戦記25「姫について」
今日も舞姫はアホの子でかわいいです。
今日もイン竜が腹黒くてかわいいです。
今日もボウさんが冷たくてかわいいです。
なんならモブもかわいいです。
結局みんな可愛いです。
可愛くないのは、作者だけ。
さぁ、作者の人間性と物語は表面的には何にも関係ない、という言葉を皆様に贈りつつ、今回のお話スタート。
戦記25「姫について」
ペンシルグラードの女王、それが筆姫。
確かに彼女が直接視察に赴いているなら…こういういい方は非常に失礼だが、色々な意味で博愛主義な上に平和主義な彼女なら、来てくれる可能性は格段に高い。あと余談ではあるが、大陸で十本の指に入るといわれるほどの美貌をもっている。
実際に何度も目の当たりにしているが、なんというか…世の中って不公平だなと思った。俺が女子なら、頼むからそばに寄るなと願うことだろう。
「筆姫様ですか…」
同じ姫として興味があるのか、舞姫が深みのあるつぶやきを漏らす。
まぁ、国によって姫の立ち位置や仕事も変わるので、話しておいても損はないだろう。興味を持つことはいいことだ。特に舞姫の、新しいことを蓄えた時の顔は観てて飽きない。騎士団の弱点も発想としてはおもしろい。
それになにより、本人はそのことに気が付いていないのかもしれないが…姫はこれから新しい神楽月を作っていかないといけない。その時他国のあり方は参考になるだろう。
なるべく姫に興味を持てもらえるような、姫が自分の言葉で理解できるように説明文を探す。
「筆姫様はなんていうか…ペンシルグラードそのものといってもいいかもしれない」
「そのもの…もしかして―」
「ちなみに、ペンシルグラードっていう名前でも、姫が変身してペンシルグラードになるわけでもない」
「そ、そんなこと考えてません!」
「そうですか、それはよかった。ではノーヒントでどうぞ」
しまった、という顔をする舞姫。
我ながら甘いなぁと思いつつ、その顔が可愛いので、最初くらいはヒントをあげることにする。
「同じような意味で、キョウ王はドラゴニアであり、神楽月のリン王は神楽月であるが、今の状態では舞姫は神楽月そのものではない。そして国によっては王ではなく、それが議会であったり、国民であったり、神とか超常的な場合もある」
「えーっと…一番偉いという意味ですか?」
「正解」
そう、筆姫本人が、ペンシルグラードにおける最高意思決定機関のようなものである。
彼女と意見を交わす機関や組織はあるが、彼女が行くといえば、それに意見できる立場の者など限られている。そして更にひどいことに、
「おまけに、めちゃくちゃ強い」
「どなたが?」
「筆姫様が」
「…騎士団様は?」
「束になって本気だしたら、足止めはできると思う」
大げさかもしれないが、印象だけでいえばそれほどに強い。彼女を力でねじ伏せることができる者など、立場以上に限れている。おそらくは、騎士団を取りまとめる、騎士団長クラスでないと無理だろう。
だが、彼女の強さは、強いというか酷い。その酷さをどう表現すればいいだろうか…
「単独で、ほぼ無尽蔵に、五属性くらいの魔法を連発できるエルフがいるとして」
「あー、ドラゴニアのホウ竜ですね」
「単独で、村一つ飲み込む毒の海を作り出す年齢不詳の魔女がいるとして」
「えー、ドク竜ですね」
「その二人が、敵として目の前にいたらどう?」
俺の説明とイン竜の補足を交互に聞き、舞姫は真剣な顔つきで想像してから、言った。
「イヤですね」
「その嫌な二人を足して倍にした感じが筆姫様」
「も、ものすごく嫌ですね…」
「あと、顔は常にイン竜みたいに笑ってる」
「それはものすごく―」
イン竜の顔が笑ってるけど笑ってないのを見て、姫はパンを口に詰め込んだ。
ほお袋のように膨らんだその顔は森の小動物っぽくて、少し可愛い。和む。和んでる場合じゃないんだけど。てか、つついていい? ダメって言われても、もうやっちゃってるけど。
「にしても、姫様が視察に出るなんて、ただごとじゃないな」
「ドラゴニアの内乱が、それだけ世に影響が出るという判断なのでしょう」
「ま、だよな…」
姫の頬をつつきながら、至極真面目に会話する。姫様が飲み込み終わるまで、俺は、つつくことを、やめない。そういう確固たる意志が伝わってしまったのか、姫様はパンを慌てて飲み込み、そして詰まって咽て、涙を浮かべた。
「とにかく、視察団に姫様がいるとすれば、和平交渉に呼ぶだけなら呼べなくもないかもしれない。が…」
「えぇ、問題はそちらです」
そう、問題…言い換えると、条件。
姫様をここに連れてくるには、一つ条件がある。
それは、俺かボウのどちらかが お伺いにいくこと。
「…姫様たちには?」
「すでに伝えてあります」
「えと、あの、大変心苦しいのですが、その…」
口ごもる舞姫…
それが昨日ボウの話を聞いてからの一連の流れのものであり、俺への気遣いや遠慮であることは十分に理解できるのだが…
「姫さん、それ無し」
舞姫の頭に手を置く。
「ひぇ? え?」
「気を使ってくれてるのは分かる。申し訳なく思うのも分かる。姫様のそういうところを好きになってる奴は多いだろうし、それが悪いとは思わないというかどちかでいえば俺も好きだから結婚しよう」
「…えぇ!?」
理解が追い付くや叫び声を上げそうになった姫様の目をじっとみつめると、姫様はおずおずと悲鳴を消した。
「考えてっていったでしょ? 考えた結果姫様が受け入れてくれるなら、神楽月は俺の国でもあるし、姫様は俺の嫁だ。できることがあるなら、いくらでもやる。だから、いちいちおどおどしない」
「で、でも…もし考えた結果、その、あの、もしもですよ、もしもお断りしたら、その」
「そん時はそん時だ。うまく利用してやったって、ほくそ笑めばいい」
「そんなこと―」
「そんなことしない。分かってる。そういう人だと思ったから協力してるし、嫁に欲しいと繰り返してる。別にリン王から…姫のお父さんから言われたから欲しいっていてるわけじゃない」
まぁ、きっかけはそうだったけど…決めたのは自分だ。
「どちらにしろ、今はまだ舞姫は神楽月の姫で、俺は王でも竜でもない、単なるユウなの。本来なら、こんな感じで一緒にご飯食べてたり偉そうに話をする権利や立場になんかないの」
納得いったような、いってないような、そんな様子で口をごにょつかせる舞姫。
そんな舞姫の顔を掴んで、周りに向ける。
「ここにいるのは、誰の兵士ですか?」
イン竜がこちらに鋭い視線を送ってくるが、お前のせいだろうとばかりに睨み返してやる。
「誰の兵士ですか、姫様?」
「か…神楽月の」
「違う。舞姫、あなたの兵士だ」
「わた…しの?」
手を放しても、兵士達へと視線を向ける舞姫。
そんな舞姫の視線を、各々の表情で受け止める兵士達。
一部はイン竜と同じように俺に敵意の視線を向ける者もいたが…イン竜が分かっているように、分かってるのだろう。ならば、続ける。
「神楽月を選ぶなら、神楽月にいる。ロウ竜だかを選ぶなら、ロウ竜のそばにいる。ここにいる兵は、誰を選んでここにきてくれたの?」
もちろんイン竜についてきた兵士もいるだろうが、乱暴な言い方をすれば、部下の部下も結果自分の為に必要な行動をとってくれるのであれば、自分の部下のようなものだ。
少なくとも今、この宿で姫に視線を向けている者の中に、不満はあるにしろ、姫の部下であることを嘆いている者は見当たらない。
「ほら、答える。誰を選んでくれたの?」
「わた…わた、しですか?」
「なぜ疑問…」
「だって、だって…」
詳しい脱出劇の様子は知らない。
姫様はもしかしたら何も知らないまま脱出したのかもしれない。
姫様を逃がすためにどれだけの者がどれだけの決意と行動力を伴ったかもわかっていないのかもしれない。
姫様を逃がした意味を理解していないのかもしれない。
姫様は、姫がなんなのかを理解していないのかもしれない。
それを教えてくれる人がいなかったのか、教えてもらう時が来るのはもう少し後だったのかもしれない。
だからといって、今必要なことを知らないわけにはいかない。
「…俺は今までの姫様を知らない。でも、今の姫様なら少しわかる。」
考えることを放棄しない、
新しい知識に物怖じしない、
失敗の不安よりも優先すべきものを優先できる、
だから、もう一度訪ねる。
「ここの兵は、誰の為に、誰を信じて、誰を頼って、誰の役に立ちたくて、誰を利用したくてここにいるの?」
これは、パフォーマンスだ。
そして、儀式だ。
流れで集まってしまった姫たちと俺たちがきちんと合流するための、
流れでチームのリーダーになってしまった舞姫が正式にリーダーとなるための、
神楽月の反乱に勝ち、その後の物語を紡ぐために必要なエピソードだ。
(―頼むから、間違えてくれるなよ)
祈りを込めて、促す。
お読みいただきありがとうございます。
ドラゴニア編の玉座の辺りでも思ったのですが、説明とか志の深さを出そうとかするとどうしても文章が重くなりがちで、かつテンポも悪くなりがちなので気を付けたいと思う反面、重さや遅さをうまいこと生かして書けないかなとも思う今日この頃。
一方、アクションが多い場面になると、行動はわかっても状況がイメージできない、なーんてこともよくあるので、そこらへんの塩梅ももそっとどうにかしたいお年頃。
そして今楽しいと思ってくださっている皆さんが、より楽しいと思ってもらえるようになれたのなら幸い。
そんな日がいつやってくるのか? それはご覧いただいてのお楽しみ。
では、また次回。




