戦記39「諸刃の剣」
フラグの回収は、忘れた頃にやってくる。
戦記39「諸刃の剣」
(―正直、これで相手になれなきゃ、打つ手無しだったけど)
手ぬぐいで剣を弾くロウ竜、
逃げ際に蹴り放ち、つま先を掠らせる。
気の移動で大きく距離を稼ぐロウ竜、
即座に距離を詰めにかかり、けして休ませない。
(―いけるな)
逃げる先に剣を差し込み、着地地点に蹴りを放ち、飛んで逃げようとする先に呼び出した短剣や石を投げつける。
そのことごくを相変わらずロウ竜は避け続けるが、お喋りは聞こえなくなり、そして避ける暇を確実に削っている。
先ほどまでの戦いで、気を用いた移動技で一度に動ける距離や高さはおおよその把握ができている。そしてリズム…というか使用頻度というか…おそらくだが、気を用いた術は連発ができない。限りなく連続に近い状態にはできるかもしれないが、基本的には一つ技を使用したら、次の技を使用するまでには少し間隔が空く。
タ、タ、タ、タ、タ、でも、ターン、ターン、ターン、でもいいが、必ず休止が入る。
(―姫様が気は風船といってたが、なるほど理解)
確かに一度開けば流しっぱなしにできる水道よりは、一つ使うごとに膨らませる必要のある風船の方がイメージに近いのかもしれない。
移動術みたいに細かいものは、すぐに膨らませられる。
姫様の地面を抉った技のように大きいものは、膨らませるのに時間がかかる。
風船を膨らませるスピードには、肺活量の差が出る。
まぁ、あくまで俺の予想でしかないわけだが、今のところ当たっている。
その予想を元に繰り出す攻撃でさらに予想の精度を高めて、まずは掠る頻度をあげて、一撃入れるところまで高めていく。
勿論、予想を大きく超える可能性もあるので過信は禁物だが、目安には十分。
速さでも威力でも、今の俺の状態なら対処できる余裕はあるはずだ。
もし余裕のない反撃をされたどうするんだって?
そん時は死ぬんだろう。戦いなのだから。
(―入った)
そうこうするうちに、気の移動術の隙間に剣を突き刺すタイミングがやってきた。
「ぬぐぅ!」
が、突き刺した剣を、ロウ竜は両手を重ねて受け止めた。
(貫通は―しないか)
本来なら、ナナシと違って研ぎの鋭いこの剣を普通に止められるわけはない。おそらく気による防御なのだろう。貫通するどころか、受け止められたこちらの剣が圧し折られた。
これで剣を折ったことに少しでも気が緩んでくれる可愛げがロウ竜にあればもう少し戦いやすっかったのだが…
(―甘くないね、ほんと)
折れた刃が地面に落ちる前に、次を出す。
同じ形の剣をもう一振り、抜き身の状態で取り出すや、すぐに水平に切りつける。
ロウ竜は大きくこれを飛びのいてかわしたが、掠ったのか、着地した先で腕をなめていた。
「確かに、普通なら腕の一本どころか両方貰われてましたわい…」
「そうか、残念だ」
気で防御してなければ、普通にダメージを受けるらしい。
なら防御が間に合わなくなるほど切ればいいということだが…
(―大丈夫、まだいける)
呼吸を整え、自分の状態を把握し、剣を構えなおす。
この状態…裏技というか裏能力というか…いずれにしろ、これを使用するデメリットがある。そのデメリットを少しでも軽減するためには、とにかくこの状況を早く切り上げるしかない。
故に、時間が惜しい。
故に、すぐに攻撃に出る。
それが理想だったが、ロウ竜の奇妙な動きを見て…いや、ロウ竜から広がった光を見て動きを止める。
「狼弦明陣」
ロウ竜の足元から光の網目が広がった。
網目の中心で、ロウ竜が初めて構えらしい構えを見せる。
「それだけの気をお持ちで、まさかのあの程度とは思っていませんでしたが…にしてもお力を隠しすぎでしょう」
この状態のことを指しているのだろうロウ竜のそのセリフからは、上から物を喋る人間特有の温さが消えていた。
しかし、自信は消えていない。
自分の経験値への信頼は消えていない。
その証拠に、
「お礼に、こちらもお見せしましょう…参ります」
来た。
上半身の構えはほとんど変えぬまま、踏み込んでくる。
ロウ竜の移動に合わせて、光の網も移動する。
大人が二人手を伸ばしたきったぐらいの半径を持つ円が、ロウ竜と共に迫る。
(―設置じゃなくて、着装タイプか)
気だろうが魔法だろうが、効果範囲を持つ技は大まかにいって三種類。
一、狙った対象やエリアを中心に広がる狙撃タイプ。
二、地面、壁、空中など場所を固定して広げておく設置タイプ。
三、対象者を包んだり、その周囲に広がり移動する着装タイプ。
攻撃系の多くは一、トラップ系は二、そして防御やカウンターが多いのが三だ。
(―触れないのが第一)
距離を取ろうとする。が、
「やはりよく回る頭ですが、逃がすとお思いで?」
最悪なことに、あの陣を張った状態で気を使えるらしい。
徹すれば違うのかもしれないが、腕の一本でも貰うつもりでいる以上、逃げるばかりにもいかない。
技を探りつつの移動では、単純におってくるロウ竜の方が上。
このままだといつか捕まる。
その前に陣を崩せないか試していく。
まずは、離れながら、円に向かって石を投げ込む。
が、反応無し。
元から地面に生えていた草などが円に飲まれても無反応。
間に太めの木を挟んで陣にぶつかるようにしてみたが、陣は木に沿って表面を這うだけで、木を越えるとまた地面に張り付くように広がった。
壁や木などの遮蔽物を越えるわけではないが、基本的には地面に、無理なら障害物に沿って展開する膜や皮のような陣というわけだ。
そこまで理解したところで、回避が間に合わなくなった。
ほんの僅かに俺の足が円に触れた。
瞬間、網目の一部が弾け飛び、俺の体を跳ね上げた。
まるで誰かに投げ飛ばされたかのように正確に、俺のが体がロウ竜の方へ飛ぶ。
この技そのものにダメージはない。
ただ飛ばされただけだ。が…空中で回転するように放り投げられた俺の体は背中をロウ竜に向ける形となり、そこにこぶしが叩き込まれた。
「ぬぅん!」
気を込めたと思われる拳が、背中から痛みを伝える。
この状態の俺に…棍棒で殴られた程度じゃ痛みなど感じないほどに強化されてるはずの体が、その一撃で十二分な痛みを感じる。
捕えた者を殴りつける為だけの技ではあるが、その殴るダメージが鈍器を越えるのなら優秀な技だ。故に、
(―マズイ)
このダメージはマズイ。
そして更にマズイことになると、今更わかった。
俺の体が地面へと叩きつけられるようにぶつかり、網目に触れた。
その途端、再び跳ねあげられる。
背中を向けてロウ竜の元へ。
そして、
「ぬんっ!」
先程利よりも無防備な体に全力の拳を叩きこまれ、何もできないまま地面に激突。
そして跳ね上げられた。
(―これ、完全にハメ技じゃねーか)
一度捕まれば、延々と殴られる陣。
相手を限りなく無力化し、自身の攻撃を効率よくたたき込むためだけの技。
さすが、俺と同じく戦闘を手段としかとらえてない男の技だ。
派手さもない、誇りもない、威力もない、ただし効率的で効果的だ。
「どこまで耐えられますかな?」
再度来るであろう衝撃に気持ちだけでも備えようと思った矢先、しかしやってきたのはまるで別の感覚。
「ぬっ…」
ロウ竜の声が遠くきこえる…それと同時に柔らかい何かに受け止められたような感触がし、それが姫様に受け止められたからだと気づくのに、かなりの時間がかかった。
移動術か何かで、俺がロウ竜に三度殴られる前に回収してくれたのだろう。
つまり、踏まなければ…違うな、触れなければ、あの陣の放り投げは喰らわないわけか。
(―それなら、まだ手段、は、あ、)
あ、と思った瞬間、体が崩れた。
「ユウさま!?」
身体から力が抜ける。鼓動が収まる。脈が弱くなる。同時に内側から襲い掛かってくる言いようのない疲労感。そして抗いがたい眠気。
これが、裏を使った反動。
使用する時間や呼びかける道具によって違いはあるが、おおむね使用すればしただけ、動けなくなる。
(―時間、切れ、か)
なんとか視線だけでも動かしながら状況を把握する。
ロウ竜は、先ほどと同じところに円を開いたまま立っていた。
おかしなことと言えば、その円が一部かけていたこと。
そして、姫が立っていたはずの場所に姫が立っていなかったこと。
「たすかった…ありがとう」
姫からの返答はない。
姫は俺の体を覆うように抱きかかえ、一生懸命ロウ竜を睨んでいる。
「…溜め込んだ気を消費して身体能力を上げる技かと思いましたが…違うようですな」
こちらを観察しながらいうロウ竜。
「ただ、まぁ、長続きしないのなら、さして怖くはありませんな」
意識がぶつぎりになってくる。
「ユウ竜ー!? 姫様!」
あの声は、イン竜…だろうか?」
「おいおい、帰ってこないと思ったらもう、おっぱじめてんのかい!」
これは、スワロ? スバル? あれ、傭兵の、なんだっけか…
「どうも、散歩はここまでのようですな」
「爺…」
「ロウ竜、です。姫様」
姫が苦しそうな顔をする。
手を伸ばしてあげたいが、腕が持ち上がらない。
「…その程度の男で良いのですか?」
姫に捕まれてる腕に痛みが走る。
「…これ以上の方はいらっしゃいません」
「そうですか…姫様がそれでいいとおっしゃるなら、別に構いません。ただ…」
タダ?
「敵を名乗るなら…もう少しがんばってくだされ。新しい神楽月の歴史を飾るに相応しい敵として」
その言葉を聞き終えるや、意識が途切れた。
お読みいただきありがとうございました。
結局腕一本すらとれなかったユウ竜の切り札的なこの技…いちおう存在自体は、第一章からほのめかしておりました。
反動が反動だけに、戦争中は使ってなかった(使わなかったし使えなかった)技ですが、出し惜しみするだけあり割と重要なスキルです。
ぶっちゃけ、事前にこの技使わせるためにロウ竜散歩させたといっても過言ではないほどに。
てなわけで、準備も(伏線的な意味でも)整いました。
いよいよ出撃。
長くも短い二日の始まりです。




