戦記83「コウユウ改め」
前書きを極力短くしつつ、今回の内容を簡単にまとめてみよう!
『THE・卑怯』
戦記83「コウユウ改め」
「場が合わぬなら、合うようにすればよいのです」
力に武器に知恵に、しかも技まである、と。
「御高説ありがとう」
「…続けますか?」
「もちろん」
さて、場の理は無理なら…道具の理と行きましょうか。
「むっ」
盾とナナシを仕舞い、代わりに呼び出したのは片手に一本づつ、計二本の短剣。
それを持って、駆け込む。
長い武器を相手にする際の定石は二つ。
一つは最初の弓のように、更に長い武器で距離を稼ぐこと。
そしてもう一つは、今そうするように、逆に距離を詰めて相手の懐に入ること。
それを知っているからこそ、コウもそれに合わせて動く。
適切な間合いより内側に入られないようけん制し、それでも入られそうになれば、
「唸れ―」
当然、そう来る。
想定内。
その風の巻き込みに乗じて、短剣を投げつける。
短剣は、大太刀の風に乗って、こちらが想定している以上の速さでもってコウへと進む。
「地擦リ半月!」
飛んできた風を盾に受け加速し距離を取りつつ、烈風の切れ間に向けて短剣を投げる。
「ぬっ…」
その短剣がコウを掠める。
傷はないが、この戦いで先に相手に武器を当てたのは、コチラ。
とはいえ、そのために二つの短剣を失った。
だから、普通こんな戦い方はしない。
武器を投げる。
捨てる。
でも、俺にとっては問題ない。
出せばいいのだ。
次々と。
「くっ、この!」
短剣、弓、槍、大きな音を立てるだけの癇癪玉…距離に合わせて、相手の状況に合わせて道具を変え、状況をこちらへと引き寄せる。
相手の武器に合わせて攻撃スタイルを変えられるコウであれば、状況に応じて武器を変えるというのがどれほど嫌らしいか分かるだろう。ジャンケンでいうなら、常に後出しできるようなものだ。もちろんその選択の時間はけして長くはないし、ジャンケンほど選択の幅も狭くないが、戦ってれば相手のクセも分かるようになるし、何より相手はコチラの選択肢の全てを知ることができない。
戦いの間合いでいえば、大雑把に四種。近間、中間、遠間、遠距離。
近間は、ナイフなどの短剣や拳。つまり、腕一本を越えない範囲。
中間が、刀や剣など、腕一本分よりは長めに距離を取れるモノ。
遠間が、槍、薙刀、大太刀などの腕一本よりも更に距離を取るモノ。
そして遠距離は、弓や魔法などの、体から離れて当たるモノ全般。
これらの道具を各数種類づつ格納している。
その中から、最適解を検討しつつ選び続ける。
中間を基本に戦闘することが多いが、懐に飛び込めば近間から、距離を稼がれたら遠間や遠距離から、次々と武器を呼び出し、しかもその中には爆発物―魔法の代用品と考えているのだが―まである。あくまで一人で攻撃する以上、同時攻撃ではなく連続攻撃でしかないが、それにしたって相手をするのは面倒だろう。例えその武器一つ一つを扱う腕が未熟で達人には遠く及ばないにしろ、弱点を突かれ優位性を確保されるのは、それだけで鬱陶しい。
そして力量を見計らってきた時に、または見切られる前に発動させるのが『覚醒』…足りない地力を補うために、相手の予想を一枚上回り致命傷を与える為に、そういう切り札ともいえる能力。
それらを駆使して闘う。
この世界に来てから、なんら変わってはいない。基本、俺の有利はこの『道具』と『能力』。それをどう使うかというだけのこと。
(―でもそれじゃぁ、ダメなのよな)
道具と能力の利点を手放す気はないし、手放す必要もない。オークの血を引くコウはその利点を持って戦うし、魔法を使える者はその利点を持って戦う。それは持ってるモノの違いと活かし方の違いというだけのこと。だから俺も、その点に関してはそれでいい。
ただ、それだけではダメだ。
今もこうして、コウを防戦に回すことはできている。が、本当に驚くことだが、うちいくつかは直撃すらしているのに、本当に傷一つ与えていない。
つまり、本来なら勝てない。
コウが『試合』ということを意識して戦っているだけのことで、もしこれが本当の戦闘なら、俺が出す道具など無視してしまえばいいのだ。
どうせ傷にならないのだから。
傷を無視して突っ込んで、太刀をふるう。
それで終わる。
そうしないのは、これがあくまでテストだから…とはいえ、いつ、こういう相手が現れるとも限らない。
そして、このままの強さと戦い方で、コウが好きであろう『強い主』とやらに成れるとも思えない。
そんなことは、分かっている。
分かっているのになぜやり続けたのかといえば、まぁ、もちろん理由はある。
それも、そろそろ頃合いだろう。
「ま、デモンストレーションはここまでにして」
手に、再度ナナシを取り出す。
刃こそ鈍いものの、長くも短くもない、しかし、折れず、曲がらぬ剣。
重力も産まない、風も起こさない、ただ、固いだけの剣。
だけど、それでいい。
効能がシンプルだからこそ、その一点において信頼できる。
俺と違った、一点特化型の剣。
(―それ、いいな)
剣と、剣の向こうにコウを見てそう思う。
折れず、曲がらぬ剣と、
引かず、傷つかない剣士、
どちらも俺にはない特性。
だからこそ、俺の代わりではなく、俺にはできないことを成してくれる。
だから…
(―欲しいな)
そのためにも…外せない、最後の一幕。
「さって、明日もあるし…決着、つけようか?」
「…望むところです」
コウの固い顔、
戦うための顔、
その顔を歪ますだけの強さは、まだ無い。
しかし、今勝たなければ、コウは手に入らない。
だから、作った。
「御覚悟を!」
コウが走る。
俺が構える。
「唸れ!」
膂力で劣り、ここに至るまでどんな攻撃でも傷一つ与えられない、コウからすれば弱い主の、一矢。
それは、舞姫と歌姫とロウ竜の、先の戦いで得た一つの可能性、
「逆風ノ太刀!(サカカザノタチ)」
今までと違い、コウの背後へと突風が吹き、まるでコウの太刀に吸い寄せられるかのように体が持って行かれるその技が発動しきる前に、
「なっ!?」
ギィィン! と、太刀の腹を素手でかちあげる。
普通なら…単純な俺の腕力では無理だ。が、気を使えば別である。
気そのものを知らなかったか、俺が使えるとは思ってなかったか、いずれにしろ俺が太刀をかちあげることなど想像もしてなかったコウは、思いっきり体勢を崩した。
そこに踏み込んで、剣を横に凪ぐ―とみせかけて、足払いをかける。
剣に視線を持っていかれ、倒れるコウ。
その視線に刃を見せつけながら、ナナシを突き刺す。
地面へと。
そしてその刀身は、泥や豆腐にでもつきたてかのように、するりと鞘元まで地面へとのめり込み、
そして俺とコウ、どちらも動くのを止めた。
「…仮に、コレ突き立ててたら?」
「さすがに、傷を負ったと思います」
確認を求めた途端、コウの顔から、硬さが抜ける。
風が、夜のどこかへ吹き抜け尽きて、コウの髪が地面に広がる。
金色のほどの鮮やかさはないものの、大地と同じ色をしたその黄土の髪が、風の軌跡を描いたかのように地面に広がる。
薄手の普段着の下、荒い呼吸が大きめの胸をやや早めに上げ下げし、産みの母親に似たのか、大きな瞳としっかりと生えた眉とまつ毛が揃ってこちらを見、コウの呼吸が、小さな風となって腕に擦りついてくる。
「…少しは好きになって貰えたと思っても?」
その質問に、
「はい…ユウ様の勝ちでございます」
コウはそう答え、大太刀を握っていた手からも力を抜いた。
俺もそれを見て、ナナシを格納する。
片付けるに当たり、いちいち抜きなおす必要がないのは面倒がなくていいな、っていうか…
「…片付けのこと忘れてた」
辺りを見渡し、愕然とする。
自分が呼び出した武器やら何やらでまぁ、辺り一面散らかっていることといったら…
「…お考えになっていなかったのですか?」
「うん、なんかこう…つい夢中になっちゃって」
子供か! と自分で思いつつ、道具集めに取り掛かる。
「わ、私もお手伝いします」
「ありがとう」
感謝の言葉を述べ、素直にその提案を受け取ることにする。
出したモノは自分で片付けましょうと、幼き日に先生か誰かに言われたであろう言葉が頭に浮かぶが、それはそれ、これはこれである。人の好意は素直に受けましょうとか、情けは人の為ならず、などという言葉だって存在するのだ。
そもそもよく考えたら、明日にも鈴星を出発する予定なのだから、早めに寝るのがよかろう…そういえばお風呂に入った後に大暴れとか、何してんだろう自分…
「これで全部でしょうか?」
「まぁ、だいたい大丈夫そう…かな」
折れた矢など、持っていっても仕方ないもの以外はだいたい格納できただろう。
「改めて…凄い能力をお持ちなのですね」
「いうほどでもないけどね。あと、皆には内緒ね。理由は?」
「入りません。承知いたしました」
その言い方には神楽月で初めて会った時と同じ、いつも…といってもいいだろう。戦いの時とはまた違う、いつものコウの硬さがあったが、そのもう少し奥の方に違う何かを感じなくもない。
ま…もしかしたら、自分の願望でそう見えてるだけかもしれないけどね?
「それじゃあまた明日―」
「あ、あの、ユウ様!?」
「なに?」
「なに…というか、その試験というのは?」
あぁ…そういえば、そういう話にしたんだっけか。
「ん、合格」
「よい…のですか?」
「よいよ。これからもよろしく」
「…はっ! 命に代えても!」
「だから代えなくていいっていうに…」
苦笑しながらその肩を労うように叩き、去ろうとする。
「じゃ、また明日―」
が、
「あの!?」
「なに?」
「えと、わ、私に何か用事があったのではないでしょうか?」
「…あ、そうだ。忘れてた」
と、ガン竜から渡された小包を手渡す。
「夜食にどーぞ」
「あ、ありがとうございます!」
「御礼ならガン竜に。確かに渡したからね。じゃぁ」
と去ろうとする。
が、
「あの!」
「…なに?」
「その、えー、自分に何か聞きたいことがあるとおしゃっていたので…」
「あぁ…まぁ少し長めの旅だし、その間に聞くってことで」
「承知いたしました!」
「じゃ、」
「あの!」
なに?
とも聞かず、無言でコウを見る。
「えと、その…」
「…帰るよ?」
と、歯切れの悪いコウに挨拶し去ろうすると、
「あの!」
ようやく何かしらの決心…とでもいうのだろうか?
とりあえず何か言いたいことがまとまったらしく、こちらをじっとみるコウ。
「…馬旅で到着し、ろくにお休みになる日まもなく相手をして下さりその上、その…仕える身でありながら、こんなことをお願いするのは、至極身勝手だとは分かっております。分かってはおりますが、その…」
と、服の裾を握るようにしながらもぞもぞしてからコウは、
「あの…ユウ様と、その…もっと、やりたいな、と…」
と、顔を赤くしながらいった。
その、オークの血を引くというコウの、高身長で全体的にしっかりとした線で作られた、腰や胸とか鎖骨とか首筋とか、固いというよりは整ったと表現する方がいいであろう女性が顔赤くする姿とか…
「卑怯だ…」
「へ?」
「いや、なんでもない、こっちのこと…」
「はっ、はぁ…」
力を持ち、武器を持ち、知恵を持ち、技を持ち、しかも愛らしさを持つとか、打ち合っていた時との硬さとのギャップとか…
「…明日は早い」
「…はい」
「…だから、本当に、一回だけね?」
「…いいのですか?」
「いい。だから…ヤロウか」
そういってナナシを取り出した俺に、
「はい! やりましょう!」
愛刀の大太刀を持って、コウはそう朗らかに笑ってくれたのだった。
「では、参ります」
なお、戦ってる時はやはりものすごく硬い顔をしていたのと、
「あの…もう一度だけやりませんか?」
その後、何度かに渡るおねだりがあったことをここに記しておく。
「…卑怯だ」
ほんとそう思う。
お読みいただきありがとうございます。
そんなこんなで決着です。
今回は一応ユウさんが勝利しましたが、作中でも言ってる通り、単純な戦闘力では圧倒的にコウの勝ちです。太刀なんかなくても、首を圧し折れることでしょう。
そんなお姉さんが『ヤリタイ(物理)』といってくる恐怖―卑怯ですね。断ったら断ったで後が怖そうですし、付き合ったら付き合ったらで今が怖いです。どっちにしろ怖いです。なのにかわいいとか、卑怯なことこの上ないです。
そんな感じのコウさんの出番が続く第3章、次回からようやく鈴星出発です。




