戦記21「主と従者」
主には主の、従者には従者の苦労があるものですが、その苦労は種類が違うゆえになかなか理解しあうのは難しい気がしますが、受け入れあう余裕を持つことで、共に高みに上れることもままあるものです。
男と女も、親と子も、書き手と読者も同じく。
誤字とか、脱字とか、読みにくい技名とか、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
それでも読んでいただけるアナタのために参ります、戦記21「主と従者」…裏側「読者と作者」も合わせてお楽しみください。
戦記21「主と従者」
「いやー、こちらの作戦に乗ってくれてありがとうございました。お名前を窺っても?」
「ボウと申します。結果的にこちらも決め手に欠ける状況でしたので、助かりました」
「ボウさん、イン竜といつの間に打ち合わせしたのですか?」
「茂みに入ってる時でしょ?」
ユウ竜の発言にボウとイン竜は頷き、説明した。
茂みに入って暫しあと、ボウは敵の抵抗が弱いことに疑問を感じ動きを止めた。そこにイン竜が隠密状態を維持したまま近づき、自分が舞姫の御付であることを明かし、ボウもまたユウ竜と共に姫に助力していることを明かした。
ボウにとってもイン竜にとっても、それが敵側の罠である可能性を排除しきれなかったが、とにかく一時的に手を結び伏兵を撃退。そしてユウ竜が頭上からの襲撃を受け、姫がそれを救い出したのを見て、二人は共闘の意思を固めた。
取り交わした策は一つ。ユウ竜とボウ達が時間を稼ぎ、イン竜達が準備を整える。
複雑な打ち合わせや手順を排除し、相手の最善に期待するだけの策ともいえぬものだが、急増のチームでできることなどたかが知れいている。
互いにそれを分かっていたからこそ、それが最良と判断し、行動に移した。
ボウはハンドサインで『味方の増援、時間稼げ』とユウ竜に伝え、
イン竜は配下の者を揃え、位置に付くよう伝え、自身も女を狙える配置に付いた。
そして、決行。結果は、先のとおり。
「こんなにステキな竜がいるんだったら、助力しなくてもなんとかなったかな?」
「いやー、それはどうでしょう? 私も部下も基本は斥候です。姫も一対一ならいいんですけど、敵が多くなるとてんぱってドジるし、暴走も多いし、けっこー危なかったんじゃないでしょーか?」
イン竜の物言いに、姫が『うぅ』と小さなうめきを上げる。
「舞姫さん、どじっ子だったのね?」
「ちがいます…」
「違わないですよー」
「ちがいます!」
「きにしなくていいのに、どじっこ可愛い」
「ですよね? 可愛いですよねー?」
「ドジドジドジって、そんなにドジばかりしてません! してません!」
「いやいやー、この前だって操るの失敗して、樹から落ちてましたよ」
「あー! あー!」
物理的に口を塞ぎにかかった姫とイン竜を見、
「ま、お役に立てたならよかったとしますかね」
ユウ竜は姫の手を取りじゃれるのを止め、イン竜の配下の人数を数えた。
この場に見える配下は二人。同時に飛んだ矢の数でいってもまだ何人かいるだろうが…
「事情もあるだろうから、言えないものは言えないで構わないけど、手勢はこれだけ?」
その発言が、自分の立場や仕事…疑いや秘匿が多くなることを理解した上での気遣いと察するイン竜。姫に向けたものとは違う笑みを浮かべ、気遣いに甘える形で答えた。
「さっきの女を追ってる者、神楽月に残ってお仕事してる者、他の竜との連絡係とかで散らばってるからまだ多少ーはいますけど、部署的にただでさえ数が少なったもので…」
「今は謀反のせいで更に少ないと?」
「お察しの通ーりです。何人か、向こうに付きました」
トントン、と指で二度ほど自分の足を叩いてからユウ竜、
「他の竜というのは、姫さんの味方の竜?」
「は、はい、ソウ竜です!」
「てことは、味方の竜はあと一人か…」
「そう、です。イン竜とソウ竜の二人です…」
「あとは敵側?」
「はい…ロウ竜はアチラにつきました」
まだ会っていない竜を加えて、元々神楽月にいた竜は三人…神楽月に限らず、竜が七人揃ってないこと自体は珍しいことではない。良くも悪くも竜とは、国の将軍や用心の代表としての側面を持つ。場合によっては、王以上の存在感を求められることもある。
故に、誰でもいいというわけではなく、能力、家柄、見栄え、様々なものを吟味した末に選ばれることがほとんどである。なんの実績も後ろ盾もないユウ竜が王の一存で選ばれることの方が異例中の異例なのだ。
そして、そんなまっとうに選らばれたはずの竜が敵側に付いたというのが、状況の悪さを物語っている。
(―その理由も把握しておかないと、足元狙われるか…少なくとも判断謝ることもありそうだな)
とはいえ、それはもう少し落ち着いてからと判断し、とにかく今は急ぎのことを確認する。
「一人が向こうについて、それとさっきのお姉さん…向こうにはほかに何人竜がいるの?」
「部下の調べではあと二人。どちらも鈴星の竜ですねー」
「さっきのお姉さん以外に、暗殺とか強襲してきそうなのは?」
「ないんじゃないですかねー。あちらさんは腰を据えて攻略してくるつもりみたいですよ。私達もそのつもりで動いてましたし、ここでの一件も、かかったら儲けもの程度の罠に姫様が本当にかかちゃったから起きたぐらいのものじゃないですか?」
やや棘のある言い方に姫がうめき声をあげる。
「罠にかかったってどういうこと? あとソウ竜さんとやらは今どこに?」
「ですって、姫様」
「う、え…その、私とソウ竜とで、別の町で体制を整えるはずだったのですが…」
言いよどむ舞姫にかわって、イン竜が後を請け負う。
「姫様の護衛にソウ竜がついてたのですが、歌姫様…はご存じですか?」
「妹君のお名前で間違いなかったかな? 素晴らしい歌声の持ち主と聞いてるけど…敵に捕まってるの?」
「そのとーりです。脱出の際捕らわれました。で、歌姫様が敵に処刑されるという噂を聞いた姫様が、かってに逆走してしまいまして。それもお一人で。こんなにすぐの処刑はまずありえないからおやめ下さいと言ったにもかかわらず」
そしてその移動中に大勢の追手に見つかり、ただでさえ焦っていたところを更に焦り、結果技を失敗して木から落ちたという流れである。
姉として、家族としてみれば胸を打つ行動なのかもしれない。
しかし、謀反された王族としては軽率な行動である。
ましてや姫の身を案じ、共に国から逃げ出した…劣勢であることを知りつつもその身を投じた部下たちの心境はいかほどだったろうか?
「姫様が本気を出されると、並の兵士ではおいつけないので…知らせを受けた私達が姫様を探し回ることになったというわけです」
「ご、ごめんなさい…」
「まー、無事だったからよかったですけど、気を付けて下さいね? ソウ竜なんて、首をくくるほどの勢いでしたよ?」
「は、はい、きをつけます…」
肩を落とす舞姫にため息をつくイン竜。
その姿に、どこも似たようなものだな、と思うボウ。
そんな心境を察してかそうでもないのか、ユウ竜がイン竜に先を促す。
「で、そのソウ竜さんは、予定通り町で体制を整える準備をしている、ってことでいいの?」
「おそらくは。まー、マジメだけが取り柄みたいな男なんで」
「あ、男なんだ…」
「なんで残念そうなんですか、ユウ竜様?」
ギィッと姫の眉が吊り上る。
「え? いやいや、他意はありませんよ?」
「そうでしたか? とても残念そうに聞えましたが?」
予想していなかった姫の反応にやや慌てて言い訳するユウ竜と、明らかに納得いってない舞姫の、二人のやり取りが暫く続く。
それぞれの従者には二人のその様子が、まるで先の姿を象徴しているかのように見え、揃って顔を見合わせた。『どちらも苦労が絶えませんね』とその目が語っている。
「ちなみに、歌姫様処刑の噂を流した者は?」
「裏を取ったところ白。脱出に協力してくれてる国民から得た噂みたいだねー」
「自軍に虫がおらずよかったと思うべきですか」
「そーだね。まー、姫様に余計な噂を垂れ流さないよーに、部下のお仕置きはしておいたけどね。他に聞きたいことは?」
「いくつかありますが、襲撃がないのなら、急を要することは移動しながらお聞きし、残りは合流し終えてからがよいでしょう」
「まだ、お付き合いしてくれるの?」
『お察しの通り、かなりの劣勢であることを承知で?』という含みを込めたイン竜の問いに、
「それを決めるのは、私ではなくユウ竜様です」
『だから心配せずともお付き合いします。別の意味も含めて』というニュアンスを込めて返すボウ。
二人は…珍しくボウも小さな笑いを浮かべ、頷いた。
「では参りましょう」
「異論ありませーん」
主そっちのけで方針を決める従者二人。
そんな二人の主は相変わらず、
「や、ほら、イン竜もお姉さんも女性の竜だったから、今度もそうかなって思ってただけでね?」
「そーですか、ロウ竜も男の竜ですが」
「あ、男なんだ…」
「ほら!」
「や、これは女、女、男、ってきたから、リズム的に女かなと思っただけでね?」
「女、女、男、男、のほうが均等感があるじゃないですか」
「あんまりにもバランスよすぎると、それはそれで気持ち悪くなることってあるじゃない? 夜寝て朝起きるより、夜朝寝て昼起きる方が贅沢な気持ちになることってあるじゃない?」
「朝は朝に起きるから気持ちいいんです!」
「それは、夜の気持ち良さを知らないから言える発言だ! 月と、星と、夜風の良さが太陽に劣るとでも?」
「そ、それは…劣らないとは、思いますけど…」
「ね? 知らないなんてもったいない。だから、今度夜の心地よさを教えてあげよう。結論はそれからでも遅くない。ちなみに、二人きりでね?」
「そ、そうですね、二人きりで結論はそれからでも…論点がずれてます! ずれてます!」
「惜しい!」
従者二人は、いまだ論議だが痴話喧嘩だかを続ける主たちの手や服を引いて、森を後にした。
そんな一行を見ながら、イン竜の部下二人は思った。
「オレたち、眼中にないな」×「私たち、眼中にないね」
彼らも一生懸命、姫を探し回ったのだ。
彼女らがいたから、女に矢をかすらせることができたのだ。
彼と彼女らなくして、この森から無事に出ることはできなかったかもしれないのだ。
「ちなみにお前、夜派? オレ朝派」
「私も朝派」
「じゃぁさ、今度、一緒に夜の気持ち良さ、試してみないか?」
「なにそれ口説いてるの?」
「あぁ、そうとってもらって構わない。いや、そうとってくれ!」
「…いいよ。二人とも、この戦い、生き延びれたらね」
「わかった。じゃぁそれまで…がんばって仕事しよう」
「そうね…イン竜様、怒ると怖いしね」
就職先を間違えたかなと思いつつも、二人きりで過ごす夜を夢見て仕事に戻る部下二人。
手を抜くことなく茂みに隠れて辺りの索敵を行いつつ同行する辺り、やはり人のいい神楽月の人間であると、後にユウ竜は語った。
主の従者の従者にも、物語はある。
どうかたまには彼ら彼女らのことも思い出して欲しい。
お読みいただきありがとうございました。
次回からは、森から場所を少し移し、新キャラやら戦争の用意やら情報整理など、大規模行動の準備へと移ります。
ところで、キャラデザをまとめた紙に、舞姫のイメージ「正統派姫君」なる記述をみつけたのですが、いいんですかね? 正統派? アホの子なんですが、いいんですかね? まぁ、いいか…たぶんこれから重ねるごとにアホの子になる気がするんですが、アホの子かわいいし。
というわけで、これからもアホの子こと作者…違った…舞姫をよろしくお願いいたします。




