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ユウ王戦記 ~三妃 七竜 十三宝 を揃えて異世界で王になるまで~  作者: しいか
第2章 神楽月(カグヅキ)内乱編

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戦記28「神楽月の姫と竜」

 ついに登場、歌姫。

 初めから(歌姫はこんなやつって)決めてました!

 あぁ、あとおじいさんも出ます。

戦記28「神楽月の姫と竜」


 神楽月の…酒がすすむに合わせて賑わう盛り上がりの声の届かぬ場所に、岩屋がある。

 山を抉るように作られた岩屋には格子が付けられ、雨が入り込まぬよう申し訳程度の軒先と、地面には水を流す窪み…王宮と神殿のやや西側、山岳地帯にあるこの岩屋の正体は、まさしく牢屋。

 犯罪者を閉じ込め罰を与えるためというよりは、戒めて反省を促すことを目的に作られた牢屋の中は外から見るよりも広く、寝床や排泄の作りもあり、言葉からイメージするほど不潔で不快な場所ではない。

 もし子どもに解放していれば、秘密基地、などといって遊びの場に使われたであろう。

 そんな牢屋に、とある老人がやってきた。

 ただし、ただの老人ではない。牢番でもない。

 彼の名は、ロウ竜。

 質素な…それこそ普通の町民と同じような質素な服や靴。長いひげと長い髪は結われ整えられているが、いずれも根元から毛先まで真っ白。背筋こそ伸びているものの小柄なその体からは、彼が五十年を超え近隣諸国にその名を轟かせている竜だとは考えにくい。


「お考えはまとまりましたか、姫様?」


 細くもどこか深みのあるロウ竜の声が向けられたのは、牢屋の一つ。

 その牢屋の中には、姫が一人。

 姫の名は、歌姫。

 舞姫の妹であり、今はまだ神楽月の王位継承権第二位に位置するはずの姫君。


「爺ね…」


 小鳥がさえずる如しといわれる歌姫の声が牢屋から響き、その姿を格子へと寄せる形でロウ竜の見える位置へとやってくる。

 短く切りそろえられた髪は、昼の空のように透く水色をし、光が差せば雲が浮かぶような光沢をもっている。その光沢は肌も同じく、湧水のように瑞々しい張りを見せる。

 十の半ばといった年相応の小柄な体形は華奢に映るが、目じりが上向いた瞳の印象は真逆。氷室のような青を宿した瞳には、意思の弱き者を凍てつかせるような力を感じる。

 姉である舞姫に大地の健やかさを感じるならば、妹の歌姫には空の奔放さを、

 姉がその体でもって神に舞を捧げるならば、妹はその声でもって神に歌をささげ、

 姉が父からおおらかさを引き継いだなら、妹は母から熾烈さを引き継いだ、

 例をあげれは切りがないが、舞姫と歌姫はいくつもの違いを持ち、だがそれは異質な何かというよりは、補い合うかのように例えられるあたり、姉妹の絆のようなものを感じる。

 いずれにしろ違いの多い二人だが、しいて似ているところをあげるなら、口元の印象だろうか…化粧気のない唇はほどよく肉感的ながらも締まりよく、色合いもまた健康的である。

 その唇を開き、姫がいう。


「うっさい、バーカ、爺なんてだいっきらい。どっかいけ、しっし」


 早口でまくしたてるように、そしてどこかリズミカルにいう姫に、爺…ロウ竜が笑う。


「牢屋にいれられて大人しくなられたかと思っていましたが、余計な心配でしたな」

「ふん、姉さまならともかく、あたしが牢屋の二日や三日程度でおとなしくなるとか、ボケたの爺?」

「そういえばそうでしたな。いやはや、年を取るとどうにも心配性になりますな」


 幼少の…生まれた時から世話をしてきた中で、何度歌姫を牢屋へと放り込んだろうか…当時は悩みのタネであった光景も、今は微笑ましい思い出として浮かぶロウ竜。

 そしてその思い出の中で歌姫はけして悪びれることなく、幾日でも牢屋の中で過ごし、外にいる者の方が根負けしてきた。そして今もまた同じように、気力の衰えることなく牢の中にいる歌姫。


「かつての竜も、今は爺。烈火の髪も今は灰、灰なら灰で、はいはいいってりゃよろしいのにねー」


 小鳥がさえずるがごとしといわれた美声で、独自の歌を即興で口にする歌姫。

 ロウ竜は歌を聞き流しながら、どっこいせ、と牢屋の前にある監視役用のイスに腰掛けた。


「で、お考えはまとまりましたか?」


 やって来た時と同じ質問を繰り返すロウ竜。

 ロウ竜の質問に「ちっ」と舌打ちで返す歌姫。


「そういう品のないことは、お止めなさい」


 またも舌打ちで返す歌姫。


「だからお止めなさい」


 舌打ち、


「お止めなさい」


 舌打ち、舌打ち、舌打ち、舌打ち、舌打ち、


「お止めなさいといってるのがわかりませぬか!!」


 思わずのけぞるほどにの怒声に身を震わせ、舌打ちを止める舞姫。

 代わりに、子どもに向ければ泣くかもしれないほどのじと眼でロウ竜を睨む。

 ロウ竜はふーっと深く息を吐き呼吸を整える。


「まったく。そういう似なくていいところまで母上に似なさって…」

「母様に?」

「お話したこと、ございませんでしたかな?」


 歌姫の、そして舞姫の母が亡くなったのは、歌姫の年齢がまだ十を数える前…おぼろげな印象や思い出はあれど、細かい出来事や周りからの母の評価までは記憶にない。


「みーんな、母様の話聞かせてってーと、逃げるんだもん」

「良くも悪くも奇天烈な方でしたからな…言葉に困るのは確かでしょう」


 しみじみと、しかしどこか愛おしげに語るロウ竜。

 その脳裏に浮かぶのは、舞姫と歌姫の母親である、巫女姫の姿。

 巫女、という言葉から感じる印象に比べると、いささか行動力に溢れ、奇抜な発想をし、たびたび臣下を怒らせ怖がらせもしたが、臣民達からの人気は王よりも高いくらいであった。

 というのも、生れが王族ではなく一般市民の出だったことに起因する。国外の人間との間に生まれ、外国民の特徴と神楽月の特徴どちらそも備わった外見は、純粋な神楽月の国民には愛着がありながらも新鮮で、特に男性からの求愛が途切れることはなく、他国の王からかかることもあるほどだった。

 更に、少々言葉づかいは荒いものの、あっけらかんとした性格を好む同性も多く、頼られることもしばしば。彼女の廻りにはいつも人と笑顔で溢れていた。

 そんな彼女を見初めたのが、まだ若かりし頃の神楽月のリン王。リン王は何度も結婚を申し込んだが、そのたびに断られ続け、最終的には彼女の「あたしに勝てたら結婚してあげるよ」の言葉を引きだした唯一の男だったが、それからがまた大変だった。

 天賦の才を持つとしかいいようがない巫女姫は、当時現存していた王族親族のほとんどが扱いこなせずにいた国宝『神鳥の音』を使いこなしてみせ、同じく国宝『神樹の根』を操れはしたものの、まだ未熟であったリン王を何度となく地面に転がした。


(―その姿の楽しげなことといったらありませんでしたな)


 日に日に強くなるリン王を見て巫女姫は心をときめかせ、

 日に日に愛の強くなる己にリン王は力をたぎらせ、

 そしてようやく引き分けにまでもつれ込んだ夜、巫女姫は負けを宣言し、リン王と結ばれた。

 それから一年後生まれたのが舞姫で、それからさらに数年後生まれたのが歌姫で、

 そして二人が幼子から少女へと変わりはじめていた五、六年前、巫女姫の体は土へと帰り、その魂は神樹へと宿った。その身を賭して、蛮族の進行から国と民と子どもたちを守った。ロウ竜の息子と息子の妻と共に。


(―老いぼれを残して死んでいくとは…寂しいことでしたな)


 以来、ロウ竜は残された自分の孫と同じように、二人の姫を育てた。

 歌姫に『爺』と呼ばれるのもそのためだ。

 歌姫にとっては、国の竜というよりは肉親のような、少なくともお世話係といった方が近いのである。

 舞姫の方がいくつかとはいえ年上だった分、早いうちから『ロウ竜』と臣下を呼ぶ立場を理解しそのように振る舞ったが、歌姫は当時の舞姫の年齢を越えても未だに『爺』と呼び続けている。まるで死んだ巫女姫がそうだったように。

 それはなんとも歯がゆく、悩みの種であり、そして嬉しくもある。


「で、どんな人だったの、母様?」

「で、お考えはまとまりましたか?」

「爺!! 聞いてるのあたし! あたし! あたしなの!」

「なんの、先に聞いたのは爺でございます。母上のこと話してほしくば、先にそちらのお考えを口にするのが道理というもの」

「くーそー、じーじーいー!」

「はっは、ほんに糞爺故、痛くもかゆくもございません」

「…孫育てを失敗した、糞じじぃ」


 ロウ竜が僅かに顔を引きつらせる。

 脳裏に浮かぶは、少々問題を残したまま成長し、竜となってしまった我が孫…その名もソウ竜。

 痛いところを突かれ、ロウ竜は肩を落とす。


「ほんに、姫様は…そういう似なくていいところばかり似なさって…」

「くーそくーそ、じじいー、くーそじじいー、孫になやむよー、くーそじじいー」


 カッと目を見開くロウ竜。

 その瞬間、ロウ竜の目から見えない力…気が吹き上がり、姫の体を地面へと押し付けた。

 ヒメもまた気を操り、それを跳ね除けようとするが、まるで駄目。


「これが、いっこくの、ひめに、たいする、しうち、かぁ!」


 動くことすらできずに、しかし口だけは変わらず達者に動く歌姫に溜息をつくロウ竜。


「姫様、お分かりになっていないようなのでご説明しますが、今この時点で、爺は姫様の敵でございます」


 普段とは違う声色に、歌姫が口を閉じ、目をロウ竜に向ける。


「姫様は舞姫様のご帰還を信じておられるのでしょうが、仮にご帰還なされたとして、今や宮中はほとんどが姫様たちの敵です」

「そんなウソに騙されるもんか! 誰が何のために姉さま達を逃がしたっていうのよ!」

「ウソではございません。状況は変わるものでございます。今や官僚たちは鈴星のリン王が王となるための儀式の準備をはじめ、残っていた兵達はガン竜とチョウ竜、二人の竜にまとめあげられ、準備を整えております」

「あんのバカども…何いいように調子に載せられてるのよ!」


 姫だけあり、自国の民の特徴を理解しているのであろう…舞姫には、乗せられて敵へと寝返った兵たちの姿が易々と想像できた。基本的にノリがよく、流されやすいのだ。そして官僚達は、長いものにすぐに巻かれる。それが政治に空白を作らず、王ではなく国を、そして神樹を守るために作り上げられた国民性なのだ。良くも悪くも。


「だからって、全員が寝返ったわけじゃないでしょう?」

「まぁ…それは、そうですな。しかし、仮に、姫様が部下達を率いて王宮を取り返そうにも、生半可な隊では返り討ちにあうのが関の山です」

「じゃぁ、返り討ちに会わないだけの兵を揃えればいいでしょ?」

「仮に十分な準備をするために時間をかけたなら、儀式の日を迎え、リン王は新しき王となるでしょう。そもそも隊を揃えるだけの金策ができるかも怪しいところですな」

「逆賊をうつために身体を張る者だっているでしょ!」

「おりますが、数は少ないものです。多くは、何かしらの益のために戦うもの…いずれにしろ、リン王が新しき王となってしまえば、姫様たちは正式な反逆者でございます」


 反逆者…の言葉が、重く姫にのしかかった。

 お読みいただきありがとうございます。

 前書きにもある通り、歌姫は設定を考えていた頃からあんまり変わっていません。せいぜい名前が、鳥姫から歌姫になったぐらいですかね。

 ちなみに舞姫は元は弓姫で、名前の通り弓の名手の予定でした。が、国宝との兼ね合いで、今の気を操って、体がぴょんぴょんしちゃうんじゃー的戦闘方法に変わりました。

 どんな兼ね合いでそうなったかは、いずれ登場するのでお楽しみに。

 それでは次回も、爺さんと少女の牢屋越しのやり取りをお楽しみください。

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