戦記32「英雄の孫」
ユウ王戦記よ!
私は帰ってきた!
というわけで、数日空いてしまいましたが続きです。どうぞ。
戦記32「英雄の孫」
さて、生まれたままの姿で風呂にいる最中、超美形の男が入ってきた場合、どう対応するべきだろう?
例えばこれが、美少女だとかなら想像がつくのだが、美形がくるとは想像していなかった。こんなことなら、あちらの世界でもっと頭に腐のつく女子と仲良くなって、その手の場面への造詣を深めておくべきだったかと思いつつ、いやいやそんなこと考える前に今この場をどうすべきか悩むべきだろう、ところで先程壁の向こうで舞姫の「まさか!?」みたいな声が聞こえたので、このまま仁王立ちで待っていれば図らずして…図ってるけど、舞姫に全裸をご開帳に至るわけだが、果たしてそれは双方にとって幸なことか不幸なことか、さてどちらだろう。ちなみに俺個人の趣向として、観られて喜ぶ趣味はない。
とかつらつらと考えてるあたり、たぶんに俺も混乱しているのだろうと思われる。
「貴様! 何かいったらどうだ!」
美形というやつはなぜ声までいいのだろうか?
あちらの世界でいうところの声優ばりの美声を風呂場で張り上げるものだからエコーがかかり余計にいい声に聞こえるのが腹立たしい。あぁ腹立たしい、腹立たしい。
さらには、神楽月周辺では珍しく刺繍や模様の派手な上着と袴のようなズボンには、鎖とか金環などの金属パーツがところどころにあしらわれており、全体の華美もさることながら『我ここに在り』というメッセージ臭がものすごい。ものすごいのだが、妙に似合っている。なんだろ、こう、ネタと思って着せた妙な柄のTシャツさえ着こなされた時の敗北感のようなものを感じる。またはコスプレ衣装を違和感なく着こなされた気まずさというか…
などと観察することで多少落ち着きを取り戻してたところで考える。
(―とりあえず)
そう、とりあえず湯船に浸かりなおすことにする。
立ち上がってる間に浴槽にたまったお湯がざぶーんと勢いよく溢れ、美形の足元を浸していった。
「貴様何をする! というか、なぜこの局面で湯船に浸かりなおす!」
「貴様、貴様とさっきから言ってるけど、お兄さん俺が誰だかわかってるの?」
俺の質問に、なぜだか美形が腕を組み、ふふーんと上から目線を強調しつついう。
「無論、知っていようとも。貴様こそ姫の心を惑わす、諸悪の根源。泣かした女は星の数、犯した罪も星の数、その名もドラゴニアの悪鬼羅刹、ユウ竜であろう!」
どうやら人違いではないらしい。
「いや、俺はユウ竜ではない」
「なん、だ、と…いや、しかし間違いなく今風呂にユウ竜という男がいると聞いたのだ!」
「確かに俺の名はユウだ。だがドラゴニアの竜ではない。ただのユウだ」
「なん、だ、と…」
一言一句、間やリズムまでぴったりに「なん、だ、と…」とか言う美形。なんなの、君、そのセリフお気に入りなの? それとも稽古でもしてるの?
「人違い、だというのか…」
「さ、気が満足したなら、早く出て行ってくれ。お前がそこにいては、出るに出れん」
「む、そ、そうだな。これは失礼した!」
いうと男は風呂場故に床が水浸しであるにもかかわらず、片膝をつき頭を下げた。
「某は、ソウ竜! 神楽月の竜である! この非礼、深くお詫び申し上げる!」
俺が、あぁこれが…と思っている間に、
「では失礼!」
と機敏な動きと美麗な手と顔の角度で去っていく男…ソウ竜。
その動作には必要以上に無駄がなく、おそらくはバッチリと訓練しつくされた動きなのだろうが、いかんせんこちらは湯船に浸かっているため、下から見上げる形になり、なんだか少し滑稽な角度だった。鼻の孔見えてるし。
今度会うことがあったら、相手の角度によって見せ方を変えた方がいいと助言してやることにしよう。
「やっぱり、貴様がユウ竜じゃないか!!」
早いお帰りだ。
浴室から視覚になっているとはいえ、声は聞こえたぞイン竜このやろう。
「さっきの去り際の挨拶、かなり稽古したんだろうけど、観る相手の角度を考えて調整したほうが見栄えが立つぞ」
「っ!」
なんだその、神の啓示! みたいな顔。やっぱり神楽月の人間なんだなと感じてやまない。
「け、稽古とはなんのことか分からぬが、忠告はありがたく受け取るとする!」
「うむ、なんのことかわからぬとも礼をいうその心意気や良し。では、また今度会おう」
「あぁ、また会おうユウ竜よ!」
あ、ちょっと角度変えて去っていった。
「だから、貴様がユウ竜だろう!」
そして戻ってきた。
そして戻ってくるや、後ろから何かに突き飛ばされたかのような勢いで、壁に激突した。
そしてピクリとも動かなくなる。
「ソウ竜!!」
吹っ飛んだ原因は、舞姫だった。
おそらくは、俺をフードの女から助けてくれたような、何か吹き出すような力を使ったのだろう…俺がまだ見たことのない、年相応に感情の乗った怒り顔をソウ竜にむけている。ソウ竜とやらはどうでもいいが、姫のその顔は無防備で好感が持てる。自分に向けてほしいとは思わないが。
「ユウ様、部下のご無礼をお許し下、さ―」
こちらを見て詫びつつ、固まる姫様。
まぁ、湯船に浸かってるとはいえ、裸ですしね?
「あ、う、あの…」
「とりあえず、風呂から出てから話そうか」
「は、はい!」
そういって姫は気を失っているソウ竜をひっつかんで風呂から出ていった。
それから数分後。
俺、舞姫、ソウ竜、イン竜の四人で揃ってテーブルを囲むことになった。
なお当たり前の事だが、俺は服を着ている。
着替えてやってくると、三人はすでに席についており、俺の姿を見るや、ソウ竜が口を開いた。
「貴様、なぜウソをついた!」
と同時に姫も口を開いた。
「その前に!」
「…憩いの時間を邪魔するなど、竜にあるまじき行いであった。許されよ」
隣というか、円卓を四人で囲んでいるので左隣というべきか…姫に睨まれつつ、不承不承ながらも頭を下げるソウ竜。それを見て楽しそうに笑顔を張り付けているあたり、やはりイン竜がソウ竜に俺が風呂に入っていると伝えたのだろう。
恨みというほどではないが、いつかこの借りを返してやろうと思う。主に夜のイン竜に。
なお、いちおう座席についてだが、ソウ竜から始まり左回りに、ソウ竜、姫、俺、イン竜の順だ。
こういう場合、姫と俺が対面の席次になりそうなものだが、おそらくは俺の隣にソウ竜をおかないようにした配慮の結果だろう。
「本当に、本当に、ソウ竜が申し訳ございませんでした。その、けして悪い人ではないのですが、その、えと、ちょっとアレなもので…」
アレ、に随分な重みを感じる。
その重みからソウ竜の主であることの苦節を感じる。
「まぁいいよ。ウソではかったけど、誤解されるようにいったのも確かだし」
「む、ウソではないだと?」
いぶかしげに眉の形を変えたソウ竜に、簡単に今までの経緯を話して聞かせる。俺の言葉だけでは聞き入れきれぬようであったが、姫の補足とイン竜の頷きを見て、ようやくソウ竜は納得してみせた。
「そう、か…それは世話になった。自身も辛い中での助力、誠にかたじけない」
正直、意外だった。
その言葉は嫌味でもなんでもなく、本当に感謝の念と、こちらへの労わりのようなものが感じられる。
「だからといって、貴様如きが姫の婿になれるなどと思うなよ!」
「ソウ竜!」
姫に睨まれながらも、それは譲れないとこちらを睨むソウ竜。
なるほど、それはそれ、これはこれで分けて考えられるわけね。
「まぁ、それはおいおい考えてもらうとして」
「おいおいなどいらん! 某の名に懸けて、答えはいつも一つだ!」
「その答えを、どうして部下である竜が決められるんだ?」
ぐっ、と言葉に詰まるソウ竜。
ところでさっきのセリフ、なんかどこかで似たようなセリフを聞いたような気がするけど気のせいだよね?
「姫や、神楽月の王がいうならば、それもまた答えの一つとして受け入れよう。でも、どうして姫の部下である竜が、いったいどういう了見でもって、主たる姫の答えを決めることができると?」
「そ、某の答えではなく、姫のお答えだ!」
「さっき、某の名に懸けたじゃん」
「そ、某の答えと、姫のお答えとが合致しているからだ! 合致していれば、某のでも姫のでも変わらん! そうでしょう、姫!」
「え…と…」
明言を避ける姫に絶望的な顔を見せるソウ竜。
昔、飼い主に首輪を外されたどこかの犬が同じような顔をしていたのを思い出す。ちなみにその犬は首輪を付け替えただけで、すぐに元気になったので心配に及ばず。
「貴様、一体姫に何をしでかした!」
「え、そんなこと人前でいっていいの?」
「姫ぇぇぇ! まさかぁぁぁぁぁ!」
まさかなんだよ。
「ありません! 人前でいえないことなんてありません! ありません!」
「うん、まだなんもないな」
「そうです、まだ何も―」
「まだ!? まだってことはこれから!?」
「違います、違います! これからも何もありません!」
「え、ないの?」
「あ、と、それ、は…」
「姫ぇぇぇぇぇ!!」
慌てる姫と、叫ぶソウ竜。
二人のやり取り自体は楽しいが、いつまでも続けられても困る。まぁ炊きつけた俺がいうなという話ではあるが、そろそろ夜もいい感じに深くなってきた。行きたいところもあるので、必要なことを聞いたら出かけたい自分もいる。
それはイン竜も同じだったのだろう…こちらが目を向けると、ちょうど向こうもこちらを見てくるところだった。
そのまま『この二人どうしたらいいの?』という目をイン竜に送ると、
『時間ももったいないし、進めましょーか』という目で返してきた。
「えー、戯れるのもいいーのですが、その前に報告を聞いてもいいですか?」
「む…」
イン竜の問いに、苦い顔をするソウ竜。
その表情だけで、報告が芳しくないことは明白だ。
「…某が当たったところは、全て駄目であった」
ソウ竜の役目は、周辺諸国への助力申請。そしてが当たっていた所とは、周辺諸国の中でも、特に神楽月と交友が深かったところが中心だ。鈴星と天秤にかけた場合、神楽月側に傾く可能性が高いであろうと考えていた所といってもいい。そこを中心に回ったソウ竜がダメということは…
(―いよいよチーム舞姫の情勢は後先なくなってきたな)
「ソウ竜…ダメだった理由は?」
姫が辛そうにその答えを求める。
「…お爺様の存在です」
「お爺様ってことは確か…」
「ロウ竜ーですよ。ソウ竜は、神楽月の守護狼、ロウ竜の実の孫にあたります」
ロウ竜の名前を聞き、先ほどまでとは違う意味で苦い顔をするソウ竜。
敵になった竜ということで、自分なりに姫の兵達にロウ竜のことを聞いた。蛮族の追いだしや周辺各国の平定への助力、飢饉に置いては食料を融通し、川が氾濫すればその身をもって救助と復旧に辺り、大小関係なくその偉業たるや、確かに諸国に名前が知れ渡るだけあるなという感じのロウ竜だが…それらの話の中に、ソウ竜がロウ竜の孫であるという話も合った。
そしてそれが、ソウ竜にとってのコンプレックスになっているような話も聞いた。
(まぁ…大きすぎる名前を持つ祖父の孫にもいろいろあるんだろうな)
ましてや今回は、その祖父自身が真正面から敵として立ちはだかっている始末だ。
些細なことであれだけ姫姫と叫ぶこの男の心中を想像すると、同情の念を感じなくもない。
「姫よりも、他の竜よりも、他国はロウ竜の言葉を優先したって、わけね?」
「…あの、恩知らずどもめ!」
「やめなさい、ソウ竜」
「しかし、あれだけ、あれだけ王に世話になっておきながら、いざという時に何もしないなど!」
「違います。世話になっていると思ってくれているからこその、この状況です」
憤るソウ竜に、務めて冷静に…冷静でいようとしうながらいう姫。
分からない、という顔をするソウ竜だが、姫の考えは正しい。
「王に世話になったからこそ…王を支えていたロウ竜の考えを支持してくれてる、そういうことでしょ?」
頷く姫に、言葉を無くすソウ竜。
「諸国が世話になったのは、姫でもソウ竜でもなく、リン王とロウ竜…」
「し、しかし!」
「しかし、世話になったとはいえ、現神楽月の正当な後継者である姫の立場を考慮してくれているからこそ、各国は鈴星に付くでもなく、中立を宣言してくれている」
「それのどこが考慮の結果だというのだ!」
「本来この情勢なら、早々に鈴星に付いた方が得だからだよ」
どう考えても、チーム舞姫は劣勢だ。ロウ竜のことだけではなく、兵力にしても資金力にしても何にしても鈴星に打ち勝つ術が見いだせない。そんな賭けにもならない賭け、本来ならさっさと姫たちを見限って鈴星につくべきなのだ。早ければ早いほど、鈴星が神楽月と合併した時の覚えはめでたい。
中立とは聞こえはいいが、敵の立場になってみれば味方ではないという意味で、敵と大差ない場合も多々ある。
そして今回はまさしくそうだ。
「どちらに転ぶか分からない国が周辺にいくつもある。だから鈴星も全軍をあげて神楽月に来ることができない」
万が一、鈴星の守備が手薄だと知った他国が、舞姫の味方をして乗り込めば、それだけで情勢は逆転してしまう。一対一の戦いならいざ知らず、戦争規模で他国の動きを無視できるなどそうそうない。
「周りに、どちらか分からない人間がいる、っていうのは、それだけで一定の抑止力になりえるってことだ」
そして周辺各国は、それぐらいの抑止力ならば…と明言はしないまでも残ってくれたのだ。チーム舞姫の現状を考えれば、これ以上ない譲歩といえなくもない。
むろん、第三者的にみればであって、チーム舞姫当人達にとっては、自分たちの味方でない以上、やはり敵と見えてもしかたないわけだが…
この短い間で感じたソウ竜の性格から考えると、敵、って認識して向こうであれこれやらかしてないか心配だ。ソウ竜の気持ちを察して、中立で居続けてくれることを願うしかない。
「これで、兵のあてはなくなったわけか」
「…ないわけではない!」
俺の言葉に、ソウ竜がかみつくように繋げてきた。
「兵は連れてこれなかったが、兵となりそうなあてを聞いてきた。それは今この国にいる―」
「傭兵のことか?」
ソウ竜が口をぽかーんとあけてこちらを見る。
「そ、そうだ。周辺諸国において一、二を争うという腕利きの傭兵が、今この町にいるという情報を貰った!」
まぁ、その情報自体は風呂に入る前には、オレもイン竜も知っていたのだが…まぁ花を持たせておくとしよう。どれだけ必死に行脚してきたかは、ソウ竜が纏う服の裾の汚れや傷み具合から察することができる。おそらくは金も手もかかっているだろう、その華美な服が汚れ解れても厭わないほど駆けずり回ったその姫への忠義は、多少報われてしかるべきだろう。
大事な姫の為に必死に働くその気持ちは、わからなくはないのだから。
「遅くなりましたが、某はこれからその傭兵達に会いに行ってまいります。そして必ずや姫様の為に兵を揃えて見せましょう!」
いうとソウ竜は、
「あっ」
と姫が小さく声をあげる間に、宿屋を一人飛び出していった。
なかなかいい脚力をもっているようだ。
「また勝手に!」
姫が呆れと怒りの交じった声で嘆くを見て、俺とイン竜も席を立つ。
「ど、どこに?」
「どこにって…風呂に入る前にいったでしょ?」
姫は頭の中から俺の言葉を探しだし、
「えと…酒場、でしたっけ?」
「そ。ソウ竜の言ってた、腕利きの傭兵達とやらがいる酒場にね」
そして、えっという顔をした。
個人的には怒ってる顔も悪くないが、この顔の方が可愛いなと思う今日この頃だ。
お読みいただきありがとうございました。
なんか当初の予定よりもぜんぜん文章がおっつかないなーと思ってたら、第一部と同じぐらいすでに第2部かいていて、第1部ぐらいの文章量で終わるというみつもりでスタートしてたので、そら文章も尽きるわなと納得した昨今です。
そんな感じでいい具合に書き溜めが消失している中、たまった本業にせいをだし、さらにはせっかく捻出した時間にキーボードがクラッシュして何もできないなど、ふんだりけったり。
もういっそ一週間ぐらい更新休むか! とも思ったのですが、メインジャンルを切り替えたおかげか、どうもランキングに乗ったようで、新規のお客さん含む閲覧数がなんか倍近く上がったりしたなか、もう少し頑張ろうということでアップに至りました。
再度プロット切りなおした結果、やはり現状で第2部中盤あたりに突入していたので、残り半分ほどでしょうか…一部に比べてだいぶ長くはありますが、お付き合い頂ければ幸いです。
それではまた次回。




