや…」
「ではプレゼントにいたしましょう。その代わり、ぜひお勧めしたい商品があるのですが、見ていただけますかしら?」
「これは…タダより高いものはないといったとことですな」
フォードが話を進めるたび、客人達の表情が崩れる。
ユウだけの時と比べて客人達の表情は段違いに明るく、舌もよく回る。
会話に花が咲く、とはこういうものだというお手本のように和やかに華やかに言葉が踊る。
「あれが娘さん?」
「そう、不肖の娘。誰に似たのか、せっかちでハデでね…」
その誰かさんとやらの視線の先にいるのは、ユウ。
「ほんと、良くも悪くも影響与える子よね」
ユウに対する人物評を聞き、朗竜が『劇薬のような人物』といっていたのを思い出す姫。
「…副作用であぁなったの?」
「…薬も過ぎれば毒になるっていい見本かしらね?」
娘とユウと、二人に向けたため息を夫人が見せたとき、
「ただ今戻りました、奥様」
落ち着いた声で呼びかけてきたのは、一人のメイド。
スフレが着ているのとはデザインが異なるメイド服をまとっており、周りと見比べてみれば、それがグラン家のメイドに与えられているものであると分かるだろう。
伝統や格式に則ったデザインは、このメイドのようにやや年を召し、静けさが顔に刻まれた女性の方が見栄えが立つ。
「ご苦労様でした、トリノ」
「はい、ご苦労でした」
挨拶のような言葉に間髪要れず返したトリノのそれは嫌味でも誇張でもなく、単に事実を述べたもので、それを分かっているからこそ夫人にはため息しかでてこない。
「あの子には後でよく言って聞かせます」
「それがよろしいかと」
「それで首尾の方は?」
娘の作るにぎわう声を隠れ蓑にするように声量を落としたグランに対し、すっとトリノが視線を姫に向ける。
その視線を『退席命令』と受けたスフレが姫に声をかけようとするその前に、
「構いません。後ほど耳にして貰うことです」
聞かれても構わない相手であることを告げられ、トリノが口を開く。
「幾人か先手が打たれておりましたが、お茶会には十分な人数かと」
「スケジュールは?」
「来週の末、時間は日が落ちてからがよろしいかと。ただその日は奥様のご予定がございますが」
「こちらが合わせます。お茶会を優先に。皆様には早々に連絡を」
「畏まりました」
「今、耳にすべきことは?」
「後ほどでも平気かと」
「よろしい。ではここは他の子に任せていいので、グラッセさんにご挨拶してきなさい」
グラッセという名を聞いた途端、トリノの能面というわけではないが、澄ましたような表情が僅かに崩れた。
「…必須でしょうか奥様?」
「必須ですよ、トリノ」
「畏まりました。ご挨拶してまいります」
心持はともかく、主からの命に背くようなことはせず即行動に移すあたりは、経験の差なのであろう。
トリノは自分を見ている歌姫と視線がぶつかると、失礼にならない程度に姫の全身を見渡し一礼した後、ホールから立ち去った。
「あの方は、トリノさん。お屋敷付きのメイドです」
と、後姿を見送っていた姫にスフレが説明した。
「お屋敷ってことは、あの人はユウのメイドじゃないんだ」
「そう。私と、あとは娘の専属ね」
「なんかメイドって若いイメージあったけど…」
「洗濯やお掃除などの重労働はともかく、お側使いは経験を必要とすることも多いですから…ましてや、グラン家ともなれば、トリノさんほどの方でなければお勤めも難しいでしょう」
「あら、スフレならいつ戻ってきてくれてもいいのよ?」
「お言葉は嬉しい限りですが、今のスフレにトリノさんの代わりが務まる…という意味ではございませんでしょう?」
スフレの返しに…グランがどれだけトリノという人物を力に思っているかと、トリノ自身の力量を十分に分かっているからこその返しに、夫人が言葉を呑む。
「…返しがうまくなったわね」
「いいえ。まだまだ未熟者ゆえ、今しばらく、未熟なご主人様の元でお手伝いさせていただこうと思います」
まだ一日もたっていないとはいえ、姫にはスフレというメイドがけして質の悪いメイドだとは思えない。少なくとも、神楽月の宮中に勤めている女中とは違う洗練されたものを感じる。が、そのスフレ自身がそういい、そしてそれをグランもまた否定しないということは、差があるのが事実なのだろう。
「『価値あるメイドは、一運を賭けるに値する』か」
姫の文句にスフレとトリノが反応する。
「そのセリフをご存知ということは、ヤツネ様のお名前、やはりヤツネ様からで?」
「えっ」
スフレの問いに姫がやや驚きをもって返し、
「『スカイジャーニー』ね」
「そう!」
微笑みながらタイトルを挙げた夫人に、姫は喜びで持って返した。
「二人とも知ってるの?」
「勿論です」
「懐かしいわぁ…昔はよく読んだのよねぇ」
思い出と共に夫人の頭に浮かぶのは、『スカイジャーニー』という一冊の絵本。メイドや獣人などを引き連れた冒険者が空へと続く階段を上り、雲の中にある国を旅するという冒険譚。
大陸の北西部を中心に、何度も出版と改稿を重ねられている児童向けの絵本である。
「しかし、神楽月でも有名だとは思いませんでした」
「有名…ってことはないと思う。あっちでヤツネっていっても反応する人ほとんどいなかったし」
「まぁ、元がドラゴニア発祥の小説ですものね」
「そうなの?」
「そうよ。『空国旅情』っていって確か原本が書斎にあったような…良ければ読んでみる?」
「うん!」
「じゃぁ後で貸してあげるわ。絵本との違いもあって、けっこう面白いのよ」
「例えば?」
「大きなところだと旅のメンバーが違ってたり、小話的なことだと作家名が原本と絵本で違ってたり―」
などと絵本の話に花を咲かせようとしていた矢先、一塊の影が飛び込んだ。
お読みいただきありがとうございます。
この後よく絡むとはいえ、例によってフォードが好きすぎるため長くなる筆者です。
お嬢様からお兄様ですよ?
羨ましいと思いませんか?
まぁ実の妹からお兄様なんて呼ばれた日にはダッシュで逃げるか、評判のいい病院を探すと思いますが、ファンタジーなんだから細かいことはいいんだよ、って感じで。
現実の妹というのは、兄を蛇蝎のごとく嫌うものだとそう思う。
そんな感じで、空想世界の妹達(自称と続柄的に)がどう(物語的に)絡んでいくのか…楽しみにしていただける方は、また次回。




