戦記27「鈴星の王と竜」
いよいよ敵側の登場。
そして定期的にやってくる、ドキ、男だらけのユウ王戦記大会。ポロリはなくていい。
戦記27「鈴星の王と竜」
理由はともあれ、舞姫達が団結を見せるころ、一行がいる町から二日から三日ほど離れた場所に、その者達はいた。
その場所とは『神森国家 神楽月』。
西に、南北を貫く山を持ち、山菜や獣などの山の恵みを得られ、
北に、東の海へと流れ行く川が、栄養を蓄えた肥沃な大地を作り、魚を与え、
南に、生い茂った密林は、希少な薬草や洞窟に鉱石を宿し、
東に、いくつもの小国家と手を結び作り上げた街道で経済をやり取りする。
地形的な問題から、広い国土を有することができずとも、豊かな自然とそれを愛してきた先祖たちに守られた、戦から遠い国。それが神森国家 神楽月。
そこで暮らす民は、国が東西南北から様々な影響を受けているのを表しているのかのように、多感であり多才。子どものような素直さを持ちながら、職人のような頑なさを持つ。それは、自然の恵みに対する感謝と、同じく自然の脅威に対する備えを忘れぬ生活が生み出してきた国民性なのだろう。
また、自国の風土は大切にしながらも、けして排他的ということもなく、うまく取り込み形を変えていく様も、時と場合により姿を変える自然を髣髴とさせる。
おもな産業は、農耕と狩猟を中心としたもの。単純に収穫したもののほか、それらを利用した加工品作成…中でも神楽月の酒が有名なのは、今までにも述べた通り。その他にも、動物の皮や牙を使ったものや、鉱物を磨いた装飾品なども出来が良い。
あえて苦手な部類を上げるなら、工業および魔法。
自然と共に育った故に、必要以上に自然を損なうことに気が咎める神楽月は、ドラゴニアが有する飛行船のような機械はもちろん、鎧のような戦の為の貴金属も目にかかることは少ない。
魔法の発達が遅れた理由はいくつかあるが、一番大きなものは必要としなかったことだろう。
魔法に頼らずとも傷を治すなら薬草があったし、自然を御すにも技術なりがあった故に、必要性がなかったのだ。
せめて、有事の際には戦いに出ることもあった王族や竜なら魔法の一つもみにつけていれば…と思うかもしれないが、神楽月の上流階級には、魔法以外の独自の力が…俗に『気』などといわれている『生体エネルギー』を操る技術があった故、必要としなかったのだ。
舞姫が操った、自身を矢のように飛ばしたものも、その気を操る力である。
そんな神楽月の中心となるのが、俗に『神殿』と呼ばれる場所。
神が住まう場所ではなく、神と会話するために作られた建物は、異世界でいうところの神社や寺などを合わせたような外観を持ち、その中ほどに、広大な吹き抜け…というよりは雨ざらしの庭を持つ。
元々生い茂っていた木々をそのまま建物で囲い庭としたそこには、百年を超える今でも様々な植物の姿があり、初めて訪れる者あらば、庭ではなく森だといわれる方がしっくりと来るはずである。
そんな庭の中央には、どれほどの大人が手をつなげば覆えるだろうかというほどの巨木…の切り倒された姿。まるで木で作られた舞台のようなキリカブがある。
それが、神樹と呼ばれているモノの今の姿である。
神楽月で生まれたものは、この神樹が根を張る大地に育まれ、先人の教えに生かされ、そして死ぬと体は大地に帰り、魂は神樹に宿るといわれいてる。
つまり神樹とは、神であり、糧であり、信仰の対象であり、祖先であり、友人であり、子でもあり、神楽月の全てを繋ぐものである。
そんな神樹の前に、今この国の命運を握る者の一人が立っていた。
「これが、神樹…噂には聞いていたが、うむ。確かにこのような姿になっても神々しい何かを感じるな」
普通の大人よりも、腕一つ分ほど背の高い巨漢が、その巨漢に似合った重く響く声でいう。
年の頃は、四十から五十といったところか…纏っている服は、神楽月の王族の服と似ているところもあるものの、どこか華美で異国の流れを感じさせる刺繍が施されている。
「ここに我を招いたということは、このリン王、神楽月の王となって構わぬということかな?」
かの男は、リン王…ただし、神楽月ではなく鈴星の…つまり、舞姫たちを追いだしたリン王である。
リン王の後ろには、神楽月の国政を職にする大臣たちが居並んでおり、そのうちの一人が代表して答えた。
「まだ、王となるかは分かりませんが、その資格はあるということです」
「と、いうと?」
「神樹の根を手にしたとおっしゃっていましたな?」
「おおう、これのことか?」
リン王が懐から取り出したのは、根の生えた芽。ニラやネギなどをイメージしてもらえればいいだろうか…手のひらと比べても小さい、雑草と言われればそうみえてもしょうがないくらいに些末な見た目だが、何を隠そうこれこそが神楽月の国宝『神樹の根』。二つある国宝の片割れそのものである。
「神樹の根とは、即ち神楽月の王の証。王となる器無い者の手に渡ること自体ありませぬ」
「故に、これを手にした我は王となる可能性がある、と」
「左様で。しかし、本当に王となれるかは儀式での結果次第。王となれなくば…」
「死、か?」
「左様で。王となれぬものが神樹の根を操ろうとすれば、途端に死が襲いまする」
脅すような大臣の、死という言葉に恐れることなく、リン王が腕を組み笑う。
「長く二つに分かれていた兄弟国が一つに戻ろうというのだ。それぐらいの覚悟なくして新しき国の新しき王にはなれんわな」
その豪快な笑いに対する、神楽月大臣たちの反応は様々である。
期待を込める者、
憎しみを込める者、
冷静に眺める者、
「我がこの舞台で立つ時、それが新しき神楽月と鈴星の始まりよ。ただ、舞姫のように美しき舞いなどできるとは思うてくれるなよ? 代わりに、渾身の剣舞を披露して進ぜよう」
舞姫の名を聞き、大臣たちの何人かが体を震わせた。
リン王…神楽月のリン王がいない今、本来従うべきは二人の姫である。
が、従いきれぬわけもある。それが、二つの国宝…そのうちの一つ、『神樹の根』をに手にしたのが鈴星のリン王であること。
さきほど大臣が言った通り、神樹の根は次の王を自身が選ぶと言われている。故に、それをてにできなかった舞姫に次の王たる資格なし、そのように捕える者もいる。そんな迷信…と思う中にも、しかし現実としてこれを手にする力の無い者に付いて行って良いものかという悩みもある。
そしてもう一つの国宝を持つ妹姫、歌姫にも問題がある。歌姫は現在、もう一つの国宝『神鳥の音』を保有こそしているものの、操りきれていないことは周知の事実である。
『神樹の根に選ばれし王の傍ら、神鳥の音操りし者並び立つ。此れ即ち、神森たる国持つ神楽月のありし姿成り』
とは、神楽月建国より伝承されてきた一文である。
今までは…鈴星のリン王が神樹の根をもっていると聞くまでは、例え主たる神楽月のリン王が不在で、その妻も数年前に死んだままだとて、二人の姫を支え付いてきた官僚達だったが、状況はかわってしまった。
「我こそは、神樹の根を手にし、鈴星のリン王! 神楽月を貰い受けにきた!」
二人の竜と共に兵士を連れやってきた鈴星のリン王は、あっという間に神殿と王宮を制圧。
辛うじて舞姫を逃がした後開かれた話の場で、神樹の根が本物であることを知り、動揺する官僚達。さらには、リン王一派を招いたのが、他でもない歴戦の竜、ロウ竜であることを知り、大臣たちは決断した。
例え誰であろうと、国宝が選んだ者を新たな王とすることに。
それほどまでに、神楽月という国において国宝を御すことは大事なのだ。それを大事とし、これからも大事としようというのが…先人に倣い、先人に習い、そして他者を自分達風に受け入れる…それが神楽月に住まう者達の国民性の表れでもあるのだ。
「王となった時、ここで飲む酒はさぞ上手かろうな…なぁ、神楽月の」
馴染みのある神楽月のリン王の顔を思い浮かべつつ、一人ごちる鈴星のリン王は、しばしその光景に思いをはせ、その場に在り続けた。
そんなリン王が、鈴星から連れてきた二人の竜は、神殿の手前に位置する王宮にいた。
まるで神殿を守るようにある王宮だが、実際それは正しい。神楽月の感覚でいえば、王族の命よりも神殿の方が…もっといえば神樹の方が重要で、王族とは神樹を守るために在り続けてきた者でもあるのだ。実際神楽月の歴史をひも解くと、王族の元は神樹にて神事を行っていた巫女や司祭の家系であることが分かる。
とはいえ今、鈴星の竜がここにいるのは神殿を守るためではない。
自国の王を守るためでもない。
王宮と外部を隔てる門をくぐったとこにある広場にて聞えるのは、悲鳴と戦いの音。
「次ぃ!」
怒声を張ったのは、鈴星のリン王にも負けぬ体躯を持つ竜。名前をガン竜。
年は四十手前といったところだが、その筋肉や体力は並の若者など相手にならぬほど。
「がっははは! 軽い、軽い! もっと、腰のある攻撃をせぬか!」
盾を手に相手を捌き、隙を見せようものなら、岩のように鍛えた拳を叩きつける。
拳を受けた兵士は蹲り、敗北を宣言する。
「いよーし、これで文句のあるやつは全員終わりだな?」
広場に居並ぶ兵士達と、広場に崩れた兵士達…彼らは、神楽月の兵士達。
姫に付いて行くことができなかった、またはしなかった兵士のうち、鈴星のリン王や竜達に不満のあった兵士達。それをガン竜は、拳で黙らせた。
「では約束通り、お前達は俺の部下だ! よいな!」
ガン竜がした約束とは、至極単純。しかし、行うには難しいもの。
文句のある全員と一騎打ちを行い、ガン竜が勝てばガン竜の部下に、兵士たちのうち一人でも勝てば自分はここを立ち去るというもの。
そしてガン竜はそれを成した。
「返事が聞こえんぞ! 部下だ! よいな!」
がら着いた声と、見せつけられた強さに、兵士たちが慌てて返事を返す。
その返事に満足げに頷くと、ガン竜は鈴星からやってきた兵士達に酒樽を運ばせて、言った。
「では、晴れて一つとなったことを祝し、酒を飲もう、部下どもよ。今は俺の懐が寒いゆえ、安酒しか用意できなかったが、リン王が新たな王となった暁には、上物をたらふく飲ませてやると約束しよう。さぁ、宴だ!」
「うた、げ?」
「そーだ、宴だ! 拳を交え、一つとなったのだ。戦が終わったのだ。酒を飲もう!」
「し、しかし」
「む。よもや酒代の心配か? 案ずるな、お前たちから取りはせん。これは俺からの心配りだ。さぁ、飲もう!」
最初は戸惑いを見せていた兵士達も、ガン竜が裏表なく本当に宴を所望しているのだと…敵視すらしていた自分達を約束通り部下と思っているのだと知ると、徐々にその枷を外していった。
それは次々と伝播し、やがて広場はまだ暗くなる前から、笑い声と酒を飲みかわす声の絶えぬ宴の場となった。
「安酒でこの味わい! さすが神楽月の酒よ。これは今から勝利の酒が楽しみだ!」
「おや、どうやらめでたき席のようですね」
兵士達に軒並み酒が行きわたったころに現れたのは、端正な顔立ちをしたもう一人の竜。名を、チョウ竜。年齢は二十の半ばから後半といったところか…きちんと年を重ねて、青年を脱した男性の落ち着きを感じさせる。
その落ち着きを彩るのは、大きめの扇子。まとっている衣服も、ガン竜の荒々しい修行僧のような者に対し、扇子の似合う雅を感じさせる刺繍が施されている。
「おー! チョウ竜! めでたき、めでたき! 俺と部下どもが一つとなった祝いの席だ!」
「それは行幸。憂いが一つなくなりました」
「どうだ、お前もこちらにきて飲まぬか!」
「やるべきことはあれど、酒に誘われて断るのも無粋…よいでしょう。ただ宴の席に華がないのは頂けぬもの。酒代の代わりに、少し彩を添えるといたしましょう」
チョウ竜はいうと、手にした扇子を開き、自身の前百八十度をなめるように、扇を舞わした。
すると、扇の軌跡から飛び立つ、黄色の羽をもった蝶。
蝶を一筆書きで描いたかのような、黄色の線でできた蝶の正体は、チョウ竜の気。
「相変わらず、器用な男だな、チョウ竜」
「お教えいたしましょうか、ガン竜?」
「やめておく。俺には蝶を出すより、酒を出す方が性にあっている」
「それはそうかもしれませんね」
二度、三度、チョウ竜が扇を舞わすたび、気で作り上げた蝶が生れ、広場を自由に飛び回り、酒の席に花を添えた。
その光景に、感嘆の声をあげ続ける兵士達。
「我らが勝利の暁には、この光景を越える姿、お見せいたしましょう」
杯を一息で飲み、言うチョウ竜に拍手が起こり、広場での宴はますます高まりを見せていった。
お読みいただきありがとうございます。
ガン竜はもう、名前から言ってもごついおっさんのイメージしかなかったのでよいのですが、チョウ竜がどうしようか悩んだ挙句、男に。結果、美形で落ち着きのある大人で優雅でそのうえ(たぶん)強いとか、正直腹が立ってしょうがないキャラになったので、ぜひユウ竜さんたちにどうにかしてもらいたい今日この頃。
ガン竜さんはがんばれ。
ではまた次回。
なお、次回はついにあの人が登場。




