戦記91「グラン夫人と」
もし、今君が10代だったら、この言葉を受け止めて欲しい。
いいかい、もしキミが10代なら、自分が50代になったときのことを想像するんだ。
そうすればきっと、20代後半とか30代がいかに若いかがわかる。
キミよりも、一回りも二回りも年下なんだぜ?
そう、キミが一回り年上に感じている感覚を逆転するってことさ。
そうすればきっと、魅力がわかってくる。
そう、若さって言うのは要素の一つでしかないのさ。
たった一つの要素に縛られて人を愛せないなんて悲しすぎるだろう?
常識を打ち破るのさ。
知らず知らずに打ち立ててた拘りを崩すのさ。
そうすればキミは今よりももっと自由になれる。
今よりももっと幸せになれる。
いつの日かやってくる「あ、気が付いたらお姉さんキャラよりも年上になってた」っていう悲しみを乗り越えることができる!
キミは、キミ自身を新たなる高みへと連れて行くことができるのさ!
なお、結果的に深みに嵌っても当方は一切の責任がないことをここに表明する。
そんな感じではじまりますです、戦記91!
彼女の年齢?
そんなものは想像にお任せします!
戦記91「グラン夫人と」
「こんな服でごめんなさい。深い意味はあるけど無いから、きにしないで頂戴ね」
相変わらずの笑顔で、しらっと矛盾を口にする夫人。
そこからは、拒絶はしないが説明するきもないという、非常にマイペースな人柄が見て取れる。
「え、この、人が?」
「あら、ユウ君、私のこと説明してくれてたんじゃないの?」
「その途中で入ってこられたので…ま、俺があれこれ説明するよりも、直接見てもらったほうが夫人の良さが分かるでしょうし、結果的によしってことで」
「まーた、そうやっておばさんのことバカにして…」
クセなのか、片方の頬…夫人の場合『頬』よりも『ほっぺ』という方が合う気もするが…を膨らませる夫人。
「いやいや、心底褒めてるじゃないですか」
「はいはい、いつまでもいってなさい」
話せば話すほど、見た目の印象とは違う気質をあらわにするその様子に、やや面食らったように固まる連れ二人。
そんな二人の視線を察したのか、夫人は俺から視線を外すと、コウと姫の目をまっすぐに見つめてから、口を開いた。
「お話は簡単に伺っております…あなたが、ユウ君の従者のコウさん。それと…ヤツネさんでよろしいですね?」
「は、はい、それでお願いします」
「わかりました…本来、別の場所で会えば相応の態度で接すべき方と存じておりますが、ここでは事前のお話に沿って、商家の娘さんと思って接することお許し下さい」
「えっと…はい。というか、許すも何もその方がありがたいというか…」
「あら、ほんと? なら私もその方が楽で嬉しいわ」
姫からのお許し? が出た途端、砕けた笑みを浮べる夫人。
「暫くは滞在するのよね? 宿はここをあてにしてたんでしょ?」
「調べたいものとかもありますし、夫人にお許し頂ければそれがいいなと」
「うん、ならやっぱりよかったわ。ずっと難しい顔してると疲れちゃうもの…だからヤツネさんも、コウさんも、私の為にもあんまり固くならないでね?」
「はっ! 承知いたしました! 何卒よろしくお願いいたします!」
「…コウさん私のこと嫌い?」
言ったそばから全身に緊張をあらわすコウに対し、悲しみを顔面に貼り付ける夫人。
「い、いえ、そんなことはけして!」
「じゃぁほら楽にして」
「いえ、けして硬くなっているつもりはなく、これで普段どおりというか…」
「んー、じゃぁほら、ちょっと笑ってみて。ね?」
「は、はぁ…えっと、こうでしょうか?」
そしてぎこちなく笑みを浮べるコウ。
その顔を見て、思わず噴出したのは歌姫様。
「ご、ごめん、なんていうか―っぷ」
気持ちは分からないでもない。
顔面の筋肉が悲鳴を上げているとしか思えないコウの笑みは、微妙に失敗した福笑いのようでなんとも言いがたい様相をかもし出している。
しかしそんな笑みを眼前に捕らえても、噴出すことはおろか、微風ほどの揺らぎもみせない夫人。
「んー…顔立ちは美人さんなのに表情が硬いのが残念ね」
同感。できればもっと笑って欲しい。模擬戦の時以外に。
「ここが硬いのよねぇ…」
いって、黒い手袋をはめたままの手でコウの頬をこねくりまわす夫人。
コウはいったいどういう態度をとればいいのか探りあぐねているようで、ただされるがままになっている。
「うーん、お肌きれいだし長身だし、ドレスとか似合いそうよねぇ」
顔から離れ、腕や髪を次々と撫で回す夫人。
「髪も手入れすればもっと艶が出そうなのに…ユウ君、ろくにお手入れする暇もあげてないでしょう?」
暇はあげてるつもりですし、手入れはしてると思いますよ。髪じゃなくて武器でしょうけど。
「…おばさん、いいこと思いついちゃった」
「ダメです」
「ねぇ、ユウ君? おばさん、まだ何も言ってないのよ?」
「言わなくても想像付きますが、一応聞きましょうか?」
「コウさんうちにくれない?」
「ダメです」
言葉尻に食い込ませるように述べた却下に、夫人が悲しげに目を伏せる。
そして体を微妙にカーブをまとい、長い睫の向こう側にうっすらと涙を滲ませ、
「私…あんなにたくさんユウ君にあげてるのに…」
「でもダメです」
再度断ったその瞬間、涙はどこかに消えうせ、頬が膨らむ。
「ユウ君ってば、ほんと持ってくだけで、ぜんぜんくれないんだから」
「いやいや、今回だってお土産もってきたでしょうに」
「じゃぁお土産返すからコウさん頂戴」
「ダメです」
「ヤツネさんは?」
「あぁ、ヤツネなら」
といおうと瞬間、言葉にならない圧力を感じ…もう少し具体的に述べると、姫が鳥をぶつけてきた衝撃を受け、言葉を選びなおす。選びなおすから、その手に止まってる第二羽は消して頂けないでしょうかお願いします。
「ヤツネさんなら?」
「当たり前のごとくダメです」
「一晩だけでも?」
「一晩あったら、もってちゃうでしょ」
「ざーんねん…」
「あの…護衛か何かを必要となさっているのでしょうか?」
と、どうして欲しがられているのか悩んだ末、全うな質問をぶつけるコウ。
そんなコウに夫人は笑顔でいった。
「ううん、私女の子大好きなの」
「…それって、どんな意味で?」
「ねぇ、どういう意味だと思う?」
たずねた姫の目を覗き込みながら、逆に返す夫人。
その夫人から何を感じたのか、距離を取ろうと背もたれへ体を押し付ける姫。
「あら、嫌われちゃったかしら?」
クスクスと笑うその姿に、からかわれたのだと知った姫が、なんともいえない顔で夫人を見る。
「確かに女の子は好きだけどね、ユウ君の好きと同じような意味はないのよ、ほんと」
「俺を引き合いに出す必要ありました?」
「コウさんも困らせてごめんなさい。でも、お手入れはしたほうがいいわ、もったいないもの」
「あ、無視ですか、そうですか」
「そうだ、確かいい石鹸を贈ってもらったの! 後で用意させるわね」
聞こえてるけど聞いてくれない夫人。
まぁよくあることで…とくに美人の類を目の前にするとよくあることなので今更、少し程度しか気にしない。
これが本当にそっちの趣味の人なら話は代わるが、夫人の場合は、単に女性…特に美人の類がもったいない格好をしているのが気になるだけの人だ。
いや、なんか結局変な趣味があるような言い回しになってしまってるが、そういう趣味? になったのにもいちおう理由がないわけでもなく―
「ねぇ」
などと脳内でいるのかわからない弁解をしている矢先、袖を引いてくる姫。
何事かと思って耳を傾けると、
「グランさん、ユウに似てない?」
「ユウ君と?」
小声のはずのそれを耳聡く聞きつけた夫人は、くりっと切れ長の目で俺を見てから、
「えぇぇ…」
と、心底嫌そうにいった。
「私こんなに陰湿そうな顔してたかしら?」
そして、ぴたぴたと俺のほっぺたを叩く。
「んー、相変わらず悪いことばっか考えてる顔よねぇ?」
「その発言がすでに陰湿だと思いますが?」
「そんなことないわ、裏表の無い明るいセリフじゃない?」
「物怖じしないと空気が読めないを同じ性格だと思ってます?」
「まーたそうやっておばさんのことバカにする…」
などというやり取りを、もうどれほどやってきただろうか…
初めてお会いした頃から、今日までのことを思い返しながらやり取りをしていると、
「奥様、そろそろお時間かと」
「はいはい。あなたもメイド長そっくりになってきたわね」
「…いい意味で捉えておきます」
「あら悪い意味なんかあるのかしら? あるならぜひ聞かせて欲し―」
「奥様」
「はいはい。やっぱり似てきてるじゃない」
そしてまた頬を膨らませる夫人。
ドラゴニアにいた頃と変わらないやり取りに、
あまりにも変わらなさ過ぎる、その寸劇のような…意図的なやり取りに堪えきれず、小さく噴出してしまう。
お読み頂きありがとうございます。
前書きではあーいいましたが、まぁ、それはあくまでサブキャラとかならの話で、ことラノベ系に関してメインヒロイン30代、人生を諭してくる先輩キャラが40代とか、それもうどんなだよってなりますよね。
そう思うと、女性向けって奥が深いですよね。
ヒロイン20代、相手役全員オッサンとか普通にあるわけで、懐の広さというか欲望の果てしなさというか、たくましさというか、そりゃそれだけ幅広いニーズに対応できる文化があるなら、ニッチ同士の争いが激しいことも頷けますと思う今日この頃です。
それでは、また次のお話で。




