戦記38「対ロウ竜」
毎日暑いですね。
思わず、あつはなついでんなー、とか往年のギャグを言いたくなるぐらいに頭がゆだってしまっています。
よく考えたら、一年中そんなこといってました。
暑いので思わず、
スク水よりもパレオとかのほうが好きです。なんて夏場特有の趣味が口からポロリしてしまいます。
よく考えなくても、こんなこと一年中いってました。
暑いので本編となんの関係もない前書き書いてしまいます。
読み返してみると、ほとんが関係ない前書きでした。
一年とか過ぎた時、『一年中こんな前書き書いてました』っていえるようなぐらい根気よく続けられたらいいなと思いつつ、本日もスタート。
戦記38「対ロウ竜」
こちらの二歩を一歩で詰めてくるロウ竜。
無理か、逃げられないな。
姫の手を放し、反転しながら剣―無名の剣、ナナシを取り出す。
長くなく短くなく、重くなく軽くなく、切れ味はやや鈍いものの、折れも曲がりもしたことのない愛用の剣―ナナシを片手で振りかぶりながら、ロウ竜の足元にカイ竜お手製の爆弾を放り投げる。
「ロウ竜!?」
姫が、土煙の向こうに呼びかける。
「敵の心配をしている場合ですか?」
粉塵の中から、焦り一つないロウ竜の声が聞こえたと思った瞬間、風が湧き、煙が流動した。
見極め、身体をずらす。が、横に並ばれた。
「よい目をお持ちですな」
回し蹴りが迫る。迫ってるのは分かるが、体が反応しない…いや、体を捻ろうにも捻れない。身体が動かしづらい位置からの攻撃による―
「散歩ですからな。命までは取りますまい」
―衝撃。
その老体のどこから! と思わずにいられない衝撃が体全体を覆う…
(―体全体から?)
なんで回し蹴りで体全体に衝撃が?
答えに気付く前に、姫の声が聞こえた。
「…疾!」
姫の身体が真横に飛ぶ。
「なんの、なんの」
ロウ竜の体が、姫と同じ速度で宙に舞う。
姫がそれを追うが、その頃にはすでにロウ竜の姿はなく、追う姫と逃げるロウ竜の姿は、鳥や何かが空で舞い踊るかのように複雑な軌道を描く。
姫のあの移動術が気とやらにやって行われているのであれば、ロウ竜のそれも同じだろう。
となれば、先ほどの体全体への衝撃もそのはず。
(―蹴りと同時に、体全体覆うほどの気を一気に噴き出したってことか?)
なにせ、二人の人間が、目の前で弾や矢のような速度で跳んでいるのだ。人を吹き飛ばすぐらいできてもおかしくはないだろう。
しかも、その扱いにおいて、ロウ竜は姫に勝るらしい。
いつのまにか追っていたはずの姫がロウ竜に追われ始めた。
「それ、姫様後ろです」
姫の背中に蹴りを放とうとするロウ竜。
そこに武器を持ちかえて、矢を放つ。
「ぬっ」
放った途端、ロウ竜は空中で動きを変え、宙返りをするように矢をよけた。
「ユウ竜殿も存外お優しい。爆弾も矢も、当てる気でなければ、かすりもしませんぞ?」
「どうやら、そのようで」
今度は正真正銘、当てる気で矢を放つ。
しかしロウ竜は腰にしていた手ぬぐいを抜き取ると、そのただのてぬぐいで、バシバシと矢を撃ち落としてみせた。
「それも気、ってやつの効果か…」
「おや、ご存じで」
「つい先ほど姫様から聞いたのだけど…実際目の当たりにすると面倒極まりないな」
「いやいや、こんなもの気の序の口。驚くに値しませんな」
地面に転がっている石を蹴り上げたあと、それをこちらへと蹴り飛ばしてくるロウ竜。
その石の速度は矢よりも早く俺の脇をかすめ、後ろに立っていた木の幹へとめり込んだ。
「ま、慣れればこんなこともできますな」
そんな余裕のロウ竜の後ろで、何か独特の姿勢で固まっていた姫が動いた。
おそらくは、気を使った何かの技であろう。
後から迫る姫に、しかしロウ竜はわずかに体をずらしただけ…少なくとも俺にはその程度にしかみえなかったが、実際は違ったようだ。
ロウ竜とすれ違う直前、姫の体が跳ね上げられたように飛び、両手から地面へと衝突した。
とたん、爆発。
煙こそ立たなかったが、さきほどの爆弾と同レベルの爆発が、姫の触れた地面から起きた。
「大技をあてるなら、きちんどあてるだけの準備をしてからにするべきですな。気の見えないものならともかく、見える者同士で易々と当たるなどと思わないことです」
姫が態勢を取り直しながら、再び俺と反対側…ロウ竜を挟むように位置取る。
その判断からしても分かる。
姫も、けして戦い慣れしてないわけではない。
動きだけでいったら、むしろ気の扱いになれているぶん俺よりも動ける。
ドラゴニアの将と同等程度以上の戦力であるとみていい。
そんな姫と俺を相手にしても、まるで余裕というロウ竜。
「そんなんでは、国は勿論、爺の命どころか腕一本落とせませんな。もっと本気できて頂いて構いませんぞ?」
「…本気でやる前にお聞きしても?」
「答えるかはわかりませんが、どうぞ」
「じゃあ、本題から。ロウ竜さん、本当に敵で?」
「姫様が戦うというなら、そうなりますな」
「なら、どうして殺さない宣言なんてして戦ってくれてるんで?」
「…ま、一口に敵といっても、いろいろな敵がおりますからな」
「ではあくまで敵だと」
「敵、ですな」
けしてその立場を捨てようとしないロウ竜
その理由はいくつか考えられる。
いくつか考えらえるが…いずれにしろ敵だというなら、敵なのだろう。
敵意も殺意も見えないが、敵なのだ。
正直色々な意味で戦いたくない相手だが…はっきりと言われてる以上、戦わないわけにはいかない。
「…ロウ竜殿」
「なんですかな、ユウ竜殿」
「一騎打ちで」
「ユウ様?」
「大丈夫、命はおまけしてくれるらしいし」
「しかし」
「頼む」
「…わかりました」
じっと、俺とロウ竜の動きを見逃さないと目を見開く姫。
ナナシを構えて、呼吸を整える俺。
姫と俺の様子を見て、ロウ竜が頷く。
「…おいでなさい」
許可が出るや否や、切りかかる。
殺すつもりで。
一撃一撃を、触れれば命を絶つように、そうでなくても致命傷を与えるように、打ち出す。前の動きを利用して次の動きを繰り出し、その動きを利用して次の動きへ。
「無駄の少ないいい動きですな。早い戦いになれておいでで?」
「無茶を強いる上司の相手役をしてたものでしてね?」
剣姫の持つ銀の長剣から繰り出す技のおかげで、早い戦いそのものは不得手ではない。俺自身は技の時ほど速くは動けないが、早いテンポで剣を振ることはできる。
早く振るために無駄を省いた動きもできるようになった。
そのリズムが一定にならないようにずらすこともできる。
片手や両手を織り交ぜてリーチを変えることもできる。
人体の急所や、狙われて嫌な部位への攻撃も狙える。
武器を交換したり、道具を用いたり、体術に切り替えたりもできる。
が、そのことごとくがかわされる。
フェイントを入れようと、途中で爆弾や投擲を挟もうと、一太刀も掠らない。
防御すら取らせることができない。
その理由として技量の差はもちろんあるが、それだけではなく、
(―嫌になるほど冷静な爺さんだな)
ロウ竜からは、戦う者の多くが持つ、高ぶりとか焦りとか迷いとか…戦うためのやる気や動機のようなものが一切感じられない。
強い奴とはけっこう戦ってきた。そして負けてきた。
それでも、まったく刃が届かないということはさほどなかった。
力が及ばずとも、戦術やら話術やらを組み合わせてなんとか一太刀いれるぐらいはできてきたし、策を弄すれば隙を作るぐらいの事は出来た。
それが、できない。
「ふむ…」
何度目かの剣をかわされた時、ロウ竜が距離を少し大きく取り、言った。
「弱い、ですな」
手ぬぐいで泥を払いながら、ロウ竜がいう。
「お上手に戦いなさる。戦いにおける目も頭の切れも悪くない。ですが、圧倒的に弱いですな。そんなんでは、同じく弱いこの爺には勝てますまい」
「ロウ竜殿が弱いだなどと…」
「いやいや、気づいておられるでしょう? ユウ竜殿も爺も、本質は弱きもの。本物の戦士とは遠い人間です」
「…お分かりに?」
「自分も歩んだ道ですからな」
分かってもらえないなら、それでもいい。
だが、ロウ竜の言う通り、自分は強者だと…戦士や剣士だとは思っていない。
キョウ王のように戦いを楽しんだり、剣姫のように戦いに崇高さを感じたり、求道者のように己の力を高めることに生きがいを感じたりしない。一つの道を愚直に昇華させる我慢強さもない。
いや、それらがないわけではないが、本質ではない。
俺や、本人曰くロウ竜にとって、戦いとは手段の一つ。
目的を達成するための手段の一つでしかなく、戦わずに達成されるなら、他のもので構わない。
だから、強くない。
目的が達成されればいい。
それは俺の力じゃなくてもいい。
兵の力でも道具の力でも、剣でも弓でもなんでもいい。
だから、上手く戦うようになる。
死なないように、強くなくとも勝てるように、戦わずとも勝てるような、戦闘を選ぶ。
手札の強さではなく、手札の種類を増やし、場に合わせて最善手を求めるような戦闘を好む。
だから、ロウ竜に勝てない。
知っているから。
弱いものが仕掛けてくる罠を。
見えているから。
しかけるポイントを。
もっているから。
こちらの手札を無効化する札を。
自分よりも上手いロウ竜に、だから俺は勝てない。
しかもカードそのものの強さも、あちらの方が全体的に勝っている状況だ。
これに勝つには、相手に勝る上手さか、または対極の戦い方…知っていようが見えていようがどうにもならない、上手さを粉砕する強さがいる。
「…手合せは終わりで?」
ナナシをしまった俺に、ロウ竜が問う。
「まぁ…このままで勝てるとは思えないので」
その返答に、やや失望したような響きでいうロウ竜。
「確かに…しかし、ここで意地でも討たずして、勝ちが拾えるとでも思っておるのですかな?」
「まぁ、難しいでしょうねぇ」
わざわざこちらの弱点まで指摘してくれるありがたい相手と言えど、戦いとなれば敵となるのなら、放置は悪手だ。
このままロウ竜を見逃して神楽月で戦うとなると、敵陣営に王と竜が3人増える。ロウ竜に二人がかりでも勝てないというのに、そんなことになろうものなら、窮地は必至。勝利は不可能…とはいわないが、可能性は大いに落ちるだろう。
だから、
「手合せは、終わりで」
ナナシをしまい、かわりに刃渡りが短く唾の無い剣―長ドスのようなものを一振り呼び出し、宣言する。
「ここからは本番ってことで…せめて、腕の一本でも頂戴します」
礼儀として。
弱いなりにも、天丘国家ドラゴニアの総大将であるキョウ王と、その妻たる剣姫から戦いを教えてもらった身として伝え、呼ぶ。
(―いくぞ、ナナシ)
自分のどこかにしまわれている、見えない愛用の剣に呼びかける。
途端、ズグン、と眉間や心臓や血管や、体のあちらこちらが呼応した。
「むっ…」
「えっ?」
俺自身でも良く理屈の分からない、しかし確かに起きたその何かを感じ取ったのか、姫とロウ竜が短く呟いた。
それとほぼ同時に、地面を蹴った。
姫の弾丸のような移動速度を僅かに越える速度で、ロウ竜に襲い掛かる。
その剣はロウ竜に避ける隙を与えず、
「…やりますな」
手ぬぐいを紐のようにして両手で張り、剣を受け止めるロウ竜。
「三十年若ければ、死んでおりましたわ」
それは、この戦闘が始まって初めて、ロウ竜が防御した瞬間だった。
お読みいただきありがとうございます。
「ギア、セカンド!」とか言いたくなるような描写で反撃(?)するユウ竜。どんな結末になるかはさておき、間もなく決着がつく模様。




