戦記100「誠王を笑うモノ」
100話だー!!
なんならまだ王になっただけで、自分の竜も宝も、実は婚約だけで嫁すらいないけど、誠王になるべく行動してから100話だー!
…大丈夫かな。
生きてるうちに完結するかな…。
そんな感じで、100話。
さんざん登場を待たせていたご新規さんも登場しつつ、参ります。
戦記100「誠王を笑うモノ」
演奏が終わると人の輪が崩れた。
フォードに、夫人に、スフレに、そしてユウに。
客人達は、それぞれ一番興味のある人間へと群がるように移動し、そこで話が始まる。
「…スゴイ」
姫の隣にいた女性…コウが、そう呟いた。
「…うん」
話しかけられたわけではない。
ただ、漏れただけのコウのつぶやきではあったが、姫は頷きながら返した。
2人はそれ以上、今感じている衝撃を表す言葉をみつけることができず、舞台の余韻に浸る観客のように目の前の光景にただ目をやっていた。
そこにスフレがやってくる。
「楽しんで頂けましたか?」
「うん」
「素晴らしい演奏でした」
「お世辞でもそういって頂けると嬉しいものですね」
微笑み、ケースにヴァイオリンを仕舞うスフレ。
「おわり?」
ユウに一曲、姫にもう一曲…だからまだ演奏があるものだと思っていた姫が残念であることを隠すこともなくスフレに問う。
「お嬢様もあのような状態ですし」
申し訳なさそうなスフレの視線の先には、人に囲まれてピアノから離れることのできないフォードの姿。
「ヤツネ様への一曲は、また時を改めてさせて頂きますね」
「う、ごめん、催促したわけじゃなくて…」
「いいえ、演奏したかいがありました」
ヤツネの聞きたい気持ちと気遣うキモチ、どちらも受け止めてスフレが笑う。
その繊細な笑いに被るように、違う笑い声が聞こえてきた。
「いやぁ、それにしても誠王…誠王になられようとは恐れいりましたなぁ」
笑い声は、ユウを囲む客達から…二人の男から飛び出たもの。
「三妃七竜十三宝…久しく聞いておりませんでしたが」
「そうですか? 自分はついこの間、架劇団の演目で目にしましたな」
「おぉ、誠王物語ですな。あれはいい。実に痛快で夢がある!」
「うむ、王とはあのようでなければ!」
「我らがユウ王様にも、ぜひそのような王になって頂きたいもの」
「違いない!」
そして再びの笑い声。
男達の名誉の為にあえていうなら、この二人の客に他意は無い。
心から信じているわけでも応援しているわけでもないが、ユウが誠王となることをバカにしているわけではない。個人のことは気に入っているからこそ、ユウの側により話をしている。夢物語の人物を例えにだしてしまうぐらい、『誠王』というものに現実味を感じていないだけで、だからこそどこか割り切った朗らかさがある。
が、
「誠王様ですって」
「えぇ、そうですってね」
男達の笑い声に、遠巻きにしていた女性達の笑い声が混じった。
「耳にしたことはありましたが、まさか本気だとは…」
「いえいえ、それもまたユウ王様のジョークでございましょう」
別の男達がそれを耳に、話を広げる。
「でしょうなぁ。王は実にユーモアがおありですから…多少市民感覚が強すぎはしますが」
「仕方ありますまい、王や竜とはいえ、元は異界の学生」
「ここは我らが力を存分にお貸しすべきでしょう」
更に別の男達の笑いが混じる。
『お前ごときが誠王に?』という、ニュアンスの混じった笑いが増えていく。
もちろん客人の全てではない。
だが最初に『誠王』を口にした二人の男が、ユウに目をやる程度にははっきりと広がっている。
「「ユウお―」」
何か述べようとした二人の男を、ユウは声の無い笑いで押しとどめた。
二人の客人は、平然と現状を受け止めるユウに言葉を奪われたあと、グラン夫人へと助言を求める視線を投げた。
しかし夫人もまた微笑むと、二人から視線を外すのみ。
そして、同じように無視するものが他にもいる。
『言いたい者は好きに言え。ただし、それがどう降りかかるかはその身で知るべし』
商人や有力者の集まったこの場、品定めをしているのは自分だけでなく、互いにである。
今この瞬間にも、誠王を笑う者は自らの心を満たす代わりに、信用とそれに伴う利益を失っている。
そんなことにすら気づかない者は、より才覚ある者から見放され、または利用されるだけ。
今日までメガロポリスを強固に繋げてきたのは『信用』と『利益』であり、忠誠や友情といったものではけしてない。
新しい同盟を組もうとする同志ではあっても、家族でも仲間でもない。
だから分かっている者は、そんなことすら分からない者を相手にするような…もっといえば、分からないとはいえそれなりの力をもった相手と表立って敵対するほど無駄なことを好まない。
今それを理解した者もそれに倣っていく。
そうしてこの場では、誠王を笑う者と、誠王を笑う者を嘲る者とに分かれていく。
それが、通常の場。
が、時には現れる。
笑うでも、笑う者を嘲るでもない、別の反応を示す者が。
それは、言った。
いや、
それらは、言った。
「なんか―」「何か―」
一方は、熱くなった空気が風を舞い上げるかのように語気を荒げ…
もう一方は、冷めた空気が大気を地に押し付けるかのように務めて平坦に…
荒げたのは、姫。
平らげたのは、フォード。
「―面白いことでもいった?」「―おかしなことでもおありで?」
割って入った理由すら一瞬忘れて、二人の少女は顔を見合わせた。
打ち合わせしたわけではない。
なのにほぼ同じタイミングで、
ほぼ同じセリフで、
そしてほぼ同じ首の角度で見合って止まった。
「「…」」
もし、どちらか片方だけだったら、この間は生まれなかっただろう。
罵倒か、叱責か、種類は違えど客人達への『責め』が始まり、それは事を大げさにしたに違いない。
しかし、今ここに間が生まれた。
「ヤツネ…」「フォード!」
ユウが姫の手を取り引き寄せ、夫人がフォードの手を取り引き寄せ、
「「だって!」」
二人の娘の矛先はそれぞれの相手へと向かい、
「だってじゃない」「だってじゃありません」
「…」「…」
それぞれの相手の有無を言わさぬ視線を前に、沈黙した。
その沈黙が伝染する。
笑っていた者も、嘲っていた者も、視線を四人へと注ぐ。
種類に差はあれど、笑いや歓声で包まれていた会場が一瞬にして冷え切った。
そんなホールに、夫人の声が響く。
「…お詫びを、フォード」
負けじとフォードの均整のとれた声が飛ぶ。
「何に対してでしょう?」
「いわねば分かりませんか?」
「はい、わかりません」
一歩も引こうとしないフォードに、グランの目が剣呑な光を帯びていく。
二人の間に姫が割り込もうとしたが、ユウを始めにスフレにまで止められた。
「でも…」
「わかっております。ですよね、ご主人様?」
「ま、俺が止めるべきだよな」
小声でやりとりした三人。
不安と苛立ちの混じった姫の目と、信頼に満ちたスフレの目を受け、すぐさまユウが解決に至る道筋を数手を思い浮かべ…
(…よし)
と、行動に移そうとした時、彼女はやってきた。
「「「「「げっ」」」」」
一人だけではない。
もはや何人がつぶやいたのかもわからないほどの人間が、彼女を見た瞬間、思わず漏らした。
紳士淑女にはおおよそ似つかわしくない呟きを生み出せた彼女は、ニコリともピクリともしない顔で…ただ、冬のそれというよりは、真夏の木陰のように冷涼な顔つきでユウへと近づいてきた。
そして、言う。
「お久しぶりです、旦那様」
ツカツカと…細身ながらも背筋を伸ばし、眼光鋭く、声色を張り詰め、けして早く歩いているわけではないのだが揺れと無駄の無い歩きは見るものに俊敏さを覚えさせる彼女。
彼女はユウの目を見据え…どころか射抜く勢いで近寄ると、
「旦那様…」
その手をユウの頬に当て、
「教育的指導」
と、ユウの頬をひっぱたいた。
そしてユウの体が地面に落ちた。
比喩ではない。
まるで突風に煽られたかのように大きく頭を揺らすと、次の瞬間地面に這いつくばっていた。
「うっわぁ…」
叩かれてバチン、
転がってビタン…
連続して響いた音から痛みを想像し顔を歪める姫。
そんな聞くだけで顔を歪めるほどの『指導』とやらの直撃を受けたユウは、声にならない声をあげながら地面に転がっている。
「…殿方が、いつまでも女の前で転がっているものではありません」
「いや、転がったのは誰のせいだっていうか、そもそも女性っていうけど―」
「口答え及び乙女心を傷つけたことへの教育的指導」
ユウの脛を的確に狙った女の蹴りをすんでのところで避けるユウ。
「ふむ。よい反応です。褒めて差し上げます」
ペン先一つほども表情を変えぬ女を警戒しながら起き上がるユウ。
「しかし、私に張り倒されているようでは誠王など、夢のまた夢。此度の諍い、旦那様の不甲斐なさが招いたものとお見受けしました。皆様に謝罪いたすのがよろしいかと」
「それでお許し頂けると思う?」
「私は旦那様を、惚れた女が落とせるかどうかわからなければ口説かないようなケチな男に育てた覚えはございません」
女は近寄り、ユウの服を正すと、文字通り尻を叩き行動を促した。
「…お言葉ごもっとも」
笑い、ユウは頭を下げた。
「せっかく俺の為にこのような会を開いて頂いたのに申し訳ない。この埋め合わせは必ず…誠王になった暁にでも」
「余計なことは言わないでよろしい」
女がユウの頭を小突くや、一部から笑いが漏れる。
笑いを聞き、ユウもまた小さく笑う中、その隣で女はいった。
「このように至らぬ所の多い男ではございますか…上手く使っていただければ、それなりに有益なところもございます。ここはどうか先の短いこの老いぼれに免じて、水に流してやってくださいませ」
そして女は両手を…しわがれた手のひらを重ね、深々と…本来ならそうは曲がらぬであろう腰を曲げ、ユウよりも深く頭を下げた。筋張った首筋が見えるほどに。
それから数時間後、
来客たちは笑顔のうちにグラン邸を後にすることになる。
「旦那様、コチラのお嬢様のお母様は神楽月文化が大変お好きなお方です」
「ではお詫びに、戻り次第、装飾品でもお送りしましょう」
「お詫びが戻り次第とは、王様ともなるとお忙しいようですね旦那様」
「早馬で手配させましょう」
「それとアクセサリーよりも置物の方がよろしいでしょう。コーディネートが大変でございます」
その立役者となったのは、この女性…
グラン家のそれとも、スフレのそれとも違う形式のソレを纏う、深い年月をその身に刻んだ女性。
「次だ。あちらのご老人は?」
「海の町は造船所のご隠居様です。贈り物もお世辞も嫌う、一本気の通ったお方で」
「…対等に望んだ方がいいか?」
「いえ、大の女好きでございます。若い頃はそれはもうやんちゃでございましたが、不思議と恨み節は聞きません」
「よし、その秘訣を聞いてくる」
「それがよろしいかと旦那様」
ユウを旦那様と呼ぶ彼女の名前は、グラッセ。
ユウを叩き、ユウに助言し、ユウを補佐する、
「グラッセ」
「何でしょうか旦那様?」
「これからも頼む。誠王まで」
「…心得まして、旦那様」
誠王を笑いながら口にするユウに、やはり冷涼な表情で返す彼女…グラッセ。
彼女こそ、メイド達を束ね、ユウを『ご主人たる男』へと教育しているメイド長である。
お読みいただき、ありがとうございます。
ついに100話だぁ! ということでタイトルからして悩みながら付けました。個人的には嫌いじゃないタイトルになりました。
しかしそんなことどうでもよくなるぐらいに、個人的には衝撃的なメイド長『グラッセ』。
能力とか外見とか性格とかもうなんかそういうのじゃなくて、なんと、バァ様。
お待たせしました、全国5人のロリババァではなく、ババア好きな皆様。
熟女を通り越し、枯れた趣を漂わすバァ様好きな皆様。
自分のせいではありますが、どうしてこの設定にしたのか、はなはだ疑問です!
いや、まぁ、最初から決めていたんですけどね…
ただまぁ、実際に出してみると、やっぱり自分の中で衝撃がすごい。同じようなポジションなら、性格キツメのメガネの委員長系とかでもいいじゃないかっていう思う。だけどボクの中でグラッセはバァ様だったんだ。
だから反省はしない。後悔はするかもしれないが。
あ、ちなみに若い頃はかなりの美人で、取り合いになったそうですよ?
グラッセに限らず、メイド隊の主要メンバーはそれぞれに7竜(まだほとんど出てないけど)と同じ程度にはエピソードを考えているので、そのうちどっかでお披露目できるといいなぁ。
ちなみにこの章で仲間になる残りのメイド隊も、そこそこ色物です。いい色か悪い色かは…どうだろぅ…。
そんな感じで、間はあいても投稿しますので、引き続きお相手いただける皆様、よろしくお願いいたします。




