戦記76「中の中」
この後、衝撃の展開!?
あの大物がついに脱ぐ!?
などと、前回から引き続き煽り文の練習(?)中です。
が、なんでだろう…やっぱり嘘くさい…
戦記76「中の中」
敵にはならない…その言葉を頭の中で意味を確かめるように繰り返していると、スワロも食事を終えた。
そして何やらを探し始めたので、格納していた荷物の中からちり紙を取り出し、手渡す。
「ん、ありがと」
どういたしまして、と返しながら元いた場所に腰掛け、考え事をしつつスワロが口元についたソースを拭うのを見る。
「何かお考え中で、おにーさん?」
「ソースをふき取っても落ちない口紅を使ってるんだなーと」
「それを考えるとなんかの役にたつの?」
「落ちやすい口紅だとすぐ浮気がばれちゃいそうだなとか、プレゼントにはそういう落ちにくいものの方がよろこばれるのかしらどうかしら、とか」
「へぇー、他には?」
「もちろん、今の状況についてあれこれと」
「聞かないの?」
「もちろん聞くけども、その前に自分で考えようかなとね」
「なんで? 聞いた方が楽じゃないの?」
「くせみたいなもん。いつも答えを教えてくれる人がいるわけじゃないしね」
「ふーん、そ」
と、ちり紙を丸めてゴミバコに捨てると、スワロは俺が座ってるベッドへと近寄り、そのまま隣へと腰掛けた。
何事かと思い隣をみると、
「中の中」
何やら好感度が上がったようで嬉しい限りであるが、それはそれとして考えるべきことは他にある。
ところで、中の中って音にすると『ちゅうのちゅう』で、なんかちょっと想像しちゃうよね? などとはいわない。せっかくあがった好感度がだだ下がること請け合い。
てかそんなこと考えたいわけではないのだが、どうなってるんだろうか俺の脳みそはと自問。
「そろそろ答え合わせしましょーか?」
「お願いしようかな」
おーけー、と請け負ったスワロから余ったちり紙を受け取り、格納しながら始める。
「まず前提として、どこかの傭兵団が俺の殺害…か拉致か傷害か、その手の依頼を受けた」
「せーかい」
「で、その傭兵団は割とでかいところ…っていうか老舗に属するところで、新緑の傭兵団…かスワロさんと面識どころか交流がある」
「それは、ちょっと間違い。面識があるのはアタシと新緑じゃなくて、スバルの方」
訂正をいれついでにスワロが解説する。
「元々スバルは別の団にいたんだけどね」
「その団は?」
「んー、本人からきいて。今は言えない。言えない理由はもちろん―」
「その傭兵団が仕事を請け負ったから」
「せーかい。で、その団からスバルを通してうちに仕事の協力依頼がきた。仕事の内容は、ユウ王の拉致」
拉致…か。
「殺害でも傷害でもなく拉致、ね?」
「そ。多少の怪我はともかく、あくまで拉致」
ということは、生きた俺に用のある勢力ってことか…
「あちらさんは、俺と傭兵団の仲を知ってて声をかけてきたの?」
「もちろん。ただ、あちらさんのメンツの為にいっておくと、望んでのことじゃないよ。依頼主からの、どーしてもっていう圧力があったみたい」
まぁ、メンツや義理を大事にする老舗傭兵団と馴染みのある傭兵団なら、その精神も通じるところがあっておかしくない。問題は、そんな老舗傭兵団に圧力をかけられる依頼主とやらのほうか。
「ちなみに、大きな傭兵団か老舗…って思った理由は?」
「スワロさんが変装してる理由がそれかなと」
スワロが誰に警戒していたのか? それは当然、他の同業者や同じ依頼主から仕事を受けた者だろう。しかしその手の同業者は、今のところ追ってきてはいないと、スワロ本人がいっていた。つまり、警戒のための変装ではない。
となると、気を使ったのだ。誰に? 相手の傭兵団にだろう。
そしてこのこの二点から、単独でそれなりの傭兵を抱えている大型の傭兵団、またはスワロ達が断ったとはいえ俺に接触するさいに相手方にも気を使わないといけない歴史やら格式がある傭兵団、またはでかい上に由緒もある傭兵団、ってあたりが考えらえれる。
「ただまぁ、ぶっちゃていうと、大きいっていっても、小さいっていっても、どっちでもよかったんだけどね」
それをいずれにしろ口にだすことで、スワロからはそれを肯定するか否定するかの言葉または反応が返ってくるわけで、実際に『大きいまたは老舗であること』を肯定するニュアンスで、どうしてそう思ったのか? という質問がきたわけだ。
「単におしゃべりなだけじゃーないってことね」
「演説や弁論ならまだしも、会話の基本は相手の反応をみることですよ?」
ま、実際には演説や弁論だって反応みながらやりますけどね。
「で、そんな傭兵団よりも、スワロさん達は俺との仲を大事にしてくれたと」
「向こうも、声はかけたっていう建前が欲しかっただけみたいだしね」
「その言い方だと、アチラさんが『どうしてもっていったら敵に回った』っていってるようにも聞こえるんですが?」
「さー、どうでしょう? そーなってみないとなんともだけど?」
笑うスワロに悪びれた様子はなく、どこまでも朗らかで、そこからはウソも本当も読み取れない。
「…ま、今は敵じゃないってなら良しってことで」
「そーそー、大事なのは今この時、ってね」
「で、アチラの仕事の協力はしない。かといって邪魔することもできない。なので俺の敵にはならないかわりに、味方にもならない、と」
「ま、そーいうことね」
元々傭兵団にお願いしようと思ってたのは御者や道中の警護数人である。ないならないで別の手だてが作れないわけでもないので、残念ではあるが大問題というほどではない。
が…
「それ、俺にいってよかったの?」
スワロの目がこちらを「なんで?」と覗き込んでくる。
「今の会話で、敵に回った傭兵団とか依頼主について、多少想像ついちゃうけど、よかったの?」
そして多少の想像から情報を集めれば、やがて辿りつけてしまう。しかも今回は『新緑の傭兵団と関わりがある』という大前提まであるほどだ。しかも、それ以外にもスワロは答えはいわないだけで、ヒントは会話のあちこちに散らばせてくれていた。
それは直接的でないだけで、アチラとやらの傭兵団に敵対していると捉えられてもおかしくないことである。そんなことが分からない人ではない。だからいいのか? という問いに、
「いいって判断したから言ったってことぐらいわからない?」
と、逆にそう返してきた。
「中の中なのに?」
「それはあくまであたしにとっての好感度。深緑の傭兵団でいったら、上の下から中ぐらい…って言ってあげてもいいぐらい」
それは…少々意外な情報だ。
そんな考えが顔に出てしまったのか、僅かに苦笑を交えるスワロ。
「アタシはともかくね、団員たちにとってはなかなかのもんなんだよ、にーさん。団員もスバルも、せめてものお詫びにそれぐらいはっ…てね?」
名前も知らない、顔もうっすらとしか覚えてないような傭兵団の面々が頭の片隅に浮かぶ。
我ながら薄情というか恩知らずというか…世話になっておきながら、うっすらとしか思い浮かべられないようなことすら見透かしたようにスワロがいう。
「もー少し自分がやっことに自信もちな。あんたがどう思ってようと、少なくともうちの連中は、未だに酒の話題にならない日はないってぐらい騒いでるよ」
「別段、自信がないってわけじゃないんだけどね?」
「…比べる相手がでか過ぎるのも時によっちゃ考えもんだよ」
ヒヤリとしたそのセリフが、脳に刺さる。
「…そんなことまでわかるもの?」
「ま、ちーっとばかしニーサンより修羅場くぐってきてるからね」
そして笑うスワロ。
その笑いは彼女の言う通り、いくつもの修羅場を越えた人間の…例えばキョウ王様なんかが見せていた笑いと似ている。
「ドラゴニアはでっかいからね。集まってる人間もでっかいだろーさ。けど、あんただってそん中でそこそこやれてきたんだろ?」
「ほんと、そこそこね」
「じゃ、十分だろ、今は。少なくとも、神楽月と鈴星、両方ぶんどるぐらいの器はあったわけだ」
「まー、ね…」
しかし考えてしまう。
例えばあの人だったらとか、これができればとか、無い物ねだりなのは分かっているのでそれで嘆いたり諦めたりするわけではないが、もっと上手く、もっとスマートに、もっと効果的に…良くも悪くも考えるクセがついているのだろう…
「てか、なんで俺慰められてるの?」
「おや、慰めてほしーんじゃなかったの?」
「…そーみえた?」
「ポーカーフェイスを目指してるならやめときな、ニーサンには合わない」
「じゃぁどんなのがいいと?」
「全部だしちゃいなよ、顔に。大丈夫、あんたの顔は、あんたが思ってるほど悪くない。ちゃんと、人がついてくるだけの顔してるよ」
完全に上から目線のその笑いに、今度はいくつもの強者をひれ伏させてきた竜姫を見る。
「あぁ、ちなみにこの場合の顔ってのは、美形とかどういうんじゃなくて、表情のことだから、誤解させちゃったならおあいにく様」
今まで鏡も水面も見たことがないならいざしらず、さすがにそんな勘違いをするほど美的感覚が狂ってはいない。
「…顔ね」
泣き顔に、笑い顔に、すまし顔に、まじめな顔に、いろんな顔に人はついていく。
そして顔とはつまり、考えで、思いで、その人だ。
舞姫には舞姫の、スワロにはスワロにあった笑い方があるように、俺にもまぁ、あるのだろう…スワロの言葉が正しければ、キョウ王の顔に人がついていったように、オレにも誰かがついてきてくれるだけの顔とやらが。もちろん、今はまだまだその顔の差には大きな開きがあるのだろうが…
「…いつか追い付くものなんかねぇ」
天井を仰ぐようにベッドに寝転ぶ。
「だから比べすぎんなっていってるのに…歴史に名をのこしてくれるんじゃなかったのかい?」
「単なる一人ごとのグチですからお気にせず」
「ほー、じゃぁまぁ、こちらも王ほどではないけど、頭なんてのをやってる人間の独り言ってことで…迷った時は下を見るんだね」
そう、こちらを見下ろしながら言うスワロ。
「誰がいるのか、誰がいなくなったのか、何があって何はないか…目指す時は上でも、支えるもんは下にあるらさ」
そして笑う。
互いにゆっくりと酒を飲みかわしたわけでも、人生を語り合ったわけでもない。
だけどその笑いを支えている経験には、化粧などなくても十分に魅力的なその顔には、大勢の人間が付いてきているだけの何かがあることは十分にわかり…
「…スワロさんや」
「なんだい、ユウ王さんや」
「…もう少し、慰めてもらってもいい?」
と、スワロの腕を掴みながら問う。
「…今、そんな流れだったかい?」
「不思議とよくそのセリフ言われるけど、俺の中ではたったいまそういう流れになったと認識しました」
「ムードとかシチュエーション考えろとかは?」
「それもイヤというほど聞いてきました」
だが改める気はない。
「…ダメ?」
と、尋ねてみると
「…そこまでお詫びしてやるつもりはなかったんだけどねぇ」
などといいながらも部屋の明かりを落とし、
「ま…今後に期待ってことで、おまけしといてやるよ」
汗と化粧の匂いがまじりあうまで、一緒に過ごしてくれたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
はい、というわけでどういうわけだが、描写がないだけで、実は煽り文の通りの展開になるのでした。
まぁ、衝撃の展開だったのか、大物? といえるのかは各々様によりけりだとは思うのですが…
そんなこんなで、まさかの連日アップが続いております。
この調子なら、年内には3章も終わるでしょう…この調子が続けば…そう、続、けば、…
ところで、ケバブってみなさんいや、いいですまた次回!




