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ユウ王戦記 ~三妃 七竜 十三宝 を揃えて異世界で王になるまで~  作者: しいか
第3章 メガロポリス分裂編

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戦記73「頭の中」

 奥様の名前は舞姫。そして、旦那様の名前はユウ。ごく普通ともいいきれないふたりは、ごく普通とはいえない恋をし、ごく普通とはいえない結婚をする予定でした。でも、ただひとつ違っていたのは、奥様は…金髪美少女だったのです。


戦記73「頭の中」


「笑って生きて、死ねる国…」


 そして、姫が繰り返した俺の言葉に少し続ける。


「そう。俺も俺の近くにいてくれる人も、顔も知らないできるだけ大勢も」

「そのために誠王に?」

「まぁ、必須ってわけではないんだろうけど、一つの目安にはなるかなと」


 誠王になれるほどの力があれば、やれることは多いだろう。

 その分問題だって多くなることも承知しているし、どれだけ力を持ったところで、笑って生きて死ねない奴が五万といることだって理解しているが、そんなものは言いだしたらきりがない。

 だから『できるだけ』大勢でいい。


「全世界が欲しいわけじゃない。全てを救いたいとも思ってない。あくまで俺が笑って生きて死ぬために、できるだけ大勢が笑って生きられる国が欲しい」


 自分だけ笑っててもだめらしい。

 誰かだけ笑っててもだめらしい。

 自分も、誰かも笑ってないとだめらしい。

 自分でもよくわかってなかったが、どうも自分という人間はそういう人間らしい。

 それが、ドラゴニアで竜をやってる時に知った自分。


「…そのために苦労したり、笑えないこともあるかもしれませんよ?」

「そりゃしょうがない。何か欲しいモノがあるなら、何か払うのが当たり前なんだし。でも、損はしたくないし、できれば相手にも納得していてほしい」

「なんだか、すごく我がままというか…」

「そうだよ? だってあくまで、俺が笑って生きて死ぬために、他の人も可能な限り笑っててもらいたいな、ってだけなんだから」


 世界を救う勇者でもない、

 弱者を救う聖者でもない、

 ただ、ひたすらに自分勝手な王者。


「俺がなりたいのなんて、そんなんだよ?」


 それでもいいの?

 というような問いに姫は、


「…でも、その自分勝手な王は、他の者も救うのですよね?」

「自分の都合の許す範囲でね」

「その為なら、労も厭わないんですよね?」

「まぁ、及ぶ範囲でならね」

「なら…」

「なら?」

「ユウ様の及ばない場所と厭うところは、私が及んで厭わないことにします」


 その言葉は、驚くほどスッキリと…元々そこから抜き取ったのではないかというほどぴったりと、過不足無く耳から飛び込み、頭の中に居場所を作った。


「だから一人でも多く…救ってください。いえ、救いましょう…それが、私の思う私のしたい国です」


 こんなやりとりだけでは、詳細なんてわからない。

 国土も、人口も、産業も、環境も、法も、政策も、国を国たらしめる様々な部分をすっとばした、いわばスローガン。

 でも…だからこそ、価値があるように思えた。

 こうしたいという形があるわけではなく、こうありたいという在り方だけがある状態。

 それは、いくつもの言葉や定義で縛るよりもはるかに自由で、

 その分明確な地図とは違って不確かで曖昧で、辿りつけるか不安にすら思えてしまう落書みたいなものなのに、でも、なんだろう…

 小説の冒頭…宝の地図をみつけたばかりの少年達が、宝があることを信じるに足る何かや、もし宝に辿りつけなくても納得いってしまうような、そんなずるさがあった。

 その理由は…なんだろうか?

 頭の中で問う。

 舞姫様の深い緑の…夜の中、黒い宝玉のようにも見える真剣な目のせいか、

 癖のない、木々の隙間を通っても葉を揺らすことのないような声のせいか、

 それとも別の何かか…

 たぶん、どれも正解だろうし、だがどれも確固たるものというわけでもなく、色々なものが組み合された結果なのだろう。


「…わかった。足りないところはよろしく」

「はい。お任せください」


 そうして笑顔で頷く舞姫。

 その笑顔には打算とか計算とか、不安とか緊張とか、人が笑う時に…笑う理由がある時に浮かぶものがまるでない、本当に笑うためだけに出た笑いで…


「あ、あの…ど、どうしかしましたか?」


 思わず頭を撫でてしまった俺の手を、恥ずかしがりはするものの払いのけない舞姫。


「や、可愛いなと思ってつい」

「ぅっぅ…」


 そしてうつむく舞姫様。

 別に頭を撫でろという催促ではなかろうが、撫でやすくなったのでおもいっきり撫でてやることにする。


「…金髪美少女か」


 しかも舞姫の場合、西洋人形のように整いすぎて相手に緊張感や圧迫感を与えるそれではなく、パーツパーツが全体的に円や弧で形成されており、ふんだんに愛嬌や可愛らしさがちりばめられており、正直なところ初めて森であった時、外見だけの好みで選んでも後悔しないくらいに好みにはまっていた。


「その上、努力家で献身的でまじめで俺のこと好きでいてくれるとか、こう、お嫁さんとして文句なさ過ぎてどうしようかね?」

「あ、あのユウ様…」

「なに?」

「あの、全部、口に出てます…」

「うん、知ってる。だけど残念なことに、今口に出したことは頭の中にある言葉の半分にも満たない」

「えぇ!?」

「ご希望とあれば、全部聞かせてみてもよろしいが」

「え、遠慮いたします」

「なんで? 褒め言葉だよ?」

「これ以上は恥ずかしくて死にそうなので…」

「…抱きしめた時、ほどよい柔らかさ」


 ダメだ、恥ずかしさのあまりか、舞姫様の目に涙が溜まってきた。

 これ以上はさすがに可愛そうだし、


「あと寝る時しがみついてくるの可愛い」

「ユウ様!」

「ぬぅぁ!?」


 ぼぐっ、と。

 鳩尾に舞姫様のこぶしが入った。


「す、すみません!?」


 照れ隠しか、今の照れ隠しか!?

 気の流れはまだ正確に把握できるわけじゃないから確証はないけど、この痛みからしてただ殴っただけじゃないと思われるわけで、


「い、いたいのいたいのとんでいけー」


 あ、異世界でもその言葉あるんだーな、もしかしたら昔にこっちにきた異世界人が伝えたのかしら? とか思ってたら、やんわりとみぞおちから痛みが引いてくる。

 どうも舞姫様が気をあてて回復してくれてるらしい。


「すみません、ついとっさに…」

「いや、こちらこそ可愛さのあまり余計な―ほぐぅっ!?」

「あぁぁ!? ご、ごめんなさい!?」


 口は災いの元とはよくいったものである。

 普通、悪口や陰口に対しての戒めであると思うが、結果ダメージをこうむってることに代わりないのだから、褒め言葉に使っても問題なかろう。

 などと余計なことを考えつつ痛みに耐えること数分…

 舞姫様の治療のおかげもあって、ようやく普通に喋れるだけ回復した。


「って、もうこんな時間か…」


 ただでさえ遅かった時間が、さらに更けていた。

 睡眠時間を考えたら、そろそろお開きにするのがよい時間だろう。

 姫様もそう思ったのか、席を立ちながら、しかし何かいいたげにしつつ…


「明日、どれだけ時間とれるかわからないし…他に聞いておきたいことある?」


 悩みながらも、その促しに口を開いた。


「あの…誠王を目指すということは、十三宝を集めるんですよね?」

「まぁね」

「七竜も探すんですよね?」

「まぁ、そうだねぇ」

「で、あの…三妃も、です、よね?」


 と問われ、


「うん…まぁ」


 と答えるや、姫は困ったような、苦笑いのような、能面のような…どう表情を作っていいのかわからないといった具合の微妙な顔をした。

 まぁ…お前のほかに嫁を二人貰う、と公言しているのだからその顔も分からなくはない。


「あのですね、けして舞姫様に不満があるというわけではなく」

「わかってます。お父様にはおりませんでしたが、お爺様には側室の方もおられましたし、国の事を考えればいざという時のためにも王の子はいて然るべきです」


 意外にもお許しが出た…これで堂々と第二、第三の嫁さがしができる!

 と浮かれると思ったら大間違いである。

 言葉でこそ納得してる…みたいにいってる姫だが、その顔には相変わらずである。

 これはよろしくない。

 今後、本当に嫁が増えた時のことや、何よりも身勝手な王の在り方を受け入れようとしてくれてる舞姫様が笑えないというのはよろしくない。

 三妃を迎えるに辺りは、舞姫様が納得できる人をと思っているけど、それはあくまで未来というかその時の話であり、今とそこに至るまで姫に悶々としてもらうわけにはいかない。


(さて、どうするべきか?)


 と一瞬悩んだ末、ここは同じ立場に立つべきだろうと考え、かといって姫の旦那が三人になるのは断固拒否するため、え? お前は嫁三人なのに姫はダメなの? と問われれば無論ダメである。何がなんでもダメである。かといって肩をも程度のことで濁せる問題でもないわけで、


「わかった!」

「な、なにがですか?」

「三妃七竜十三宝…これは俺のわがままだから、俺もなにか姫様の我がまま…ってか願いを聞こうと思う」


 姫は一瞬目をパチクリさせたあと、


「え、いえ、別に納得してないわけではなくてですね…」


 慌ててそう述べた。


「わかってる。でも手放しで喜んでるわけでもないでしょう?」

「それは…まぁ…」

「だから、なんかいってみて。俺が叶えられる範囲でがんばる」

「でも…」

「姫にお願いされる方が、俺も幾分気が楽になるんだけど…」

「そ、そういわれると…」

「だめ?」


 と『こちらを助けて欲しい』のようなニュアンスで話してようやく、


「…わかりました」


 姫は提案を受け入れてくれた。

 が、そうすぐには我がままとやらがでてこないのか、姫は暫くの間うんうんと唸っていた。


(王女の生まれなのに欲のない…)


 たぶん、根が真面目すぎるからだろうな…神楽月のリン王やロウ竜のいうままに修行や勉強をしてきたのであろうことは想像に容易い。

 そんな姫様がどんな願いを口にするかと、期待半分、恐れ半分で待っているとやがて…


「あの…本当にいいのですか?」

「うん、どうぞ」

「じゃぁ…あの、覚えていらっしゃいますか? 杯…なんですが…」


 と姫から言われて思い出す杯といえば、


「祝月十二杯?」

「はい、あの、もし、本気にしてもいいなら…いいでしょうか?」


 竜の絵が入った杯を筆姫に送った時のことを思い出す。

 その時も探し出すという風に言ったと思うが…まぁあの時はまだ本当に結婚するとは思ってなかったんだろうし、それならそれで改めて約束するのもいいだろう。

 集めるのが不可能ではないが、かといってけして楽というわけではない。

 誠王になるのと集めるのどちらが容易いかと言われるとなんともいえないが、どちらも目標にするにはいい選択のように思える。


「わかった。祝月一二杯ね」

「はい!」

「よし、約束。少し時間はかかるかもしれないけど、姫様の前に全部そろえて見せる」

「え…」

「え?」

「ち、ちがいます! あの、全部じゃなくて、兎のだけのつもりで!?」

「あぁ…でもいいよ。集める。祝月十二杯、全部姫様の前に揃える。全部揃ったところ、みたいでしょ?」


 そう問われ、姫が長い瞬きをする。

 その短い間に、まだ見たことのない杯が並ぶさまをイメージしたのだろう…

 そして姫のことだ。ただ自分が見たい、というだけでなく十二杯にまつわる話…バラバラになった十二杯が、いつか揃うことを夢見ている、というくだりを思いだし、『揃えてあげたい』という思いすら浮かんでいることだろう。


「ほんとうに…ですか?」

「ほんとに」

「でも、筆姫様に送った分とかもありますが、大丈夫ですか?」


 一度送った物を返せとは確かにいいずらいが…


「まぁ…なんとかなるかと」


 最悪、小説を書き下ろすとかいえばくれるような気がする。

 そしてそれぐらいの労力は負って然るべきだろう…姫様に払ってもらう分のほうが遥かに重いのだから。


「で、祝月十二杯だけ? 他には? 姫と、竜と、宝、だからあと2つぐらい願ってもいいんじゃない?」

「他にはといわれても…神楽月をよろしくお願いします…とか」

「いわれなくてもよろしくするつもりだけど…」


 具体的にどうよろしくするかといわれると悩むが、『裏切らない』とか『見捨てない』という意味で捉えておくとしよう。


「まぁいいや、それいれたとしてあと1つは?」

「え、えーと…」


 姫様は言葉につまり、『とてもいいたいけどいいずらい』状態で暫しおどおどとした後…


「…他のお嫁さんができても、私の相手をして下さいますか?」


 そんな疑問…というか、お願いをしてきた。


「あの…それ、お願い?」

「えと…ダメ、ですか?」

「いや、ダメというか…」


 そしてややショボンと目が下がる舞姫…


(なんだろう、このかわいい生き物…)


 自称も他称も女の敵故に、まぁ少なくはない女性にあって来たし、もしょもしょとしたりもしてきたこともあるが、なんだろう…もうツボに嵌り過ぎていっそ辛い。

 ここまでくるとよもや狙ってやってるのではないかとすら考えてしまうが、たぶん演技などではない…だろう…し、仮に演技だったすれば気持ちよすぎてもう、それでもいいかって気分になってくる。

 舞姫様とは全然違うタイプももちろん好きなのだが、同系統? ってどんな系統か自分でもさっぱりわからないが、とにかくこの手の女性に関して舞姫から揺らぐことはないだろう…そう思うほどである。


「わかった。たぶん約束するまでもないけど、それも約束する」

「あ、ありがとうございます…」


 そして嬉しそうな、困ったような顔をする舞姫。

 おそらく、嬉しそうなのは約束したから。

 で、困ったような顔をしているのは…


「あ、あのユウ様? な、なぜ急に抱きかかえられてるのでしょうか?」

「それは自分の胸に手をあてて聞いてみてほしい」

「…ぜんぜん思いつきません」


 そうだよね、そうだと思った。

 まさか本当に胸に手を当てて考えるとは思わなかった―うそごめん、きっとやるかなと思ってわざと言いました可愛い姿をありがとう、お礼は体で返しますね?


「あの、ユウ様そ、そっちはベッドで―」

「知ってる。約束したからね、相手をするって。ウソじゃないって証明しておこうかなって」

「ちが、違うんです、今のはそういう催促とかではなく、もっとこう」

「ハッハッハ、それはそれこれはこれ」

「あの、もう夜もおそ―」


 と、本気で嫌がってないのは拳が飛んでこないことからも明らか…いや、単に混乱してるだけかもしれないが、そんなことはしったことじゃない。


「ゅぅぅぅぅぅっっっっ!?」


 両手には姫を抱えている故に別の手段で…どんな手段かはご想像にお任せするが、抗議の声を塞ぎつつ夜の打ち合わせへと移行する。

 なお、連日に及ぶイン竜との打ち合わせの効果か、翌日の姫はほぼイスに座りっぱなしで生活することを余儀なくされ、臣下達が『姫様に負けぬよう励まねばならぬ』などと奮い立つという思わぬ効果が…この場合の励むは通常のそれであり、けして夜の打ち合わせではないが…とにかくそんな効果が生まれることになるのだが、それはまた別の話である。


 お読みいただきありがとうございます。

 正直長さ的には二回に分けてもいいぐらいの長さだったのですが、一気に読んで頂きたかったというか、別段何が進展したというわけでもなく、ユウさんによるノロケばかりだったので、このままアップすることにいたしました。

 まぁ、神楽月から外に出たら暫くいちゃつくどころか出番も(おそらく)ないので、ぞんぶんに堪能できてよかったねお二人さんってことで。


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