戦記87「通商」
例えば、自分が作ったキャラを一人現実に実体化させてあげるよ、といわれるとして、ユウ王戦記から一人選ぼうと思うと誰がいいだろう…
単純にお気に入りのキャラか、それとも生活力のことを考えて選ぶべきか、今日から異世界でくらすことになりました! っていって心が折れないタイプか、下手にこっちに呼んだことで世界が破滅に陥りそうなやつはやっぱり回避すべきだろうかいやしかし…
などという妄想とはぜんっぜん関係のないお話をどうぞ。
戦記87「通商」
飾りといってしまうと聞こえは悪いが、いなくとも実務には差し障りの少ない王…それが鈴星の国王であるユウの実情だが、国王だけありその発言力や決定権…つまり影響力が低いわけではない。
旧街道の宿場町で『回復薬を売る』という一件は、持ちかけた町長の予定ではその場限りのお付き合い…せいぜいが、馴染みの商人が回復薬を仕入れることができるようになるまでの間、つまりは繋ぎ程度の考えであったし、その付き合いも自分の町だけのつもりであった。
が、
「品質、個数、間違いありませんね?」
「はい師匠! 問題ありません!」
「よろしい。その荷に、今後の通商…いえ、鈴星が左右されることを忘れずに務めなさい」
「行ってまいります!」
先だって歌姫に手紙を送ったのと同じような方式で鈴星王宮に届けられた手紙を見て、チョウ竜はすぐに回復薬を中心に積んだ商隊を編成。売値や個数など、実務を司る者として自分の弟子から数名を責任者として投入。
「んじゃ、親父いってくるわ」
「うむ! 土産を忘れぬようにな!」
その商隊の護衛及び御者役には、ガン竜兄弟。
「若いのだけに交渉任せて大丈夫か?」
「多少の不安はありますが、全てを私達でやるわけにはいきません。やれることはやらせておかないと」
「そうだな。またうちの王様が勝手に約束とりつけてくるかもしれないしな!」
「確かに新規のお付き合いを築くのも目的だとは言っておりましたが…止めましょう。愚痴は吐いた所で代わりません」
ガン竜、チョウ竜の不安や嘆きを知ってか知らずか、鈴星から送り出された若者たちは予定よりも早い工程で…具体的には、ユウ達が宿場町に滞在してから三日後には荷馬車と共に宿場町へと表れた。
「お待たせしました!
「よくきてくれた…後は任せていいな?」
「はっ! お任せください!」
一団の代表を務めるチョウ竜の弟子の力強い答えに満足してから、ユウが別れの挨拶をかねてリーフ町長の手を力強く握る。
「それではリーフ町長。後の細かいことは担当の者とよろしくお願いします」
「は、はい。このたびはこのような小さな町とお取引していただきまことにありがとうございます」
「いえ、こちらこそ他にも商いの場をご紹介頂きありがとうございました。それでは私はこれで」
「はい。どうぞ商運に恵み多きことを」
あと数時間もすれば、近隣の町村から有力者が集まり、鈴星からやってきた担当者と面会し、回復薬を売るためのルートや値段の交渉に入る手はずになっている。
その下地を作りのため、一行は数日を宿場町で過ごすことになった。とはいえ、のんびりと滞在していたかというとそんなことはない。ユウとコウは手分けしつつ馬で近隣の有力者に或いは直接、また或いはユウ王の名前の入った手紙で交渉に赴き、両者の伝令役として歌姫は鳥を幾度と無く往復させた。
そしてようやくの出発。
「コウ、少し急ぎめで」
「承知いたしました」
「ぅぇー…飛ばすの?」
「逃せる商機じゃなかったとはいえ、ちょいと時間使っちゃったしね。ほい薬」
「うー、これはこれで苦くて嫌なんだけど…」
そういいながらも酔い止めを飲み干す歌姫。
出発の合図を機嫌よさげに伝えるユウ。
相変わらず疲労の色など見えぬコウは御者。
馬達も駆け出すや、健脚衰えることなく、馬車は軽快に旧街道を北上していく。
(―まぁ通商っていうには小規模だけど、きっかけとしちゃまずまずか)
試供品や手付けとして置いていった傷薬の代わりに、馬車に積まれた荷物を見ながらユウが自己評価を下す。箱や袋に詰められているのは、保存の効く食料や生地、宝飾品の類などが多い。無償で提供しようとしたユウに、それぞれの町村の代表者が返礼品として用意した物だ。
(―思いがけず婦人への土産もできたし)
メイド隊を預かってくれている相手への土産をどこかで見繕うと思っていたユウだが、これだけあれば失礼ないだろう…という程度には豊富に品が集まった。
或いは純粋な感謝の証として、またはこれから商売相手となる者に余計な借りを作らぬように…そこにどんな感情があったのか、品物そのものから見ることはできないが…
(―これは、ちょっと先が楽しみかもな)
などと思いながら、軽く欠伸を噛み殺すユウ。
寝るほどではないが、精力的に何か仕事をこなすほどの気力でもなく、左手側に見える南北に走る山に目をやりながら馬車旅を堪能している中、声がかかった。
「ねぇ」
声をかけたのは歌姫。
視線を向けると、酔い止めが効いてきたおかげか、明るいとは言わないまでも暗くはない姫の顔が目に入った。
「寝る?」
「いんや、ぼーっとしてただけ。何かご用時で?」
「用事ってわけじゃないけど、あれって結局どうまとまったの?」
「商談のこと?」
「そ。なんかみんなバラバラ動いてたから、なんかわけわかんなくなっちゃった」
「あー、じゃぁ簡単にまとめておこうか」
いって、地図を広げるユウ。地図には、商談を持ちかけた町村に関するメモ書きがあり、ユウとコウが駆け回った範囲がけして狭くは無いことが見て取れた。
「こんな回ってたの? たった数日で?」
「さすがに全部じゃないよ。いった先で別の村への連絡をお願いした分とか、話だけ聞いたぶんとかも入ってるから」
走り回った理由は商談の為だけではなく情報収集もかねていた、という補足に『ふーん』などと相槌を打つ姫。
「さて…まず発端になった薬不足だけど、リーフ町長が言ってた通り、程度の差はあれど他の町にも広がってた。原因不明の薬草不足やらで手に入れずらいってのも共通」
「行商人が嘘ついたりもしてなかったってことか…でも、まったく無いってわけではないんでしょう? メガロポリスの他のところから融通できなかったの?」
「やろうと思えばできた。けど、実際には難しい」
地図上には、ちょうどメガロポリスの真ん中あたりに、北から南へと向けた線が一本引かれている。それは有力者や商人、または酒場などで冒険者などに聞いて集めた情報を元に作った被害地域を区分けしたもの…ちょうどメガロポリスを東西二つに分けるように引かれた線である。
「被害は主に、メガロポリスの北西から南西にかけて広がっていて、東部の被害は少ない…っていうかたぶん起きてない」
ユウが想像するに、被害は北から南に向けて…ちょうど、南北に走る旧街道に添うように起きていて、反対側…メガロポリス東部を走る新街道には及んでいない。
「だから、東の方から融通しようと思えばできなくもない」
さすがに新街道付近の町村まで出向くには遠すぎるため確認は取れていないが、在庫に困っているということはないだろうとユウは予測している。
「じゃぁなんでやらないの?」
「主な理由は二つ。さてなーんだ?」
「…めんどくさいから?」
「ざっくりしすぎだけど…まぁ正解っちゃ正解か」
「やった!」
喜ぶ歌姫の顔を地図に向けさせ、会話が続く。
「荷物を運ぶには道がいる。町によって必要なものと売りたいものは違う。だから町と町は道で繋がっていて、人も物も道の上を移動する。そのほうが安全だし、面倒が少ないから。だけどそのせいで、一見すると近くに見える町同士でも、実際に歩いてみると遠いってのはよくある」
「あー、聞いたことある。距離と…ノリノリ?」
「なにそれ楽しそう。正解は『道のり』ね」
地図上では近く見えても、実際には深い森を回避するために遠回りするように道が敷かれているなどして、想像以上に時間がかかる、というのはよくあることである。
「その考えからいくと、下手に東側から荷物を持って来るより、すぐ下にある鈴星から荷物を持ってくるほうが早い場所もけっこう出てくる」
「めんどくさいから近い所から買っちゃおうってことね?」
「そ。早い近い、ってのはそれだけで利点だからね。早ければなくなっても安心。近ければ経費も安く済む。だからそれが理由の一つ目」
「もう一つは?」
「もう一つといいつつ、実際にはいくつか絡むんだけど…大きな理由はメガロポリスっていう国柄かな」
そういわれてもさっぱりと分からない、という顔をする歌姫。
「メガロポリスっていうのは、あくまでいくつもの小さな国が集まった同盟であって、一つの大きな国じゃない…っていうのは分かってる?」
「なんとなく聞いたけど、それが?」
「あー…つまりね、自国の周りは、厳密には全部外国なんだよ」
同じような地域で、同じようなルールに、同じような国民性ではあるが、厳密には他国という風変わりな地域、それがメガロポリス。
「全部外国なんだから、自国が納得した上で、他国もそれを理解せざるを得ないなら、どこから何をいくらで買おうと文句はいえないわけだね」
「それと国柄がどう関係するの?」
「まぁ焦らず…大事なのは、あくまで自国は自国でしかないってこと。例えばだけど、神楽月の東の村で回復薬が足りないってなったらどうする?」
「…西の村から持って来る?」
「そう。食料だろうがなんだろうが、西が困ったならその逆。同じ国の中なら、その国がその国の中で助けるのが基本になる。けど、もし自分の国だけでどうにもならなくなったら?」
「外国が助ける?」
「そう。ただし、その外国とやらに余裕があれば、ね」
「あっ、そっか。ないんだっけ…」
同盟関係にある以上、可能な限りの協力はする。それは単なる外国に比べれば遥かに手厚い関係だ。しかし自国を危険や不満にさらすまでのものではない。
「いっそ食料なら、渡す方の住民だって『飢え死ね』とはいいづらいので融通しあうけど、タバコとかコーヒーとかの嗜好品が足りませんとか言われたら『我慢しろ』って思うでしょ?」
「でも回復薬でしょ? ないと困らない?」
「本当に酷い傷とかの場合はね。だから病院とか避難所には必要。だけど放って置けば直る程度の傷にも回復薬使うでしょ? で、現状そういう本当に必要な場所の分はなんとかなってるわけね」
「そっか…日用品だけど、食べ物とかに比べるとってことか…」
「とはいえやっぱり日用品だから、渡す方としては、品薄になって自分達が困るのは嫌だ、と」
「…矛盾してない?」
納得いかない、という顔を見せる歌姫に苦笑を見せ、気持ちはともかく、知識としては理解してもらうよう努めるユウ。
「ま、心理ってそういうもんだしね…顔も知らない誰かのために我慢できる人はそんなに多くないっていうか」
「それは分かるけど…でも、あげるわけじゃなくて売るんでしょ? しかも東にはあるんでしょ? なんで売らないの?」
「それがお国柄ってやつのせい。メガロポリスに所属する国の多くは、だいたいが商売で成り立ってる国なんだよ」
原材料、加工品、食品、娯楽、芸術、魔法、武力…国によって売るものはまちまちだが、一つ一つの国土が小さい分、国力を経済力で維持している国がほとんである。そしてその経済力を元に、互いに必要なものを融通しあうことで、南北からの独立権を守ってきた歴史がある。
「そして、商売の国だからこそタイミングを図ってる」
「タイミング?」
「売るのに時があり、寝かせるに時があり、そして買うのに時があり…回復薬の備蓄がなくなって、冒険者や住民が不安を覚えて、実際手に入らなくなって…そうすると多少高くてもいいから欲しいってなるでしょ?」
「だから高くなるまで待つの?」
「そう」
「今、売れる分があるのに?」
「あるのに」
「それってずるくない?」
「ずるいかどうかはさておき、そうする人は必ずいるし、もっといえばメガロポリスにはその手の商人が多い」
それに、ドラゴニアとの緊張状態もあるしね…と心の中で付け加えるユウ。
あえて不安にさせることもなかろうと口にはださなかったが、むしろ売り止めの理由はこちらの方が強いとみている。
(―ドク竜発端の西部との戦争。ゴウ新王のメガロポリスとの確執…あとはまぁ、神楽月王女をてごめにした元ドラゴニアの竜も南に控えてるしねぇ)
現状を鑑みて『戦争になったら?』と考える者はユウだけではない。むしろ南北に火種を突きつけられたようになっているメガロポリスの有力者の方がその懸念は強いだろう。そうなれば、多少高く売れる程度で手放すわけにいかなくなる。どれだけ金貨を蓄えていようと、薬がなければ傷口は塞がらないのだから。しかしふさぐ為の薬は、一枚でも多くの金貨を積んだ場所へと集まる。
(―すでに不足しがちな地域が買い集める。品物の流れに不安を感じたドラゴニアの隣接国が買い集める。それを見越して南部地域が高額で売りつけ始める。鈴星から購入を決めた町村の中にも転売目的があるだろうし…)
いずれにしろ、より高く買ってくれる場所に回復薬が集まり、手に入らない地域で値段が高騰し、より集まりづらくなる連鎖が始まる。
勿論戦争が起きなかったり、薬草が手に入るようになったり、鈴星からの流入分などによって、必ずそうなるというわけではないが、様々な状況を見越して金品をやり取りするのが商人の性である以上、影響の度合いに違いはあれど、必ず値段の高騰は起きるだろう。
「…じゃぁ、なんでユウは売ることにしたの?」
「ん?」
「回復薬。待った方が高く売れたんでしょ?」
「たぶんね。でも高く売るだけがお付き合いの仕方じゃないんだな」
「それって…あれ? ないとかわいそうだから…とか?」
まるでそうだと言って欲しそうな質問の仕方に、さてどう答えたものかと、苦笑をはりつけたまま逡巡するユウ…そしてその答えを口にしようとした。
が、
「お掴まり下さい!!」
御者台から、コウの張り上げた声が響いた。
お読み頂きありがとうございます。
個人的には、性格・容姿・生活力をとって、カイを精神的に甘やかしつつ、生活的には甘えつつと思うところなんですよね…。
こちらに一生面倒見切るだけの力があるなら、ボウさんに冷たい目でみられながらもサポートしてもらう一生も悪くはないと思うのですが…
ちなみにメインヒロインたる舞姫様はあれです…なんか、こう、どんな生活でも耐えてくれそうですが、耐える姿を見て意に穴があきそうっていうか…
いっそ、筆姫さんと同人会のトップを狙いにいくとかもありかもしれませんね。
そんな話題とはまったく関係ない次回でまたお会いできると幸い。




