戦記50「神鳥の音を巡る攻防?」
だめだ、舞姫に続き歌姫が好きすぎて文章が長くなる!
戦記50「神鳥の音を巡る攻防?」
「これで暫くすれば大丈夫でしょう」
傷口に直接回復薬をふりかけたあと、残った分を布…包帯のようなものにしみ込ませ、患部を覆う。
癒しの魔法を込められた回復薬は、十分もしないうちに、傷跡を跡形もなく消してくれるだろう。
「…ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
歌姫が自らハンカチを取ると、その目から涙は消えていた。
「これ、洗ってから返すわ」
「お気にせずとも構いませんが?」
「洗うっつたら、洗う。あと、その丁寧口調やめて」
ハンカチを折りたたみながらポケットにしまう歌姫の要望に応えるべきか、鼻をかきながら考えるユウ竜。
「…それが元々の喋り方だってならそのままでもいいけど」
その発言から『気を遣わなくていい』という気遣いなのだと知るユウ竜。
「承知。んでは楽にさせてもらいましょーかね」
「ん、そうして。で、これからはどう動くの?」
ユウ竜が歌姫に事前に伝えていた作戦はここまで。
戦況によって動き方を変えないといけないので、状況が定まってから次を伝える…というのが、ユウ竜の発言。
「現状はどんな感じで?」
「広場はだいたい、あんたの作戦通りに進んでる…と思う。姉さま達のほうは神殿に入ってから追えてないけど、セン竜の手下が―」
「セン竜?」
「あ…今そこで死んでる奴らのボス。あのむかつく女竜のこと」
セン竜…の名前を記憶からまさぐるが、該当する竜はユウ竜の脳みその中にいない。
それならば、と死体を漁り始めるユウ竜。
「ちょ、なにしてんの?」
「部下なら、指示書とか身分証明みたいなもんでもないかなーと思って」
しかし五人全員を漁っても、情報に繋がるようなものは何もない。
死にこそすれ、そこは暗躍に繋がる男達だったということなのだろう…みだりに手がかりを残すようなことはしないようだ。
「金貨に安物の回復薬か…見事にありきたいりなものばっかね」
「そうね、じゃ、ありがたく貰っておきますか」
金貨も回復薬も、おまけに剣や弓など、おおよそ使えそうなものを片っ端から格納していくユウ竜。
「うっわ、死体から略奪とか、あんたそれでも竜?」
「死体はモノを使えないし、お金も使えないんですよ?」
一通り奪い終えるや、両手を合わせ成仏を念じるユウ竜。
釣られて両手を合わせる歌姫。
「…ねぇ、今取ったの、あたしにも頂戴」
「何か買いたいものでも?」
「お金じゃなくて、道具! 回復薬!」
「あれ…まだ痛む?」
「こっちは大丈夫。欲しいのはこれからの分」
「これから…って将来に備えて的な?」
「はぁぁぁ!?」
よく通る声がユウ竜の耳を破るかのように突き刺さる。
「戦い! これからあのセクハラリン王と爺と戦いにいくんでしょ!?」
「セクハラ…されたの?」
「されてない!」
「セクハラされる予定だったの?」
「そこを掘り下げんな! 話を逸らすな、はぐらかすな!」
足の痛みはまだあるはずなのに威勢がいいなぁと思いつつユウ竜。
「歌姫様、一緒に戦う気?」
「当たり前でしょ! てか、そのために助けに来たんじゃないの?」
「や、神鳥の音を預かりに来たつもりだったんだけど…」
眼をパチクリと…姉の舞姫がするのと同じようなタイミングで閉じて開く歌姫に、姉妹なんだなーとしみじみ思うユウ竜。
「預かるって…預かってどうすんの?」
「俺が使うつもりですが?」
「神鳥の音を? あんたが? 使うの? てか使えるの?」
「神鳥の音を。俺が。使うの。使えるなら」
「その場合…あたしは?」
「檻の中でお待ちください?」
「なんで?」
「鍵、ないし」
「…ないの?」
「ないよ?」
「なんで!?」
「なんでっていわれても、ないとしか…」
腕組みをしてから三秒考え、歌姫。
「っていう、ウソ?」
即答してユウ竜。
「いや、ホント」
「てことは、あれだ。神鳥の音を渡したら、あたしは用無しで戦争が終わるまでここいろと。連絡係すらやれなくなったまま、ここで大人しくしていろと、そーゆーわけだ?」
「正解、姫様ご立派」
拍手を送るユウ竜に、歌姫は笑顔を見せたまま鳥を生み出し、
「うりゃぁ!」
そして勢いよくユウ竜に向かって投げつけた。
バチン、とぶつかり悲鳴をあげるユウ竜…という姫の思惑通りにはならなかった。
「よっせ」
ユウ竜は姫が何かしかけてくると…ぶつけてくることを見越して、鳥の軌道上に置いていた右手を、ツイット横に引いた。
「えっ…」
声を漏らしたのは、歌姫。
ユウ竜が何をしようとしたのかを理解し、そして実際それはなった。
鳥が、ユウ竜から離れていく。
直進していたはずの鳥が、ユウ竜の手の動きに合わせて軌道を変え、あさっての方向に飛んでいったのだ。
そして壁に激突し霧散。
「おー、できた」
「な、んで?」
「なんでって…練習したから?」
「…もう一回やっていい?」
「むしろお願いしたいぐらいで」
「じゃぁ、ちょっと強めにいくわよ?」
「どんとこい」
姫が少しだけ強く、速く、鳥を飛ばす。
ユウ竜が手を動かす。
すると、やはり鳥は動かした方へと飛んで行き、そして消えた。ただし、先ほどに比べると描いた曲線は柔らかだ。
「これ以上強いと、俺じゃ、動かせないか…」
随分と集中力を使ったのか、ユウ竜が深めに呼吸を整える。
姫はじっとユウ竜を見ると…舞姫に比べてかなり集中した上でユウ竜の気を見ると、その大きさに驚きながら言った。
「あんた…気の操作なんてできたの?」
「できなかったんだけどね、姫様に頼んで習ったわけですよ。自覚がないだけで近いことはしてたから、触りだけならなんとかなるかも…だそうだったので」
目覚めてから戦地に着くまでに姫にお願いして身に着けたのが、気の操り方…というよりは、干渉の仕方の初歩。
例えば歌姫の鳥を通して会話したり、ロウ竜の陣に干渉して効果範囲を抹消したり、鳥の軌道をそらしたり…自分の気ではなく、他人の気を操る技術の初歩の初歩だ。
むろん、その過程で気の扱い方の基本も教授されている。
「神鳥の音を使うために?」
「一番はそれ。二番はロウ竜の陣に少しでも抵抗するため」
「爺の陣にって…姉さまから習ったなら聞いてるだろうけど」
「まぁ、実戦で戦力になるほどではないだろうね。今、鳥を動かすだけでもいっぱいいっぱいだったし」
「分かってるなら、ここ開けて。あたしが戦う方がマシでしょ?」
「開けようにも鍵がないのにどうやって?」
「探してくればいいでしょ」
「誰が?」
「あんたでも他の奴でも、誰でもいいわよ」
「っていうけど…おそらく鍵を持ってるのは、ロウ竜、ガン竜、チョウ竜、リン王の誰か。で、誰が持ってるかも分からない上に、誰が持ってるにしろ、現状の戦力でその誰かを倒すのは、そんなに簡単なことじゃない」
だから歌姫の檻を開けるための鍵を手に入れることは難しい。
しかし、
「姫から神鳥の音を預かれば、倒せるかもしれない」
「仮に使えても、アタシより弱い鳥しか出せないかもしれないのに?」
「でも、一瞬隙を作るぐらいならできるかもしれないでしょ?」
歌姫が持っているはずの武器から繰り出すことで相手から引き出す、一瞬の隙。
その一瞬の隙で、窮地から脱すかもしれない。相手に致命傷を与えるかもしれない。作戦と呼べるほど立派なものではないが、もしもの時に役に立つかもしれない。
「ちょっと可能性が増えるだけじゃない…」
「一見弱そうな手札だって、切り方次第じゃ嫌な攻撃になるんですよ?」
「…あんたなら切れるっていうの?」
「少なくとも、ここでじっとしているよりかはマシに使えるかと」
口調こそ、姫が望んだ通り軽いままだが、その目と響きから、ユウ竜が冗談の類を言ってるわけではないことは重々承知している歌姫。
だから、姫は口をつぐんだ。
自分の言ってる正しさと、ユウ竜の言ってる正しさ、はたして今必要な正しさはどちらかを選ぶために。
それを、ユウ竜は黙って見守った。
そうしてる間に、足の痛みが引いてきた。
檻さえなければ…一緒に走っていける。
しかし、今は檻があかない。
ここを開けるために余計な時間を使えば、その分だけ他の仲間が傷ついていくことは間違いない。
それでも…
(―行きたい)
一瞬の隙を作り出す手札に、自分が成りたい。
檻にいるだけのお姫さまで…役立たずのままいたくない。
(―だけど…)
理由と理屈と気持ちを何度も頭の中で行き来させ、
ようやく結論へと辿りつくと…姫は深く目を閉じ、ゆっくりと立ち上がってから、目を開いた。
氷室のような青が、ユウ竜の姿を捕える。
「顔…こっちに近づけて」
「お誘いは嬉しいけど、俺には舞姫様っていう婚約者が」
「コロスゾ」
「はっは、冗談」
「本気だったら、尚コロスゾ」
「…冗談だよ?」
いいからさっさと顔向けろと態度で示した姫に従い、ユウ竜が顔を近づける。
姫は格子から手を伸ばし、ユウ竜の喉を両手でつかむようにする。
そして叫んだ。
「死ね、ユウ竜!」
お読みいただきありがとうございます。
基本的に嫌いなキャラというのは自分で書いてる上では…例えイケメンであろうと嫌いではないのですが…とはいえ、やはり好きの程度に差はあるので、文章が長くなってしまいがち。
のくせ、一度でなくなると暫くでなくなっても大丈夫なあたり、わりと薄情なのかもしれません。ボウとか、ケンとか、リュウとか、カイとか、ヨウとか、今どこで何してるんでしょうかねェ…




