戦記45「ガン・チョウの攻め」
ガンチョウより大つごもりまでおてにいれまするこの薬は…とは特に関係ありませんが、ガンチョウコンビの見せ場です。
戦記45「ガン・チョウの攻め」
(―ロウ竜曰く、王を倒すにはユウ竜と姫の力が必要不可欠)
ならば、とチョウ竜は扇を開き、色とりどりの蝶を生み出した。
(―この場を離れられないように、傭兵達を痛めるとしましょう)
蝶が現れると、音を立てて信号団が打ちあがった。
信号団は満月の下、空中で弾けると、色のついた光を放ち消えていく。
(―おそらくは信号団で、散らばっている傭兵達への指示を出しているのでしょうね)
信号団を見ていた傭兵達は、塀の上を移動し、軍の進路確保へと移行した。
「これ以上の進軍を防ぎます。私は傭兵を、あなたは他の兵を頼みます」
「おう、任された!」
大声を張り上げ、兵の指揮を細かく出し始めるガン竜。
それをわき目で見送りながら蝶を操るチョウ竜。
気で生み出された蝶はけして早いとは言えないながらも、その小ささからみつからぬまま傭兵隊へと近づいた…そして、触れるや否や花火のように弾け、その体を吹き飛ばす。
「なんだ!?」
「蝶だ! チョウ竜の攻撃だ!」
その小さな蝶から起きたとは思い難い衝撃が傭兵団を次々に襲う。
「蝶を狙え! 撃ち落とせ!」
目ざとく蝶を見つけ、矢で撃ち落とす傭兵達。
射抜かれた蝶は空中で小さな爆発をおこし、塵と消える。
「いよっしゃ! 当たらなければ、どうってことないぜ!」
傭兵が歓声を上げたのも束の間、
「では、的を増やすとしましょう」
夜空に蝶が舞う。
先ほどよりも二倍…いや三倍はいるだろうか?
雨のようにとはいかないまでも、多くの蝶が辺りを舞う。
その蝶に矢を打ち込んでいく傭兵達…が、爆発する蝶としない蝶がいる。
「ぜ、全部うちおとしてまえば、同じだ!」
が、無理。
そうこうするうちに、矢を免れた蝶が触れる。そのうちのいくつかが破裂し、傭兵を吹き飛ばした。
「さて、この蝶の群れをかいくぐり、或いは撃ち落とすことはできますか?」
どちらも難しいだろう。
だからこそ、傭兵達は目標を切り替えた。
狙ったのは、チョウ竜自身。
「もらった!!」
塀の上から、広場の奥へと陣取るチョウ竜への遠距離射撃…
しかしその弓は、分厚い盾に阻まれた。
「させるか!」
防いだのは、鈴星から連れてきた兵達。
いずれもが、ガン竜と同じような鎧に身を包み盾を構えている。
彼らはガン竜によって鍛えられた、いわば守りのエキスパート。
矢だろうが剣だろうが魔法だろうが、その身と盾で攻撃を退け、チョウ竜を守る存在。
(―策は見事ですが、兵の力がなければそう続くものではありませんよ)
そして守られたチョウ竜が再び蝶を放つ。
一方、ソウ竜率いる兵士達はどうかというと…
「道を作れ!」
ソウ竜の掛け声虚しく、なかなか思うように進軍できずにいた。
王宮広場での敵兵は、正門と神殿へと続く回廊の扉を結ぶ直線状に厚く配置されていた。
そのため、爆弾で作り上げた出入り口付近には予備兵や弓兵などが多く、近接で切り込んできた舞姫軍に大きくやられ、舞姫軍は陣を作ることに成功した。
が、問題はそこから。
四角い城壁の底辺中央にある正門…神殿へ向かうための扉は、直線距離でいえばその正門からの侵入が一番近い。逆にいうと、舞姫軍が作りあげた底辺右端にある出入口は、扉から一番遠い位置にある。つまりそれだけ、隊列を伸ばさねばならないのだが、伸ばせば伸ばした分だけ兵の密度は減り、打ち破られやすくなる。
更に、挟み撃ちを避けるため、舞姫軍は正門前にいた敵兵へ部隊を割いている。ただでさえ人数で負けている舞姫軍は、この少ない人数で、ユウ竜と舞姫を神殿へと送り込むための道を作り上げなければならないわけだ。
本来は、陣を作ったらそのままの勢いで神殿へと乗り込むのが上策。
が、ガン竜との一騎打ちを経た兵士達は、思いのほか乱れが少なかった。
さらにその上、
「がっはっは! 軽い軽い!」
相手の包囲に穴を開けて突撃するが、それをことごとく打ち破るガン竜。舞姫軍の方陣系から道を作ろうと突撃してくる兵達を盾でいなし薙ぎ払い、その進行を止めていた。
「ちっ、狙い撃て!」
副隊長スバルの号令のもと、傭兵隊が援護射撃をしかけるが、これもまた盾でいなし傷を与えること叶わない。
「固ぇーとは聞いてたが、固すんだろ」
スバルが吐き捨てるのも無理なかろう。
角度を変えようと、突撃した兵を半ば犠牲にするように打ち込んでも、致命傷は元より掠ることすらできないのだ。
その上、ガン竜はただの筋肉の塊というわけでもなかった。
「負傷兵は下げて、穴を埋めろ! 無理に倒さんでいい! とにかく、負けるな! 負けなければ、おのずと勝つ!」
負けなければ勝ち。
それは確かにそのとおりだ。
しかしそれをなすに必要なものは多い。
が、それを成してきたのがガン竜だ。
必要以上に緊張するわけでなく、危険なほどに緩むでもなく、その体力は桁外れに高く、相手の隙を見逃さない目も持っている。
その広い視野は隊の崩れをいち早く察し、的確な指示を出していく。
そしてその声は戦場でも良く通る。
粘り強く、大らかにしかし迅速に…速効での勝利はないが、負けることもない。それがガン竜という将の戦い。
それに挑んだのは、
「むっ…ハデな男がきたな」
業物の槍を手に、真紅の鎧を着込んだ美形の青年、ソウ竜。
その足元には…ソウ竜が歩んできた戦場には、一突きの元に倒された兵士で山と道ができていた。
「盾も持たずに無傷とは、なかなかの男と見受ける! お主、名前は!」
ガン竜の声に、負けじと声を張り答えるソウ竜。
「某はソウ竜! 姫の守護者にして、この戦の兵を率いる大将なり!」
「おお! お主が守護狼の孫か! 我が名はガン竜! 主リン王から兵を任せられた大将である!」
時代錯誤といわれてもしかたないような名乗りを互いにあげる二人。
そして互いに兵も連れずに歩み出る。
絶好の攻撃チャンスである…が、兵はどちらも動き出さない。
「ユウ竜! 兵の指揮、しばしお預ける! 某はこのデカブツに一騎打ちを申し込む。目の前の男が臆病者でなければだがな!」
その煽りに、ガン竜は笑って答えた。
「ぬかせ、小僧! 望むとあらば相手をしてやらんでもない。が、いきなり一騎打ちとは、少々気が早すぎではないか?」
「時が経てば、無駄に兵が倒れるであろう」
「むっ…」
「こちらは兵も時間も惜しい。一騎打ちで片が付くなら本望。一方そちらは、時間が稼げればいい。即座に俺を討てば兵がなだれ込むが、長々と俺の相手をしていれば、兵を無駄にしないまま時だけ稼げる。双方、利のある話であろう!」
「なるほど…の割には不服な顔をしておるのはどうしてだ?」
「…奴の発案だからだ」
隊の中ほどをみて吐き捨てるソウ竜。
「ユウ竜とやらか」
「そうだ、平気で大将を使い捨てにしようと考えるクズだ」
「なのにその策に乗るというのか?」
「…利があるのは確かだ」
それに、
「某が勝てばいいだけのことだ」
槍を構えるソウ竜。
「ガッハ! 我がガン竜の名前と強さを知らぬと見える!」
「名前ぐらいは耳にしている。強さのほどは知らぬが、ロウ竜より上ということはなかろう?」
「確かに、守護狼殿には遠く及ぶまい」
「なら、問題ない。この戦場でロウ竜の次に強いのは某だ」
ガン竜が腹の底から笑い声をあげる。
「受けても良いが、一つ条件がある。お前が負けたら、俺の部下に成れ」
「なんだと!?」
「なれぬと申すか?」
「某は姫の竜! 他の者に下げる頭などもっておらぬ!」
「勝つのだろう? それとも口だけか、若造?」
兵との一騎打ちの時にはしていなかった手甲を見せつけるように仁王立ちにソウ竜を見据えるガン竜。
「…よかろう。ただし某が勝ったら、お前が某の部下になれ」
「…断る」
当然受けると思っていたソウ竜は…いや、周りの兵士達も驚きの表情を見せる。
「戦に絶対などない。だから断る。このガン竜の主はリン王一人だけ。だからかわりに、お主が勝つようであれば、この命をくれてやろう」
「…命、か」
「どのみち俺の盾と違って、お前の槍が勝つならば、命が散っている時であろうからな」
手を振り、兵に場所を開けさせるガン竜。
同じくソウ竜も手をふり、兵を後ろに下げる。
そしてやや歪ながらも円形の決闘場ができあがった。
「お前たち! オレに手出しは無用だ! 他の場所が抜かれんようにだけ気を付けておけ!」
「某に手出しは無用! 姫を守り、ユウ竜に従え!」
そして、
「来い、ソウ竜!」
「いわれずとも!」
一騎打ちが始まった。
お読みいただき、ありがとうございました。
まもなく広場での戦い、一区切りです。




