戦記80「雲の側」
『人は無駄な知識を得ることで喜びを覚えることができる生き物である』
と、どこかで聞いたことがあります。
であれば、ボクがこうしていらぬ前書きや小説や後書きをかき、皆さんの脳容量をコツコツと削り落としていることにもきっと意味があるのでしょう。
いいですか、みなさん。
クジラとイルカの違いは、その大きさが4メートル以上か以下かというだけのことです。
いいですか、みなさん。
やおいの語源は、やまなし、いみなし、おちなし、のことです。
いいですか、みなさん。
将来的に歌姫様の胸囲は舞姫様を越えます。その理由は…
あ、無駄すぎますか?
それでは無駄前書きもここまでにして、無駄本編…戦記80をどうぞ。
戦記80「雲の側」
(―雲…空に浮かぶ雲ね)
目の前にいる女性…コウや兄弟の母であり、ガン竜の妻であるこの女性…
その発言の意味を考えながら、言葉を反芻する。
「そういわれたのは初めてですね」
「あら、そうですか? 普段はなんて?」
「主に『変態』、ですかね?」
「まぁ、それはステキ」
「変態が?」
「えぇ、ステキ」
つまりあれですで、歌姫様が「この変態!」といってるのは、「キャー、ステキ!」といってるとそういうことですね?
「いいことを聞きました。今度からそう思って生きることにします」
そしてまた感じる、ぞわりとする感覚。
「あなた…やっぱり面白い方ね。しかも、驚くほど壁がない」
今、分かった。
この女性から感じる感覚…言葉のせいじゃない。言葉を受けたからぞわりとしたのではなく、したのはその前…その目で見られた時。
「でも…」
「でも?」
「同じくらい、とっても遠くにいらっしゃるのね」
そして、その穏やかな声のトーンが、震えを撫でつける。
眼を合わせた動物の苛立ちを宥めるように…とでもいえばいいだろうか?
自分が見ることで相手が寒気を覚えることを知っているからこそ…それを経験し、それを軽減するために身に着けた喋り方…ということなのだろうか?
「壁がないから誰にでも見えるけど…」
あぁ、と。
この人を知ろうとする頭と並行して、この人が『雲』と俺を評した本当の理由を悟る。
見ようや状況によって形を変えるから雲…ではなく、地上だろうが上空だろうが、どこにいたって見えるけど、実際には遥か遠くに浮かんでおり…
「そんなに遠くにいらしては、御側に行ける人は限られるでしょうね…それとも、側に置く人を選ぶためにわざとそうしていらっしゃるの?」
大きな目が、再度覗く。
その目は特に奥深くを探っているというわけでもなく、頭の中を暴いてやろうとしているわけでもなく、本当にただそこにあるものを見ているだけといった風で…俺が人を知るために観察するのとは、ぜんぜん違う何かだということしかわからない。
それでいて、なぜか、その言葉には納得してしまえる。
「あなた、きっとこれからいろんな人を傷つけるわ。でも、きっと同じぐらいいろんな人を助ける」
「…他の方にも同じようなことを言われましたね」
筆姫が夜伽と称してやってきた夜のことを思い出しながら言う。その時は、傷付けるとまではいわれてなかったきもするが、まぁ、似たような意味は含んでいただろう。
「ならその方も含めて…大事になさって下さいね、あなたの隣にいれる人も。あなたを下から見上げる人も」
「…心得ました。でもなぜこのような助言を?」
「お礼です。あと、遅かれ早かれお知りになるでしょうから、先に御断りを告げさせていただこうと」
お礼…はコウのことなどもあるからまだ分かるとして、何を知って、何を誘うと思われて―
あぁ、そういうことか。
「はい。そういうことです」
まるでこちらの考えを見通しているかのように微笑み、
「コウを…よろしくお願いしますね、ユウ王様。あの子、上と下の兄弟姉妹に挟まれて、人一倍さびしがり屋のくせに我慢してしまうので」
「女性に関しては、つい構いすぎてしまうクセがあるのですが、それでもよろしいのですか?」
「えぇ。あのこがそれを望むのでしたら、どうぞ」
そういって夫人は俺から離れ、歌姫を囲む談笑の輪へと混ざっていった。
それを見計らったように、ガン竜が寄ってくる。
「ガン竜の妻が、さっきいってた『ある女性』ってこと?」
「お察しのとおーりで」
なるほど、確かに彼女に言われたら動きもするだろう。
「彼女、俺と同じで、異世界人?」
おっ、っと小さな驚きを浮かべるガン竜。
「どうしてお分かりに?」
「一瞬だけだったけど、魔力とか気に近い何かを感じた」
それが寒気の正体…だったのだろう。単に言い当てられたようなきになって寒気がしたのではなく、実際何かの力が働いて、何かを読み取られていた…そういうことだ。
「ユウ王殿は、魔力感知の力をお持ちでしたか?」
「いや、気の修行をね、細々と続けてるうちに、少しだけ感じられるようにはなってきた」
「では、その感じ取ったことから考える、妻の能力とは?」
「…思考感知」
「ご名答」
ガン竜曰く、そんなに広い範囲ではないが、周囲にいる人間の考えをなんとなく…イメージのようなもので捕えることができるらしい。
「…人の考えが読める能力、か」
直接戦闘でどの程度の役にたつかはわからないが、政治や交渉など、役に立つ場面はいくらでもあるだろう。
現に、今俺も仲間になってくれたならばと思わんでもない。
だからこそ、彼女は先手を打っていったのだ。
側にいる人を大切に…つまり、側にいようとはしない私のことはお構いなく、と。
(―告白する前にふられた、とでもいうのかね?)
ま…その力は魅力的ではあるが、仕方ない。
「どうです、俺の女房は?」
「…あと少し若かったら、口説いてた」
「がっはっは! 不出来な娘より、更けてる方がお好みで?」
「いやいや、娘さんで十分」
なにせ人の考えが読める能力…イヤな思いなんていくらでもしてきただろう…雲の側に無理やり連れてきたところで、結果は目に見えている。それならば、彼女がガン竜の側を…きっと、考えを読んでも疲れることのない相手として選び、ガン竜もまたその相手を嫁として選んだようにすべきだろう。どんな理由であるかはわからなくても、側にいようとしてくれる者を頼るべきだろう。
「で、その十分な娘さんはどこに?」
「馬車の確認でもしてるんじゃないですかね。また失敗なんかしちゃぁあれだ、とかで」
そんなやり取りをする頃には、ひとしきり自分の腹は足りており、しかし場の賑わいは途切れぬといった具合…見たところ姫様も、ぎこちなくではあるものの笑えているようである。
「おや、お出かけで?」
「どこかの大事な娘さんとお話でもしようかなとね」
「なら、土産にこれを」
そういってこちらに小包を渡すガン竜。うっすらと香る匂いから、弁当的な何かなのだろう。
「最初から行かす気だったわけね?」
「従者が主を慕うには、主も従者を慕って貰わねばなりませんからな!」
「奥さんにも言ったけど、慕いすぎた結果、どうなっても責任とれないよ?」
「その時は、このガン竜を父として慕って頂きましょうか!」
「…やめておく」
「おお、残念!」
などというやり取りを交わした後、食堂から馬屋へと向かう。
敷地内ではあるが、寝所などがある王宮とは別の場所に馬屋はあり、そこに近づくと独特の匂いが漂ってくる。
そんな匂いの中心地に辿りつくと、目に飛び込んできたのは、大型の馬車。
以前鈴星にいたころにはなかったもの故に、これがコウの言っていた馬車なのだろう。無駄な装飾はほとんどみあたらず、かといってただの木箱という風でもない。楔や蝶番、接続面を覆う板金などには質を優先したと思われる、厚い光沢があり、結果それが全体の毅然とした風情を作り上げている。
(―確かに五人…少し詰めれば八人でも入るな)
それ故小回りは効きそうにないが、まぁ街道を走る分には問題ないだろう。
どちからというとこの大型馬車をを引く馬の方が気がかりだが…馬屋の中を見ると、これまた立派な馬が二頭並んでいた。おそらくはこの二頭が引くのだろう…早く駆けるためではなく、長く荷物を運ぶために調整されているのだろう馬は、ちょっとした魔物など蹴散らせるであろうほどに筋肉質である。
(で、馬はともかくコウはどこに…)
と、目当ての人物を探していると、
「ぜぇぃっ!」
っと、馬屋の更に奥まった場所…石や薪用の木など、雑多なモノを寄せ集めている場所から、コウの声が聞こえた。
その声から、なんとなくやってることを察しながら近づくとそこには、
「ぜぇぃっ!」
案の定、自分の愛刀を振り下ろしているコウの姿があった。
(―ふむ)
こちらにはまだ気づいていないらしく、コウは猛然と、それでいて規則正しく刀を振る。
上から、横から、斜めから…その長身と一体となって繰り出される大太刀は、みていて迫力があり、打ち下ろすと同時に木端や砂煙が舞うなどして、面白みもある。
とはいえ、見学に来たわけでもなし。
当初の目的でいえば、馬車用意の労を労うためだったのだが、他にも確認したいことやらはあったわけで…
(―よっし)
思い浮かべたいくつかの案から最終的に一つを選択し、実行に移す。
まずはガン竜から預かった小包を格納し、
次に、代わりのモノを取り出す。
そして、
「ご一緒しても?」
コウに声をかけた。
右手に、自分の愛刀…ナナシを携えながら。
お読みいただきありがとうございます。
無駄後書きです。
コンビニなどで「お買い上げありがとうございました」という過去形を使うのは間違いだというのがビジネスマナーだそうです。購入したのは現在のことなので「お買い上げありがとうございます」と、たった今完了したかのようにいうのだとどこかで聞いたきがするようなしないようなそんな感じです。
故に、ボクのあとがきも『ありがとうございます』なのです。
過去の人にならぬよう、アナタにとって今の人でありたいのです。
例えボクが死んでも、広大なネットの海の中、ボクの組んだ文字が残っていればボクと誰かはあえ、例え声は伝えることはできなくても、言葉は伝わり、『ありがとうございます』と、今であることができるのです。
そう、ボクは何度だって、誰とだって、いつの人とだって、文字を通して会うことができるのです。今こうして、アナタと出会えたように…例え無駄な文章かもしれなくても、それはきっと喜びなのだと思うから…
そんなことを考えて『お読みいただきありがとうございます』と書くことにしたのです。
そういうことにしようと、今決めました。
また一つ…無駄な知識が増えましたね?
それでは改めまして、お読み頂きありがとうございます!
では、また次回!




