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ユウ王戦記 ~三妃 七竜 十三宝 を揃えて異世界で王になるまで~  作者: しいか
第2章 神楽月(カグヅキ)内乱編

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戦記51「神鳥の音」

「ヘイボブ、怖いことに、気が付いたら夏休みがおわってたぜ!」

「ヘイスティーブ、本当に怖いのは、気が付いたら毎日が夏休みなことだぜ!」


「「HAHAHAHAHAHAHA!」」


 ワラエナイ。

戦記51「神鳥の音」


 歌姫の手に力が籠められ、一瞬ぎょっとしたユウ竜だが、すぐ違和感に気が付いた。

 確かに力は込められたのだが、それは物理的なものではなく、何か言いようのない…あえていうなら、喉を水が通った時のような、何かが喉の辺りに流し込まれたような奇妙な感覚が数秒続き、そして収まった。

 そして姫が手を放す。


「確かに預けたからね」

「…今のが?」

「そ、神鳥の音。いい、預けただけだから、終わったらちゃんと返してよ!」


 鳥笛のようなモノをイメージしていただけに、多少の驚きを隠せないユウ竜。


(―よく考えてみれば、竜姫様の加護も国宝といえば国宝か)


 形のない力そのものなども、引き継がれていく大事なモノという意味では国宝だ。

 そして神鳥の音もまた無形の宝であった。そしてその正体はというと…


「振動?」


 姫が少し驚いた顔を見せてから言う。


「正解。元々は『震える鳥』でシンチョウの音っていったそうよ」


 それが長い歴史の中で、神木の根の呼び名に合わせて、神鳥の音へと変わっていった。


「因みに、引き継ぐ者以外には、王族だろうと秘密だから、ぜーったい明かさないように」

「どうりで舞姫様も形に関しては説明してないわけだ…」

「姉様も知らないしね…いっとくけど、いじわるしてるわけじゃないから」

「大丈夫。わかってる」


 いざという時ダミーとなるべく宝を用意して本物を守ったり、

 本物を知るのが歌姫しかいないため迂闊に危害を加えることができなかったり、

 『知られていない』というのは、それだけで利点があることもある。

 そんな国宝を、教え、預けてくれた歌姫。


「責任重大だなぁ」

「今更なにいってんだか…」


 苦笑いするユウ竜に、呆れ顔を向ける歌姫。


「歌姫様の期待に応えるためにもがんばるとしますかね」

「いっとくけど、あたし個人としては、アンタのこと、国宝預けるほど信用してるわけじゃないからね」

「舞姫様に感謝するとします。あとその他の面々にも」

「…分かってるのが、なおさら腹立たしいわ」


 鳥を通じて、舞姫がどれだけユウ竜を信頼しているのかは歌姫は知っている。

 歌姫だけでなく、イン竜も、兵士達も、あろうことかあのソウ竜でさえ、その必要性に関しては認めていた。

 例え、キモチ的には納得いかない部分があろうとも、ユウ竜の判断を尊重した。

 そして、その結果がどういう戦況になっているかは、鳥を通して姫自身が確認している。


「ちーなーみーにー、それと結婚を認めるのは別の話だからね?」

「認めてくれれば、もれなく、こんなお兄様がついてくるよ?」

「いらっないっ!」


 これでもかというほど舌に力がこもった一言であった。


「つまりお兄様よりも、旦那様希望で―ウソですジョークですゴメンナサイ」


 歌姫が砂利を握りしめたのを見て謝り倒すユウ竜。


「あのさ…仮にウソでもジョークでも、婚約者の妹にそういうこという?」

「や、もう、なんていうか、可愛い女の子は取りあえずくどくのが礼儀というかなんというか…」

「ば、バッカジャナイ?!」


 やや顔を赤く…怒りとは違う種類の赤さを交えた歌姫を見て思うユウ竜。


(―あ、ツンデレだ。デレてないけど)


「天然お姉さんとツンデレ妹って、レベル高いね、神楽月王家」

「アンタなんなの!? わざと怒らそうとしてんの!?」

「まぁわりと?」

「なんで?」

「怒ると可愛いから?」

「死ね!」


 砂利をぶちまける姫と、右手から布を取り出しマントのようにして身を覆うユウ竜。

 その際布全体に自身の気を這わせたおかげで、気をまとった砂利の礫を無効化する。


「お、これもできた」

「むーかーつーくー!」


 傷もだいぶ治ったのか、躊躇なく地団駄を踏む姫様。

 そして遠くで何かの爆発音が聞こえ、二人は気が付いた。


「「こんなことしてる場合じゃない」」


「はもんな!」

「そんなことより、神鳥の音、どうやって使えばいいので?」

「くっ…分かったわよ、教えるからちょっとこっち来なさい」

「首絞めない?」

「絞めない」

「砂利ぶつけたりしない?」

「ぶつけない」

「蹴ったり、殴ったり、あとそれから―」

「何にもしないから来い!」

「いや、教えて貰えないと困るので、何もしないのもちょっと…」

「コロスゾ」


 姫の忍耐力の限界値を察し、ユウ竜が檻に近寄る。

 姫は嫌そうにユウ竜の手を取ると、その手に自分の指を絡めた。

 そこからユウ竜に気が…体の中を探る管のような、糸のような気が入り込んでくるのが分かる。


「大丈夫だから、嫌がんないで…」


 体を固くしたユウ竜に、歌姫が言う。


「体から力抜いて…深呼吸して…あたしの気が入り込んだのが分かったなら、その気が進もうとする方向の壁をどけるみたいに…そう、上手上手」


 先ほどまでの凍てつくような声色ではなく、熱をそっと冷ましてくれる冷風のような声に従い、ユウ竜が自分の体内に意識を向ける。そして姫の気の先端を感じとり、余計なものをずらしていく…


「…妙に上手いのね。アンタ本当に気が使えなかったの?」

「舞姫様にも言われたけど、似たようなことはやってたからじゃない?」


 それは、ユウ竜が普段からしていたこと…道具を格納したり、出したりする時に行っていた感覚と、気の操作はどこか似ていた。


「ま…これならたぶん大丈夫かな? 呼び出し方を口で説明するのは難しいから、感覚で覚えて」


 ユウ竜が頷く。

 歌姫は目を閉じると、指の絡んだ先…ユウ竜の中にあるどこかへと意識を向ける。

 文献によって、小宇宙とか、魂とか、深層世界とか…様々な言葉で言い表されているが、結局どれも説明しきるには至らない、ひどく感覚的な世界。

 あるけど、ない。

 みえないけど、わかる。

 無限に近いけど、有限。

 ここにあるのに、どこか。

 いくつもの矛盾が重なったユウ竜のどこかであり何か…その中から、先ほど預けた神鳥の音を見つける。

 ベルような、鳥のような、羽のような…本来なら形のないはずの神鳥の音…それに意識を添える。


(―それ、いけ)


 そして揺らした。

 それは、気の揺れ。

 振動はユウ竜の中にある様々なモノにぶつかり、反響し、エネルギーとなり、やがて物質的な世界に飛び出し、その形をとる。


「これが…神鳥の音か」


 ユウ竜のつぶやきを聞きながら姫が目を開く。


「そ、今の感じで鳥を呼び―ってでかっ!?」


 目を開ききると、そこには馬ほどの大きさの黒い鳥がいた。

 例えるなら、カラスのフォルムが近いだろうか…ただし瞳はなく、実際のカラスよりも羽は煌びやかに満月の光を反射し、角度によって赤や蒼や黄色など、様々な色合いを映し出している。


「気の…量からいって、でかいだろうとは思ってたけど…」


 姫が茫然としながら、鳥を眺める。

 今の自分では逆立ちしても出せないであろうその鳥の大きさに、悔しいよりも純粋な驚きが勝る。

 

「鳥の大きさって、量で決まるの?」

「んと、熟練度とかも関わるから量だけじゃないけど、持ってる気よりも大きな鳥は出せないのは確かね」

「で、これどうすればいいの?」

「動かし方って事?」


 頷くユウ竜。


「さっきアンタがやったみたいに気で誘導したり、呼びかけたり、同化したり、行動様式を決めておいたり、動きに同期させたり、やりかたはいろいろあるけど…」


 途中までいって、姫がユウ竜の様子に気が付く。


「…どれもできないって顔してるわね」

「なにそれ初めて聞いた、ってのばかりなんですけど…」


 これだけの気を持っているくせに、扱い方に関してはド素人という、今までの当たり前からかけ離れた男を前に、姫が苦悩に顔をゆがませる。


「…ちょっとアタシが動かしてみるか」

「え、動かせるの?」

「鳥の元になったのはアンタの気だけど、作ったのはアタシだから、たぶん多少は言うこと聞いてくれると思う」

「聞いてくれない時もあるの?」

「操る量が大きすぎたり複雑すぎると単純に難しくなる上に、道具や気の相性もあるからね」


 やはり奥が深いなと思いつつ、考え込むユウ竜。

 そんなユウ竜を尻目に歌姫は『操れなかったらどうしよう…』と、先輩の威信をかける行いに、僅かばかり怯えつつカラスに手を伸ばし、


(―おいで)


 と呼びかけた。

 すると、歌姫の心配をよそに、カラスはすぐに反応を示し、その頭を姫に寄せた。

 姫がその頭に手を置くと、実際の動物がそうするように、頭を擦り付ける。


(―あたしの鳥より、母様のに近い…かな)


 自分の出す鳥と比べて柔らかく深い毛と温もりのある黒鳥…

 今は亡き母親が生み出した鳥とどこか近い雰囲気のある黒鳥…

 姫が手を頭から首筋へと移すと、その意を酌んだのか、スゥィッと首をかしげて、触れやすいようにしてみせた。

 鼓動…とはまた違う、気で生まれた鳥特有の脈…波を感じる。

 そして手触りがそうであるようにその波もまた、母親の鳥が放つものと似たようなリズムを宿していた。


「動いた…ってことでいいんだよな?」

「うん、意外と素直。これなら…」


 やや感傷に浸りそうになっていたところをユウ竜の言葉に引き戻され、歌姫は鳥の操作を本格化する。

 飛んだり跳ねたり、何かを取って来させたり、視界を共有したりと、一通りのことを試してみる。


「ちょっと感覚がずれるところもあるけど、基本的には大丈夫そうね…」


 姫の感想を聞き、今度はユウ竜が操作を試みる。


「よし…いけ!」


 ユウ竜の指示で鳥は威勢よく飛び立った…というよりは突進したといった方が近いだろう…バタバタと羽を羽ばたかせながら鳥は樹に激突した。


「「あっ」」


 そして二人が見てる前で、鳥に激突された樹が圧し折れていった。メキメキメキと傾いていき、やがてズゥーンと地響きを起こす。

 そして黒鳥は倒れ切った木の前で、何事もなかったかのように佇んでいた。

 周りの樹に比べれば細い方だったとはいえ、その鳥の破壊力を前に言葉を無くす二人。


「なにあれ、バケモノ?」

「あーいうもんなんじゃないの、神鳥の音って?」

「いやいやいやいや、あたしがやってもあんなになんないって! なんなのアンタ!?」

「なんなのっていわれても困るけど…ちなみにあれって、どう消すの?」

「えっと、自分で消したいなら一番簡単なのは触った状態で消えろ、って思えばだいたい消えるはずだけど」

「ふむ…」


 ユウ竜は鳥に近づくとその頭に手を置き、言われるようにしてみた。

 すると黒鳥はユウ竜に飲み込まれるようにしてその姿を消した。


(―なるほど。格納する感覚と似たような感じか。てことは…)


 ユウ竜が目を閉じて動かなくなると暫くして…


「おっ」


 姫が見ている前で、鳥が生まれた。

 ただし今度は先ほどのように大きな鳥ではなく、実際のカラスと同じ程度の黒鳥だ。


「やっぱり呼び出しと似たような感覚だけど…にしても小さいな」

「初めてで出せるなら、たいしたもんよ。出せないのが普通なんだから」

「そうなの?」

「そーなの。あたしが母様から受け継いだ時は、二十人くらい試したけどあたし以外はだめだったもの」

「でも、これじゃぁな…」


 ユウ竜が念じると黒鳥は樹に突撃し、そしてぶつかるとすぐに霧散した。

 確認するが、樹の表面に少し傷が残る程度で先ほどのような衝撃はない。


「たいしたダメージにはならない、か」

「そんなんでもないよりはマシなんでしょ?」

「まぁね…」

「ほら、使えるようになったらさっさと行きなさいよ。もう少しだけここで待っててあげるから」

「その前に、あともう1回だけテストしたい」


 そういうとユウ竜は目を閉じた。


「何度やっても、そんな簡単に大きな鳥が呼び出せるわけないでしょ」

「まーね。難しいのはよくわかった。だから、あと一回だけやりたいんだって」

「…なんか考えでもあるの?」

「むしろ、これからの方が本命」

「どういう意味?」

「神鳥の音を預かりに来た本当の理由…みたいな? まぁ、上手くいけばだけど」


 その物言いに、ユウ竜が何かを隠していたと知る姫。

 とはいえ、陥れられたような後ろ暗さを感じない。

 例えるなら、サプライズの誕生パーティーを企てられたような、そんな感覚に近い。

 いったい何をしでかすのか…姫が見守る中、ユウ竜はすっと目を開けると、空に向かって手を伸ばした。


(―何も起きない?)


 そう思った直後、

 

「そんな―」


 ユウ竜の手の先、

 現れたのは、七匹の鳥。

 虹の七色の一つづつを身にまとった鳥がユウ竜から現れた。


「…実験成功、かな」


 目を丸くし、言葉を無くす歌姫。

 なぜならそれは、


(―神鳥の音の、奥義、レベルを、いきなり)


 理由も理屈も分からない、しかし目の前で起きたことを否定できず口を開いたままの姫。

 ユウ竜はそんな歌姫を見てから意地悪そうに笑うと、


「それじゃぁ、改めて…神楽月を取り返しに行きましょうか、歌姫様」


 そういって歌姫へと…

 檻へと、その右腕を伸ばしてみせた。

 お読みいただきありがとうございます。

 ツンデレが好きです。

 個人的には、テンプレ化してきたツンモードとデレモードが切り替わるツンデレも好きですが、一昔前に主流だったツンの中にデレを見出すタイプのツンデレも好きです。

 ぜひ歌姫さんには立派なツンデレに…姫という高貴なレディであることも忘れない、ツンデレディに育ってほしいと思います。


 そんなこんなで、戦争は続きます。

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