戦記94「列席者達と」
前書きが書きたい!
そんな思いに駆られて更新をする時だってある。
しかしいざ前書きを書く段階にくると、別段前書きで書きたいことなどないことがわかる。
ではどうして私は前書きを書きたかったのだろうか?
答えはそう…きっと、今これを読んでくれる人に出会いたかったからだ。
とか連載の最初の方から書いておけば一人か二人ぐらいはなんて紳士! って思ってくれたかもしれないのに、どうしてボクはあんな前書きを書き続けていたのだろうか…
それはそうと始まります、戦記94!
戦記94「列席者達と」
「その口振りからすると、御めがねに適った、と思ってもよいもので?」
「少なくとも私とみなさんは。あとはもうお一人のご判断が必要ですが…いかがですかグラン夫人?」
この場に俺を連れてきた時点で答えは分かっている人達ばかりだろうが、改めて言葉にすることに意味がある時もある。
誰の言葉で決定がもたらされるか…いざという時、誰に責任があるかを明確にするため。
俺がもたらす責任の一端を、グランガーデンのオッサンと紳士がもってくれた。
そして、
「グラン家当主の名にかけて、ユウ王殿はドラゴニアの時と同様…いえ、そのとき以上に信頼できる方とお見受けいたしました」
夫人もまた、担いでくれた。
嬉しい反面、先ほど着いたばかりの俺の何を見て『信頼できる』と言って貰えるのか…人なんていくらでも変わるというのに。
というのが、顔にでも出たのだろうか…
「お金、地位、武力、配下…使える力が増えたが為に変わってしまった人を、イヤというほど見てますからね」
こちらに微笑む夫人。
「個人的には、もっと王様っぽくなりたいなと思ってるんですよ?」
「無理なことはやめておきなさい。ドラゴニアの時も同じようなこといってましたよ」
「いいましたっけ?」
「はい、いいました。『もっと竜っぽくなりたいなと思ってるんですよ?』と」
記憶にないが、夫人がいうのだからまぁ言ったのだろう。
ということはつまり、こっちの世界に来てからも変わってないと。
…五年分の成長はどこにいってしまったんだろうね?
「では改めて…」
紳士が切り出すと、列席者の顔が強張った。
「よいですね?」
これは、俺への確認ではない。列席者達への確認。
ここから先はあとには引けない…そういうことなのだろう。
そんな紳士の問いに、反対意見は無い。
先ほど、俺を信用ならないと断じた貴婦人ですら、会議の結果は受け入れるようだ。
「ではユウ殿。最初に私達が何者であるかをお伝えいたします」
そして、俺もまた受け入れなくてはいけないのだろう。
この者達が何であるか…何の目的で集まったのかを。
勿論、聞いた上で断ることは、できなくない。
ただ、断る可能性は低いだろう。
『俺が断るかもしれない』という確立が高い状態で、これだけの面々が俺に目的を明かすはずがない。つまり、彼らの中ではすでに俺に『はい』と言わすだけの算段ができているわけだ。
そして、それが『互いのためである』という確信も。
「ここにいる二十余名…来れなかった者を入れれば更に十余名…いずれもメガロポリスに一定の力を行使できる者達ですが、ある共通の考えの元に集まっております」
その考え…目的とは?
「メガロポリスの解体です」
言葉を聴き、ぐっと…何人かが手を強く握りしめた。
「…冗談?」
「このような場と時でなければ」
「そうでした」
メガロポリスを…連合とはいえ、七大国に数えられるこの国を解体すると。
この面々はそれを望んでいると。
「…紅茶のおかわりを頂いても?」
「どうぞ」
メイドさんが空になったカップに紅茶を注いでくれる。
先ほどに比べてやや味が劣って感じるのは、茶葉が酸化したせいか、それともメイドさんの緊張によるものか…
「…いつからですか?」
「いつ…とは?」
「この案件、昨日今日で出たものじゃないでしょう?」
でなければ、この人数を…これだけの人数が信用しあうなどできようはずがない。
どんな人物か入念に調べ、裏切り者が出る可能性を徹底的に潰し、少しづつ輪を広げ、でないとこんな危ない話で集まることなんてできるはずがない。
「お考えの通り、この案件自体はかなり前から練っていたものです」
その理由を、紳士は指折り語る。
例えば、巨大すぎるが故の融通の効かなさ。
また例えば、扱う商品が違い過ぎるが故の考えの食い違い。
その他にも、汚職にまみれた議会の存在意義だとか、若手が台等しづらい現状だとか、まぁ大きな組織にありがちなあれこれが並び立った。
「古いメガロポリスを解体し、新しい都市同盟国家を作る」
その考えに賛同した有力者達が、ここにいる面々と。
「私や娘が、よくお茶会を開いているのは知ってますね?」
夫人の問いに頷き返す。
「あれもその一環といえば一環です。表向きは商談や社交ですが」
「夫人はともかく、娘さんのお茶会もそうだったとはやや驚きです」
「娘は将来グランの名前を背負う身…何よりユウ君、あなたが思うほどあのこは幼くありませんよ」
「えぇ、存じております」
「デショウネ」
なぜだか夫人の最後の言葉がやけにつっかかる感じだった気がしないでもないが、たぶん気のせいだろう。
「夫人の助力もあり、メガロポリスを割っても一定の力を保てるだけの賛同者が集まりました。ただ、いつ実行に移すかが何度話してもまとまらない」
なにせ歴史に残るほどの大事業だ。利益や理想の狭間で、大きく意見も食い違うのは仕方ないことだろう。
「ですが」
「ようやく踏ん切りがついた、と」
「はい…意見がまとまるきっかけになったのは二人の竜…現ドラゴニア王、ゴウ竜。そして、現鈴星王ユウ竜…そう、アナタたちです」
つまり、ドラゴニアのあの戦いから始まる一連の流れが、メガロポリスにも影響を与えたと。
「今、メガロポリスには二人を要因としたいくつもの話が出回ってます。南北に分かれた大戦争の前触れであるとか、仲たがいに見せかけてメガロポリスを侵略しようとしているとか、ゴウ王の女に手を出して追い出されてむしゃくしゃしたユウ竜が神楽月の姫君達を傷物にしたとか」
二つ目はまだしも、最後の話流した奴ちょっと出て来い。
したけど。
「一応言っておくけど、共謀はもちろん、侵略する気も無いからね?」
「分かっております。他の者はともかく、私共はドラゴニアでのゴウユウの仲の悪さは存じておりますし、仮に共謀して他国を狙っているのであれば、脱出の際に飛空挺をあそこまで破壊することなどしないでしょう」
ドラゴニアにおいて飛空挺とは、戦力であり交通であり、つまり国力の一部である。
信憑性を高めるために破壊する…なんて策もなくはないだろうが、信憑性のためだけに破壊するにしては大規模に過ぎる…というわけだ。
なにせ、国力の減退を隠せないほどに破壊したようだし。
「現在のドラゴニアの情報はお持ちで?」
「いや、正直なところはあんまり。なんせこっちはこっちで落ち着く暇もなかったもんで」
紳士が頷くと、控えていた執事が書類の束を俺へと寄越した。
「どうぞ、差し上げます」
パラリと何枚かめくる。
書かれていたのは、メガロポリスの各所とドラゴニアの間で行った取引に関するあれこれ。どこの国から何を仕入れたとか、いつまでに何を用意してくれだとか、いくらで買ったなどなどの売買情報。
「これ、本当に貰っていいの?」
たかが商業上の情報…ただし、国家間規模となれば機密事項といってもいいだろう。
今何が不足しているのか、何を作ろうとしているのか、何に困り、どんな行動を起こそうとしているのか…そういったものが、この情報から想像できてしまう。
そんな情報を、ドラゴニアの敵…少なくとも相手はそう思ってるであろう俺に渡すというのは、商人としてはかなり筋の通らない話だ。
だから、確認したわけだが、
「はい。お持ち下さい。もちろん、他の方には秘匿で」
俺が見る分には問題ない、と。
「…つくづく」
「ん?」
「厄介な案件に巻き込まれた…」
俺のぼやきに笑みさえ浮べながら、紳士は話を進めた。
「要点を掻い摘んでお話しましょう。まず、先ほどのドラゴニア革命…とでも言っておきましょう。この被害は甚大で、今なお広がっております」
「…反対派の抵抗と不満分子か」
「その通りです。キョウ王様と剣姫様を慕っていた軍人達がまとまり、小規模ではありますが武力的な抵抗をしております。また、新体制に不満のある官僚なども政治的に反発しております」
「まぁ…少し考えればそうなるってわかりそうなもんだよなぁ」
キョウ王様も剣姫様も人気が高かった。強く豪快な王と強く美しい姫は憧れだった。
人柄だけでなく、政治的に対する大きな不満もなかった。歴代の王よりも『娯楽』や『愉悦』に関心の高かったキョウ王様は、新しいモノや外国の文化に寛容で、それは国民への恩恵にもなっていた。
まぁそれに対する不満が官僚などの既得権を持つ者達から上がってはいたが、少なくとも、実の息子であるゴウ竜を君主に国を立て直そうなどという運動にまでは発展していなかったはずだ。
そんな中で革命は起きた。
そして実際に成った。
成すための協力者はいただろうが、だからといって大勢の支持を得て…というわけにはもちろんいかない。
オレやカイは国を捨てたが、残り戦うことを選んだものもいる。戦うまではなくとも、不満や不安を膨らませている者だっている。
しかし、本当の問題はそこではない。
「で、ゴウ王はそれをどういう風に納めるつもりなんだ?」
問題は起きる。
問題が起こりやすい状態で決行したのだから、尚のこと起きる。
問題は、その問題をどういう手段で収めるかだ。
「おわかりになりませんか?」
声に冷ややかさが混じる。
相変わらずの笑顔だからこそ、温度が落ちるだけで紳士の考えがよく分かる。
「戦争、ですよ」
お読みいただきありがとうございます。
前書きを書きたくなる日がある。
あとがきを書きたくなる日がある。
今日は、前者。
それではまた次回。




