戦記82「コウユウ深め」
好きな物と好きな物はとっても好きなもの、という利論。
そして好きなモノほど文章量が増えるという利論。
この二つが合わさった時どういうことが起きるのか。
そう、出発が遅くなるのです。
昨今にわかにコウ好きが増えてきたと自分の中で錯覚中のユウ王戦記82、はっじまるよー
戦記82「コウユウ深め」
「…能力持ち、でしたか」
太刀を構えるコウの目の前で弓を格納し、剣を構えなおす。
「今の…なぜ当てなかったのですか?」
「大太刀の間合いをわざわざ見せてくれたコウへの感謝の印に」
初撃も、そして放つことはなかったが二撃目も、それに繋がる挙動も…コウが、俺の『大太刀と戦いたい』という意図を酌んで見せてくれた『大太刀とはこうである』というデモンストレーションに過ぎない。
そのお礼が『格納』の能力のお披露目である。
「…隣王が敗北した理由の一端、掴めました」
「隣王とお会いしたことが?」
「はい。何度か、剣の手ほどきを受けました」
なるほど、そういわれてみれば隣王の愛刀も、大太刀とはいかないまでも、大きな清龍刀のような刀だった。ガン竜は刀は使わないし、手ほどきを受けたこともあるのだろう。
が、その言葉の雰囲気からは、ただそれだけであったとは思えない。
「…隣王に何か思い入れが?」
その問いに、言葉を詰まらせるコウ。
「…失言だ。答えなくていい」
予想外に深い意味があったのかもしれないと思い遮ったが、コウは口を開いた。たぶん、こちらのため、というよりは、ウソをいうな、という約束によるものだろうが…
「…いつか」
過ぎた昔と、なくなった未来を見つめるように言う。
「剣の腕が立ち、年も相応に成った頃…竜として御側に立つと」
その約束を圧し折ったのが、俺…か。
「…よく、俺に仕える気になったな」
「不思議で…ならなかったのです。なぜ、父上もチョウ竜殿も、兄上や弟たちも、誰一人恨み言をいわないのか」
「で、直接会って確かめてみようと?」
「…はい」
「で、会ってみた結果は?」
「…正直、計りかねております。慕われる理由も、隣王敗北の理由も、わからなくはないのですが…」
受け入れるほどでも、納得するほどでもない、と。
「そ」
「…ご不満でしょうか?」
「なんで?」
「いえ、ご不満でないのならいいのですが―」
「いや、不満だけどね?」
そりゃ、他の王がよかったんだけど、仕方ないから来ました、といわれて喜ぶかといわれればノーである。
どれほど前からどの程度の手ほどきを受けたのかは知らないし、その約束がどれほどコウをコウたらしめたのかも分からないが、だからといって隣王の代わりとされて…下位互換と思われて喜ばしいわけがない。
が、
「不満の原因が自分なら、解消すればいいだけのことでしょ?」
いって、剣を構える。
やや、ささくれた気持ちを整えるために大きく息を吐き、止める。
頭と、気持ちから、余計な言葉を追いだす。
「さ…少しでも気に入ってもらえるように、がんばりますかね」
「…気に入ってもらおうという相手に剣を向けるのですか?」
「おかしい?」
「一般的ではないかと」
「でも、コウが好きなのは、強い主でしょう?」
「…はい」
「じゃ、好きになってもらうには仕方ないじゃない」
「…好かれたいのですか?」
「できれば」
「なぜ…ですか?」
「なぜって…」
なぜ…だろうか。
そもそも、嫌われるよりは好かれる方が好きだが、この場合の答えとしてはふさわしくないだろう。
そうではなくて、もっと別な、なぜコウに好きになって貰いたいかといえば…
「…うん、二つある」
「一つは?」
「強い部下が欲しい。それもできれば、俺のことを気に入ってくれる奴で」
「もう一つは?」
「隣王よりも好きになってもらわないと困る。なにせこっちは、誠王にならんといかんのだし」
「…本気、なのですね」
そういって、少し…ほんの少しだけ笑うコウ。
もしそこに、ほんの僅かにでもバカにした要素があれば、もう二度と誠王なんて言葉口にすることはなかっただろうが…
「信じない? 誠王?」
「いえ、信じます…なれるかどうかは別として、目指していることだけは」
そしてコウが大太刀を構える。
先ほどとは違う構え。おそらくは、こっちが本命…全力かどうかはわからないが、本気の構え。
「…ちょっとやそっとならいいんだよね?」
「大丈夫です。矢でも、槍でも、お好きなだけお出しください」
そして認めさせてみろと。
好きにならせてみろと。
そこまで明確に考えているかはともかく、心のどこかではそんなことを思っているはずで、個人的にはそういう挑発的な女性ってのは…
(―まぁ、好きなんだけどね?)
「じゃ、改めて…スタート」
と同時に、石を投げつける。
コウはそれを交わしながら大太刀で突きを放ってくる。
例え両手で握ろうと、普通、これだけの長さと重さならその切っ先は下に下がるだろう…が、オークの血を引く亜人の膂力のなせる技か、その切っ先は僅かにも下がらず、ピタリとこちらの胸元を狙ってくる。
それを横に避けてかわせば、斜めの薙ぎへと変わり、それをよければ手元に引き戻したうえで腰だめから再度突きへ。
その突きを後ろによければ、大きく踏み込みつつの追跡の突きへ。
(―なるほど、これなら大太刀のリーチをいかせつつ早く動けるわけか)
先程みせた薙ぎ中心の構えと攻撃は、多対一の時が基本で、サシの時は本来、突きが中心なのだろう。
剣の長さの違いからこちらの攻撃は届かず、本来下がるはずの重い剣による突きの威力は、落ちることなくこちらへと届く。
(―知恵と武器故に人は獣に勝るが、獣がそれを手にしたなら、その恐ろしさは人間など遥かに超えるだろう、だっけか)
亜人を獣として見ているわけではないが、元々高い能力を持つものに、力に道具と知恵が加わった時の恐ろしさ、という意味では変わらないだろう。
凪ぐ、突く、潰す、の三種の攻撃ができる大太刀、それを戦術的に扱う知恵、それらを支える力。
そして何より感じる鍛錬の量。
俺なんかでは比べるまでもないほどの剣をふるってきた時間の厚み。
それを破るには、
(―覚醒)
格納してある道具のうちから、素早さに重点を置いた、後遺症の少ないモノを選ぶ。
「むっ…」
僅かとはいえ、反応速度も体捌きも向上し、その太刀筋では捕えられないはずの速さをに調節したはずなのだが、その変化にすぐさまコウが対応を変えてきた。
「身体能力向上の魔法ですか?」
「ま、そんなようなもんだと思ってもらって構わない」
押し気味の突きから、引き気味の突きと小さな薙ぎの連携…懐に入られないように配慮した手管…単なる戦い慣れた兵士とは一線を画す、剣と共に生きることを決めた純粋な『剣士』の一打一打…現状の俺と覚醒では、躱し続けるのは至難である。というか、無理である。ならば―
(―障害物、でいけるか?)
槍…というよりは、鉄の棒を呼び出し、コウに向かって投擲しながら地面に突き立てていく。
いくら突き主体とはいえ、元々が大きい故に取り回しに広さが必要な分、今ほどリズミカルな攻撃はできないだろう…と思ったが、
「唸れ、」
コウの呼びかけに応え、大太刀が辺りの空気を吸い込んだ。
(―魔剣か!)
魔力そのものは俺にはわからない。だが、空気が…風が、コウの大太刀、その刀身に向かって凝縮している流れは感じ取れる。そして空気を吸い込んだことから考えられる攻撃は、
「地擦リ半月!」
地面の表面を擦るようにしながら、自分を中心に振り回した大太刀…その軌跡から、烈風が飛ぶ。
真空波やカマイタチのように切り裂く風ではなく、塊としてぶつかってくる烈風と大太刀によって、刺した槍はもちろん、あたり一面の小石やら何やらが吹き飛び、咄嗟に呼び出した盾にゴツンガインとけたたましくぶつかってくる。
そして、風の唸り声が止んだ後には、コウを中心に地面が更地のように均されていた。
お読みいただきありがとうございます。
そんなわけで、戦闘続行です。
本当はそんなに長くするつもりはなかったんですが…戦うお姉さんは好きですか?
ボクは好きです。
戦う少女も好きですが、戦うお姉さんもいいものです。生きざまを感じます。その生き様が剣に乗るのです。そしてその生きざまを屈服した時と言ったらもう…
あれ、なんか歪んでるきが…いや、まさか、そんな…
そんな感じで、またお会いして頂けると幸いです。




