戦記34「交渉開始」
戦記もののわりに戦闘や戦争シーンが少ないですが、戦いの多くは戦う前から戦っているので、例え酒場だとて戦場であることに何ら変わりはないわけです。
同じ理屈でいうなら、モノカキというわりにモノを書いてないようにみえても、それはモノを書いてないだけでモノを書いていることとかわりないのです。
そんな御託を並べつつ、本日のお話スタート。
戦記34「交渉開始」
「…よく聞き取れなかった。もう一度いってくれないか?」
「姫のために死んでくれと、そういった。勝ち目のない戦いに赴いて、姫の代わりに死んでくれと」
もう一度ナッツを砕きながらいうと、男は頭が痛いとばかりにため息をついた。
「長く傭兵をやって来たが、そこまで単刀直入にいうバカとは初めてあった」
「体と命をメシの種にするお仕事でしょう? 頼んだ時点で、少なからず危険性はあるんだから、お茶を濁したって仕方ないでしょうに」
「そうはいうけどなぁ」
「ぶっちゃけ、かなり部が悪い。命を落としかねない。それぐらいの仕事…そんなことぐらい知ってるでしょ、そこのお兄さん?」
突然話をふられた傭兵団に属する青年が、「うぇっ!?」と冷や汗をかいたような表情を見せた。
男は俺ではなく、その青年に対して鋭く視線を送り『ひっこめ』と退席を促した。すぐさま、青年が店の外へと出ていく。上意下達のはっきりしたいい傭兵団だ。
「意地が悪いな、ユウ竜さんや。交渉の場についてるのはオレのはずだが?」
「そちらも、情報引き出すためにあえてうちのソウ竜を―」
「お前のではない!」
「ソウ竜!」
「し、しかし、某は姫の竜でございます!」
「…姫様のソウ竜を野放しにしてたんだから、御相子でしょう?」
この言葉に反応示したのは女…スワロ、だっけか。
「ま、確かにそーかもね」
「そ、御相子御相子」
スワロは俺の奢った酒を飲み干すと、お代わりを店主から貰って戻ってきた。
イン竜も姫たちの前にグラスを置いていく。
それを見計らって、話を再開する。
「確認するけど、一度仕事を受けたなら、傭兵として体と命を張る。それ自体に異論はないよね?」
「当たり前だ。他の傭兵団はどうかしらないが、深緑の名を掲げる者に腰抜けはいやしねー」
「となると、大きな問題は…その報酬だ」
「まぁー、そうなるかな?」
二人してナッツをぼりぼりするオレとスワロ。
よくローストされていて悪くない味である。
「じゃ、そこは安心してくれていい」
「おいおい、さっきそこのソウ竜さんは、金はねー、でも働け。国が取り戻せたらっていってたぜ? お前さんたちのどこに俺達雇うような金があるってんだ? 一人二人雇えば済むような話じゃねーだろ?」
「もちろん雇うのは深緑の傭兵団、その全軍だ。そしてそれを雇うだけの金は…正直無い」
ちっ、と舌打ちをするスバル。おそらくはこちらのやり口から、多少の期待はしてくれていたのだろう。ソウ竜を断ったときとは違うニュアンスを感じる。
で、あれば。
「話になんねー、帰んな」
スバルのセリフに合わせて、事前に用意していた荷物を御付から受け取り、テーブルに載せる。
大きさは大人の腕一本分より一回り小さいほど。
布にくるまれたそれに、傭兵達の目が行ってたのは知っている。
きっとこれが、こちらの用意した報酬であろうことも気づいていたはずだ。
その布を解く。途端、
「…まじもんか?」
スバルの強面の顔が崩れた。
それほどの逸品であるとすぐに見抜いたのはさすがだが…
スバルが慌てて表情を戻したが、見逃しはしなかった。
みたぞ、とばかりに笑顔を送ってやる。
ばつの悪そうなスバルをフォローするように、スワロが割って入ってきた。
「ねぇ、ユウ竜さん。一応いっとくけど、うちらの馴染みには目利きのできる商人もいるよ? たとえ手違いでも、ニセモノなんて出された日にやぁ…」
「御忠告ありがとう。気持ちは分かるので、呼んで頂いても構いませんよ、お姉さん?」
見つめあうこと、一秒、二秒、
「いや、必要ないでしょ?」
「もちろん。要らぬ手間など取らせたくはないのでね」
けらけらと笑うスワロとは対照に、張りつめるスバル。
「…念のため聞かせてくれ、お前、何を持ち込んできやがった?」
ギャラリーが更に集まる。
この逸品の正体を知っているモノから順に、ざわめき立つ。
そのざわめきが頂点に達した時、
「宝剣、七石刀!!!!!」
ソウ竜が叫んだ。
「時代の名工が打った刀に、時代の名工が鞘をこしらえた宝剣! 虹を意匠にした七色の宝石を埋め込んだ鞘と、それに収められた玉虫色の刀身は、武器としての価値よりも地位と権力を示す刀として有名であり、この刀をめぐる争いで小国が滅んだという曰くまであるほど!」
早口で解説してくれたソウ竜に、お礼を言うべきか罵りを入れるべきか悩む。
俺が『なんなのこいつ?』という目を向けると、姫が小声でいってくれた。
「昔から、武器が大好きなんです…」
オタク、というかマニア、というか、まぁそういうものなのだろう。
ソウ竜の解説は止むことを知らず、刀に刻印された刀匠や贋作との見分け方のレクチャーまでする始末である。正直、持ってきた俺よりも詳しいと言わざるを得ない。
「そして何より有名な逸話は」
そう、それが大事。
知らないようなら自ら説明せねばと思っていたが、その心配はないようである。
けして語りが上手いわけではないが、熱意ある言葉に引き込まれていた傭兵達がつばを飲み込む中、ソウ竜が語るその逸話とは、
「その宝剣を時の王から賜ったのは、とある傭兵団…王の窮地を救った傭兵団に、王が作らせて送った宝剣。自国の竜に召し抱えようとしたが、自由と誇りを選んだ傭兵団にせめてもの礼として送った」
「竜と等しく、国の軍と等しく敬意を払う存在であると、王が感謝を込めた…それが、七石刀の逸話でした。めでたしめでたし」
逸話の最後を締めさせて貰い、鞘から刃を抜き放つ。
特殊な鉱石から作り出した玉虫色の刀身が酒場の光を緩く反射するや、どこからともなく、ほぅっというため息が聞こえてくる。
そしてぱちりと鞘に納めるや、流れる沈黙。
「というわけで…これを報酬のかわりに進呈する」
「貴様、気は確かか!?」
俺に掴みかかろうとしたソウ竜を姫が制す。
姫の真剣な顔を見、いろいろなものを飲み込んで、ソウ竜がどかりと席に着く。
場に、再び沈黙が走る。
「そこの兄ちゃんじゃないが、ユウ竜さんよ…本気か?」
「不服で?」
「いや、無論報酬として文句はねー。相場をはるかに超えてる。だからこそ解げせねー。お前さんなら俺達の相場ぐらい心得てそうなもんだ。なのに、どうしてそれを選んだ? 金に換えてから持って来たってよかったろう」
当然の疑問だ。
何せ額だけで言ったら、祝月十二杯を越えるほどの逸品である。
だから、用意していた答えを述べる。
「理由はいくつかある」
「聞かせてもらおう」
「まずは、換金する手段と時間がない」
モノがモノだけに、これを買い取れる商人は限られてくる。当てがないわけではないが、俺がなじみにしている商人とコンタクトを取るには少々時間がかかる。どれだけの時間が有るかわからないが、悠長に準備をしている時間はないはずだ。
「手近な商人を値踏みしたり、信用に足る商人を探す手間が惜しい。でもお兄さんたちほどの傭兵団なら、換金ルートを持ってないはずがない。こちらとしては信用と時間を金に換えただけのことだし、気に食わないというなら、多い分は換金用の手数料とでも思ってくれていい」
「なるほど、理に叶ってる。他は?」
「さっきもいったが、金がない。訳あってドラゴニアから逃げてきた時に退職金代わりに、品々かっぱらってきたけど、細かい物が中心で傭兵団まるごとに足りるものがない」
これは半分本当だ。
傭兵団を雇う金銭的余裕はなく、細かい品はあるがそれを換金できないのは前述のとおり。その細かいのを寄せ集めれば雇えなくもないだろうが…正直インパクトにかける。金に困ってない傭兵団を動かすには心もとない額だ。
「そして何より、一つ決めていることがある」
「それは?」
「贈り物は、金銭的価値よりも、相手が喜ぶモノを選ぶべし」
ずいっと…宝剣を傭兵団のボスへと…
スワロへと差し出す。
「新緑の傭兵団のボスに、宝剣を貰って頂きたい」
お読みいただきありがとうございました。
根が飽き性なもので、この小説を書いてる傍ら、ゾンビの肉を食べたらゾンビハーフになってゾンビに襲われなくなった代わりに人間に殺されそうになった挙句、頭がバカになって本能に忠実に女の子に襲い掛かる男と、男を何とか言いくるめて身の安全をいろんな意味で守る少女と、ゾンビを貪り食う幼女の話をがっちり年齢制限付きの小説として書きたいなとか思いつつも、舞姫可愛さのあまりユウ竜戦記を書いてる今日この頃です。
ボールペンサイズぐらいの手乗り舞姫とかいたら、毎日ちゃんと頑張って仕事するのにとか思うほどです。
たぶん、いろんな意味で頭がダメになってるんだと思います。
では、次回。




