戦記53「中庭の攻防」
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戦記53「中庭の攻防」
それは、もうもうと立ちこめる煙に、黒鳥が飲み込まれるように映った。
互いに譲りがたい戦いの最中にも関わらず、ほとんどの者が身動き一つとれずに、その光景に釘付けになった。
上空からのユウ竜の攻撃…それがどんな結果となったかは、
「ぬっはっはっは!」
リン王が愛刀で起こした風で視界が明るくなってから浮き彫りとなった。
「前後左右は思考の内なれど、よもや天から降りてくるとわな!」
死んではいない。
が、無事でもない。
右足の膝より先が、本体からぶつぎりにされたリン王の姿。
愛刀を杖にし立っているが、バランスが取れないのか体がぐらつく。
そこにユウ竜が自身の愛刀―ナナシを片手に襲い掛かる。
が、
飛んできた腕に…比喩でもなんでもなく、千切れた右腕に殴り飛ばされるようにユウ竜の体が宙に舞った。
「リン王!」
千切れた自分の右腕をユウ竜に投げつけたロウ竜が、リン王の名を呼ぶ。
リン王はもげた右足を掴み、不思議と血の流れていない右ひざへと押し当てる。途端、右ひざから、細い根のような物が伸び、千切れたパーツを引き寄せた。そして癒着。
「さすが神樹の根、いとも容易く治しおったわ」
地面を蹴り、足の具合を確認するリン王。得られる感触は、千切れる前と寸分たがわない。
「舞姫!」
ユウ竜の言葉に、はっと…自分の攻撃でロウ竜の右腕を切断したショックから我に返る舞姫。
しかし、僅かに遅かった。
ビシャリ、とロウ竜の切れた右腕から溢れる血が、舞姫の片目に降り注ぐ。
突然奪われた視界、そしてそれが血液によるものという自体に動揺を隠せない。そこにロウ竜の蹴りが入り、姫の体が宙に飛ぶ。
姫が飛ばされながらも、空中で姿勢を整える。
「舞姫!」
「大丈夫です、ユウ様私なら―」
「できないなら帰れ!」
ユウ竜がロウ竜の腕を庭の奥へと蹴り飛ばしながら、ロウ竜へと襲い掛かる。
「がぁぁぁぁ!」
ロウ竜が、獣のような声を上げ陣を―ユウ竜をはめた必殺の陣を張る。
「何度も喰らうか!!」
ユウ竜の背中から、鳥が生まれた。
色の違う六匹の鳥が生まれ、そのうち二羽が陣へと突撃し破壊し、残りの四羽がロウ竜へと四方から襲い掛かった。
「神鳥の音を扱えるとは、恐れ入ったぞユウ竜!」
鳥と共に攻撃をしかけようとしていたユウ竜に、リン王が突撃しながら愛刀を振り下ろす。
ユウ竜はそれをかわし、槍を呼び出し、投げつける。
切るリン王、
鳥を討ち落とし迫るロウ竜、
ビンを取り出し辺りにブチマケ、火種を投げ入れるユウ竜。
燃え盛り、距離を取らざるを得ないロウ竜。
その攻防を見て、姫は叫んだ。
「ユウ様!」
ユウ竜が見る。
姫が見つめ返す。
かけられた血を拭いながら、姫が僅かに降り返る。
姫が茫然とした理由…それは、ユウ竜が黒鳥と共にリン王を攻撃した時のこと。
鳥を見たロウ竜は、いち早くそれに対応した。
(―よもや、神鳥の音!?)
天才とよばれた巫女姫に並ぶほどの大きさの鳥、その巫女姫ですら神鳥の音を操り切るには数年の時を要した。
それを知っているからこそ、ロウ竜の計算から外れていた一手。
しかしその衝撃に体が固まるほど無様ではなかった。
ロウ竜は握っていた鎖にありったけの気を込めると、それを鳥へと投げ放った。鎖は鳥を縛り上げるようにぶつかり、右足こそ千切られたものの、一撃死だけは避けた。
一方、ロウ竜の他にも反応していた者がいた。
それが舞姫。
舞姫はロウ竜よりも先に、ユウ竜が来たことを知っていた。その攻撃がどんなものかまでは知らないまでも、強襲をかけることを知っていた。
だから動けた。
鎖を投げる動きをとったロウ竜を止める為、姫は鎖を壊すつもりで気を込めた手刀を放った。が、ロウ竜はその手刀から鎖を守るため、自分の右腕を差し出した。
一時的とはいえ出せる気のほとんどを鎖に託していたロウ竜の腕は脆く、包丁で食材を切るようにすんなりと切り落ちる。
それが、姫の思考を一時奪った。
覚悟を決めてきたはずだったが、どこかで自分の攻撃でロウ竜が死ぬことなどないと…致命傷に等ならないと考えていた結果だった。
(―私はバカですか)
いくつものことを積み重ねユウ竜が作りあげた一番のチャンスを、
いくつもの命と傷を重ねてここまできたことを、
たかが一瞬のうちに、一番痛いところにいないといけないはずの自分が、痛いことを避けようとしていたせいで…自分の思いの前に立ちはだかる者を倒すことを避けていたせいで、台無しにした。
(―やらなきゃ)
例え神鳥の音が仕えても、ユウ竜一人で、ロウ竜とリン王二人には勝てない。
いや、そんなことは問題ではない。
(―違う…私がやらなきゃ)
もう、姫にも分かってきた。
ロウ竜が敵である理由。
だから、例えユウ竜一人でロウ竜とリン王に勝てるのだとしても、それは自分でやらないといけない。
だから、
「ユウ様!」
声を張り上げ、言う。
「―やれます!」
ユウ竜が、返す。
「任せた!」
ユウ竜から再び六羽の鳥が生まれる。
しかし生まれた鳥はロウ竜でもリン王でもなく、舞姫の元へと集まる。
そして一羽が舞姫の肩へと降り立った。
その鳥を通して、ユウ竜の思考が流れてくる。
歌姫から神鳥の音を預かり、短いながらも実験した結果ユウ竜が立てた作戦の概要が鳥を通して流れ込んでくる。
(―承知です!)
姫が心の中で返すと、ユウ竜が親指を立てた。
血が目に入ったせいでやや赤みがかる視界に、しかしそのユウ竜の笑みだけはしっかりと姫に焼きつく。
「そぉりゃぁ!」
リン王が愛刀を振い風を起こすと…剣風とは思えないほど強烈な風が、炎を蹴散らした。
「ロウ竜!」
「承知」
リン王に背を向け、舞姫を視界へ収めるロウ竜。
舞姫は見えにくい視界を嫌ったのか、袖を少し切り取ると、血をかけらた方の目を眼帯のようにして覆った。
その、残った目を見てロウ竜がいう。
「ようやく…決められましたか」
「はい…共に、ロウ竜を倒します」
姫の言葉に合わせ、五羽の鳥が散開する。
それは、互いににぶつかり合わない絶妙なリズムと間合いで姫の周囲を回転し、敵に近づけば武器になり、下がれば盾となる。
(―姫の覚悟もですが、よくこの数の鳥を操れるものですな)
目の前に立たないだけで、実質二人を…いや二人以上の戦力を相手をすることになったロウ竜は、失った右手を腰ひもで縛り止血しながら、気を引き締めた。
「最初は、何を余所者が邪魔するかと思ったが」
リン王が剣を構える。
「悪くないぞ、ユウ竜」
「お褒めに預かり恐悦至極」
ユウ竜も剣を構える。
「一応聞いてみるが、お前、我の―」
「だが断る!」
「せめて、最後まで言わせろぉ!」
ユウ竜が剣を振り、それをリン王が防ぐ。
リン王が力任せに剣ごとユウ竜を吹き飛ばすよりも早くユウ竜は身体を放し、すでに矢が装填されているクロスボウを取り出し、発射する。
「よくそこまで能力を使いこなすものだ!」
風を生み出す魔力を帯びた刀が振り下ろされ、突風の前に矢が軌道をそらされる。
「王を守れぇ!!」
神鳥の音とユウ竜の登場に、状況が変わったことを理解したリン王側近達。
「邪魔をするなぁ!!」
側近達を止める為、力を振り絞る舞姫側近達。
「リン王!」
「姫様!」
「ロウ竜殿!」
「ユウ竜殿!」
互いの兵達の声を聴きながら、それぞれの主と竜の一進一退の攻防は続く。
舞姫に―ロウ竜。
「この程度では、まだまだ爺には及びませんぞ!」
「なら、次です!」
リン王に―ユウ竜。
「くっそ、切ってもすぐ再生するとか、卑怯だろ!」
「次々あれこれ出しよるお前がそれをいうか!」
あちらで鳥と気がぶつかれば、こちらで剣と剣がぶつかる。
こちらで矢と風が弾きあえば、あちらで拳と蹴りが弾きあう。
攻防に活躍する鳥を従える姫に対し、腕一本を失ったロウ竜の戦いはやや舞姫に、
撃ち落とされるたびに鳥を補充しつつのユウ竜に、槍や弓や盾や薬やらとで無理やり隙を作られ傷を作られるも神木の根の力ですぐに修復されるリン王との戦いはややリン王に、
それぞれにやや相手に勝る戦い…しかしその『やや』はややながらも着実に重ねられていく。
(―無理、か)
人よりも大きな気を内包してるとはいえ、無限ではないユウ竜は、鳥を生むたびに疲弊していく。
疲弊するせいでリン王の攻撃を避ける動きが大味になり、隙を作れなくなり、そのせいで鳥の補充が遅れる。
鳥の補充が遅れるせいで舞姫の戦力が下がり、ロウ竜の攻撃を許してしまう。
攻撃を受け鳥が落ち、落ちた鳥を補うためにユウ竜が疲弊する。
(―じゃぁ)
そんな状況を打ち破るために、
(―三手目、いくぞ!)
ユウ竜は『鳥』を通してそれを伝えた。
お読みいただきありがとうございました。
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