戦記90「グラン邸へようこそ」
ハンターハンターが連載再会するときいて、これは負けていられないと思ったので連載再開。
みなさん、年上のオバ、お姉さんは好きですか?
戦記90「グラン邸へようこそ」
個人で所有するには少々大きすぎるこの邸宅…
近づくことすらおこがましいと考える者すらいるこの場所が、この旅の一先ずの目的地であったグラン邸。
外見は、母屋を中心にいくつかの離れや倉庫、馬車房などを兼ね備え、それらと玄関とが石畳で繋げられた古い時代のグランギニオール風邸宅。そこに、鬼牙島式の庭園思想…あちらの世界でいう枯山水が近いだろうか…が混ぜられ、石畳を歩いていると、木々や草花石で表現された、四季に応じた物語や、主からの歓迎のメッセージを受け取ることができる。
さすがに直接お会いしたことは無いが、この邸宅の設計を行った何代目かの当主が、『古きよきに新しきを取り入れねば、グランギニオールに未来無し』という思いを実力者達に分かって貰うために建てたとかいう逸話がある。
当時、今のままのグランギニオールを押す保守派と、刷新を提言する確信派の争いがあった。どちらもグランギニオールのことを思っての対立であったが、当主はその対立そのものが間違いであると考え、提言したのが先ほどの言。熟語にすれば『温故知新』。
当初、その言葉はどちらの陣営にも受け入れてもらえなかった。言葉だけでは納得しきれぬ心を動かすためには、ではどうしたら?
考え抜いた末に生まれたのがこの邸宅。そして招かれた実力者達は『温故知新』を目の当たりにし、以降は当主と共にグランギニオールの開発に力を注ぎ、今日の発展へと繋がったのだという。
「で、あってたかなスフレ?」
「はい。明日からすぐにでもお勤め頂けるほどの説明でございました」
「へー…建物でメッセージなんて面白いこと考えるのね」
「建物一つとっても歴史があるのですね」
などと、長い移動の間を潰す意味合いもかねて、邸宅に関する薀蓄を話すこと少々…
「では、準備出来次第お声かけ致しますので、少々お待ち下さいね」
案内役を務めたスフレが退室すると、邸宅の一室…応接間には、俺、コウ、姫の3人が残された。
少し遅めの昼食会…というか、歓迎会を開いてくれるそうだ。
元から下準備はしていたのだろうし、スフレが少々というなら本当に少々なのだろう…ドラゴニアの竜をやっていた頃に何度も通された応接間は、俺にとっては慣れ親しんだ…とは言い過ぎだが、まぁいまさら緊張するようなものではない。
が、姫はそうもいかないようで、グランギニオール調の室内…カーペットが敷かれ、石やレンガを基調として作られた壁や、素人目にみても風情のある年代ものの調度品などに目を奪われ続け、しきりと視線をさまよわせている。
コウの方は多少の分別か、または付き人としての矜持でもあるのか、ソファーに座った俺と姫の後ろにピシリと立っている。が、その立ち姿に多少の緊張が見れる。
(―まぁ、この広さだもんなぁ)
門から玄関まで、玄関から応接間まで、それぞれに家数件分の距離があり、更に窓の外から見える庭もまた広い。さすがに王宮に比べれば小さいが、下手な美術館よりも広いぐらいである。
どこかの客人でもやってきたのか、門から入ってきた馬車が小さく見えることといったらない。飾りつけなどから察するに、決して安くて小さい馬車というわけではないだろうに…
などなど、目にするものの多くが繊細でいて高級品に溢れ、しかも広い。緊張するなというほうが無理があるだろう。
「ちなみにこのソファー、安い魔剣より高いから」
姫がビクッと一瞬立ち上がりそうになる。その、予想通りの反応に思わず噴出す。
「も、もしかしてウソついた?」
「ううん、ほんと。あと、この部屋に敷いてあるカーペット、全部取り替えると普通の人が半年は遊んで暮らせる」
なまじ姫などという高級品に触れる機会のある立場にあるからこそ、価値を想像できてしまうのだろう…普通の市民なら凄いことはわかっても価値までは及びつかないこともある。そしてそれこそが、この邸宅の所有者の思惑でもあるわけだ。
「…あの机とかも?」
「机に限らず、目に見えるものだいたいに価値があると思っていいかな」
「他の部屋もこんな感じ?」
「いや、ここは応接間だから特に集めてるだけで、全部そうってわけじゃない」
応接間とは、客を招きいれ最初に見てもらう、この邸宅の『内側の顔』である。王宮でいえば、謁見の間がそうであるように、持て成しや相手への心理的な駆け引きなどを有利にするため、見栄えを重視されている。そのため趣味と資金を最大限に発揮されていることが多いのだが、さすがに生活に関わるところまで全てとまではいかない。
「まぁ文化財って意味なら、この邸宅そのものが歴史的な価値があったり、庭に植えてある木も樹齢が高いのもあったりするけどね」
文化と経済が集まるグランギニオールにおいて、その中でも更に文化と経済が集中している一つがこの建物といっても過言ではないくらいだ。
「…改めて聞いていい?」
「ん?」
「ユウ、本当にこの家の人と知り合い? 詐欺とかじゃなくて?」
どっから詐欺という推測が出てきたのか問い詰めたい気もするが、まぁ、そう思うのも分からなくはない。
「ドラゴニアの頃からお世話になっててね。色々手配してもらったり、メイドの斡旋してもらったり」
「あ、もしかしてスフレさんも?」
「そ。元はこの館で働いていたメイドさん」
メイドを…って限定するとなんだかそういう趣味の人みたいだけど、いや、そういう趣味なんだけど…まぁ分け合って国外から人手が欲しいという俺の要望を聞き入れて紹介してくれたのが、現グラン家当主。
「それで避難先として、この館だったのですね」
「ま、そういうこと」
私設のメイド隊が全員この館のメイドだったわけではないが、いざという時の受け皿となることを条件付とはいえ許してくれた当主様…また一つ借りができてしまったこと含めて、頭の上がらない相手の一人といえる。
「どんな人?」
「当主様のこと?」
「チョウ竜様からは、けして機嫌を損ねてはならないといわれておりますが…」
「え、もしかして怖い人?」
「怖い…ところもあるっちゃあるけど…」
さてどう説明するべきかと悩んでる折に目に入ったのは、応接間に飾られている六角形の中に細緻な意匠をほどこされたメダル。
「んーと、あのメダル、あれってこの町の代表者が集まる『協議会』のメンバーの証なんだけど」
「グランギニオールは議会制でしたね」
「なにギカイセイって」
「神楽月や鈴星みたいに王族がいて、なんだかんだいいつつも王様や女王が国のことを決めるのが王制。町や村から代表者が集まったり、有力な貴族達なんかが会議で物事を決めるのが議会制。議員制といったりもする」
「ギイン?」
「王様がいないかわりに、大臣達が集まって多数決で国のことを決めるみたいなもん」
「んー…じゃぁその協議会のメンバーってことは、その当主様ってのはこの国の大臣みたいなものってこと?」
「そ。それも、外国の代表とも話をする、筆頭大臣クラス」
「…そりゃこんな家にも住むわけね」
部屋の中を見渡しながらつぶやく姫。
「そして同時に、メガロポリス協議会の議員でもあったりする」
「メガロポリス…は都市国家の集まりでしょ?」
「そ。都市同盟の方針も協議制で、そっちのメンバーにも選ばれてる」
「実質的にグランギニオールの代表…ということでしょうか?」
「その通り」
「…もしかして、このグラン家って思ってるより凄いとこ?」
「少なくとも、姫が思ってるより下ってことはないんじゃない?」
グランギニオールにおいて、その名を知らぬ者なしといわれる『グラン家』。
町の名前に『グラン』がある理由にも関わっている名家で、いってみれば建国の一族である。
北に高台、南に森林、西に山岳、東に海洋…
四種の土地と国々に囲まれたこの土地は、最初は小さな宿場町だった。そんな宿場町は東大陸の交差点として栄え、時の流れと共に人と物の流れがより活発になり、ついには城砦を有するほどの大都市となり、同じようにして自由と自主を誇りに発展した周辺都市と手を結び、メガロポリスの前身となる都市同盟を結んだ。
そしてドラゴニアや鬼牙島などを含む強国との戦いから身を守るため財力を増やし、経済戦争や傭兵を雇うなどして七大国の地位を確保。
一部の有力商人が戦争決着後も莫大な資産を懐においておこうとする中、代々の当主の『移らぬ富に価値は無し』という考えから、権力や財力を分散、縮小…やがて主力業務以外のほとんどを停止。資産規模だけでいえばグランギニオール内でさえいくつかの分家や新興商店に劣ることとなった。が、広い繋がりと知識は目に見えない財産として残り、何かと揉め事に発展しやすい商人同士の仲介役や新規事業主への相談役、一部の有力者が望む商品を手配する出入り商のような仕事を続けた結果、政治力が増大。
「かくして、グラン本家当主の地位は確立され、現在に至るのでした」
途中で飽きるかと思いきや、比較的熱心に聴いてくれたらしく、姫が深い相槌を打ったその時、
「相変わらずお喋りが好きなお兄さんね」
穏やかな笑みを浮べながら、露出の少ない服で入ってきた女性が一人…
年齢はオレの一回りより少々上だったろうか…きちんと覚えてはいないが、目元や手に多少の年齢差がでているもの、全体的には実年齢よりも若く見えるのは、そのすっとした姿勢と雰囲気のおかげだろう。
スフレの持ってる貴族然とした雰囲気を更に洗練した先進的な気品と、往年のアンティーク職人が手ずから仕上げたような温もりを同時に感じる。
外見だけとっても、今でも十分に魅力的だが『昔はもてすぎて困った』というのが嫌味でも過信でもなく、事実だと頷かずにいられないこの方が…
「ご無沙汰しております、夫人」
「えぇ、お久しぶり。少しは心配しましたが、元気そうね、ユウ君」
後ろにスフレを従えてやってきた夫人は、俺への挨拶をさっと済ませると、コウと姫とを視界に納め、なおかつ姫の視線に自分の視線の高さを合わせ、
「はじめまして、お二人とも。先ほどユウ君に解説された現グラン家当主を務めています、グランと申します。ようこそ我が家へ」
化粧と香水が混じった女性の香りをまとった夫人は、明るく穏やかな笑みで名前を告げた。その真っ黒な…喪服の印象とはかけ離れた笑みを浮べて。
お読みいただきありがとうございます。
グランギニオールに到着した!
と思ったらまさかの連載ストップ…我ながらどうかと思いながら、どうしても公演がある時期はあれでございます…
書けなかった期間が長かったおかげか、しっくりこなかったところも自分なりに解決策思いつけたりもしましたし、何よりひと段落ついたので、暫くは平気なはずです。
そんな感じで、また次のお話で。




