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ユウ王戦記 ~三妃 七竜 十三宝 を揃えて異世界で王になるまで~  作者: しいか
第2章 神楽月(カグヅキ)内乱編

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戦記35「交渉終結」

 そろそろ酒場のやりとりもおしまい。

 それにしても、ほんと神楽月の人はお酒好きだなって思う今日この頃。

戦記35「交渉終結」


 えっ、とイン竜を除いたこちらの面々からうめき声が聞こえた。

 その声に、ケラケラと笑うスワロ。


「この女が頭目だと!? じゃ、じゃあこの男は!?」

「そいつぁ、うちのナンバー2だよ」

「たばかったのか!」

「おいおい、誰もオレがボスだなんて一言も言ってないだろ?」

「し、しかしボスのテーブルに案内すると!」

「だから案内したろ? ボスのあたしが座ってるテーブルに」

「詭弁だ!」

「でも、兄さんと黒い姉さんははなっからあたしがボスってわかってたみたいだけど?」


 キッ、と睨み付けてくるソウ竜に、まぁね、と笑うイン竜。


「どうして教えなかった!」

「聞かれなかったから、わかってるのかなーって?」


 文句をいうソウ竜と、のらりくらりとかわすイン竜…

 二人を脇に、再度スワロに問う。


「で、受け取ってくれるかどうかのご返答は?」

「返答の前に、聞かせてもらえる? どうして、この宝刀をあたしらが喜ぶと思ったんだい? ナッツなしで答えてみな」


 ナッツの乗った皿を手元に下げて、こちらを挑発的に見るスワロ。


「…仮に、金に目がくらむ安い傭兵団なら、宝刀をちらつかせれば簡単に主導権を握れる」


 欲しいなら仕事しろ、またはそれ以上の品が欲しいならこちらの言うことを聞け…そういう分かり易い関係で仕事を任せてしまえる。


「そして、もし金に目のくらまない、高い傭兵団ならこの宝刀の価値と逸話を聞けば、その誇りを満たすことができ、よりよい関係を築くことができる。そしてお姉さんたちみたいに更に高い傭兵団なら…ここにいる姫にしか用意できないモノを渡すことができる」


 宝刀を一度スワロの元から遠ざけ、テーブルの真ん中に陣取る舞姫の手に預ける。

 確かに、今は国を追われた姫。しかし救国の暁には、次代の王女となる女性。その姫の手から…宝刀を渡し、そして傭兵団と共に逸話を再現した時、刻まれる。


「深緑の傭兵団の名前…歴史に残す気はないかな?」


 金も誇りも力もある傭兵団でも、難しいこと。

 それが、歴史に名を残すこと。

 

「なるほど…歴史は繰り返し、宝刀と共に歴史に残るってわけだ。深緑の傭兵団の名前が」

「歴史に興味はおありで?」

「学問に興味はないね。でも…自分らの名前が載るってのは、悪い気はしない」

「では、返答は?」


 スワロは団員たちの顔を眺めたあとスバルを見やり、そのスバルも首を縦に振った。


「俺達のことを高く買ってくれた奴は今までもいた。だけど、歴史に刻むチャンスをくれた奴はユウ竜さんが初めてだ」

「やれやれ…一仕事終えたばかりだってのに、また命がけとは面倒だけど…この仕事、引き受けてやるよ」


「「「「「「「「「うおぉおおおお!!!!!」」」」」」」」」


 何人が叫んだのか分からない。

 もしかしたら、店中の人間が叫んだのかもしれない。

 はしゃいだり、酒を煽ったり、テーブルを叩いたり、床を踏み鳴らしたり、傭兵団が思い思いに心の内をさらけ出す。

 しかしそれを、スワロが止めた。


「黙りな!」


 ピタリ、と。水が打ったようにとはこのことかというほどに一斉に沈黙が降りる。

 俺やスバルも含めて、全員がどうして? という視線をスワロに向けるほどだった。

 そんな中、スワロがいった。


「あんたがいい」


 俺を指さし、いう。


「宝剣を貰うのは、あんたからがいい」

「…俺?」


 想像していなかった返答に、言葉を拾い、頭を回し、先を手探る。

 その速度を追い抜こうとするかのように、スワロが言葉を重ねる。


「あんたの目論見は分かる。わざわざナッツトークなんて古い遊びも持ち出したんだ…姫とあたしたちに気を使ってくれたのも分かる。そりゃ姫さんから貰った方が確実さ。周りへの覚えもめでたいし、誰が考えたってこの場で立てるべきは姫さんだろうさ。だけど、あたしはあんたがいい」

「…竜ですらない俺から貰ったって、名前なんて残りませんよ?」

「残してくんなよ…竜でも王でもなんでもなって、あんたから宝剣を貰ったあたしたちの名前を」


 ちらりと周りに…傭兵団に目をやる。

 どれだけいるか分からない。

 ここにいない傭兵もいるだろう。

 その傭兵達の喜びを…歴史に名前を刻むという歓びを背負えと。


「あんたが、そこそこヤルってのは、傭兵仲間から聞いてる。王を目指してるってのも」


 おそらくは、過去に手を貸してくれた傭兵達だろう。

 ドラゴニアの仕事…遊撃を行う際に、現地の傭兵達に力を借りたのは一度や二度の話ではない。


「実際に会ってみて、よーくわかった。確かにあんたなら間違いない。歴史を切り開くに値するだけの何かを感じた」


 そう、笑いながらナッツを噛み砕き…古い傭兵の遊び、ナッツトークでいうスワロ。


「賭けにはなるが…男だろ? 女に責任押し付けずに、自分が矢面にたてよ、ボーヤ」


 ナッツの皿をこちらに滑らせて寄越す。

 言葉は…考えた。

 あとは、いうかどうかだが…


「…姫」

「はい、ユウ様」


 短く呼ぶと、舞姫は笑いながらこちらに刀を預けてくれた。

 イン竜を見る、お付を見る…どちらも頷きを返す。

 ソウ竜は見なくても分かるので無視する。


「…では、言い直そう」


 皿からナッツを取り、噛み砕きつつ返す。


「俺の為に、死んでくれ」


 視線をまっすぐに、スワロはそれを受け止め、


「…スバル」

「野郎ども!」


 スバルの号令ひとつ、傭兵達が一斉に並び、こちらへと顔を向けた。

 そしてスワロが、傭兵達の前に立ち、ナッツを噛み砕くことなくいう。


「今はまだ位無き王に、我らの命をお預けする!」

「復唱!」

「「「「「「「今はまだ位無き王に、我らの命をお預けする!」」」」」」」


「ただし、名前も残すことなく死のうものなら、七代に渡り玉無し野郎と言い伝えてやるので覚悟しろ!」

「復唱!」

「「「「「「「ただし、名前も残すことなく死のうものなら、七代に渡り玉無し野郎と言い伝えてやるので覚悟しろ!」」」」」」」


「敬礼!」

「敬礼!」

「「「「「「「敬礼!」」」」」」」


 傭兵団が、俺に礼を表す。

 礼一つとっても国柄、人柄があるが…拳や武器を空に掲げ、俺の為に戦うことを誓ってくれた。

 さて…この礼に俺は何を返すべきか悩んだ後、告げる。


「マスター、ここにいる全員にいい酒を俺の奢りで」


 その言葉を聞いた傭兵団の歓声は、今日一番いい歓声であった。



 それから、場は宴となった。

 外で待たせていたお付たちも交え、なんなら宿屋に残っていた兵士達も集め、傭兵団とチーム舞姫による合同宴会が盛大に行われた。


「ほらほら、姫さんいけるくちなんでしょ? 飲んだ飲んだ!」

「え、あ、わわ、ありがとうございます。じゃぁ、返杯を」


 スワロと姫は互いに酒を注ぎあい仲を深め、スバルとイン竜がそれを眺めながらほどほどに酒を嗜み、それぞれの部下は隔てなく騒ぎあい、話し合い、楽しい酒を飲みかわした。

 そんな中、隠そうともせずに盛大に不服な顔をしているのが一名。

 その名はソウ竜。

 スワロの腰に携えられた宝刀をみながら、仏頂面を披露している。何人かの女がソウ竜の顔か何かに惹かれて話しかけに言ったが、笑顔を引き出すどころか、更に頑なに変えただけだった。


「ソウ竜、ちょっといいか?」

「貴様と話すようなことなど何一つない!」

「姫様のことでも?」


 ぬぅっ、と小さく呻き逡巡したが、結果ついてくることにしたソウ竜を従え、店の外へと…店の出入り口から死角となる場所まで移動する。


「どこまでいく、そして何用だ」

「ここでいい。そして用件の前に聞きたいんだけど、不満顔な理由は?」

「貴様のせいだ」

「その貴様のせいを細かくいうと? あぁ、とりあえず今の一件に関することにだけ絞ってくれ」


 じゃないと、婚約がどうとかって話しにまでいきそうだし。

 すると、案の定根本から否定しようとしていたらしく、一度言葉を飲み込んだ。


「…一番は、宝刀をくれてやったことだ」


 まぁ、そうだろうな。


「あの流れ的にしょうがないだろ? 俺もできれば姫から渡して欲しかったわけだし」

「そうではない。それも腹は立つが、何より腹立たしいのは、そもそもあの宝刀を傭兵なんぞにくれてやったことそのものだ!」


 武器マニア故、ソウ竜も狙っていた武器の一つだったのだろうか?

 いや、でもソウ竜の背中にあるのは槍だし、獲物が違うよな…

 と思っている間に、ソウ竜がその理由を口にした。


「どうしてあの宝剣…金に変えて兵のために使わなかった!」


 続けてソウ竜は言う。


「お前の宝で、お前の金だ。文句をいうのは筋違いだとは分かってる。でも、どうして…姫の為に命を張ろうという兵の為ではなく、傭兵団なのだ!」


 これは…なるほど、そっちが理由だったか。


「報告を受けたなら知っておろう! 着の身着のまま来た兵も多い。ろくな武器や防具もなく、いかにして兵に戦えというのだ! 刀も用意できぬ兵に、なんと説明すればいいのだ! 石でも投げて戦えというのか!」


 まぁ、投石自体は意外にバカにできないダメージを与えるのだが、今そんな事を云うのはお門違いというものだろう。


「傭兵達は、それぞれ手になじむ武器をもっている。防具もある。人件費だけでみると高くついたように見えるかもしれないが、装備品込みでいうなら、けして高い買い物ではない」


 戦うことが仕事故に、戦う道具の準備を怠る傭兵はまずいない。今回でいえば質の話だけでなく、人数分の装備を用意する手間や時間の省略にも繋がる。それは、宝刀を渡してもいいと思った理由の一つでもある。

 そして、


「傭兵団も、兵と同じく命をかける。戦闘経験もある。命を懸けてくれる腕のいい兵士は、大金を積むだけの価値がある。今は一人でも価値のある兵士が欲しい」

「そんなことは…わかってる! 分かってるが!」

「なら、頼みがある」


 ドザッ…と重い音を立て、地面に袋が落ちた。


 お読みいただきありがとうございます。

 普通に交渉してもおもしろくないかなーってことで、ナッツトークを挟みました。次回あたり解説が入ると思いますが、どんな遊びか気になる人は、ナッツを噛み砕いてる時のセリフを読み返して頂くと分かるかもしれません。

 それはそうと、個人的には心理戦とか交渉戦は好きなのですが、自分がやると間延びしてしまう反省。ただでさえ更新スピード落としてるので、アップする話はテンポよく運びたいのですが…

 なかなか思うようには書けませんね。

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