戦記65「駆け巡る」
おはようございます、こんにちわ、こんばんわ、おやすみなさい、しいかです。
めでたく(?)新章突入です。
新章突入前に確認したら、読者登録が200人を超えてました。
これは書かざるを得ない…
新章突入前の感想の8割が女性を望む声。
これは、出さざるを得ない…
しかもユウ竜が刺されることを望む声。
これは、刺さざるを得ない…
そんな思いで始まる第3章『メガロポリス分裂編』。
まずは懐かしい面々やら新しいキャラやらも出てくる3章のプロローグに当たる戦記65をどうぞ。
戦記65「駆け巡る」
『ドラゴニアを追われた元竜、鈴星の新王となり、神楽月王女と婚約』
その見出しは、詳細な情報や噂話など、様々な文章と混ざり合い、人によって受け取る量や質に差はあれど、いずれにしろ大陸に広まった。
例えば、ドラゴニアでは、
「おーおー、ボンクラのくせにやるじゃねーか」
部下から報告を受けたのは、巨漢の中年。
ドラゴニアの政治を左右する大臣の一人。
「逃がした竜はでかかった、といったところかの?」
大臣の前には、竜姫。
竜姫は茶をすすり、大臣は報告書に目を通したり判子をついたりしながら国の行く末を話すのが、最近の日課となりつつある。
「でかかったかどうか分かるのはこれからだろ。王になるだけなら、誰だってなれらーな」
「お主は相変わらず、ユウには厳しいの」
呆れてはいるが、その物言いに…自分に対してもぞんざいな言葉づかいの大臣に、しかし竜姫は不快感はないらしい。
「敵に甘い顔する奴がどこにいるってんだ?」
「ドラゴニアにいるときから厳しかろう?」
「なにせ、そん時から敵だからな」
どこか前ドラゴニア王、キョウ王を髣髴とさせるような響く笑い声でいう大臣。
大臣、というには丹力の在りすぎるその笑いに緊張を覚えない者は、この国でも少ない。
「その理屈でいうと、あ奴らは敵ではない、ということか」
「あぁ、敵じゃーねー。敵よりも腹立たしいがな」
そういって、新国王ゴウ王とその側近達の報告がまとめられた書類の束を机の上に叩きつける大臣。
「勝手に戦争おっぱじめるわ、私利で徴収するわ、得体の知れない人材を登用するわ、俺が現役の竜だったら、あいつら全員なます切りにするところだぜ」
「全盛期のお主なら、まぁ、確かにできような」
元キョウ王下七竜、最強を謳われたのが、この大臣。
病をきっかけに前線から退いたものの、キョウ王の配下たることは辞めず、政治の分野でも剛腕を振るったドラゴニアを代表する大物政治家であり、竜姫の友人、と呼ばれるほどに交友の深い男である。
「で、お前さんの結婚式はいつになんだ?」
「その気はないらしいぞ」
「あぁ?」
「先日ゴウ王に確認した。妾を杜撰に扱う気はないが、崇める気もなく、三妃の一人として迎える気もないとな」
「そりゃ…まぁ、別にそういう決まりはねーが、もったいねーな。美人を前に」
「代わりにお前が口説いてくれると申すか?」
「キョウの嫁でなけりゃーな。抱こうとするたびにあいつの顔が浮かぶと思うと勃つものも勃たねー。悪いが他を当たってくれ」
「なら、今しばらく待つとするかの。モノにしてみせるとのたまった小僧がおるのでな」
「はっ、これりゃぁいいけどな…同じ大陸の西側といえども、ここまでは遠いぜ」
「十年も二十年も、妾にとってはそんなに変わらぬ。あ奴が誠に王になる器なら、いずれ訪れよう」
ユウ王の誕生と台頭を待ち望む者がおれば、
また例えば、巨帯都市同盟『メガロポリス』では、
「今すぐ、神楽月と鈴星に同盟要請を送るべきです!」
「ドラゴニアのゴウ王の恐ろしさを知らぬからそんな発言がでるのだ!」
「いっそ、独自に力を蓄えるべきでは? 資金力は、他の七大国にだって負けませんぞ!」
メガリポリスに参加する各都市の代表者が集う合同会議では、進退を左右する舌戦が繰り広げられ、
「…独自に動かざるをえないですね。トリノ」
「はいグラン様、トリノはここに」
「お茶会を開きます。参加者への声掛けを」
「畏まりました。御声掛け先は、いつもの旦那様がたで?」
「そうですね…いえ、違いますね。ご子息様とお嬢様を中心にいたしましょう」
「…なるほど。畏まりました」
会議に参加するほどに力を持つ者たちが、その会議が白熱する中動き出す。
「失礼グラン夫人、小耳に挟んでしまいまして…」
「謝罪の必要はございません、お聞き頂けるよう口にしましたから」
「さすがはご婦人…もしよければ、当家の娘もお邪魔させて頂いても?」
「えぇ、娘と仲良くして頂けるようなお嬢様なら、お友達もお誘いあわせの上、ぜひ」
まだ会議は定まっていない。しかし、定まってからでは遅いということを、彼または彼女らは知っている。
(―あの方とも、そろそろお逢いしなくてはなりませんね)
大きな組織が、大きな集まりが、大きな集団を動かす力を持つもの達がその報せを受けた後、その情報は個人の元へとも流れていく。
例えば、
「姉さん、こいつって、姉さんの言ってた奴の事ですか?」
「あぁ? なんやまた新聞なんて無駄なもん…ってユウやないか!?」
とある森に近い宿で大声を上げたのは、ユウ竜と同じくドラゴニアを追われた元竜、ヨウ竜。
「あ、やっぱり。これ、姉さんの後輩? 恋人? 許嫁? 舎弟? でしたっけ?」
「なんでもえーわ! てか王ってなんや王って!?」
「偉い人って意味ですよ」
「バカにすんな! つか結婚ってなんや!?」
「なんか王になったついでに助けた国の姫様と結婚して、国土合併するらしいっすよ?」
「分かれてまだ半月も経ってへんのに!?」
「このペースだと、すぐに嫁も竜も埋まっちゃいそっすね」
「アカン…こんなゆっくりしてる場合あらへん」
「今からそのユウって奴のとこ乗り込みますか?」
「まだや…なんかでかいヤマ一発当ててかやないと恰好つかん!」
「あー…それなら丁度いいのがあるっちゃありますよ。ただ」
「ただなんや!?」
「最悪、死ぬかもしれません」
「はっ…なんやその程度のことか。よし、それにしよ!」
「ま、姉さんならそういうと思ってましたけどね」
「うっし! いこか!」
「へい」
そしてヨウ竜と、どういう経緯でか手下となった女が森へと入っていく。
その頃には大陸の中央辺りにもユウ王の知らせは届き、
例えばペンシルグラードでは、筆姫が独自に得ている情報と一般に出回っている情報を見比べ、
(さて…ユウ様に負けぬよう、頑張りましょう)
「筆姫様! 南国より支援の要請が!」
「筆姫様! 難民が入国を求めてペンシルグラードへ列をなしてる模様で!」
「支援には各騎士団から混合編成で、難民は同盟国に分散で受け入れて貰うよう手配をお願いします」
「「はっ!」」
ユウ王が力を付ける時間を稼ぐため、西方諸国の諸問題を精力的に片付けていく。
その量は凄まじく、案件が届けば届くほど、やはり何者かの意図を感じずにはいられず、かといってその裏を探り切るには人でも足りぬという現状。
「姫様! 先日の問題が!」
「姫様! 同盟国からの問い合わせが!」
「姫様! お気に入りの先生の新刊が届きました!」
「今すぐに、新刊を確認します」
「「「「「「姫様!」」」」」
「冗談です…」
そして情報は西へと辿りつき、
「うおおおおおおおおおおお!!!」
「ど、どうしたんだい、残念な美人さん?」
「人のことを残念な美人とかいうな!」
と叫んだのは、残念な美人こと元ドラゴニアの竜、カイ竜。
回りにいるのは、日銭稼ぎで雇われている武器工場の職人たち。
そんな職人たちと昼休みに立ち寄った定食屋でたまたま開いた新聞に乗っていた情報を何度も確認すると、やがて涙を流し始める。
「お前、お前、なんだよ王様って、お前、すご、すごすぎんだろ…」
「ほらほら、鼻水ふきなってカイ」
「なんだよ、まさかそのユウ王さんとやら、美人さんの知り合いとかかい?」
「知り合いどころか、親友だ。てか、むしろ、その、なんていうか、将来を約束した仲っていうか…」
「「「「「へ?」」」」」」
「とにかくこうしちゃいらんねー…悪い! 親方にはカイは辞めたっていっといてくれ!」
「おい、どこいくんだよカイ!」
「ニューワールド! あいつと約束したんだ! もっと役に立てるようになってから戻るって!」
そしてカイ竜は隠していた飛空艇に乗り込み、さらに西の空へと旅立ったり、
「『残念』が付くとはいえ、あんな美人にあそこまで思ってもらえるとか、この男許せんな」
「「「「「「ああ、許せん」」」」」
『ユウ王許すまじ』が暫く武器工場と定食屋での合言葉になったり、
「うおぉーい、すまんがそこのデカブツ、そこに落ちてる新聞とってくやれ」
「お前、自分が売り物だって自覚あんのか?」
「それはそれ、これはこれ。おとなしゅぅ売られてやるから、とってくやれ」
「奴隷のくせに偉そうな」
「ま、偉いのでな」
売り物の自覚のない奴隷女が拾ってもらった新聞を見て、
「ふーむ、ほーん…王のぉ。王の奴隷なら、多少良い目にも合えるもんかのぉ」
と檻付きの籠の中から呟いてみたり、
「このユウ王から賜った剣が、 七石刀だ!」
「「「「「「うおーーー!!!!」」」」」
と、傭兵団が飲み屋で自慢してみたり、
「ユウ王?」
「ナニモノ?」
「おいしいの?」
「「クイモノか!」」
「いやいや、それぐらい誰かわからない人って意味でしてね?」
と、路上の芸人に弄られたり、
「はい、ユウ王には若い頃無理やり手籠めに…」
「けしからん! まったくけしからん! 誰かこのかわいそうなご婦人にご寄付を!」
と、妙な募金商法の題材にされたり、
「ユウ王様のおかげで、私達結婚できました!」
「さぁ、君もイン竜様の元で、新しい自分と結婚相手に出会おう!」
と、部隊員の呼びかけに使われたりと、
真面目なものから不真面目なものまで、大小さまざまに影響を与えたのだった。
しかし、そんな報せが届かぬ場所にいる者もいる。
例えばそれは、山の奥。
「では、いってくる。用心を忘れぬようにな」
「はいはい」
「返事は一回」
「はーい」
「まったく…相変わらず言葉づかいを覚えない子だねぇ」
ユウ王などとは縁遠いところで老婆が女に見送られたり、
(…ユウ…竜…)
人目につかない暗い場所、言葉にできぬその名を胸の内で呟くモノが居たり、
「その程度で王を名乗るとは片腹痛いわ!」
「ぬかせ! 今日こそキサマの首はねとばしてくれるわ!」
何かの為に何かを犠牲にし、戦いに明け暮れる者もいた。
それらは一見、全てがバラバラのようで、しかし繋がりがあるようにも見えて、しかしその実、この時点ではまだどちらでもあり、どちらでもなく、言うなれば『ただ点在している』に過ぎない。
しかしそれらの点は、ある瞬間…誰かが選びとった瞬間、点と点が繋がり、意味ある線へと変化する。
星と星を結んで浮かび上がる星座のように、
始まりと終わりを結んで書き上げる文字のように、
そして、そんな選ぶ権利を持った者の中から、ユウ王戦記が結んでいくのはもちろん、
「ユウ様、そろそろお目覚め下さい」
「ん…おはよう、ボウ」
ユウ王の生き様、物語。
さて…
それでは、そろそろはじめよう。
異世界から来た少年は五年の歳月を経て竜となり、
国を追われて王となり、
姫との婚約を交わした後に、どんな点を選び、線としていくか―
ユウ王戦記―第三章―
【メガロポリス分裂編】
―はじまり。
お読みいただきありがとうございます。
というわけで3章スタートです。
先に明かしますが、3章はあっちこっち…というほどではありませんが、神楽月から外に出ていくことなどもあり、わりと新キャラ達がわっさわっさでてきます。
わっさわっさ出る反面、ばっさばっさ出番のなくなるキャラも出てきます。
もしお気に入りのキャラが出なくなったときはどうすればいいか…
そんな時は、祈ってください。
祈りが通じれば、きっと出番がやってきます。
願いは通じる。そんなステキな世の中であることを、ボクは願います。
でも、たぶんヨウ竜とカイ竜のヨウカイコンビは、3章終わるぐらいまでは出てこないでしょう。ユウさんにはユウさんの物語があるように、彼女らにもまた物語があるのですから…
しかし、必ず彼女たちは戻ってくる。
だから、ヨウ竜のエセ関西弁を聞きたい方、ぐっとこらえてください。
カイ竜の鼻水を拭いてあげたいボク、ぐっとこらえてください。
会えない期間がその思いを増幅すると、なんかのハウツー本で見た気がします。
そんなこんなで、第3章もよろしくお願いいたします。




