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ユウ王戦記 ~三妃 七竜 十三宝 を揃えて異世界で王になるまで~  作者: しいか
第2章 神楽月(カグヅキ)内乱編

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戦記49「檻を巡る攻防」

 ここ一週間ほど暑さが和らいできたのか、単に雨模様なせいなのか、冷房もいらずに過ごしやすいお日柄です。

 あ、そうそう、どうでもいいといえばどうでもいいことなのですが『過ごしやすいお日柄』と『少し安い鳥ガラ』って似てるとおもいませんか?


 ね?


 ほんとどうでもいいことでしょう?


 そんなまったく関係なの無い前書きと一緒に本日の戦記をどうぞ。

戦記49「檻を巡る攻防」


 槍が放たれ、

 姫は本能的に体を小さくしてそれを避けようとした。


(―鳥を出せばよかったのに!)


 姫が選択を誤ったと気が付いたその直後、


「いっっ!?」


 槍は布団を貫き、姫の右足を掠めて見せた。

 赤く染みていく布団…それをめくり傷を確認する。


(―痛いわけだよ)


 怪我をしたことがないわけではない。

 掠っただけで貫かれたわけでもない。

 が、それでも今までしてきたどの怪我よりも血は流れ、痛みが走る。


(―血ってけっこう流れるもんだね)


 何かの本で読んだか、または父王やロウ竜から聞いたのだったか…出所は覚えてないが、今まで聞いたことのある知識を元に、とにかく止血を試みる歌姫。


「お、おい、殺しでもしたらセン竜様に何言われるか…」

「殺さねーよ! いいから黙って、槍よこせ!」


(―セン竜…きっと、たぶんアイツのことだ)


 どこから来たのかわからない女竜の姿を思い浮かべながら、服の布を割き、止血し終える。

 合っているのかどうかわからないが、とりあえず流れる血の勢いは和らいだように見える。

 そうこうする間に、鍵を探していたと思わしき兵達が合流し、牢屋の前では総勢五人ほどの男達がたむろするに至る。


「鍵がねーって時に、なにくだらねーことやってんだよ!」

「悪かったよ! もうしねーよ!」

「それよりどうする?」

「…ちっ、めんどくせーけど、ぶっこわすしかねーだろ」

「げっ、どんだけ時間かかんだよ!?」

「どんだけかかってもやるしかねーだろ!」


 そういって男達はノコギリのような工具を取り出し、鉄格子を切りにかかった。


「させるか!」


 そこに姫の鳥が襲い掛かる。


「がっ、この!?」


 倒れるほどのダメージではないが、作業が続けられるほどの痛みでもない。

 当たっては砕ける鳥に、男たちの作業が止まる。


「くっそ! なめやがって! そんなに死にてーか!」

「やれるならやってみなさいよ、殺したら、あんたたちの大好きなセン竜とやらにどーんなお仕置きされるかわかってんならね!」

「かまうこたねー! 一匹しかだせねーなら、どうってことは―」


 男がセリフを言い終えるよりも早く、姫は足元に砂利を集めて握ると、それを思いっきり男達に向かって投げつけた。

 普通の砂利なら、距離的に届かないはずの砂利は、鉄格子をすり抜けると、男たちに礫のように降り注いだ。


「いったぁ!?」

「砂利!? 砂利って痛さじゃねーぞ、今の!?」


 その痛みと飛距離の正体は、気。

 ロウ竜が小石を弾丸のように飛ばしたのと同じように、砂利全体に気をまとわり付けて投げつけたのだ。

 これも鳥と同様…いや、鳥以下のダメージだが、やはり無視できるものでもない。


「どーだ! ざまーみろ!」


 と姫が勝ち誇ったのも束の間…


「そんなに傷物にされたきゃ、相手してやんよ」


 兵士のうちの一人が、弓をつがえて姫に狙いを定めた。


「下手に動くと死ぬからな…動くんじゃねーぞ」

「そ、それで殺したらアンタ達が―」


 姫の言葉を遮るように男は弓を引き絞り、一本…矢が姫の足元に突き刺さった。


「脳みそとか心臓とかはあれだけどよ。意外とな、手足に刺さったぐらいじゃ人間は死なねーのよ」


 姫に言い聞かせるように、二本目をつがえ、男は言う。


「ただな…痛いぞ。刺さるだろ? 抜くときにな、矢の反しのせいで肉が一緒にひっぱられんだ。あれが痛くてなー…分かったら、背中をこっちに向けて、じっとしてろ」

「そ、そんなの―」

「後むけっつってんだよ! 人が優しく連れてってやろうと思ったら調子にのりやがって!」


 その怒声に、溜息をつく歌姫。


(―こんな時)


 物語なんかだと、助けに来てくれるもんなんだけどなー、と。

 そんなことを考え、自嘲気味に笑った。


「何笑ってやがる!」

「別に…損な役目だなーとか思っただけ」


 姉のように部隊を率いることもできず、

 姉のように真っ先に逃がしてもらうこともできず、


(―捕まったのが姉様なら、ソウ竜とかまっさきに来てくれるんだろうなー)


 それは恋心ではなく、幼い頃の憧れ。

 小さい頃、読んでもらった絵本にでてきたお姫様とそれを助けてくれる男の…姫と竜の…昔からキレイな姉姫と、同じく絵にかいたような美しい竜という組み合わせへの憧れ。

 文字通りお姫様のような姉と、本物のお姫様なのにそうでない自分の役回りへの自嘲。

 もちろん、自分にしかないモノや者もあることぐらい、姫も分かっている。

 分かってはいるが…


(―アタシも欲しかったなーこういう時駆けつけてくれる、竜とか勇者とか…いっそ王子様とか?)


「ごちゃごちゃいってないで、さっさとケツこっちにむけろ!」

「はいはい」


 と、姫が投げやり気味に背中を向けようとした、


「あのさー」


 その時であった。

 姫の見えないところから声…その声の出所…牢屋の上の方へと兵士達が顔上げると、


「人様の妹に、ケツこっち向けろとか卑猥なこというのやめてもらえません?」


 軽い口調に気をそがれた一瞬の後、シュワッ! と、辺り一面に真っ白な煙が…視界を遮るための煙が広がった。


「姫さん、口抑えて待っててね。すぐ済ますから」


 姫はよくわからないながらも声の指示に従い、毛布で顔を覆ってやり過ごすことにした。

 その間に、何度か弓を引き絞るような音と、矢が地面かなにかに刺さったような音がする。

 その度、煙の中から「ぐっ」とか「ぎゃ」っという小さな悲鳴が聞こえたが、それもすぐさま途切れる。

 そして、


「ん、終了…かな?」


 その声に呼ばれるようなタイミングで、風が吹いた。

 山からの吹き降ろすような風で煙が晴れ、何が起きたのかを満月の元に晒した。

 夜空の下、そこにあったのは五つの死体。

 そのどれもが、顔を矢や投げナイフで射抜かれるようにして死んでいた。

 そしてそれをやったのが…


「よっと」


 牢屋の上…山の中を縫うように移動してきた、異国の軽鎧に身を包んだ男が姿を現す。

 姫も、その姿だけは鳥を通してみたことがある…その男とは勿論、


「もしかして…ユウ竜?」


 呼びかけると、ユウ竜は死体がきちんと死体であることを確認しながら、姫に向かって、


「お初にお目にかかりまして、歌姫様。王子様ならぬ、お兄様がお助けに参りましたよ?」


 笑いながらそういった。


(―誰か来てほしいとは思ったけどさ)


 言葉が咄嗟に浮かばず、姫は暫しその笑顔を見つめていたが、ユウ竜が笑顔を崩して姫の足を…止血した辺りを見たのを切っ掛けに、口を開いた。


「お兄様…って、なに結婚完了したみたいにいってんのよ!」

「いや、まぁ、まだですけどね? 時間の問題かなって思わなくもないと言おうか」

「はぁ? 姉さまに限って―」


 言ってる途中で『いやぁ、どうだろう、ありえるなー』などと思ってしまう妹。


(―姉様、年上の甘やかしてくれるタイプに弱いからな…)


 かといって甘やかしてくるだけの人間に対しては、持ち前のマジメさが起因して深みにははまらないのだが…今までのやり取りを報告として耳にしている歌姫は、ユウ竜が姉に甘いだけではないことを知っている。


(―あれ、これってもしかしてまじでコイツが兄様に…)


「ダメ! ぜっーったいダメ!」


 自分の考えを否定するように、姫が言い切る。


「あたし知ってるんだからね、ユウ竜が浮気野郎でド変態の超絶ドクズだって!」

「はっはっは! 根も葉もない浮気―じゃない噂でしょう!」

「そんなことありませんー! ソウ竜とイン竜が調べて証拠もきちんとあるんだから!」


 それを聞いてユウ竜が一言、


「あいつらいつかぶん殴る」


 そして再開。


「それに、あ、あの、上下論争にだって、さ、参加したことあるんだから!」

「えっ…あの、確認ですが、あのどっちが上か下かのあの論争ですか?」

「そのどっちか上か下かの論争よ」


 やや顔を赤くしながらいった歌姫に、ユウ竜は言った。


「…そういう話に興味がおありで?」


 姫は解答の代わりに、砂利を思い切り投げつけた。

 気をまとわせて。


「いった!? 砂利!? その砂利いった!?」

「自業自得だ、バァァァアカ!」

「だって、あんな論争に参加したっておっしゃるからてっきり…」

「知らなかったの! アンタについて議論する場だって聞いたから忍び込んだら、未亡人と娘の交代制三が日天下とか」

「いや、そのあとメイドが5人加わって、ユウ竜と館の七日間戦争になりました」

「死ねぇ!!」


 姫の鳥が勢いよく飛んでいき、ユウ竜にクリーンヒットした。


「いった!? え、地味にいった!?」

「地味で悪かったわね! どうせアタシの鳥なんて使えないで―つっ!」


 傷の事も忘れて地面を踏み鳴らそうとした歌姫が、痛みに顔をしかめる。

 その顔を見て、ユウ竜は頭を下げた。


「…遅くなって申し訳ありませんでした」


 軽くなく、かといって重くもなく…

 相手をバカにするわけでも、重くしすぎて酌量を求めるわけでもなく…

 相手の怒りに寄り添うような謝罪に気をそがれ、歌姫は首を振った。


「…んーん」


 ユウ竜の顔は見ず…いや見れず、続ける。


「アタシがどじっただけ。アンタが向かってるのは分かってたんだから、大人しく待ってればよかったのに…」


 そう、知らないわけではなかった。

 舞姫を神殿へと通した後は、ユウ竜が歌姫救出に向かうと事前の打ち合わせで示してあったのだから。

 ただ、それをじっと待てなかっただけの事。

 だが、


「だとしても…本当は、傷一つないうちに助けに来たかったので」


 そういってユウ竜は苦笑いを浮かべながら、傷薬を取り出した。


「お詫びに、傷の手当をさせて頂いてもよろしいですか、歌姫様?」

「とかいいつつ、女の子に触りたいだけなんでしょ?」

「…」

「黙るなっ!」

「いや、見事に核心を突かれたので、どう返していいかちょっと悩んだもので…」

「悩むな!」

「では堂々と言いましょう。触りたい、と!」

「隠せ! 繕え! 言葉を選べ!」


 肩で息をするほどに怒鳴った後、歌姫は視界が滲んだのを…目に涙が溢れていたことに気が付いた。

 ユウ竜はそんな歌姫を見てから、トーンの落ちた声で言った。


「遅くなって、申し訳ありませんでした」


 ストン、と。

 今までの誰よりもストンと耳の奥に入る声に、姫の視界が更に歪んだ。

 ユウ竜はその歪んだ視界については何も言わず、ただ、求めた。


「…手当しても?」

「…許す」


 そしてユウ竜は姫を手招きし、

 姫はそれに応じて近寄り、

 地面に座り込んだ姫の顔にそっとハンカチを被せると、ユウ竜は傷口の手当を始めた。


「ちょ、余計なことしないでよ!」

「いやいや、みられてるとこちらが恥ずかしので、そうしておいて貰えると助かるってだけのことです」

「…あっそ」

「はい、そうです」


 後に、舞姫とは別に『ユウ王戦記』にとって欠かせぬ存在となる歌姫との、これが出会いのシーンであった。

 お読みいただきありがとうございます。

 舞姫に遅れること数十話、ようやく歌姫とユウ竜がご対面。舞姫とはまた違う可愛らしさを見せてくれることを祈りつつ、そろそろ内乱編ラストバトル勃発です。

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