戦記67「信じること、考えること、」
3章は外に飛び出しますよ! とかいっておいて、未だに室内にいるユウさんの明日はどっちだ。
戦記67「信じること、考えること、」
「どんな敵がいる、その敵が何をできる、そしてどんな作戦を立てられる―つまり情報がある。『知っている』ってのはそれだけで強みになることが多いし、その逆の『知られてない』ってのも強みになる」
その『知られていない』強さは、この前の戦争で歌姫も実感した。
それは言い換えれば、知られていたらなかった強さである。
「だから、絶対に喋らないこと。約束できる?」
「…例えば姉さまにも?」
「舞姫様にも」
「婚約者なのに?」
「誤解されるのはイヤなのでいうけど、もちろん舞姫様に伝えてある部分はある。それは他の人もそう。だけど、その全てに同じだけの情報を渡しているかっていうと、そうとは限らない」
「…なんで?」
非難の思いすらこもってそうな歌姫のその問いと視線に、
「その理由が考え付かないようなお姫様は、強くならない方がいい」
と、切り返した。
その、敵対的というか、高圧的というか、高いところから物を言うユウに、腹立たしさを感じた歌姫は、咄嗟に『ならいいわよ!』と言いそうになるすんでのところでその言葉を飲み込んだ。
(―自分で選んだんじゃんか)
ロウ竜が死んだあの時、ユウを選んだのは誰でもない自分。
選んだ理由はもちろん神鳥の音のことを考えてだが、それと同じぐらい、あの時、あの場で、一番自分の欲しい強さのイメージに近かったのが、ユウ。
舞姫のように上に立つ、王の強さでも、
ソウ竜のように兵を率いる、将の強さでも、
イン竜のように影を走り切る、個の強さでもなく、
個であり、将であり、時によっては王にすら成りえる、あえていうなら竜の強さ。
(―そう、ロウ竜みたいな)
一口に竜といっても、様々な竜がおり、竜となれた理由があり、つまり強さがある。
そんな数ある竜の中で姫が描く竜の姿から、やはりロウ竜は切り放しづらい。
だからロウ竜が、姫の中での強さの象徴となる。
個として強く、
将として聡く、
時に王の言葉すらかすませるほどに篤く、
そして自分の気持ちを落ち着け、考えを整理しているうちに、歌姫が気づいていく。
(―ダメだとは言ってなかった)
他言するなといっただけで、初めから門戸を閉ざしているわけではない。
(―あたしの言葉、疑ってなかった)
『強くなりたい』という言葉がウソでないと、冗談であると笑っていないからこそ、そんなこともできないなら目指すべきではないと言っている。
(―なら)
歌姫は目を閉じ、
(―考えよう)
なぜ、ユウは自分の能力を、大切な人にすら明かさないのか?
もし、その言葉がウソでないなら…大切に思っているという気持ちがウソでないなら、そこには理由がある。考えがある。
そしてそれを考えるということは、前提を認めて初めてできることであり、それは疑似的ではあったが…
(―…そうね、そういう理由なら分からなくもないか)
相手の言葉を『信じる』ということに他ならない。
(―変なの)
自分の中で起きた僅かな変化にくすぐったいような、気持ち悪いような、なんといっていいのか分からない、まだ名称を付けるほどではない何かを感じながら…
「わかった。誰にもいわない」
眼を開けた姫のその声から、軽さは抜けていた。
そしてユウは、
「OK、信じる」
と、先ほどまでとは打って変わって軽く告げると、扉の鍵を閉めた。
歌姫がつばを飲み込むようなそぶりを見せたが、それは身の危険を感じて…というわけではなく、それだけ重要な話を聞かされるのだという心構えである。
「まず覚醒の前に、格納についてだけど」
「え、ちょ、待って。聞かないの?」
「何を?」
「だから、理由。アンタがなんで教えないのかについて」
「今、考えてくれたんでしょ?」
「考えたわよ」
「なら、OK」
と席に戻るユウに噛みつく歌姫。
「OKじゃない! なんなの、考えさせといて聞かないとか、どういうつもり!?」
「や、だって、別に理由はなんでもいいんだもの」
「はぁ?」
「どんな理由であるにしろ、姫はそれに納得したから約束してくれるんでしょ? なら、姫は喋らない。だから、どんな理由でも構わない」
「それがとんでもなくバカみたいな理由だったらどうすんの?」
「どんな理由でも真剣に考えた末に納得してくれたんならその思いは間違いないでしょ?」
『それに』と歌姫が反論する前に言葉を繋ぎユウは、
「バカみたいな理由しか考え付かないと思ってる人に、こんなに真剣に相手すると思う?」
と、笑いながら問うた。
「…アンタ、心底っ、腹立つわ」
「褒め言葉と思ってもよろしい?」
「えぇ、えぇ、これ以上ないほどに褒めてるから、評価が落ちないうちに説明してくれると有難いんだけど?」
「じゃ、ご希望に応えて始めましょうか」
と、ユウは説明を始めた。
最初に、モノを出し入れできる『格納』能力について。
次に、格納中の道具から力を引きずり出すが、使用後は反動で動けなくなる『覚醒』の能力について。
それらの説明を聞いたうえで、歌姫は尋ねた。
「七色の鳥を呼び出すには覚醒の能力を使わないと…道具の力を呼び出さなきゃいけないってことは、母様も覚醒の能力をもってたってこと?」
「いや、たぶんそれは違う。『能力』って呼ばれてるようなものは、異世界から来た人間の中から、たまーに発現するものでね」
「たまにってどれくらい?」
「んー、十人に一人より多いってことはないんじゃないかねぇ…」
断定できない理由には、調査量が少なすぎるということもあるが、他には異世界から来た直後に死んだり行方不明になっている人間が多いというのもある。
実際、ユウと共にこちらの世界にやって来た者のほとんどは死亡、または行方不明であり、ユウがその動向を知っているのは自身を含めても十人に満たない。
仮にその全員がなんらかの能力をもっていたとしても、二百人中十人。パーセントでいえば、五パーセント程度である。
「いずれにしろ、巫女姫様はこの世界で生まれた人でしょ?」
「うん、それは間違いないはず」
「俺が調べた限り能力は遺伝しないし、異世界からきた人間の子孫だからといって発現もしない。異世界からやってきたその人にだけ現れるから―」
「覚醒の能力がなくても、七色の鳥は呼べるはず、か」
ずず、と音を立てて紅茶をすする歌姫にユウが補足する。
「で、そこを考えていくにあたり次の話題。覚醒は確かに道具を元に身体能力を強化したり、やれることが増えたりするんだけど、道具によって何が起きるかぜんぜん違うんだわ」
例えば、といいながらユウが愛刀の黒い剣―ナナシを呼び出す。
「この剣を覚醒に使うと、身体能力が異様に上がる。特に打たれ強さが極端に上がる」
そして次に取り出したのは、投げナイフ。
「これは覚醒に使ったことはないけど…仮に使ったとしたら何が起きると思う?」
「んー…身体能力の強化じゃないの?」
「たぶんね。じゃぁこの投げナイフと同じ形の投げナイフがもう一本あるんだけど」
そして取り出す二本目のナイフ。
「このナイフだと、どうなると思う?」
「強化…じゃないの?」
「たぶん、そう。だけど、さっきのナイフと同じような強化とは限らない」
「強化はされるだろうけど…打たれ強くなるかもしれないし、腕力があがるかもしれないってこと?」
正解、と頷くユウ。
「同じ職人が、同じような材料で同じ時期に作った同じ用途の道具でも、何が起きるかは道具次第でかわる。一応、武器や防具は身体能力の強化が多いとか、そういった方向性は掴んでるけども、厳密にはわからない。そして」
と前置きし、武器を一通り片付けてから出したのは、爆弾と回復薬。
「回復薬だと?」
「え…なんだろ、回復なんだから、治癒系?」
「じゃぁ爆弾は?」
お読みいただきありがとうございます。
ユウさんの能力解説にもう少々お付き合いください。




