戦記62「処刑にまつわるエピローグ」
好きなキャラの話はどうしても文章量が多くなりがちです。
その観点から言うと、現状もしかしたら筆姫よりもロウ竜の方が好きなのかもしれません。
そんなかんじで、処刑にまつわるエピローグをどうぞ。
戦記62「処刑にまつわるエピローグ」
その式は、神聖なる神殿の中庭で…歴代の王達が眠り、根本だけしかないとはいえ確かな存在感を示す神樹の前で行われた。
本来、処刑が中庭で行われることなどありえない。
罪人の血で中庭を汚すことなどあり得るはずがない。
そのありえないことが起きたのは、舞姫の断固たる命と、ユウ竜からの提案があったからに他ならない。
「ここで最後を迎えるとは…いささか恵まれすぎておるようにも思いますなぁ」
これから殺される者とは到底思えない落ち着いた声でいうロウ竜。そこに嫌味は感じない。
だからこそ、その場にいた多くの者は心が揺れる。
本当にロウ竜を処刑しなければいけないのか? と。
「じい…」
「そんな顔をしてくださいますな。心置きなく、逝きとうございます」
片手を失ったとはいえ、縛られているわけでも閉じ込められているわけでもない。
逃げようと思えば逃げれるだろう。
しかし当人にその気がないからこその現状である。
ロウ竜は他国と共謀し国家転覆をもくろんだ犯罪者だ。
例え心情がどうであろうと、例え敵という壁を演じたのだとしても、事実は変わらない。
だが、真実は変えられる。
王の亡骸と引き換えに協力を拒めなかった臣下として、
国を思い立ち上がるを得なかった民として、
姫達の温情を受け、歴史から身を隠すこととなった育ての親として、
贖罪のために今一度新しき国の竜として、
どういう話だって、ユウ竜は考えたし、舞姫や歌姫からも伝えた。
が、そのことごとくをロウ竜はつっぱねた。
「それでは、鈴星の民が納得いたしますまい」
これまた結果だけ見れば、死んだのは鈴星のリン王だけで、
そのきっかけとなったのは神楽月のリン王の遺言で、
鈴星の王位と国土はユウ竜を通して間接的にとはいえ神楽月にとられ、
なのにロウ竜は…神楽月を象徴するともいっていい竜が生きている。
「必要なのですよ。新しい世代にその役目を回さないために、今、被害者と加害者が」
加害者であるリン王とロウ竜、二つの国の二つの代表格は死に、
被害者であった新鈴星王と新神楽月王達の元、国が一つとなる。
けして、加害者を神楽月に、被害者が鈴星になってはいけない。
その考えを曲げることは誰にもできず、結果、せめてもの手向けにとでも考えたのか、ユウ竜より『処刑は神楽月リン王の葬儀の後、場所は神殿中庭にて』の提案がなされ、舞姫がそれを承諾した。
その提案に、他でもないロウ竜自身が難色を示し、尋ねた。
「納得しますかな、それを、他の者が」
「納得させます。神楽月の王は…私です」
正確に言えば、まだ舞姫は王ではない。
ユウ竜が格納して奪った神樹の根は、戦いの後舞姫に渡り、確かに次の王になる権利は有している。が、その結果が出るのは…正式に王として認められるための儀式があるのは約一月後、次の満月の時である。
とはいえ、元々継承権第一位である上に、自と自らに協力してくれた者達の力で、神楽月を取り戻したのは確か。現状国を代表する『王』に舞姫より他に妥当な者はいない。
それでも、文句を言う者がいないことはなかった。
が、文句を言ったほとんどは高官達…舞姫を支援するでも、ロウ竜に文句をいうでもなかった、鈴星リン王を新たな王として迎えるための儀式を進めた者達。
そんな者達に、ユウ竜はいった。
「反逆者の枠を広げることはしたくないんだけどなぁ」
と。
今回の一件、ロウ竜がその命をもって償うことで、他の人間の罪を問わないことになっている。
しかし、である。
確かにグレーゾーンではあるが、鈴星リン王に抵抗するどころか儀式を認めた者達に非はなかったのか?
ガン竜の言葉に従い、剣を向けてきた兵士達に罪はなかったのか?
そういう話を広げていくと、処罰の枠は広がっていく。
そして実際に罰するかどうかは勝者に…舞姫達に決定権がある。
舞姫軍は元より、戦争終結後の国力の低下を懸念して、極力犠牲者が少なくなる戦術を選んでいた。遺恨が少なくなるように配慮もしており、戦場で飯をふるまったのもその一環である。
その方針は、純粋に犠牲者を減らしたいと願った舞姫の良心からくるものであり、同時に国家運営を考えたユウ竜の政略でもある。
「だからもしそれを含めて判断が気に食わないというなら、見直してもいいんだけど?」
ユウ竜がその発言を残して鈴星に去った後、それでもまだ悪し様に文句をいっていた神楽月の高官五人の内、鈴星以外の他国と密命を結ぶなどしていた三人の不祥事がボウの調べによって発覚し、国外追放を受けた。
そして残りの二名…考え方が違っただけで、リン王を迎えるに至った時も、ロウ竜の処刑の場所に関しても、国の事を思い苦言を呈していた二名は、舞姫と歌姫が説得を繰り返し、不承不承ながらも認めさせるに至った。
その条件として、処刑は非公開に行われることとなった。
長く国を守った、英雄といってもいいほどの竜としては貧相な…国王の葬儀と比べるようなものではないが、その最後の場としては酷く飾り気のない最後である。
ロウ竜の最後を見たいと願う民は少なくなかったろう。
ロウ竜の最後の言葉が欲しいと願った兵は少なくなかったろう。
しかしロウ竜は英雄ではなく罪人。
崇め奉られ、尊敬の念を持たれたまま死なれてはいけない…あくまで、罪人として。
それが高官達が下した判断。
掴みかからんばかりに憤った歌姫は、捕らわれている最中もロウ竜だけがその身を案じてくれていたことも説いたがそこだけは譲らなかった。
それは高官達の保身もあったかもしれない。だが、同時に今後を思った時、舞姫達を中心に神楽月と鈴星を結束させるためでもあった。
それ故それを撥ねることはできず…舞姫はそれを承諾し、そしてユウ竜もまた、
「…条件はそれだけだね?」
神楽月リン王葬儀の後、高官達と直接やりとりをし、舞姫と歌姫に何やら説得…というか相談事を行ってから、それを了承するよう勧めた。
こうして、今、ロウ竜の処刑へと至る。
改めて、式に並ぶ者を確認する。
ユウ竜、
舞姫、
歌姫、
イン竜、
ソウ竜、
ボウ、
そして高官や兵士が数名程…
それが全て。
「さて。そろそろお願いいたしますかな」
血が飛び散らないように敷かれた布の上に、軽い足取りで座すロウ竜。
近づいたのは、処刑用の刀を手にしたソウ竜。
「…執行は某が」
ユウ竜でもなく、
姫達でもなく、
ましてやただの処刑役の兵士だなに任せられるはずがない、
他の誰でもない、その役目だけは譲れないと…ソウ竜が言った結果である。
「ソウ竜がのぉ…」
自分と違い、息子に似て背の高い孫を座したまま見上げる。
髪の色も、肌の色も自分とは違い、息子の嫁にきた娘にそっくりで、
しかしその目だけは…『強い』と評判だった舞姫の祖父に戦いを挑んだ頃の自分に似ているなと思いながら…強いと思いあがっていた自分の人生を変えた、誠に自分が仕えた、たった一人の王を得る前の自分に似ているなと…そんなことを思いながら見上げる。
「なにか?」
「いや…慣れない獲物で、手元が狂われてはかなわんなぁとのぉ」
「心配はご無用」
試し切りとばかりに、手近な枝を刀で素早く切り落とすソウ竜。
名刀とは程遠い刀であるにも関わらず、その切り口は鋭利で鮮やかである。
「何時何事があってもいいよう、鍛えております」
「…まぁまぁじゃな」
「お爺様よりマシかと思いますが」
「武器は性にあわんからの」
「いずれにしろ、腕を確かのはずです」
「しかし腕が立つからといって、戦に勝てるというわけでもないからの…お前はもう少し、賢く戦うことを覚えるんじゃな。でないと、上手い相手に足元をすくわれるぞ」
チラリと二人はユウ竜をみやり、
「ならばその上手さを上回るほどに腕を磨けばよいだけのこと」
「だからお前は半人前だというに…と言いたいところじゃが、それも一つの在り方じゃな」
言われ慣れた窘めの後に続いた聞きなれないセリフに、ソウ竜が目を見開く。
「お前はお前の思うように強くなればええ。ワシとも息子とも比べる必要などない。ソウ竜はソウ竜になればよい」
それは初めての、
ソウ竜が竜となってから初めての、ロウ竜から貰った『認め』の言葉だった。
「いろいろというてはきたがな。そこそこにはなっておるよ」
「…いえ、某は…まだまです」
「分かってるならよい。姫様達をよろしくな」
「…元よりそのつもりです」
下を向いたソウ竜の顔を見ないように…ロウ竜はイン竜へと視線を外す。
「孫が迷惑かけるじゃろうが、よろしくな」
「ほどほどに承知しました」
「あと、仮装遊びはほどほどにな」
「残念ですが、そちらは聞けませんねー」
普段と同じような、
影に日向に国を支えてきた日々のままの笑みを見せあい、会話が終わる。
「舞姫様」
「はい」
お読みいただきありがとうございます。
一話で終わらせるつもりが、気が付いたら二話分になっていました。
神楽月リン王と鈴星リン王は合わせて1話ぶんしかなかったのにこの差…
まぁ…最後の晴れ舞台? なので大目に見てやって頂けると幸いです…




