戦記42「満月の夜に」
全国推定13人ぐらい(作者含む)の、ユウ王戦記に戦場を求める皆さんお待たせしました。
全国推定37人ぐらい(作者の別人格含む)のユウ王戦記に女の子とのいちゃいちゃだけを求める皆さんごめんなさい。
第2章神楽月内乱編、戦争パートスタートです。
戦記42「満月の夜に」
空に、満月。
神楽月の中心…宮中の庭に居並ぶ、兵士。
兵士の他、国の運営を行う、大臣や官僚。
式典を取り仕切る、司祭。
そして町や村を代表してやってきた、臣民達。
「がっはっは! いよいよ、我らの新しき王が生まれる日が来たな!」
訓練や一騎打ちの時とは違い、全身に鎧を着こんだガン竜が腕組みし、鈴星のリン王が現れるを待つ。
「そう簡単にいけばいいのですが」
ガン竜の隣には、チョウ竜。
扇子で口元を隠し、眉間にしわを寄せる。
「何を恐れることがある?」
「恐れてはおりません。ただ、警戒しているだけのこと」
「心配いらん。誰であろうと、来るなら潰す、それだけだ」
「…まぁ、間違いではありませんがね」
ユウ竜が…いや、舞姫達が戦の準備を進め、今日のうちに攻めて来るだろうことは、もちろん想定しているリン王一派。
儀式が終了すれば王が決まる…となれば、儀式が始まる前か終了までの間…この満月の夜を越えた朝までのどこかでやってくるはず。
それ故チョウ竜は、昨日からずっと、宮中に兵を敷き詰め、攻めてくるを待っていた。
(―こちらから攻めた方が楽なんですがね)
リン王反対派が歌姫と共謀して、森の一角に陣取っているのは知っていた。しかしそれをリン王に伝えると、放置の命令が下った。
「新しい物語の始まりに、つまらぬ敵では味気なかろう?」
笑って言うリン王の言葉の意味は理解できる。
神楽月の民に、本当の意味で王として迎え入れるためにも、敵として昔の王族は必要だ。古き王に国を守る力がないことを示せば、新しき王に民はついてくる。
だが…
(―ドラゴニアのユウ竜…いや、今は元か)
相手が舞姫とその手の者だけなら、チョウ竜がここまでの懸念を抱くことはなかっただろう。
しかし、密偵から報が届いてから…いや、届くたび、懸念は増していた。
(―弱竜といえど一竜、でしたか)
『どんな者でも竜を名乗る者を軽んじてはいけない』という格言のようなものと共に、ユウ竜への印象を再度まとめるチョウ竜。
元々、ドラゴニアのユウ竜の名は聞いたことがあった。
周辺諸国の代表である神楽月のリン王に気に入られ、事実上の婚約者でもあったのだから当たり前だ。ユウ竜が知らなかっただけで、その名前と噂はアチコチで耳にすることができた。
女癖の悪さを聞いたことなど一度や二度ではない。
やれどこの王から不評を買っただとか、強引に文化財を奪って言っただとか、立ち入り禁止のダンジョンンへ潜っていただとか、黒髪の幼女にボロクソに負けただとか、真偽のほどは定かではないが、噂はいくらでも入ってきた。
だがその悪評の量に反して、戦いに関する情報が入ってこない。
個人としても、将としても、どんな戦いをするのか、まるで情報がない。
確かに、ユウ竜は遊軍の将ばかりで、大軍を預かる大将として戦地に立ったことは一度としてない。そのくせ、竜となったこの五年の間に関わった戦場の数は、期間から考えるとかなりのものに上る。
キョウ王と共に他国に攻め入り、
剣姫と共に同盟国の地を守りに行き、
他の竜と共に、軍隊をさしむけるレベルの魔物を討伐に向かったこともある。
故に、無いはずがないのだ。
それなのに聞こえてこない。
他の六竜や剣姫と竜姫の尋常でない強さや派手な逸話の影に消えている。たまに入ってきたと思うと、その評価にばらつきがありすぎて、真偽が測れない。
(―まるで…ではなく、意図的にそうしているわけですか)
そこに気づいた時、チョウ竜はユウ竜への印象と評価を改めた。
一時の評価や名声よりも、自身の情報に重きを置く竜。
戦における情報の重さを承知している竜。
(―そんな竜が、こちらの情報を知らぬわけがない)
自分やガン竜の特徴は把握されていると考えていいだろう。だとすれば、相手方の布陣がどうなるか…何度も何度も、自分の考えに落ち度がないかを確認するチョウ竜。
と同時に、相手の動きの察知に余念もない。
「森の兵に動きは?」
「あれから大きな動きはございません」
森に陣取る隊には、すでにソウ竜が合流している。
それとは別に、森のあちこちに分散するように傭兵隊が散らばり、チョウ竜の放った諜報員などを見つけ次第葬っている。
それだけでも苦々しいことだが、更には少人数で宮中に襲撃をかけては逃げだし、おびき寄せては殲滅する…を何度か繰り返された。
襲撃そのものは小さいものの、その間隔にはばらつきがあり、常に緊張を強いられる。おかげで宮中の兵の疲労は少しづつだが確実に蓄積させられている。
一度、ガン竜が兵を率いて傭兵隊の殲滅に向かったが、森に仕掛けられたトラップで何人かがやられた。そのトラップも、傭兵隊が仕込んだであろう分かり易い罠と、イン竜配下の専門がやったのであろう気づきにくいものが混ざっているせいで、それを避けて進むだけでかなりの緊張と時間を消費させられた。
よって、無視を決め込むこととなる。
どれだけ襲撃されようと、傭兵部隊には主戦力となれるほどの人数はない。防御に徹すれば削られる兵もほとんどいなくなる。
そもそも、傭兵隊をどれだけ倒そうが、またどれだけ兵が削られようが、最終的には関係のない話なのだ。
この戦の本質とはつまり、誰が王として最後まで残るか、である。
小細工に翻弄されいくら削られたところで、リン王が王となることを止められなければ、舞姫側の敗北。
逆に、傭兵隊が全滅しようとも、リン王が死ぬ、神樹の根が奪われれば、リン王側の敗北である。
故に、専守防衛。
舞姫側は、いつかは逃げることのできない時間がやってくる。
その時が来るまで、無駄に兵や力を消費せず、待ち続ける。
それが、チョウ竜の下した決断。
(―早く決断できた。向こうの想定程、兵は削れていないと思うが)
兵達が並ぶ地面より一段上…石で組まれた段差の上から兵と森を見つめるチョウ竜の顔は厳しい。
「ほっほ、緊張しておいでですな、チョウ竜殿」
そんなチョウ竜の隣に立ったのはロウ竜。
その姿は相変わらずそこいらにいる老人のそれと変わらず、戦支度をし終えたようにはみえない。せいぜい、手ぬぐいが鉄の鎖に代わっている程度である。
「ロウ竜殿には、王の警護をお願いしたはずでしたが?」
「しておるよ。まもなくやってくるので、一足先に来ただけのこと」
「おぉ! では、いよいよ!」
「うむ。儀式の始まりじゃ」
白いひげをなでるロウ竜を見下ろすチョウ竜の目には、仲間という意識は微塵もない。それどころか、敵、と認識しているのではというほどの鋭さがある。
ロウ竜もロウ竜で、そんなこと百も承知といった具合に、視線を受け流している。
「…ない、とは思いますがもし裏切るようなら」
「ないわい。リン王が王となるまでは仲間じゃ。約束さえ守ってくれればな」
「なら、いいのですが」
「チョウ竜! ロウ竜殿に対していささか失礼にすぎるぞ!」
「ほっほ、よいよい。ワシと違って、王思いのよい竜じゃな」
「む…ロウ竜殿がいいなら、いいのですが、しかし」
「お主もな、ガン竜。兵を愛し、兵に愛される良い竜じゃ」
「ガ、ガハハ! これは照れますな!」
守護狼として名を馳せたロウ竜に対して憧れか何かがあるのだろう…ガン竜は頭をガシガシと掻きながら恥ずかしさをごまかすように笑い声をあげた。
そしてそうこうするうちに…やってきた。
「皆の物、またせたな!」
神殿へと続く扉からやってきたリン王。
その衣装こそ鈴星のものだが、頭に載せている冠は、神楽月の王が式典の際に被るそれである。
「これより、根降ろしの儀へと取り掛かる!」
リン王の声に、おぉ! と兵士達から歓声が上がる。
「始まったか…」
いつの間にかロウ竜、チョウ竜、ガン竜の隣に、あの女竜が現れた。
「貴様、今までろくに姿も見せず何をしておった!」
「仕事だ。チョウ竜の隠密が役に立たないのでな」
「私の部下が無能だと?」
「無能ではないが、力不足だな。何匹イン竜の配下に入られたと思っている?」
「ほっほ、イン竜の部下と比べられては兵も可愛そうに。奴はあれで部下の育成に熱心じゃからの」
リン王の元に…少なくとも協力者という意味で集う四人の竜が一同に会した姿に、兵や臣民の視線が集まる。
「今後改めるとしましょう。それで、仕事はしてくださったので?」
「とりあえず入り込んでる虫は全部殺した」
「と、いうことはそろそろか」
「ま、狙うならここでしょうからのぉ」
「こらお前たち! 主役の我を差し置いて、兵の注目を奪うでない!」
四人の竜の元に大きな歩幅で近づくリン王。
視線が更に集まるのを感じると、リン王は満足げに笑い、そして高らかに言った。
「よいか、兵達よ! 今宵、新たな戦記が綴られる! 兵達よ! よいか、兵達よ! 我等は今、その新たな戦記の一ページに立っておる!」
リン王の太く芯まで通る声が、宮中の兵に行きわたる。
その声は昼間の襲撃による疲れを一時忘れさせ、
その声はこれから戦場に立ち顔を知った相手と戦う嫌悪を鈍らせ、
その声は自分が誰の元に戦う兵士であるかを知らしめるものだった。
「兵隊よ! 主等と共に戦場に立ち、主等を率いるは、我が腹心の竜! 大将、ガン竜!」
「ガッハッハ! よろしく頼むぞ、部下ども!」
リン王の呼びかけに答えたガン竜のセリフに、兵士達が拳を掲げ雄たけびを上げる。
「おつむの弱いガン竜を支えるは、切れ者中の切れ者! チョウ竜!」
雄たけびが笑いに変わるなか、チョウ竜が兵達に頭を下げる。
「更に! 力を貸してくれるは、イン竜にも引けを取らぬ凄腕の女! そして…知らぬ者などいなかろう、守護狼ロウ竜!」
再び雄たけびがあがる中、女竜は付き合ってられないとばかりに姿をけし、ロウ竜は兵をみながら静かにあごひげをなでる。
「そして我が、新しく王とならんとする男、リン王である!」
いいながらリン王は懐から神樹の根を取り出し、満月の光にかざすと、大勢の兵士や臣民が見ている中、それを自分の腕に振り下ろした。
「ぬぐぅっ!?」
根はリン王の腕に触れた途端、王の全身を包み込むように根を増やし延ばし、王の姿を数秒兵士達の前から隠して見せた。
「ぎ、儀式の手順が違います!」
大臣や神官が怒声を上げ王に近づくが、その頃には巨大な球根のようなものとなり、中から奇妙な呻き声とも笑い声ともつかぬくぐもった音が聞こえるだけ。
(―さて、問題はここからじゃが)
球根のような姿になったリン王を眺めるロウ竜。
ロウ竜がこの姿を見るのは、これで五回目…一度目は、先先代の王が王となった時。
二回目と三回目は、先先代の王から王位を引き継ごうとし手失敗した二人の兄王の時、
四回目が先代の王が見事王を引き継げた時、
そして今夜が五回目。
(―失敗すれば干物。成功すれば元通り…)
神樹の根が根付く土台が無ければ、先代王の兄二人のように干からびた後に砕け散る。
そうでなければ、根が血管のように体全身に行きわたり一つとなる。
(―さて、どちらが出ますかな)
そこにいる全ての人間が見つめる中、やがて…
「…うむ。悪くない」
球根から声がし、
「これで神樹の根は我の物だ!」
声と共に球根は縮み、中にいたリン王と一つとなった。
その外見は、儀式を始める前のリン王となんら変わらず、服でさえもそのままであった。
が、ロウ竜には見えた。
(―確かに、宿ってますな)
ロウ竜が見たのは、気。
リン王に宿った、神樹の根が持つ気。
今はまだ、同じ絵皿に載せられだけの二色の絵具のように混ざり切ってはいないが、根の核…リン王に取り込まれた根の芽の部分からゆっくりと混ざり合い始めている。
この混ざり合いが終わるのが、だいたい一晩。
それが終われば、正式に新しい王の誕生である。
「小難しい儀式の手順などいらんだろうと踏んだのだが、思うた通りであったな!」
自分の体を確かめるように叩くリン王と、ほっと胸をなでおろすガン竜とチョウ竜。
いずれにせよこうして…
「根は、張り終わった!」
リン王の太い声に、唾を飲み込む兵士達。
「明日の朝、この姿が無事に皆の前に現れた時、我は正式に皆の王となる!」
その言葉に兵士が歓声をあげる…よりも早く、
「が、しかし!」
リン王は言葉を継ぎ足し、そして指さした。
兵士達の後ろ…
宮殿と外とを区切る正門を、
そして、
「全軍!」
聞こえた、
「突撃!!」
「「「「「「「「「「「「うぉー!!!!!」」」」」」」」」」」」
リン王達からして敵軍…
舞姫率いる、国を取り返さんとする敵軍の声が、
「歓びの朝日を迎えるのは、我らかあちらか…今ここに、新たな戦記を始めようぞ!」
「「「「「「「「「「「「オゥー!!!!!」」」」」」」」」」」」
かくして、戦が始まった。
「さぁ、どう来る姫たちよ!」
「さてさて…無策ということはないでしょうが、戦いがいのある敵だとよいですな」
迎えるは、リン王。
配下には、ガン竜、チョウ竜、ロウ竜、女竜、そして寝返った神楽月の兵士と、鈴星から来た兵士達。
「さって、いきますか姫様」
「はい!」
攻め入るは、舞姫とユウ竜。
配下には、ソウ竜、イン竜、そして姫の元に集まった神楽月の兵士と傭兵達。
「姉さま…お願い、負けないで…負けないで!」
その開戦の声を岩屋で聞く歌姫…
たった一夜、
されど一夜、
今後の神楽月と鈴星の…
いや、世界の流れすら動かすことになる一夜が始まった。
お読みいただきありがとうございました。
本職…というか、普段は小説よりも演劇(舞台)の台本などを書くことの方が多い関係上、準備に関わったりもします。
準備ってのは不安ながらも楽しいものですが、その楽しさってのは本番があるから…いつか終わるから不安で楽しいものだと思うのですよね。
てなわけで、必死に準備してきたものが、戦争パートでどう終わりを向かるか…読み飽きてきた皆様もいらっしゃるでしょうが、よければ付き合ってやって頂けると幸いです。




