戦記81「御覚悟」
みなさんは、ムネとモモどちらが好きですか?
ボクはどちらも好きといえばどちらも好きですか、昨日改めて口にした感じでいうと、肉厚なモモも捨てがたいですが、紙一重でムネの方がすきかもしれません。
カラアゲの話です。
それでは、いきます、戦記81!
戦記81「御覚悟」
「ユ、ユウオ、オオ、オオ、ユウ様!」
相変わらず人の名前で妙なリズムを刻んでくれるコウだが、努力しようとしてくれているので不問としつつ、近寄る。
「こんばんわ」
「こ、こんばんわ…ではなく、どうしてこんなところへ? お食事では?」
「食べ飽きたので、コウに会いに」
「まさか…また何か失態を!? 荷物が届いてないとか、馬の扱いとか、湯加減とか!?」
「え、風呂の用意もコウがやってたの?」
「はっ、父上から風呂の世話をするとユウ様が喜ぶと聞き…さすがに一緒に入れと言われたのは固辞しましたが」
「…なぜ?」
「なぜ…といわれても、最適な湯加減を提供できませんので」
コウにはいつか、湯加減よりも大事なことが世の中にはあるのだということを教えなくてはならないと心に固く刻んだ瞬間である。
あとガン竜、お前も俺が喜ぶと分かっているなら、なぜもうひと押ししなかった! お前とお前の息子達が何人集まろうとコウのかわりが務まると思うなよ。
「それで、何用でございましょうか?」
「いや、お腹空いてないかなと思ってたんだけど」
「私は大丈夫です」
「うん、だから代わりじゃないけど…ちょっとやろうか」
携えた剣をコウに見せながら、言う。
剣士を前に剣を見せ…それは従者と主といえど、コウの何かに触れたのだろう…目つきにやや鈍い物が宿る。とはいえそれは敵対的なものではなく、どちらかといえば庇護的なというか、老婆心というか…まぁ、感じ悪くしていえば上から目線的なものである。
「さ、やろう」
それを知った上で、再度呼びかける。
「何を、でしょうか?」
「打ち合い」
「なぜですか?」
「やりたいから」
「私とですか?」
「他に誰かいる?」
「いえ、おりません、が…」
「俺を怪我させないか不安である、と」
「そ、そのようなことはけして…」
「ウソやごまかしは?」
「うっ…」
「で?」
「…そう、です」
絞り出すようにいうコウ。
まぁ…自分の主人に『お前は弱い』っていってるようなものだしな。言わなくても態度に現れているが、そんなことには気づいてないだろうし。
「けして、ユウ様が弱いと思っているわけではありません! しかし!」
「わかる。怪我する可能性はゼロじゃないしね」
「は、はい。そのとおりです。とくに、その…ユウ様の獲物と私のとでは」
「リーチの差と重量差。それを覆すだけの筋肉量が使い手にあるかというと、それもまた疑問、と」
半ば感心したように、そして半ば呆れたように…それを分かっていてなぜ打ち合おうというのか? というコウの目に、
「じゃぁ…試験、っていうことにしようか」
「試験、ですか」
コウの雰囲気がやや張りつめる。
神楽月の時から思っていたが、立場の違いというものや、それを感じさせる発言には敏感に反応するらしい。
「そ。コウがどの程度強いのか知っておきたい」
「そ、それなら他の兵士と私が試合をするのでご覧いただくのはどうでしょう?」
まぁ、確かに試験っていうだけならそれでもいい。というか、多くのご主人様達ならそうするだろう。ご主人様には従える能力が必要だが、別段強くなければならないわけではない。自分の手下と戦わせた上で、その力量を計る目があれば十分だ。が、
「俺も、強くなりたい」
コウが、こちらを見る。
改めて。
その目つきは…やや変わったように見える。
考え方や好みを伝えるのも『情報を伝える』ことに違いなく、その点からいってあまり好きな行動ではないのだが…
夫人とスワロの顔と言葉を浮かべ、その考えを今は一時的に退ける。
情報を対価にコウの一面が知れるなら…考えを吐露することに意味があるなら…続けよう。
「弱くはない…と思いたいけど、強くもない。だから修行ってわけじゃないけど…その大太刀とどう戦うのか、やっておきたい」
予想はあるものの、想像と実際は違う。差を埋めるには実際に体感するのが一番だ。
「とはいえ、別に望んで怪我したいわけでも、ましてや死にたいわけでもない。ただ、いつか会うかもしれない大太刀を持つ敵は、俺を殺しにくるかもしれない。だから、今のうちに知っておきたい」
「ユウ様が…本当にそれをお望みなら、私は断れるはずもありません。しかし」
「しかし?」
「なぜ…お強くなりたいのですか? 単に生き延びるためというわけではないように思うのですが…」
その質問が出るということは、コウの持ってる『主』のイメージというのは、上から命令を出す者なのかもしれない。または単に、俺という人間がよくわからないから知りたい、というだけなのかもしれないし、もっと深い意味があるのかもしれない。
しかしいずれにしろ、コウが『俺に』興味を抱いて出した質問だ。単にどこかの王とか、誰でもいい仕える主でも、オヤジに言われて会いに行った誰かでもなく、個人に興味を持ってくれた。
ならば…大事にすべきなのだろう。
「王にね、なりたいんだな」
聞き間違えかを確かめるよう、コウが長い瞬きをする。
「王…ではないのですか? すでに」
「王ではあるけど、俺が思ってるのと違う。なりたいのは、三妃七竜十三宝を揃えた王」
「まさ、か…誠王?」
「そ、せーかい」
唖然と…口を開き、唖然とこちらを見るコウ。
この顔は、よく見る。
このことを口にした後、何度も見てきた。
そして大半は、嘲笑へと移る。
だから最近は、この人なら…と思った相手にしか喋らない。
何をバカなことをいっているのかと思われるから。その理由は、俺の力の無さだったり、絵空事と思われてたりと、理由は様々だが…
だから、コウがそうなっても、別になんとも思わなかっただろう。それならそれでもいい。結果、一戦交えることができれば、こちらの糧にはなる。コウの性格からして、主人として命令してしまえば…俺が望む形の主従ではないが、そうすれば、それ以上はないだけで、糧にはなる。
それだけのこと。
そう思っていた。
しかし。
「…ならば、お受けいたします」
コウに、嘲笑はなかった。
むしろ、笑顔すらない。
見えたのは、頑強な、意思。
「…なんだ、そんな顔できるのか」
「顔?」
「こっちのこと。きにせずどうぞ」
釈然としないながらもその疑問を脇に置き、コウが一つになる。
太刀と。
極度の集中。
従者としてあらねばとか、
気を使いすぎて焦ったりとか、
妙に落ち着かねばとしすぎたりとか、
そういった、要らない要素を全部脇に置いた、戦う女の顔。
舞姫様も、うっすらと持ってる顔。
そして、剣姫様にいたっては、はっきりと浮かべる顔。
この世界に初めて来た時見た、あの女性になら殺されても仕方ないなと思うほどの、ただ、それだけの顔。
「…多少の怪我は、御覚悟を」
元いた世界では、よっぽどのことがなければみれないその顔を、コウがするとは思っても見なかった…その顔に、まったく焦りを感じなかったといえばウソになるが…
「無論、覚悟の上で」
僅かにでもぶれることは許されないと判断した。
偶然触れてしまったが…ここが分岐点。
おそらくだが、
本当にコウの主になるための。
コウが頑強さを得た理由を聞くための。
堺。
故に引いてはならない。
そう判断した。
「…どうぞ、全力で。ちょっとやそっとのことでこの体、痛みませぬので」
「具体的には?」
「凡庸な…鈍い刀程度では、切り傷一つできません」
「…比喩ではなく?」
「言葉通りです」
刃物で切られて傷一つできないって、それもう普通の人じゃないっていうか―
「…亜人か」
人型の魔物や魔人、広い意味で行ってしまえば鬼族なども含まれたりもする、人間種と交配可能な、しかし人間とは肉体や遺伝子レベルで違いを持つ種族。それが、亜人。
「薄らいでおりますが、オークの血が混じっております」
亜人の純血種なら見た目にもはっきりとその特徴が出るが、混血となるとそうでもない。見た目はほとんど変わらないか、部分的に特徴を引いているか、または何かのおりに現れたりする程度…種を代表する特徴的な『能力』のようなものも応じて加減されるが、だからといって弱くなる、ということはあまりない。
そんな亜人の中でオークといえば…腕力と頑強さという、単純な物理戦闘力に特化した亜人の代表格である。魔物として描かれる時は、豚とゴブリンの特徴を合わせたような姿とされることが多いだろうか。
「ガン竜家が?」
「父上ではなく母上…今のお母様ではなく、産みの親の血です」
生みの親が前妻で、先程お会いした奥様が育ての親というわけか。
「…失礼だけど、ご存命で?」
「いえ、戦場で亡くなっております。母も戦士でしたので…確認したいことは他にございますか?」
「なくもないけど…後でいい」
話の流れで聞いてしまったが、今やろうといったのは、話ではなく、打ち合いだ。
せっかくコウが、主従を越えて相手をしようとしてくれているのだ。話ばかりして、こちらがその流れに引き戻すのはよろしくない。
「…やろう」
「では…」
コウは言葉を切り、一つ呼吸を吸い、
「―参ります」
そして踏込んだ。
と同時に、太刀が弧を描く。
荒い、右薙ぎ。
剣で受ける…ことはできるだろう。きっと、大太刀相手にもナナシが圧し折れたりはしない。が、それを操る俺の骨はバッキバッキに砕ける可能性はある。
(―受けるでなく回避、それと攻撃するなら…)
初撃とあって、間合いがあった分、その切っ先は浅い。
後ろに躱して避ける。
コウは、その重い太刀を振ったエネルギーを無理やり止めるでなく、身体を回転させながら捻り、次の攻撃へのモーションに…上段からの切りおろしへと利用した。
その一瞬…体を回転させる一瞬、こちらが完全に死角になる瞬間がある。
その間に俺はナナシを地面に付きたて、弓を構える。
そしてコウがこちらを向いた時、
「うっ!?」
コウの後ろ…壁へと矢を突き立てた。
お読みいただきありがとうございます。
鈴星に着いたユウはその体を休める間もなく、コウとの模擬戦を開始。
オークの血を引くコウに勝つ策はあるのか?!
次回、戦記82『コウユウ深め』
デュエル、スタンバイ!




