戦記93「有力者達と」
投稿していたと思っていたものが投稿できていなかった…
そんな春の日の午後。
戦記93「有力者達と」
『戦争を始める気か』とは、これまた直球な質問だ。
対する返しはいくつか思い浮かぶが…
「…どうしてまた、俺が戦争をやりたいだなんてお思いで?」
「先に質問をしたのはこちら。まずはお答え頂けますかな?」
『先に』と『まずは』ってことは、話し次第では『こちら』と『次』もあるってことね。
(―俺の拉致や抹殺が目的ではない。話をする以上、欲しいのは情報か利益)
やや、イスに深く腰掛け把握に努める。
俺をここまで連れて来た夫人は、ちょうど向かい側…下座の席に着くや、その顔に薄い微笑を貼り付けて目を閉じた。
どうも、この件に関しては本当に俺になんの情報も渡す気がないらしい。
となると、単に場を用意しただけか、それともここにいるメンバーと夫人が同志なのか、いずれにしろまず把握しておきたいのは、
(―会談のお目当てはなんだろね?)
キーワドは『戦争』。
戦争に関して俺からどんな言葉を引きずり出したいのか、またはどんな意思を確認したいのか…
(―本心を語るべきか、煙に巻くべきか)
これが個人対個人のやりとりなら素直に話してもよかったろう。
進行役を任されていると思われる紳士は、面会回数こそ夫人に劣るものの…というか、夫人とは親戚づきあいでもしているかのごとく会っているで、それを外して考えるなら比較的話してきたほうだ。
良質な石材を扱う町の代表である紳士とは、ドラゴニアの街づくりを行うにあたり取引相手として、またデザインにおける相談相手として頼ったことがある。
俺が大口の顧客であったことに態度の良さを差し引いても…道義に反してまで利益を追求するタイプではないだろう。まぁだからといって身銭を切って損をするようなタイプでもなかろうが。
「で、いかがですの?」
さすがに考える時間が長すぎたか、痺れを切らしたどこかの貴婦人が睨みつけてくる。
初めて見る方だ…夫人と同じぐらいの年齢だろうか? 厚めに塗った化粧が財力を物語っているが、個人的にはもっと薄めのメイクが好みである。
「ご夫人」
「…失礼」
そして紳士に窘められると、貴婦人は不承不承ながらも口を閉ざした。
同席してはいるが発言権が等しくあるわけではない…ということなんだろう。これだけの人数が好き勝手に喋りだしたりしようものなら収集が着かないので、事前に取り決めておくというのはよくあることだ。
何を基準に発言権を決めるかは時々だが、おそらく今回は、進行役である紳士を含む他数名…この手の会談に慣れている者に集められているだろう。
ならば、
「戦争…するつもりだといったら?」
「「なっ!?」」
何人かが顔色を変えた。
そして『慎め』とばかりに、他の列席者に睨まれる。
紳士とは別に、男性が二人、女性が一名…か。
(―これで、反応を見る相手がだいぶ絞れたな)
この場にいる全員の態度を全て把握し続けるのは難しい。
だから、絞る。
そうすれば、決定権を握っている人間がどんな単語に反応するか、何を希望しているかを探っていける。そして情報が集まれば、何を話して何を話さぬべきか見えてくる。
「失礼。戦争したいなどとは冗談です…半分ね」
またもや反応しそうになるも、自制に務める各々方。
反応しまい反応しまい、悟らせまい悟らせまいと硬くなっていくのが目に見えて分かる。が、軽い様子見程度の会話で揺さぶられる人間がポーカーフェイスなどできるわけもない。
硬くなることはできるが、もしそれが崩れれば、そのワードが焦点だと一目でわかってしまう。
だから個人的にはポーカーフェイスよりも厄介なのは、
「ふふ…相変わらず冗談がお好きなようで」
この手のタイプ。
硬い態度を取っていたはずの紳士は口ひげを弄りながら、笑顔すら浮べている。
「冗談はお嫌いでしたっけ?」
「このような場で、このような役目でなければ嗜む程度には」
いいながら控えていたメイドに指示を出し、紅茶の準備をさせる紳士。
グラン家とは違う作りのメイド服なことから考えるに、おそらくは紳士自身が連れて来たお手伝いなどだろう。整然とした立ち居振る舞いでメイドの手が動くたび、茶器の音と茶葉の香りが部屋に渡り、俺から順にティーセットが置かれていく。
「どうぞ、我が国自慢の紅茶です」
「頂きましょう」
この環境で毒…はないだろう。
紳士ご自慢の紅茶は、香ってよし飲んでよしと、間違いなく一級品だった。
「いかがで?」
「いい味です。さぞかし淹れてくれたメイドの腕が良いのかと。というわけでメイドさん、うちの子にならない?」
にこりと貼り付けた笑顔でさっと距離を取るメイド。
徹底的に嫌な顔をされるよりも、よっぽど拒絶を感じる笑顔である。例えて言うなら、酒場のウエイターのお尻を撫でるオヤジが向けられる笑顔と似たような笑顔である。つらい。
「じゃあせめて、中身か外見だけでもうちの子にならない?」
そして笑顔のまま更に距離を取るメイドさん。
「どちらかといえば中身の方が欲しいんですよ? 別にメイド服だけ欲しいわけじゃないんですよ? くれるなら欲しいけど」
喋れば喋るほど徹底防御へと転じるメイドさん。
よほど危険に感じたのか、今や主を盾にする始末である。
「さすが、いい教育をなされている」
「ユウ殿も相変わらず、いいご趣味をされている」
「いえいえ、あなたには適わない…『いい紅茶といい本、そして好みのメイドがいれば人生バラ色』というあのお言葉は、未だに俺の中で輝いております」
そういった途端、主であるはずの紳士からすら距離を取るメイド。
「あっ、う、も、もうしわけございません」
慌てて主人との距離を戻すメイドだが、主人の顔の切なさは戻らない。
そんな顔をみて噴出す俺…と数名の紳士淑女。
「くひっ、っふ」
よくみれば、夫人も顔を横に背けつつ体を震わせている。
「…よもや、今日の席でこのような笑いが出るとは、予想だにしておりませんでした」
「それは失礼。そんなに大事な場だとは知らなかったもので…で、なんでしたっけ? メイドのスカート丈の理想についてでしたっけ?」
そして発言権をもっていると思われる三人のうちの一人…オッサンが完全に笑い出した。
(―神楽月に戻ったら兵士達にこの話題ふってみよう)
きっと、ロング派とショート派で大論争が起きるだろう。
「なお個人的には、職業メイドはロングで、コスプレならミニもありだと思っております」
机をバシバシと叩き、苦しそうにするオッサン。
もっとも、残り一名はむしろ厳しい顔つきとなり、もう一名は変わらぬまま…つまり差し引きはゼロ…ではあるが、まぁ会全体でみれば崩れた者の方が多いようだし、よしとしよう。
「…あなたという人は」
「失礼、思い出しました。戦争するかどうか、でしたっけね。そろそろ進めましょうか」
多少こちらのペースに巻き込めたところで話を切り出す。
「さて、今度こそ正直に戦争する気かどうかについてですが―」
「その前に、一つ」
もういくつか用意していた話…そのほとんどが煙に巻くつもりのものだが…をしようとしたとき、割り込んできたのは、がっしりとした体つきのオッサン。
発言権を持つ三人のうちの、メイドの件で笑っていたあの男だ。
身なりだけでいえば、そこらにいる町人と変わらない…が、改めて腕や腰周りに目をやると、豪快ながらも細やかな細工の施された時計やベルトをしている。会ったことはない…が、けして小さな国の代表というわけでもないだろう。
場を仕切りなおすなり、または紳士への助け舟か…と思ったが、紳士の表情を見るに連携を取るための行動ではなさそうである。
「ユウ王様の話、もう少しばかり聞きたい自分もいるのだが、どうせなら酒を飲みながら聞きたい」
「お気にいただけたようでしたら何より」
「あぁ、ただ会議でする話じゃない」
笑いながらもピシャリと言い切るオッサン。
「…失礼しました。少々悪ふざけが過ぎました」
「それに関してはこっちにも非がある。伺うようなやり方で悪かった」
席を立ち、こちらへと近づいてくるオッサン。
そして片手をこちらに差し出す。
「グランガーデンの代表をやってるもんだ。よろしく」
手を握り返すと、分厚い手のひらが力強くそれに応えてくれた。
グランガーデンは、メガロポリスの平野部に位置する食料の国だ。中でも麦を中心とした生産物が有名で、小麦粉を原料としたもの…パンやビールなどで潤っている。
「ユウ王様が警戒するように、こっちも警戒している。互いに警戒するから、まともな話ができない。そんな会議じゃ日が暮れる。だから、決めちまおう。こっちが先に腹を割れば割ってくれるし、話に聞いていた通り…そういう人だと俺は思った」
手を握ったまま列席者にのたまい、オッサンが告げる。
「というわけで、俺は一票だ」
何がどういうわけかは分からないが、何かに票が入った。
「…確かに、身のある話をするためには、明かした方が早そうです」
続いて喋りだしたのは、発言権があると見ていた三人のうち、メイドの話に何の反応も示さなかった男。
「賛成、だな?」
「ただし現状、ユウ王様を信じてというよりは、筆姫様を信じてのことです」
筆姫?
なんでここで筆姫様が?
いや、まさか…戦争と筆姫様、でメガロポリスの主要メンバー…もしかしてこれ、俺が想定してた以上の案件か?
「反対」
「理由は?」
「品にかけるので」
「残りは?」
オッサンが進行役を無視して…というか止めないのだから、紳士も許容しているのだろう。
促されて口を開いたのは、他二名…女性と男性が一名づつ、投票はどちらも賛成。
「4対1で賛成多数。俺達の意見は以上。あとは、おふた方だ」
オッサンが俺から離れ席に戻る。
同時に、列席者の視線と注意が紳士に向く。
「…個人の見解を述べる前に、まず謝罪しましょう…ユウ殿、今こうして久しぶりにお会いするまで、アナタを疑っておりました」
「えー…お詫びされましても、何を疑っていたか分からないことにはなんとも」
「アナタが本当にユウ殿であるか、です」
「偽者かどうかを疑っていたと?」
「いえいえ、間違いなくアナタは本物でしょう。ただ、人は変わりますからな」
どことなく重く響く言葉。
まぁ…分からなくはない。
「一つ尋ねても?」
「どうぞ」
「俺が変わりないことが、そんなに大事なことで?」
単に情報や利益が欲しいだけなら、『俺個人』というのはたいして重要ではない。
例え俺の性格が捻じ曲がってようが、聖職者のように澄み切っていようが、得られた情報の真偽さえ確かめることができるなら、情報はその価値を担保するし、誰から貰おうと百枚の金貨にはそれだけの価値がある。
しかし、紳士は言った。
「えぇ、それが確認できなければ、ここで話を終える予定でした」
お読みいただきありがとうございました。
投稿したと思っていたときは、このあと十数行に渡りメイドについてのあれこれを書いていたのですが(事実)、書き直すきにはなれなかったので書きません。
きっと、そんなこと書いたものを投稿するんじゃない、という何者かのお導きでもあったのでしょう。
そんな感じでまた自壊。




