戦記79「御一緒」
3つの単語でまとめる、今回の見所。
風呂
飯
女
亭主関白な旦那の帰宅時のセリフのような感じではじまります、戦記79!
戦記79「御一緒」
さて、その後も鈴星を出るまでの間にもろもろとあった。
例えば、風呂にガン竜が入ってきたこと。
「ガッハッハッハ! 御一緒してもよいですかな、ユウ王殿!」
「まぁ、別に狭い風呂ってわけじゃないからいいけど…」
「おぉ、それはありがたき! お前たち! お許しが出たぞ!」
「「「「おおおお! ありがたき!!!!!」」」」
訂正。例えば、ガン竜とその息子四人、合わせて五人のごつい男どもが入ってきたこと。
「男といえば、やはり裸の付き合いですな!」
風呂以上の付き合いを求めてきたら全力で暴れてやろうと思っていたが、まぁそんなことになることもなく…親に似たのかガン竜ジュニア達は…尚、ここでいうジュニアとは、変な意味での息子という意味ではなく、子供という意味でのことだと強く念を押しておく。
ジュニア達は、比較的母親似か父親似かという違いからか、長い者や骨太い者、筋の浮き出るほど隆々とした者などの差はあれど、総じて引き締まった身体をしており、その性格も、やや暑苦しいところはあるものの大らかでひとなっつこく、将来を感じさせる何かがあった。
「「「「…コウを、よろしくお願いいたします」」」」
途中、どうして姉妹の方が入ってこなかった! と心の中で叫んだりもしたが、風呂上りにみせた兄弟たちの様子には、コウを大事にしてきたことが十分に伝わる真摯さがあり、まぁ、それだけコウが思われてるっていうのが分かっただけでも、一緒に風呂に入ったかいがあったかと思わないでもなかった。
それと、
「男兄弟は、あれで全員?」
「えぇ、あとは前のアレで死んじまいました」
軽く言うが、乗り越えたからこそ、なのだろう。
でなければ、元は敵だった男と一緒に風呂に入ったり、あまつさえ娘を奉公に出したりはしない。
だからこそ、やはり…この男は今しばらく必要だ。
「王になってから、改めて頼もうと思ってたんだけど」
「受けましょう」
「…まだ何も言ってないんだけど?」
「兵の育成係…でしょう? 謹んで、お受けいたします」
風呂の床に両膝を付き、こちらに礼を見せるガン竜。
「竜として、ユウ王殿を主として仕えることはできませんが…国の為ならば、もう一働きぐらい、してみましょう」
「…息子ともども、世話になる」
「娘も、ですぜ」
「もちろん、娘も」
こうして、予てより考えていた新兵の教育係としてガン竜が、
国防を担う要として隣王の元衛兵達…ガン竜の息子達が協力を約束してくれた。
出発前の朗報としては、なかなかに嬉しいものだ…などと思いながら、風呂から上がる。
風呂から上がると食堂へと案内され、そこにはチョウ竜がいくつかの書類を持って待ち構えていた。
「ハンは使えそうですか?」
「今はボウに預けてるけど、ある意味、今一番適している人材かもしれない」
「確かに…応用力に欠ける反面、与えられた課題は不足無くこなしますからね」
さすが師匠というべきか、弟子の美点と汚点は把握しているようだ。
「これらの書類、承認と指示をお願いいたします」
「ん、面倒を押し付けてすまない」
と謝りながら書類に目を落とすと、一番上には一枚の…チョウ竜がまとめたと思わしき、ある計画書があった。
「…ガン竜とは話をいたしましたか?」
「先ほど、風呂で」
答えながら、書類に目を通す。
そこには、合併後の神楽月を『主区』鈴星を『従区』とし、国として各区が連携を図りながらも、ある程度の自主性をそれぞれの区が持つという案…ようは、都道府県や連邦制度のようなものを行うという案がまとめられていた。
この案自体は俺が提案していた物で、それを実現レベルにまでまとめてくれたのだろうが、なによりも特筆すべきは、その従区…鈴星区のまとめ役として、チョウ竜と何人かの弟子や政務官の名前が挙がっていた。
これもまた…王に成ってから、改めてチョウ竜に頼もうと思っていたことである。
「チョウ竜も、か」
「はい…正直なことを申せば、ガン竜以上に悩みました」
隣王を打ち取った俺に、思うことがないはずがない。
ガン竜は早いうちにそれを割り切ってくれたことは感じていたが、チョウ竜はそうではない。
ここに至るまで、あくまで隣王が託した相手として…隣王が愛した鈴星を担う王だから、こちらの願いを聞いてくれていたに過ぎない。それが、
「…ここまで信用されては、仕事をしないわけにもいかないと判断しました」
そういって、一枚のメモ…おそらくは雇った密偵などにでも俺のことを探らせていたのだろう…その調査結果が書かれたメモを差し出すチョウ竜。そこに書かれていた文字は『一切無し』。
「仮にアナタが本当に私を信用しているのならば、それでよし。私が疑うことを察して、見張りの一人もつけなかったというのなら、私の負け」
「もしかしたら、単に見張りなんかいらないって思ったか、忘れてたのかもよ?」
「だとしたら、そのあまりにも無謀な王を放置などできようはずもありません」
そういって、薄く…ごく僅かに笑うチョウ竜。
「…任せても?」
「認めていながらも主としては従えぬ私を、別の王を心の中に置く私を、それでも使ってくださるというのでしたら」
「なら問題ない。優秀な部下と引き合わせてくれたリン王に…感謝を」
深く、静かに頭を下げたチョウ竜の頭をあげさせてから、運営に関するアレコレを話していると、ガン竜が酒を片手にやってくる。
ちょうどいいと、ガン竜とチョウ竜を並べ、疑問に思っていたことを尋ねる。
「どうして、働いてくれる気になった?」
そのきっかけがわからない俺に、二人は顔を見合わせた後、ガン竜が代表していった。
「ある女に、言われましたね。若い子が頑張ろうとしてる時に、いい大人が何を意地張ってるんだって」
そのある女とやらが誰かを尋ねる前に、テーブルに食事が並び始めた。
そにれあわせてコウや歌姫、ガン竜四兄弟なども入室し、食堂は一気に賑やかになる。
「頂きます」
賑やかなまま食事が始まると、その騒ぎを聞きつけたのか、または匂いにでも釣られたか、それぞれの顔見知りが次々と食堂に現れては思い思いに居場所や話し相手を定めて、話に交じりだす。
そしてそれは食事から宴へとなり、より一層の賑わいへとなっていく。
そんな中歌姫に目をやると、その周りに何人かの女性…少女といってもいいぐらいの子もいたが…女性達は、まだ固くなっていたままの歌姫を気遣うように話しかけ、食事を勧め、その緊張を解いてくれているようだった。
その女性達に、どことなく見覚えが…というか特徴があるなと思っていると、声をかけてきた女性が一人。
「はじめまして、ユウ王様。コウがお世話になっております」
いい歳の重ね方をしたのだろう…年を感じさせぬ美麗美肌というわけではないが、笑顔を絶やさない生活を送ってきたことがみてとれるその顔は十分に魅力的で、特に子供やお年寄りに好かれそうな柔和な雰囲気が全面に漂っている女性だった。
「コウのお母様ですか?」
「はい…あら、自己紹介いたしましたでしょうか?」
「コウがお世話に、とおっしゃっていたので」
「あ、そうですね、嫌だわ、私ったら」
照れたように笑うその姿は、豪快に笑うガン竜の隣に…夫の隣に並ぶ妻として、よく似合うだろう。
「あちらの…姫様の相手をして下さってるのは、娘さんたちで?」
「はい。なんでもコウがご無礼を働いてしまったとかで…」
なるほど、コウが沈んでる歌姫の為に頼んだわけか。
「ご迷惑をおかけします」
「いえいえ、そんな…おかげさまで、噂のユウ王様にも会えましたし」
「噂…ですか?」
「はい。聞く人聞く人、まるで違うことをいうから、本当に同じ人のお話をしてるのかと思っておりましたが…」
「おりましたが?」
「会ってみて納得いたしました。ほんと、雲のように自在なお方なのですね」
笑顔だけは変わらぬまま、しかしどこかその世間話のような一言に、心がざわつく。
本物の占い師が、その力で隠し事を暴いてきたような、そんなざわつき。
お読みいただきありがとうございます。
なんかんだと書き続けていたら、次で戦記80エピローグ含めると、ここまでで80…3桁目も見えてきました。
回数でいうと、メガロポリス編が終盤の頃でしょうか…過去、ここまで長期で書いたのは初めてで、自分でも未知の領域。我がことながら楽しみなような怖いようなそんな感じで、まいりますのでまたお付き合いいただければ幸いです。




