戦記85 「宿場町」
あんまりにも間が開いたため、もはや自分で書いたことすらうっすらとし始めたり、その間に小説のあり方を悩んだりした結果、手を抜きたいわけではないのですが、ペースと展開を優先することに。
そのせいで自分なりに大事にしたいなぁという部分が削れては本末転倒故に留意しつつ、これもまた勉強というか修行というか…
そんな感じで進んでいきます、戦記85。
ついに登場、他所の土地。
戦記85 「宿場町」
「姫様ー、手紙ですよー」
間延びした声で舞姫の前に現れたのは、イン竜。
手には封蝋された手紙があり、その印から送り主を悟ると、舞姫の顔に僅かに笑みが浮かんだ。
「あの放浪者からですか」
姫の様子から送り主を悟ったロウ竜のとげのある言い方に苦笑する舞姫。
「その放浪者のおかげで、こーやって実験できてるわけですし、少し大目にみてもいいのでは?」
「まぁ…な」
鈴星を含む、神楽月外からでも王宮へとユウなどの重要人物の手紙が届くシステム…既存の郵便網を利用した、新しい試みであり、 ゆくゆくはイン竜が統括するであろう密偵部隊なども利用することになる『情報戦』用の下準備である。
ただ単に抱えのメイドを迎えにいくだけの旅ではなく、これを初めいくつかの役目を持ってユウは外へと向かったのだ。
その一つがこうして目に見える形で成されたことは勿論だが、それ以上にユウから手紙が届いたという喜びを隠そうともしないまま…休憩中の合間ゆえに、周りにはソウ竜とイン竜の二人しかいないせいだろう…お気に入りの作者の小説を読み始める時の読者のような、期待と若干の不安を感じつつ封蝋を明ける舞姫。
中には三枚ほどの便箋。
そこには、筆者の性格を感じさせる、形は崩れてはいるがどこか愛嬌のある、ユウの文字が躍っていた。
「…チョウ竜さんとガン竜さんが手伝ってくれることになりましたか」
王宮を出てからのいくつかの項目が書かれた手紙…行を読み進めるたび表情が変わるのを、二人の腹心に見られていることも忘れ、舞姫は熱心に目を通し、やがて読み終えた。
「あの子、やっぱりユウ様と一緒に行ったようです」
その言葉を聴き、ロウ竜が深いため息を見せ、イン竜が小さく笑い声を漏らす。
あの子、とは勿論、勝手に王宮を抜け出した歌姫のこと。
「姫様の予想ー通ーりでしたね」
「まぁ、姉妹ですからね…」
コウに嘘をつき王宮を離れた少し後、歌姫は鳥を飛ばして舞姫と短いやりとりを交わしていた。
その際、コウと共に行動していることを聞き、濁されこそしたものの、その言動からユウについていこうとしているのだろうことを予想していた舞姫。そしてユウもまた歌姫を連れて行くだろうと…。
そして予想通り手紙には『歌姫様に少しお願いごとをすることにした』とあり、その目的地としてグランギニオールの名前が記されていた。
「まったく、国がこんな時期にふらふらと…」
と、ソウ竜を筆頭にユウと歌姫の行動を快く思わない人間もいるのは確かだったが、舞姫は二人の行動を許容した。
自国にも問題ややるべきことはある。しかし、それは自分がやればいいし、やるべきだ。それが『神楽月の王女』となることを決めた自分の役目だと思うから。そして、その夫であるユウや、妹である歌姫には、自分とは違う役目があると舞姫は考えている。
そしてそのことをユウは理解しているし、歌姫もまたどこかで感じ始めているだろう…
(私も、同じぐらいの年の頃だったな…)
姫としての自分、望むとも望まなくともやってくるであろう役目、そういったものにどう向き合い、どうなろうとしてくのか…
当時の自分には、父親とロウ竜がいた。
しかし今、どちらもいない。
だから選んだのだろう…二人に代わる者として、ユウを。歌姫は。
果たしてそれが、師匠としてなのか、親としてなのか、いったいどんな役割を持つものとして選んだのか、それは舞姫にもわからなかったが…
(…まぁ、姉妹ですからね)
選びたくなる人も似るんだろうなぁ…と苦笑しながら手紙を引き出しにしまうと、舞姫は表情を引き締めた。
「さて…お仕事の続きをしましょうか」
短い休憩時間を食事以外には手紙を読むことだけに費やし、私室のイスから玉座へと向かう。
玉座に向かう主の脇に、腹心が添う。
「ソウ竜、今しばらく反対派との謁見が続きます。いざという時はお願いします。ですが、くれぐれも早まったことはしないように。彼らも今後の神楽月に必要な人材です」
「はっ、承知致しました」
「イン竜、人手不足の中大変だとは思いますが、暗部の建て直しも早急に。必要な資金や資源は最大限、融通します」
「承ー知」
玉座に着けば、舞姫が王女となることや、その夫にユウが納まること、鈴星との合併や、あれやれこれやと、諸処に反対する有力者が次々とやってくる。
それは、武力とはまた違う舞姫達にとっての戦いの場であり、彼女が選び取った果たすべき役割であった。
そして、舞姫達が王宮での戦いに明け暮れるころ…
ユウ達一行は、鈴星とメガロポリスとの国境沿いを超えたところで野宿を行い、その後さらに歩みを進めて、翌日の夕方頃、とある宿場町へと到着した。
時間的にはまだ歩みを進めることもできたが、野宿を続けた結果、歌姫の体調が崩れることをユウが懸念したこともあり、少し早めではあったが町にて、宿をとることしたのだ
旧街道に沿ったこの宿場町…東側を南北に走る新街道が出来てからというもの、めっきり人足が減り、『町』という言葉からイメージする賑わいはすでになく、村といったほうが近いかもしれない。
しかし、かつての喧騒を思わせる痕跡はあちこちに見られ、何より神楽月とも鈴星とも異なる町並みは、歌姫の目を釘付けにした。
例えば、メインストリートはひび割れたとはいえレンガで舗装され、人々の憩いの場所となっていたであろう大きな噴水は石造り。有力者のものと思わしき建物や一部の商店などもレンガや石材が中心で、そのほとんどが木材である神楽月・鈴星とは趣が違う。
話に聞いたことはあっても、実際には始めて感じる異国情緒…噴水の縁に上ってみたり、レンガの感触を確かめたりと、歌姫は馬車酔いなどなかったかのように堪能している。
そんな歌姫に、かつてこの世界に呼び出された頃、同じようなトキメキを感じていたことを思い出しながら、ユウが声を掛ける。
「ヤツネー、あんまりはしゃいで、遠くにいかないよーにな」
と。
そして『ヤツネ』と呼ばれた歌姫も、
「はいはい、コウが来るまで大人しくしてればいいんでしょ」
と、躊躇いなく返事を返した。
どうしてそんなやり取りが起きるのか…それは傭兵団…だけではないが、ようは身分がばれないようにという偽装である。
ユウやコウなどは珍しい名前ではないが、さすがにその名前に『姫』を持つ者はそう多くない。基本的に『姫』の名を持つのは王族や国の代表などに限られるので、街中で呼ぶわけにはいかないということである。
そこで旅の間は偽名を名乗ることになったのだが、その際に歌姫自身が提案したのが『ヤツネ』。元々、歌姫が王宮を抜け出して城下町に遊びに行く際に名乗っていた名前である。
そして一行は、商家とその護衛というていで旅をすることが初日のうちにまとめられ、国境沿いの町でそれぞれメガロポリス風のそれらしい服を買い込み着替え、現在に至る。
「にしても、コウ遅くない?」
「まぁ…確かに、ちょっとかかりすぎっちゃかかりすぎかも」
町に着いてすぐに、コウは馬車を留めることができる宿を探しに行った。
その間、少しでいいから町をみたいという歌姫の要望に応えるため、ユウが姫に同行し、待ち合わせ馬車でコウがやってくるのを待っているところである。
(―何か巻き込まれたか?)
初日、野宿を選択したのは、傭兵団の襲撃を考慮してのことである。
野党の類を警戒するのであればむしろ街中に泊まるほうが良いのだが、傭兵団となると少し話が違う。確かに荒くれ者が多く集まる者の犯罪者ではないため、町にいることも多い。そして町では人目などもあるため、傭兵団はもちろんユウたちもまた大立ち回りをするわけにもいかない。さらに、向こうはユウ達の顔を知っている可能性がある一方、ユウ達は傭兵団の顔はおろか名前すら知らない。
そんな状態で、人ごみに紛れられるような町を選択する利点はあまりない。
この町を選択したのも、寂れているから故に見通しが利き、なんらかの荒事が起きても、人が少ない分立ち回りやすいためである。
「…迎えにいく?」
「いや、下手に動くといざって時合流しずらい。悪いんだけど、鳥であたりを探ってもらえる?」
「わかった」
と、ユウの懸念を理解し、姫が鳥を呼び出そうとしたところに、コウがやってきた。ただしその表情には、若干の曇りがある…ユウだけでなく舞姫もそれを感じ取り、コウにやや小走り気味に近づいた。
「すみません、お待たせいたしました」
「いや、大丈夫。それより何か問題でも?」
「問題…というほどではないのですが、私には判断できない話題…というか、商談をもちかけられまして」
「商談?」
聞き返した姫に『先方が待っているので』と、コウを先頭に移動する三人。
そして辿り着いたのは、一軒の道具屋。
外から店内が覗ける大きな窓のある店で、生活用品を中心に並べているのが見て取れる。
(―商談ねぇ)
果たしてどんな内容かと、やや警戒しながら店に入るユウ。
カウンターや棚が立ち並ぶ店内は、有り触れた道具屋といった感じで、待ち伏せはおろか怪しげな雰囲気も無い。
そのかわり…ということではなかろうが、目に付いたのは小柄な老人。
「おお、ご足労頂き申し訳ございません。旦那様でいらっしゃいますか?」
と、ユウの目を捉えて話すかけてくる老人。
「えぇ、そうです。何かお話があるとお聞きしたのですが…」
ユウはそう返しながらざっと店内を観察し、どうもこの老人がこの店の店主というわけではなさそうであることを…しかし単なる老人というわけでもないことを察する。
カウンターには店主と思わしき男がおり、その男の服装と老人のそれとを比べると、老人のほうが明らかに質の良い服に身を包んでいる。
(―隠居した店主とか、この店のオーナーとかか?)
などと、老人の正体を考えている間に、老人が口を開く。
「実は旦那様に折り入ってお願いが…」
「と、お話の前にお名前をお聞きしても?」
「これはとんだ失礼を…この町の代表をしております、リーフと申します」
「なるほど、町長様でしたか…それで、どのようなご用件でしょうか?」
「はい…大変申し上げにくいのですが、積荷の中に回復薬がありましたら、いくらかお譲り頂けないかと思いまして…」
お読みいただきありがとうございます。
実に前回のアップから2ヶ月ほど開きました。書こうと思っては止め、止めては書こうとし、前書きの通り『おもしろい小説ってなんじゃ?』とか『読み続けてもらうためには?』などとあれこれ考えましたが、まあいずにしろ『書かないとわかんないわそんなもん』ということで、未熟は未熟なりに書き進めることにいたしました。
せっかく、商業媒体とは違って、どんだけ読まれなくても書き続けることはできるウェブ小説という場なんだし。
てなわけで、書き溜めもえっちらおっちらはじめておりますので、また近いうちにお会いできれば幸い。




