戦記46「広場を巡る攻防」
広場を巡る戦いも一区切り。
鍵を握っていたのは、あの女性達でした。
戦記46「広場を巡る攻防」
ソウ竜の槍を盾でいなすガン竜。
態勢が崩れたところに手甲をはめたガン竜の拳が来る。
それをかわし、再度槍を放つソウ竜。
が、やはりそれも盾で防がれた。
「なんといったか、あの話! 最強の盾と、最強の槍の…」
「矛盾、か」
「おお! そうだ、それだ!」
最初の打ち合いで相手の力量をうっすらと図りあった二人。
「ガッハッハ! 長くなりそうだな!」
「不本意ながらな」
「まぁしかし…勝つのは盾だ!」
「ほざくな、某の槍が貫いてくれる!」
攻めのソウ竜、守りのガン竜…ではない。
互いに攻め合い防ぎ合う二人の竜。
それを見守り、歓声をあげる兵達。
その一方で、蝶が飛び交い、矢が降り注ぐ。
全体的にみれば、傭兵隊が押されている分、ややリン王側に分があるだろうか…
(―さぁ、どう打ってきますか、ユウ竜?)
もう何度目か…音を立てて信号団があがる。
傭兵隊は信号団が打たれるたびに、壁の裏に隠れて場所を移したりしながら射撃を繰り返しているが、大勢に影響はない。むしろ、蝶の衝撃にやられているのか、当初壁の上に現れた時よりもその数が明らかに減っている。
「陣形を維持! 正門に兵を回して合流し、正面から神殿を目指せ!」
そんな指示が舞姫軍から出るが、出入口周辺と正門は兵で厚く囲っている故、そうそう道が作られるはずもない。
「兵を戻せ! 姫様の身だけはなんとしても守れ!」
戦場の変化に合わせて指示が飛ぶ。
その指示はチョウ竜からみてもけして間違いではなく、至極まともで当たり前の判断といえる。
が、
(―至極まともで当たり前?)
事前に聞いていた竜としての噂、そしてロウ竜の見立て…それらを総合してユウ竜という人間を想像した時、チョウ竜は違和感を覚えた。
(―あれだけ鮮やかに敵陣に入り込む策を練れる人間が、その後を考えてない?)
確かに、突撃時の作戦は見事だった。
しかし、目的地から遠い場所に拠点を立てた結果、時間も兵も足りず、ガン竜とその配下の兵達により、封じ込められている。
それを覆そうと一騎打ちをしかけるも、結果は膠着状態。しかも周りの兵達が我も我もと見守る輪に参加するせいで、一層進軍が見込めなくなった。
(―ユウ竜にこの展開が見えていなかった? …いや、そんなことがあるわけがない)
敵を過小評価しないからこその冷静さ…その冷静さでもって、チョウ竜が改めて戦場を見直す。
正門前と、そこから続く神殿への扉の前までを除き、どこから現れてもいいように均等に配置していた兵に偏りが生じていた。その偏りは当然、ソウ竜とガン竜の一騎打ちの場へと…右底辺部分に終結している。
一方で、中央より左は少しづつではあるが、傭兵達による兵からの射撃で兵が薄くなっている。
そこにいれば危ないとわかっているところにいるよりも、流れに乗って攻撃の薄いところに身を置きたくなるのは止めようもない。
(―まさか)
気が付き、チョウ竜は息を吸い込んだ。
「お前たち、元の位置に戻りな―」
しかしそのセリフを言い切ることはできなかった。
無数の矢がチョウ竜に向かって…一部は、矢に爆弾を取り付けられた特性矢まで含まれ、襲い掛かる。
それを守ろうとした鈴星の兵の怒声や爆発音によって、チョウ竜の命令が掻き消された。
「そーは、いかないんだなぁー、お兄さん」
いつの間にか、チョウ竜と会話できる場所まで傭兵団団長のスワロが、手下を率いてやってきていた。
ただしその恰好はいずれも神楽月の…舞姫の群ではなく、敵として向かい合っている神楽月の兵士達の鎧姿である。
そして、音もなくスワロが照明弾を打ち上げる。
その光を確認した傭兵達が、一斉に行動に出る。
「お、お前たち裏切ったの―ギャー!?」
いつの間にか戦場に現れていた傭兵達が…スワロと同じように、神楽月の鎧に身を包んだ傭兵達が、それぞれ隊を組んで神楽月の兵に襲い掛かった。
「違う! そもそも裏切ったのは、俺達の方だ!」
「そうだ! 俺達は姫様の為にもう一度立ち上がる!」
あちこちで、傭兵達が『姫様の為に戦う』と声を上げる。
その声を聞いた神楽月の兵に迷いが生じる。
敵の姿をした声であれば、そこまでの影響はなかったであろう。
が、満月とはいえ夜の中、兜をかぶり満足に顔も見えない以上、敵味方はその鎧や腕章などでつけるしかない。そして傭兵達が身にまとっているのは、確かに味方のソレである。
普段から顔を会すことの多い兵達が見分けられなかったものを、他国から来たチョウ竜に判断できようはずもない。
「…わざわざ正門の外に兵を残したのは、正門を奪うためではなく、鎧を奪うためですか」
「ごめいとう~」
それは最初に突撃した時、ソウ竜が半分兵を置いて壁に突撃した時の事。
あの時、外では残った舞姫の軍と傭兵達の一部が協力して、敵兵と戦っていた。しかしそれは正門から突撃するためではなく、敵の装備を奪うため。
そして照明弾が打ちあがる度に傭兵達が塀の向こうに隠れていたのは、隊形を整えるためではなく、奪った装備に着替える為。傭兵達の姿がどんどん減っていたのは、チョウによる衝撃にやられただけではなく、着替えて傭兵達の姿ではなくなっていたため。
そして今、傭兵団は神楽月の鎧に身を包んだものと、当初通り傭兵の姿のままでいる者二通りある。
このままでは、傭兵団同士でぶつかり合ってしまう危険性があるが…
「お前たち、舞姫様のために戦ってくれている傭兵団だな!」
「ああ、そうだ! お前たちの姫に頼まれた!」
「ならば、俺達は味方だ!」
「心強い! 一緒に戦おうぜ!」
「おう!」
そして、一つになった。
姿に関わらず、共に戦い守りあう塊となった傭兵達。
そこに、
「お、おれも一緒に戦わせくれ!」
「もちろんだ! 俺達の神楽月を取り戻すぞ!」
本物の神楽月の兵士が、声を上げた。
次々と。
先程までは攻撃の目印であった傭兵達の姿に、神楽月の兵士達が集っていく。
傭兵団に背を預ける者を救国の戦士とみなして、隊を作っていく。
「いくぞ!」
「「「「おー!!!!」」」」
隊とはいったが、本当の意味での隊というほど機能するわけではない。
だがその隊の行動は、確実に神楽月の陣営に混乱を与えた。
その混乱に、一騎打ちの最中とはいえ気が付くガン竜。
「お前たち! 落ち着け! その程度の罠に―ぬぅぉ!?」
「余所見をする余裕があるなど思うな!」
「お主等、はなからこれが目的か!?」
確かにガン竜は強く、ソウ竜の槍が易々と貫ける相手ではなかった。
が、ソウ竜も強く、易々と喋る暇を貰える相手ではなかった。
「いったろ、腹立たしいことに、アイツの立案だと!」
兵を掌握したガン竜が指示をだそうとするも、ソウ竜の槍がそれを許さない。
チョウ竜をスワロが、
ガン竜をソウ竜が、
二人の竜がそれぞれ抑えられた広場の混乱は加速度的に増していった。
その混乱を見て、チョウ竜は再びいった。
「…お見事です」
「だね。あたしも長年傭兵やってるけど、ここまで思惑にはめる将はなかなかいないわ」
「この様子だと、すでに城に突入されていると見ていいようですね」
「へー、なんでそう思うんだい?」
挑発するような声色に、落ち着いた声でチョウ竜。
「先ほどあなたが打ち上げた信号弾…音がしませんでした。正確には途中から…ですか。最初の方は音がしていたのに、です」
「ごめいとー」
ユウ竜が用いた策は、傭兵の着替え以外にもう一つ。
それが、信号弾の偽音だ。
傭兵達に合図を出すためにスワロが使う信号弾には、通常音がない。だから傭兵達は音ではなく光に反応して動きを変えている。
ユウ竜も用兵への指示はこの信号弾で行っていた。ではその音源は何かというと、一つは空砲。ただ音が出るだけのもの。
そしてもう一つが、爆弾。ユウ竜が、突撃箇所とは別の場所に穴を開ける際に使用した爆弾が破裂した音だ。
「爆弾を使う以上、どうしても音はする。だから音を隠すのではなく、音が鳴っても警戒されないように細工をしたということですか」
しかも突撃の際に使用したカイ竜特性の威力が高い物ではなく、空砲と同程度の音になるぐらいの威力の弱いものだ。おかげで一発では穴は開かず、何回かの使用を必要とした。それが、信号弾が何回かも戦場に飛んだ理由…上がった信号弾のうち半分以上は『命令変更無し』や『この信号弾を無視しろ』といった囮の信号弾である。
「ついでに、さっきから命令出してる人間のことも聞いとく、お兄さん?」
「いえ、ユウ竜でないということだけわかれば誰であろうと変わりません」
それは、ソウ竜の後ろにいる者のこと…舞姫軍の主力部隊が陣取っているところで声を張り上げているのは、ユウ竜ではない。部隊の指揮を執っていた部隊長の一人…ユウ竜の尻を触っていた青年だ。選ばれたのは、単にユウ竜と年の近い部隊長が他にいなかったからだが、ユウ竜を慕っているからか、喋り方のくせなどを似せることができたことを付け加えておく。
「まんまと策にはまったというわけですね」
「いーや、策じゃなくて作にはまったんじゃない?」
「作…ですか」
台本や小説のように…誰の言葉が誰に影響し、どの行動が何に繋がるか…単に敵を倒すための策ではなく、作。あくまで策というなら、心理を突いた策といってもよい。
「…確かに戦場で相手にしたくない男ですね。自分の頭の固さが嫌になります」
「じゃ、負けを認めてそこどいてくれると嬉しいんだけどなー?」
「どくと思いますか?」
「ま、無理だろうねー」
チョウ竜が扇を振り蝶を生む。
戦場のあちこちに散らばせていた蝶の群れが一か所に留まるように舞い踊る。
「王様のこと、助けにいかなくていいの?」
「私がここを動けば、それこそ大軍が行ってしまいますからね。今ならまだ、せいぜい十数人程度…ロウ竜と王なら問題ない範囲でしょう」
チョウ竜を守っていた兵の半数ほどが守備から離れ、剣を持ち攻撃の様子を見せる。
それに合わせて、スワロを囲んでいた傭兵達も戦いの構えを取る。
「お互いさ」
先頭の始まりを感じ、スワロがいう。
「歴史に名を残すってのも、楽じゃないねー」
「…同感です」
敵対しているというのに笑いあい、
こうして広場の攻防は、どちらが優位か一概にはわからない中続いてくのだった。
お読み頂きありがとうございます。
次回からは広場を離れ神殿へ。
決戦の地が近づいてまいりました。




