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ユウ王戦記 ~三妃 七竜 十三宝 を揃えて異世界で王になるまで~  作者: しいか
第2章 神楽月(カグヅキ)内乱編

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戦記26「上もなく下もなく」

 サブタイトルをつける時は、いつも悩む。悩む故に、ばしっときまるサブタイトルを思いついた時は、我がことながら気分がいい。そして今回のサブタイトルは、まさしくこれしかない、と思うでき。

 ではそんなサブタイトル「上もなく下もなく」と共に、お話をどうぞ。

戦記26「上もなく下もなく」


「ここの兵は、誰の元に集まってるの?」


 答えは、難しくない。

 ちゃんと辿りついてる。

 でも問題は、それを口にできるかどうか。

 口にする覚悟、

 責任を追う意思、

 それをもっていることを見せられるかどうか。


(―見せ場だぞ)


 姫の一言を聞くために、静けさが場を満たす。

 そして姫は、


「…私、です」


 答えた。

 声はかすれていたが、セリフはあってる。

 尋ねもしない。


「…私です」


 一度、繰り返す。

 先ほどよりも、確固たる言葉で。

 背筋を伸ばし、目を開き、兵の一人一人に届くように。

 だから…みろ。

 兵士たちの顔を。

 怖がらずに。

 金のない、人脈の無い、知識のない、国もない、そんな姫の言葉に胸を打たれた奴が、ここにいることを焼き付けろ。

 こいつらなくして隊も勝利も国もない。

 そんなこいつらの為に、姫はここにいないといけない。

 舞という名の少女ではなく、せめてこいつらの前だけでも、舞姫でなくてはならない。

 利益でも家族でも自己実現でもなく、姫の為に揃い立つ兵。

 買うことのできない、変えの利かない、舞姫のために立ち並ぶ兵。

 それは敵にとって困難な盾で、味方にとって強力な武器で、姫にとっての四肢となる。


「そう、あなたでしょう? この隊の代表は舞姫でしょう? あなたがここで一番偉いんでしょう? その人が、ただの協力者にへりくだったり、怖がったりしない。感謝も礼も嬉しいけど、でも上とか下とかにしないの。不安や自己嫌悪を和らげるために使っちゃいけないの。自分の為じゃなくて、付いてきてくれる部下のために」


 あっ、と姫が声を漏らした。

 頷き、居住まいを正す。

 声を正す。

 部下ではなくとも、姫を敬う一人として、その身を表す。

 こちらの正式な作法は知らぬので、ドラゴニアの礼にのっとり、

 姫の前に片膝をつき、その右手を拝借し、目を射る。


「私へのお気遣いは、どうかご自分を支えてくれる者達の二の次に。あなたの父上は、それができました。例え相手が、七大国の一つドラゴニアの、強大な力と影響力を持つ王が相手でも。ましてや今は、竜でもないユウと、国を追われた姫で、等しく戦うと約束した間柄…共に並び立ちましょう。上も下もなく」

「…はい、ユウ様」


 姫の声を聞き…いや、正確には俺のセリフを聞き、イン竜がいった。


「そーそー、上とか下だとかは、ベッドの上なんですよね?」


 時が…止まった。


(―おかしい)


 あと数行で、拍手喝采、大号泣、後の世で、志を強く持った舞姫とまだ王となる前のユウの名シーンとなってもおかしくないはずの場面で、てかそうなるといいなと思って、仰々しく演出したというに、えと、なに? なんていったイン竜さん?


「上か下かは、女性とベッドの上で語るんですよねー?」


 あー、だよね?

 聞き間違いじゃないよね?

 なーんかどっかで聞き覚えのある…ってそりゃそうだろう、自分でいったセリフである…だが、それを言ったのはもう何年の前の事で、しかもその場所にイン竜はいなかったという確信があるのだが、


「なぜ…なぜお前が知ってる?」

「リン王ー様が、お酒をたしなむたびに言っておられたので有名です。美談というよりは猥談としてですが」


 それだけでも十分過ぎる情報だが、イン竜は更に言った。


「神楽月において『ユウ竜様は上が好きか下か好きか』は、激しい議論の的となることもしばしばですよー?」


 ぎぃっと錆びた蛇口のように固い動きで、姫に顔を向ける。

 姫は顔を真っ赤にして目をそらした。

 続いて、兵達に目を向ける。

 さっきまで尊敬だと…その煌めく瞳の輝きは、俺を受け入れてくれた信頼の念であると思っていたが、もしかして…


「じ、自分は上が好きな方だと確信しております!」


 聞いてない。


「私は、下派だと信じて疑っておりません!」


 だから、聞いてない。

 そんなことは聞いていない。


「この期に及んで下派だと!?」

「なによ、何が悪いってのよ!」

「ユウ竜様の床上下論争は、第三二回ユウ床会議で上派って結論に至っただろう!」


 なにその、無駄な会議。

 しかも回数多くない?

 五年の間に三十二回て、年間六回で、二カ月に一回?

 あと本人いないところでなんで結論がでてるの?


「その後、新しい証言が出てきて、論議しなおしの声が高まってるんです!」

「どこの証言だよ! また自称ユウ竜様の被害者とかだろ!」


 なにそれ、被害者の会とか結成されてるの?

 そんな証言されるほど大勢の女性に手は出してないつもりなんだけど、


「ちがいますー、今度はユウ竜様に旦那様を失った寂しさを埋めてもらったとある貴族の未亡人ですー」


 あ、どうしよう、心当たりがある。四人ぐらい。


「ユウ竜様ほどの床事情を、ただの一人の証言で決定できると思うな、おこがましい!」

「未亡人とその娘とおまけに従者もいれた五人が一度に証言にくるといってもそのセリフがいえる!?」


 あ、一人に絞れた。結果一人じゃないけど。

 てか、そんなことより、ここはあれでしょ?

 姫様にナイスアドバイス、これで一致団結がんばりましょう、いやーそれにしてもさすがユウ竜さん、やっぱり新しい王は姫様をしっかりと支えてくれる、あーゆー人でないとっていう流れじゃないの?

 なんかこれ、『あーゆー人でないと』っていうか、『あー、ユウ竜って人でなしでないと』、みたいなかんじになってない?

 何自分でうまいこといってんだろ。うまくないけど。


「まて、ね、ちょっと、今はそんなことより―」


「「「「「「「そんなことではありません!」」」」」」」


 すげー息の合いようだ。

 宿屋の壁が震えてる。

 あと店主も。

 笑いなのか怒りなのかわからないけど、めっちゃぶるぶる震えてる。あ、親指だけこっちに立ててぐっ! ってやってきてるからたぶん、あれ、笑ってる。厨房にサービスの料理を作る指示とか出さなくていいから。


「そんなこととは…あのユウ竜さん本人が、そんなこととというだなんて、あんまりです!」

「そうです! この論議のおかげで、十年来の親友と喧嘩別れしたこともございます!」


 なんか…ごめん。

 でも、それって俺が悪いのかな?

 いや、うん、いいんだ、俺が余計な発言したからだろうしね?


「しかし気になさらずに! おかげで、新しい友と出会えましたので!」

「俺は彼女ができました!」

「上司との会話が円滑に!」

「お小遣いが増えました!」

「みずむしが!」


 あ、ほんと、よかった。そうだよね、失うものあれば得るものもあるのが世の中だよね?

 なんか怪しいパワーストーンの効能説明みたいになってるけど、どこまでほんとのことなの?

 ちなみにほんとのことといえば、実際のところはユウ竜さんてば、上も下も好きだからね?


「ちなみに実際のところは上も下も好きだと思うのですが、そこのところどーでしょうかユウ竜様?」


 うるさいイン竜、お前に俺の何が分かったその顔止めてくださいお願いします、ほらボウの顔が「昨日はお盛んでしたね」モードになってしまっただろうが。


「そんな、自分は絶対に上派だと信じていたのに!」

「下でございますよね!?」

「もしどちらでもないなら、この数年は…我々の費やした情熱はどこに向ければいいというのですか!」

「えーと、どっちかっていうと―」

「だめです!」


 何者か知らんが、口を開こうとした俺に体当たり気味に突撃してきて発言を止める若者が一人。あ、ごめん知ってた。さっきの水の青年だ。


「あなた様がそれを口にすれば、その時点でこの論議は…この物語は終わってしまうのです。我々は…まだ物語の中に…あなたという夢の中に在り続けたい!」


 一瞬の間、

 そして拍手喝采。

 怒号、歓声、感嘆、和解の握手、そして涙しながら、同僚に迎え入れられる若者。

 なぁ、相変わらず名前も知らない青年よ、去り際に俺の尻を撫でていったお前のことを、俺はけして忘れないし許さない。


「夢を! 物語をありがとう! 今はただのユウ様よ!」


 エンディングみたいにいうのやめろ。


「この戦い終わり、舞姫様があるべきところに帰られた暁には、我らユウ様が王となること、誰よりも喜びましょう! ユウ王様万歳!」


「「「「「ユウ王様万歳!!」」」」」

「ユウ王様犯罪」


 ありがとう、青年。

 ありがとう、兵士諸君。

 聞えてるぞ、イン竜。

 できればもっと他の理由で王に認めてほしかった。


「ユウ王…いえ、あえて今はユウ様と…お言葉を。どうか我らにお言葉を!」


 何も言わないで終わらせることはできそうにないが、かといってまじめに考えるのもあほらしいので、ぱっと頭に浮かんだものを適当に口から垂れ流す。


「…ありがとう諸君。そんな諸君にいっておこう。床は上か下かだけではない。前と後ろ、横、そして中もあるのだということを」


 なんなの君たちのその『これぞ神の言葉!』みたいな表情。

 そして店主、秘蔵の酒を振る舞おうとするな、樽を開ける指示を出すな。


「新たな学説を発表しよう!」


 なんの学問だ。ていうかもうそれ以上喋ってくれるな。なんだか神楽月の人間性が『いい人達』から『頭の弱い人たち』に代わってしまいそうだっていうか、よく考えたら舞姫様といいリン王といい…いや、これ以上はやめておこう。

 勝手に盛り上がってる兵士から視線を外し、姫に向ける。


「…まぁ、あれだ。とにかく、そんな感じ」


 どうにも締まらないまとめだが、もう、なんか、どうでもいい…

 とりあえず伝えたかったことが伝わったのは、舞姫の顔を見ればわかる。

 姫はくすくすと笑っていた顔をパチンと叩いて引き締めると、張のある表情と目でいった。


「改めて…神楽月の為、ご助力お願いします、ユウ様」

「承知。将来のお嫁さんの為にがんばらせて頂きます」

「あ、えと、あ、ありがとうございま…す?」

「よし、言質とった」

「ちがいます! 今のは違います! そういう意味じゃないです! ないです!」


 笑う兵士達に、顔を赤くしながら否定を繰り返す舞姫。

 ま、結果オーライとしていおこう。

 いずれにしろ兵たちのやる気は十分…チーム舞姫の反撃は、笑い声に包まれ始まったのだった。

 余談だが、


「で? 未亡人様とやらの証言はどこまでが本当なのですか?」


 姫様の追及はおそろしくねちっこかった。


 お読みいただきありがとうございました。

 ますます広がるアホの子の輪…きっと神楽月国民の、素直でマジメで熱い部分がアホとして映ってるだけなんでしょう。ユウ竜さんには合ってると思います。

 そんなこんなで、まとまりが出てきたところで神楽月内乱編も序盤突破…この辺りから戦争に向けてのあれこれが加速していきます。

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