戦記66「遅く起きた朝に」
これぞまさに王様のブランチ。
戦記66「遅く起きた朝に」
各地で様々な騒ぎを生むことになったユウ王…ユウ王戦記では、この辺りから『ユウ竜』という表記から、『ユウ王』または『ユウ』という表記になっていたのでそれに倣い、ユウはというと、
「昨晩はお楽しみでしたね」
昼過ぎに、ボウに睨まれていた。
「いえ、違いますね。昨晩もお楽しみでしたね、ですね」
場所は、神楽月に宛がわれた私室。
無駄に歩かねば欲しいもの一つとれないほど広くもなく、かといって私物を置くと人の入るスペースがないというほど狭くもなく、家具や私物を置いても数人が談笑できる程度の広さの部屋である。
内装は全般的に神楽月のテイストでまとめられているが、一部に洋風といわれるような雰囲気のものがあり、これらはボウが運び込んだり、ユウが能力で格納していたモノを並べたりした結果である。
アンバランスといえばそうなのだが、その雑多感とでもいうのだろうか…入り混じった様子は、人によっては揶揄もされるだろうが、一方でどこか面白みや居心地の良さがあり、部屋主の人柄を髣髴とさせる。
「仮とはいえ王になっても変わらないその姿勢、感服いたします」
尖った声ながらも、いつものように昼食に近い朝食と紅茶を用意するボウではあったが、ここ数日その紅茶の味が苦く感じるのはユウの心に原因があるのか、または実際に苦いのか…
「いや、あのね? 断ってるんですよ? 断ってるんですけどね?」
「断りきれないのなら同じことです」
「でもね? ですがね、ボウさんや。実際イン竜の相手をしてみればわかると思いますが」
「そういう趣味までおありとは、さすが筆姫様のお気に入りですね」
「見てるぐらいなら混じる」
「最低ですね…」
「だからそうでなく、本気のイン竜の力に抵抗なんてできないわけでしてね?」
「それで、今夜はどんな衣装をお願いしたのですか?」
「メイドさん」
ボウが素早い動作で投げつけた針をギリギリ躱すユウ。
「そうでしたね、私のご主人様は一人メイドがいる程度では満足できない気の毒な、いえ、奇特な方だったということを忘れておりました至らぬメイドで申し訳ございません」
「…拗ねてるの?」
「拗ねてません」
「寂しいの?」
「否定します」
「そうだ、いっそ本当に一緒に交わ―らないですねごめんなさい、分かったのでその肉をえぐり取る形の何かを仕舞って下さいお願いします」
因みにボウの怒りの発端は会話の流れからお察しかもしれないが、連夜に及ぶイン竜のコスプレコレクションショー+αのせいである。
というか、八割方+αのせいである。
ダークエルフたるイン竜の特殊な体質を聞いたユウは、『自然治癒力も高まるから』というイン竜の言葉から最初の夜を許した後、その蓄えられた力で半ば無理やり、半ば望んで行為に及ばされている。
力を得ては組み敷かれ、組み敷かれては力を得られ…
(―ポジティブフィードバックとでもいうのかね?)
などとどうでもいいようなことを考えるユウ。
尚補足だが、セーラー、ブレザー、セーラー、ブレザー、白衣を挟んでメイドでエプロン、というイン竜直筆のメモが後世で見つかっているらしいが、なんのことかは定かではない。ということになっている。
「ところで、サンドイッチと紅茶の量が多いように思うのだけど?」
「その理由ならまもなく分かるかと」
と、ボウがいった瞬間、答えがやってきた。
「まったく、毎日毎日とんだ寝坊助よね」
唇を尖らせながら部屋に入ってきたのは、歌姫。
舞姫が日頃から王族たることを意識して、やや品質の高い服を着ているのに対し、舞姫のそれはデザインこそ同じようなものだが、汚したり引っ掛けたりすることを前提にしているためか、やや薄手で安めな印象を受ける。
それでも、一般的な国民からみれば平服といった具合で、普段着というほど雑なものではないが。
「あ、ボウありがとね」
「一人分も二人分もそう変わりませんので」
「ボウも一緒に食べる?」
「いえ、私はやることがあるので一度失礼します」
そういって部屋を出ていくボウ。
歌姫はそれを見送ると、イスを引き寄せてテーブルにつき、ユウのために…ではなく、ユウと歌姫のために用意された朝食セットに手を付けた。
「なにこれ、おいしい…」
じっとボウの作った朝食に目を落とす歌姫。
「あんた今まで、毎日こんなの食べてたの?」
「毎日ってわけじゃないけど、ボウか他のメイドに余裕のある時は」
「他の?」
「ドラゴニアにいた時は、ボウ以外にも何人か専属のメイドがいたんでね」
「…もしかしてアンタって凄い人だったの?」
「いや、俺じゃなくて国が凄かっただけじゃない?」
神楽月にも例えば宮廷調理師や庭師などの奉公人はいる。
ただし、教育方針的な意味合いもあったのだろうが、神楽月の王女である舞姫にも歌姫にも、いわゆる『お手伝いさん』のような小間使いはいない。
そのため歌姫の中では『小間使いがいる=凄い人』というイメージがあったのだろう。
実際にはユウのいうメイドもお手伝いやハウスキーパー的な役割以上に、書類業務や情報収集、ボウのように場合によっては護衛や戦闘も行うといった、バトラーやフットマン、近衛兵的な役割を持ったされたりと意外と雑多なのだが、いずれにしろ『日常的に人を従えている』という点だけでも、驚くべきことであったには違いない。
「こんなにおいしい物毎日とか、贅沢な…」
とユウの生活に妬ましさ半分で文句を言いつつも食べる手を止めない歌姫。
「てか、食べないの?」
「食べるけどもその前に、なんで平然とここで歌姫が朝食摂ってるわけ?」
「アンタにとっては朝食かもしれないけど、あたしにとっては昼食なの」
「や、朝でも昼でもどっちでもいいけど、だからなんでまた俺の部屋で食べるわけ?」
口の中に入っている食べ物を紅茶で流し込んでから、答える歌姫。
「約束したでしょ、強くなるって」
「それと昼食にどんな関係が?」
「こうでもしないと、忙しい忙しいっていって相手してくれないでしょ? 朝は昼まで寝てるし、起きたら姉様と国政とか、ソウ竜と軍備とか、たまに時間が空いたと思ったら、来客がドンドンくるし」
「まぁ、それがお仕事だしねぇ」
「分かってるわよ。だから仕事終わりの夜ならいいかと思ったら、連日でイン竜と秘密の打ち合わせしてるとかいうし…」
「誰情報?」
「イン竜とボウ。アタシも参加するっていったら、絶対にダメだって」
「まぁ…それはそれは激しい打ち合わせだからね…」
どこか遠い目をしながら語るユウ。
「だ、か、ら、こうして時間合わせてあげたんでしょうが!」
ダシダシ、とテーブルを叩き、席に着くよう促す歌姫。
(―朝食は朝食で報告書読んだりしてるんだけどねぇ…)
と思いながらも、空手で席に着くユウ。
「ま、女の子の食事のお誘い断るのもどうかと思うしね」
「あー、いっておくけどそういう気持ちは一切ないから、その点誤解しないでね」
「はいはい、存じておりますよ。で、強くなるためなのは分かったとして、何をしたいんで?」
自分も朝食を摂りながら尋ねるユウ。
歌姫はユウが席に着いたのをみて、ユウの分の紅茶を注ぎながら本題に入った。
「まず聞きたいんだけど、神鳥の音を使った時、黒い鳥が出る時と、七色の小鳥が出る時の二種類あったじゃない? あれってどういう条件で変わるの?」
数秒…紅茶を飲む間を利用しながら姫の顔を見つつ考え、ユウが言う。
「…黒い時は何もしてない時で、七色の時は『覚醒』の能力を使ってる時」
「そういえばそんなこと言ってた気もするけど…具体的に『覚醒』ってどんな能力なの?」
本来、ユウは『覚醒』はもちろん『格納』の能力ですら解説はおろか、能力の所持すら明言しないし、使用を明らかにしない。
明らかにするのは必要に迫られてか、なんらかの効果を狙った時ばかりで、優越感に浸る程度のために能力を明らかにするのは馬鹿らしいと考える方の人間である。
故に、この時も少々悩んだのは確かである。
この時点で『覚醒』まで知っており、かつその詳細を把握している人間はボウを含めて数える程度しかいない。が、
「…絶対に他人に言わないって約束できる?」
「絶対って言われると難しい気はするけど、努力はする」
「仮に―」
軽い口調で答えた歌姫に、ユウが強い口調で切り出す。
「―もし、俺の覚醒の能力が前の戦争で相手にばれてたら、舞姫は死んでたかもしれない」
その口調に、朝食を口に運んでいた歌姫の手が止まった。
お読みいただきありがとうございます。
毎日アップはもうかなり前に諦めましたが、3章も2章程度にはコンスタントにアップできたらなーと思っておりますので、よろしくお願いします。




