戦記30「宝物の行方」
ついに戦記29(前回アップ)ぶんのところまでで…戦記0いれるとちょうど30話分あたりで、一つの目標だった総合ポイント(ブックマークと評価ポイントの合計)100まで到達しました。ばんざい。一日あたりの平均ビューも安定して500超えるようになりました。ばんざい。
これもひとえに皆様のおかげ。
ばんざい。
これからも見限られないように頑張りたい今日この頃。
しかしそんなときに限って、物語はやや穏やかなのである。それもまた運命。
戦記30「宝物の行方」
「では、いってまいります。くれぐれも羽目を外しすぎないように願います」
日が傾くよりも前に、ボウはユウ竜達の元から離れ、一人筆姫がいると思わしき視察団がいる町へと向かった。護衛や荷物持ちとして何人かを付けるよう、舞姫が申し出たが、ボウはそれを断った。諜報や隠密も行うボウの移動速度についていける兵士はそうおらず、その足に合わせると行動に遅れが生じる。
かといってボウと並ぶ速度を持つ兵となるとイン竜配下の、ただでさえ人手の足りぬ部署から出すこととなり、情報の取得や連絡に不足が生じかねない。
ユウ竜が単独、またはボウと共に向かう案も出たには出たが、それは多くの兵と姫がいい顔をしなかった。まだ出会いから二日と経たぬ間に、姫も兵も、この場に誰がいないと困るかを十二分に理解したからだ。
結果、消去法的に、ボウは一人向かうこととなった。
「お気を付け下さい、ボウ様」
「ご心配なく、往復で二日もかからぬ程度の距離。用事を済ませたらすぐに戻ります」
「んじゃこれ。姫様によろしく」
ユウ竜がボウに渡したものは、主に二つ。
一つは、筆姫…というよりは、騎士団及びペンシルグラードへの贈答品。ドラゴニア脱出の際、隠し扉から拝借してきた骨董品…それ一つで館が立つと言われている杯を持たせた。
「こ、これ、祝月十二杯ですか!?」
ユウ竜が能力で手のひらに杯を取り出すや、舞姫は杯から逃げるように…しかし眼だけはまじまじと向けながらいった。その目には、杯に載せられた鮮やかな絵が…空で雲と戯れる竜の姿が映り込んでいる。
「あれ、姫様知ってるの?」
ユウ竜の問いに、何度もうなずく舞姫。
「小さい頃、流しの商人が売りに来た別の杯をみたことがあります…本物ですか?」
「もちろん。ドラゴニアが竜を保有せんでどーするって、キョウ王の何代か前の王が手に入れた代物でござい」
ある国の工芸家が、異世界からやってきた友人に結婚の祝いとして送ったのが『祝月十二杯』と呼ばれている杯のシリーズである。
その名にある通り、十二で一揃いの杯は、異世界でいうところの十二支がモチーフになっており、元の世界に対する望郷の念を抱きつつも、この世界で夫を迎え子をなすことにした友人の喜びを表しているのだという。
元は一揃いだった十二杯は、しかし長い時の間に子孫に形見分けされたり、盗まれたりとするうちにちりぢりとなり、今となってはどの国が、如何なる者が保有しているのかもわからぬほど…
しかし込められた思は変わらず残っているのか、名工と友人の友好の証は、今でも色鮮やかで愛らしい十二支を描き、再び一つ所に集まる日が来ることを待ち望んでいるのだという。
「ちなみに姫様がみたのは、何月だった?」
「兎月です。今でも覚えてます。いつか、私も手に入れられたらなぁって思って…」
国宝級というわけではないが、それなりの値段がする上に、値段以上にこれを愛する者は多く、贋作も出回っているため、色々な意味で易々と手に入る品ではない。だからこそ、こつ然と目の前に現れた思いの品に、姫はついそう漏らしてしまった。
そして、すぐに気付く。
「あ、あの、ち、違います、欲しいとかそういうのではなくて、なくて!」
ユウ竜は鼻の頭をかいて苦笑いを浮かべると、姫の頭に手を乗せた。
「いつか、必ず。今は我慢して欲しい」
「えと、ですから、そういう意味ではなくてですね、それを手にするぐらいの姫になれたらという意味で」
「だから、必ず。手にするぐらいの姫と、それを渡せるぐらいの者になったら」
「…はい」
姫は微笑み、焼き付けるように空遊ぶ竜の姿を胸にしまい込むと、自ら杯を受け取り、筆姫に失礼のないよう丁寧に布で包みボウへと手渡した。
「それと、これな」
これ、とは丸めた用紙。特別な紙とインクをもってユウ竜が自分で綴った、筆姫へあてた手紙。その用紙とインクを見て、イン竜はハリボテの笑顔を崩しかけるほどに驚いてみせた。
「えーと、それって、ペンシルグラードの国交用のものじゃないですよね?」
どういうこと? という顔をした姫に、イン竜が説明する。
「ペンシルグラードはですね、外交用にいくつかの用紙とインクを使い分けてまして、それで同盟国かそうでないか、手紙が偽物かそうじゃないかを判別しているのです」
ペンシルグラードに送る手紙には、ペンシルグラードから送られた用紙とインクを使うこと。これは、ペンシルグラードと国交を結んでいる国の基本的な条約である。
そしてそれら判別用の用紙やインクは、イン竜がいう通りいくつかあり、送り主の判別や区分け、そして真偽の確認にも使われている。そしてユウ竜が用いた紙とインクが指し示すのは…
「それ、もしかして、筆姫様と直通のお手紙だったりします?」
「ご名答」
自慢げというよりは、苦笑いに近い笑みで答えるユウ竜に、複雑な溜息をもらしてみせるイン竜。
「姫様個人充ての手紙が出せるなら、そりゃー連れてくることもできるかもですねー…」
「えーっと、そ、それってすごいものなんですよね?」
「そうですねー…実用性を考えると、一二杯と交換できるぐらいのものかもしれないですね」
「え…えぇ!?」
国と国でも、竜と姫でもなく、個人と個人のやりとり…つまり、身分や役職を越えたところで繋がりがあるということ。しかも相手は七大国の一つを実質自分の判断で動かせる女王である。そんな筆姫直通の用紙とインクを持つ者は、世界広しと言えど、数える程度にしかいない。そういう意味で、確かに骨董品よりも価値があるかもしれない。
ただし、大き過ぎる権利や、便利に見える仕組みの裏には、大抵それに見合うだけの対価が必要なのが世の常である。
(―確実に面倒なことになるけど…まぁ背に腹は代えられないか)
その面倒も、あくまでユウ竜個人の範疇に収まるものだ。国レベルの厄介ごとになるほどなら、ユウ竜ももう少しためらっただろう。
「あぁ、あと忘れちゃいけない、路銀な」
右手からジャラジャラと、皮袋にめいいっぱいの金貨を出してから、ボウに渡すユウ竜。
正確な枚数を数えることはできないが、皮袋の大きさと張り具合からいって、この宿屋をしばらく借り切るのに使用した額以上が入っていることは間違いない。
「宿代にしても多すぎます」
「ちょっとお土産でも見繕ってきてくれないかなって思って」
「…お土産ですね。承知しました」
溜息をつきながら皮袋を荷物に仕舞い込むボウ。
「わー、お金持ちのおにいちゃーん、あたし、欲しいお洋服があるのー」
「買わない。そして誰がお兄ちゃんだ」
「…買ってくれたら、あの時に着てあげてもいいよ?」
「え、あの、あの時ってどんな―」
「さぁ、いってこい、ボウよ! しかとお役目果たしてみせよ!」
イン竜と舞姫のやり取りが成立する前にユウ竜が言い出すと、ボウは一つ溜息をついて見せ、そしてとくに別れを惜しむようなこともなく足早に去り、その姿はすぐに見えなくなった。
(―これで一つ手を打ったわけだが…)
「さて、お次は…
「はい、どうしましょう? やはり人手ですか?」
やる気満々といった風に、ユウ竜の側による舞姫。
ユウ竜は空を見上げると、少し考えてから言った。
「人手…そうね、人手ね」
「はい。他国の協力は得られませんでしたが、実は…」
「よし、人手の前にお風呂にでも入るかな」
「お風呂?」
舞姫がその意味を探ろうと頭をこねくり回す間に、イン竜にいくつか言づけを済ませるユウ竜。
「洗う? 流す? いや、温めるとか、あとは…」
「どうしたの舞姫さん、一人でぶつぶつと」
「ご、ごめんなさい…お風呂が何を意味しているのか、まるでわかりません…」
「え?」
「え? だから、お風呂が」
「お風呂はお風呂だよ? 汗かいたまま寝ちゃったから、出かける前にさっぱりしてこようかなって。今男子風呂の時間でしょ?」
「あ、あぁ、なるほど…それで、お風呂のあとはどこに出かけるのですか?」
「えーと、たぶん、酒場かな? 人は多いに越したことないしね」
そういってユウ竜は、宿に備え付けの風呂へと向かった。
「酒場で人手? お風呂は関係ない?」
舞姫は風呂場へと消えていくユウ竜の姿を見ながら、表情を二転三転させてからうなだれるように下を向くと、
「がんばろう…」
そうつぶやいて、イン竜の配下が持ってきた報告を聞きにいく。
そんな姫の様子に笑顔を見せつつ、イン竜は部下に指示を出し、自分もいずこかにその身を向かわせた。
そして日が傾き始める。
世界が夕日に照らされ、山間に住む鳥が巣へと帰り行き、あちらこちらから仮定的な食卓の匂いが立ち込める中、チーム舞姫の準備は進められるのだった。
約一名、風呂に入っているだけの男もいたが。
お読みいただきありがとうございます。
次回、お風呂タイムです。
滅、ご期待。




