戦記61「葬儀にまつわるエピローグ」
思いのほか投稿間隔が空いてしまいました。
戦記61「葬儀にまつわるエピローグ」
ユウ竜が筆姫に書き上げた妄想小説…とでもいうのだろうか。
を渡すと、筆姫は騎士団から数名を残し、国へと戻っていった。
「本当は、ご葬儀にも参列したかったのですか…」
ペンシルグラード本国に、西側にある同盟国から援助要請が入ったのが一昨日。
鈴星にいる筆姫の元へ知らせが届いたのが昨日の夜。
そして急ながら帰国を告げたのが、本日の朝食の席。
まだ、開戦にこそ至っていないが予断を許さない状況が続いているらしく…もしかすれば、複数の国に影響を及ぼすほどの大きな争いへと発展するかもしれない、とのこと。
「舞姫様と歌姫様とボウ様と…神楽月の皆様にもよろしくお伝え下さい」
去り際に、昨日の夜みせた表情をユウ竜にだけ見せ、
(―昨日いってたのは、そういうことね)
納得しつつユウ竜は今日の雑務へと取り掛かり、そして翌日。
ユウ竜の…王としての仕事が待っていた。
「これより、先代リン王のご葬儀を執り行う。なお催するは、先代鈴星王リン王よりその責務を託された、我、ユウ王が行う」
仕事は、葬儀の進行役。
約束通り、リン王の亡骸を国葬でもって弔ったのだ。
そしてこれが、ユウ竜が鈴星の王として正式に国民の前へと姿を現した初めてでもある。
「あの方が、新しい王?」
式に辺りユウ竜がみにまとっているのは、鈴星の伝統的な、白を基調とした礼服。
立ち居振る舞いもあくまで伝統と作法に乗っ取り、進行役を務める。
といっても、実際に式の運営を行うのは鈴星の高官達ではあるが、だからこそ国民達や、国民に紛れユウ竜を値踏みしにきた周辺諸国の要人達は知る。鈴星は確かにユウ王の手に委ねられ、鈴星の国政を担う者たちはそれをよしとしているのだと。先代王を打ち取った者が新たな王となることは火種にならないのだと。
そしてそれはユウ竜の思惑のうちであった。
「嫌ってくれてて構わない。ただ、鈴星の為に国葬だけは成功させたい。頼む」
国葬にあたりユウ竜が、関係者一同へと…リン王から言葉を受け取っていた高官だけでなく、葬儀に関わる末端に至る全員にユウ竜はそういい、協力を願った。
内政の揺らぎを狙った新たな敵を抑えるために、
新しい王との不仲を炊きつけ国内の利権をむさぼろうとする企む者に見せつけるために、
むろん、全てを抑えることなどできはしないのだが…
少しでも国の為になるならばとユウ竜は、全員に協力を願い、そしてその願いを聞き届けた物だけが、今回の運営に参加している。
そもそも、リン王の神楽月遠征に反対していたものの多くや、ユウ竜が王となることに抵抗がある者など、どんな理由にしろこの国葬への協力を断った者達は、その瞬間からユウ王の名の元、国政から外された。
願いを聞き入れた者の仕事量は増えに増えたが、代わりに残った者を中心に大きな役割変化が起きた。手配や連絡など国葬には様々な者や物がいる。それを担う以上、そこには実利が生まれる。つまりその瞬間、肩書きこそ変わらないものの、実権が移ったのだ。
そしてようやく官僚達は気が付いた。
すでにこの時から、神楽月との合併に向けての支度は始まっていたのだと。
真心から国や王に仕えることができる者、
理性でもって心を抑え仕事に従事できる者、
ユウ竜の考えを見透かして立ち居振る舞うことができる知恵ある者、
そういった者が国葬を通して選び抜かれ、そうでない者の実権がはく奪された。
チョウ竜の言葉を借りるなら『愚鈍』な官僚は、慌てて対抗策や懐柔策を打って出た。が、新王の誕生と旧王の国葬という断りにくい環境のせいで、古い関係は分断されやすくなっており、ほとんど実を結ぶことはなかった。
(―それでも一部は入り込んできましたが…いえ、実を結ぶほどに挽回できる実力者なら手元に戻してもいい、ということなのかもしれませんね)
ユウ竜の考えの全てを聞いたわけではない以上、どこまでユウ竜が考えていたのか理解できるほどチョウ竜とユウ竜の関係は深く無い。ただ、
(―異世界から来た少年が口にする『王』などいかほどのものかと思っていましたが…確かに『王』ですね)
ユウ竜が口にするその姿や光景が、漠然とした夢物語やご都合主義に溢れる幻想物語ではないのだということ程度は理解するチョウ竜。
「続いて、民との別れの儀を」
様々な思惑がある中、式はやがて国民の参列へと移った。
全国民が参加したわけではないが、それでも参列は多く、別れを告げる列は夜まで続いた。
その別れをユウ竜はほとんど休むことなく、国民の顔が見える位置で…視線のやり取りができるほどの距離で見届け続けた。
頭を下げたり、泣き咽びいたり、苦笑を浮かべたり、礼を捧げたり…そういった参列者に反応を返しながら、見届け続けた。
そして、埋葬へ。
鈴星の国名の由来ともなった、星のような形をした鈴蘭で埋め尽くされた棺の中、愛刀と共に横たえられたリン王は、代々の鈴星王が眠る墓所へと運ばれ、埋められ、墓標へ名を連ねた。
その墓標に、ユウ竜が言葉を添える。
「後の歴史で汚名を被ることも厭わず、今と先に生きる者のため、自国も他国も敵国すらもその懐に誘おうとした慈愛の王に『隣』の字を送り、我ここにそなたを『隣王』として歴史に刻む」
死した者へ字を送る。
それはこの世界における最上位の賛美。
生前、何かを成した者を、大いなる影響を与えた者を、歴史に刻まれるべき人間であると知らしめる、故人の為の行為。
そして同時に、文字を与える者が己に責務を課す行為。
名を与えし者が、与えられた人物と同等かそれ以上である、またはそれと同等かそれ以上になるという宣言であり、与えた者の名が高まることによって、与えられた者の名もまた高まるという…生死に分けられて尚、互いに高め合う程の者であることを宣言し、それに挑戦するという行為。
「…どうか悩める者の隣に、あなたの風があらんことを」
神楽月の…盟主の隣に位置する国の王に、ともすれば格下といわんばかりの『隣』の字をあえて送ったユウ竜の真意に、名誉よりも何よりも隣人の事を思い続けた人柄を偲ばずにいられないその文字に、鈴星の民達は、拍手を送る代わりに嗚咽を送ったのだった。
かくして鈴星におけるユウ竜の大役は一つ終わり、
ユウ王の名は、隣王の名と共に国民へと受け入れられた。
「チョウ竜、ガン竜、後は頼む」
そしてユウ竜は葬儀が終わると、神楽月へと早馬で帰っていった。
ユウ竜が去った後、国の実質を取り仕切るのは高官達と、残ったチョウ竜とガン竜。
二人の竜は、自分達が真に使える王は『隣王』のみとしながらも、神楽月と鈴星が正式に合併を迎えるその時までは協力することを約束している。
となれば、王とはいえ新参に過ぎないユウ竜にできることはあまりなく、むしろ新しくなる国の為に行動しろ、と鈴星での庶務から解放された。
とはいえ、肩書き故にやらねばならないことも…なくても参加はしただろうか、神楽月でやらねばならぬこともある。
それが、もう一人のリン王の…神楽月リン王、舞姫と歌姫の父親の葬儀への参列。
「これより、神楽月王、リン王の葬儀を執り行う。なお催するは、神楽月王リン王のご息女である舞姫様が行い、その補佐を同じくご息女である歌姫様が担うものとする」
ユウ竜が神楽月へと戻ってきたのは、式の始まる直前…
すでにほとんどの参列者が揃っており、舞姫はもちろん歌姫やソウ竜、イン竜ともまともに会話する時間もなく、席へと押し込められた。
(―遠目で見る分には…落ち着いてる、かな?)
視線の先にいるのは、粛々と進行を努める舞姫と歌姫。
鈴星に到着し、神楽月リン王の死に纏わる真実を聞いた後、ユウ竜はすぐにその話をまとめ、王の遺品と遺体…ではなく遺骨を使者にもたせ、神楽月へと送った。
それを受け取った舞姫を中心とした神楽月の面々は、国葬を開くことを決定。
すぐにでも開くべきといった行政担当者達に対し、ユウ竜が来てから開くべききとした舞姫達との間で多少の問題は発生したのだが、結果としては舞姫側の言い分がまかり通ることとなった。
もっともこのいざこざが、合併後の神楽月に多少の影を落とすことになるのだが…それは現時点では別の話である。
「以上を持って、葬儀を終了とする」
式は大きく荒れることなくつつがなく終了し、王の遺骨が納められた木箱―骨壺のようなものといっていいだろう。
神殿の中庭に植えられた樹で作られた専用の箱に納められた王は、中庭の一角にある安置所のような地下墓所へと置かれ、ようやく自国へと帰ってくることができたのだった。
そして参列客のほとんどを返した後、
ごく僅かな者だけがその場にいることを許されたもう一つの式…とは本来いわないであろう。
だが、ユウ王戦記に記された表現に倣い、今は『式』と呼ぶことにする。
煌々と月が照らす真夜中に、もう一つ、式が執り行われた。
「…ではこれより、反逆者、ロウ竜の処刑を執り行う」
お読みいただきありがとうございます。
ちらほらと次章の準備をしているのですが、少々メンバー構成で悩んでます。敵は決まっているのですが、誰が参加して誰が待機メンバーになるか…今回の反省で、手札の切りあいが少し増えただけで想像以上に長くなることもわかったので、そこらへんも考えつつ、でもユウ竜は思いの力だけでどうかになる戦闘にはしたくないので…まぁ考えるだけ考えても、実際に書き始めると変わることなんてざらなんですけどね…小心者なので考えておかないと落ち着かないんですよね…




