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ユウ王戦記 ~三妃 七竜 十三宝 を揃えて異世界で王になるまで~  作者: しいか
第3章 メガロポリス分裂編

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戦記99「王よ竜よ姫よ民よ」

 投稿システムがやや変わったようなので、予約投稿の確認&投稿。

 無事投稿できてますよーに。

戦記99「王よ竜よ姫よ民よ」


 戻ってきたスフレの手には、姫には見慣れないケースが握られていた。

 年季を感じる木目のケースは、それ自体がよく手入れをされているのか艶やかに光を返している。

 さて、そのケースから出てくる楽器とは…

 姫が興味津々とばかりに目を向ける中、ケースから出てきたのは弦の張られた楽器。


「あれヴァイオリンでしょ!」

「ご名答」

「あれも難しいって聞いたけど…スフレさんが弾く…んだよね?」

「えぇ。プロの音楽家からお墨付きを貰う腕前よ」

「は?」

「ま、それでもフォードに比べれば、たしなむ程度だけど」

「え?」


 驚きと、賞賛と、僅かな疑念でもって演奏者二人を見る姫。

 目は大きく見開かれ、耳は少しでも音を拾い易い場所を探そうと動き、そんな姫の期待を煽るかのように、両者が慣らしの音を響かせる。

 それだけで姫は更に釘付けになり、そしてそれは姫だけではなかった。


「ほぅ、フォードお嬢様とあのメイドが」

「あのメイドはどなたのメイドで?」

「ユウ王様付きのメイドで、ほら、あのグラッセさんの」

「おぉ、グラッセさんの! なるほど、それは興味深い」


 気が付けばホールにいたほとんどの客人達がフォードとスフレの周りへと集まっていた。

 いや、客人達どころか元々ホールにいた者は勿論、厨房や別の場所で働いていたメイド達すら、用事を見つけて滞在しようとしている。

 ともすれば、それだけで緊張してもおかしくないほどの視線と期待を寄せられる中、当の本人達はどこ吹く風…


「そろそろいいかしらスフレ?」

「はいスフレはいつでも。曲目は如何致しましょうお嬢様?」

「もう決めてるの。歌劇『七竜と王の帰還』より、『王よ竜よ姫よ民よ喜びよ』よ。どう?」

「はい、よい選曲でございます」


 歌劇などというものを見たことが無い姫にはわからなかったが、それ自体は有名な演目でありま、曲であり、曲目を耳にした客人達からは「なるほど」や「よいセンスをなさっている」などと、納得や賞賛がしきりに飛び交う。

 選曲とその評価に自信を高めたフォードは、コホンと、聞こえるように咳払いをすると、一堂の注目と静けさを一手に集めた。


「それでは、いずれ誠王となるお兄様…あえてここはユウ王様とお呼びいたしましょう…ユウ王様に、グラン家時期当主フォードと、王の臣下たるスフレが、ささやかながら一曲お送りいたします」


 そしてフォードとスフレは視線を絡め、一つ息を吸い、視線を外すを合図に演奏を始めた。


(―!!)


 音の衝撃に、姫は頭の中にすら言葉を忘れた。

 言葉にできず、

 思いにできず、

 ただただ流れてくる水を受け止める川辺の岩のようになった。

 流れに地肌を削られ水を染みさせていく土のように、

 流されて流されて角のなくなる石のように、

 与えられる影響に抗うことできず、ただあるがままを受け止めるだけのモノになった。

 そんな姫は、後に感想を求められた時、演奏に関しこう述べている。


「スゴイ、としか思えなかった」


 そして更に後の年に、こう付け加えている。


「初めて聞いた協奏曲があの二人でよかった」


 と。

 楽譜も無く、従うべき指揮者も無く、それなのに二人の拍子はキチリと進み、しかしお手本のように画一的なものではない。

 フォードという演奏者の情緒が、鍵盤を叩く一打一打に乗っていく。

 その音をあえて文字で表現しろといわれれば「感性豊かな子供達のような音」とでもいえばいいだろうか…

 一人の子供が趣味で作り上げた自室ではなく、複数の子供たちがその場を感じ合うことで出来上がる遊び場のように、複雑で賑やかな音色となっている。

 ならば、それに寄り添うスフレの音は「情緒深い姉のような音」とでもいおうか。

 園長やシスターが子供たちに困りながらもその躍動感を楽しみながら見守り、そして無理の無いよう慈しみ手を貸すように、ピアノの音に自らを絡めていく。

 動ドウと、

 静ドウと、

 動セイと、

 遊びの中にも自然とリズムと波ができるように二人の流れは一つに重なり、

 子供さと大人さが一つとなり、曲の持つ『冒険心』と『歓喜』を露にしていく。

 飽きるどころか、曲が始まってからどれだけの時間が流れたかも分からないほどの集中の中、冒険心と歓喜に煽られた観客が声を上げた。


「さぁー、我らが王のご帰還だ!」


 声を上げたのは、酒と麦の国の代表である男。

 声をあげた男に、フォードとスフレは感謝の目線を送り、男は男で親指を立てて応えた。

 野次ではない。

 事前に示し合わせたわけでもない。

 『きっと誰かがそのセリフを言ってくれる』という演奏者の思惑に、『誰かが言うのが心意気』と思った男がのかったのである。

 なぜならば、この演奏とは本来がそういうものだから。

 オペラを代表とする歌劇に分類される演目の1つ、『七竜と王の帰還』。

 その演目でこの曲が使われるのは、七人の竜と共に魔王討伐へと向かった王が、命からがらながらも魔王を退治し姫を救い出し、民や臣下が帰還の喜びを歌うシーンでのことである。

 そして先ほどのセリフが、その王の帰還を皆に知らせ、曲が盛大に盛り上がるきっかけとなるもの。

 曲の中、演奏者はここぞとばかりに音を奏で、踊り手たちが舞い、

 竜達は、いかに自分達の冒険が苦労多きものだったかを語り、

 王は、その苦難をいかに竜達が払いのけたかを語り、

 姫は、王と竜が起こした奇跡を語り、

 臣下は、魔王の脅威が払われたことを語り、

 クライマックスへと向かうシーン。

 そんな筋書きを知らぬ姫ですら、曲の盛り上がりに身を震わせる。

 知っている客人にいたっては、かつて見た舞台の情景が、役者達のセリフが、胸躍らせた記憶を掘り起こされる中、そして、


(―え)


 音が止まった。

 急に。


(…失敗?)


 曲を知らない姫がそう思うのも無理ないこと…

 まるで加熱した鉄に水をかけたように音は止まり、その余韻だけがホールへと伸びていく。

 しかし、ピアノもヴァイオリンも、手はいつでも弾けるように体勢をとっている。顔に焦りもない。つまり、失敗ではなく、意図的なこと。先ほどのセリフがそうであったように。


 ではそれにどんな意図があるのか?


 わかっていた者は、視線を女性に…夫人に投げた。

 きっと『その役』を多くの者が夫人に求めると想像し、そして見事にそうなったフォードは『さきほど叱られたお返しだ』とばかりに小さく笑い、そして夫人は諦めたように一歩ピアノへと近づいた。そして、


「そして王よ」


 その一声で、姫の背筋は震えた。

 ピアノとヴァイオリンにも震えはした。

 震えはしたが、これはそれ以上。

 その身一つでホール全体に伸びやかに広がる声…広く、大きく、こんなにも存在感があるのに無駄な力みも雑味もない、水底すら見える泉のような声…

 歌姫と呼ばれ、祭事においては歌を歌う姫だからこそ、その声に感じた衝撃は計り知れない。

 後の姫の言葉を、今ここに引用しよう。


 『自分が、こんなにも簡単に背筋が震える奴だなんて知らなかった』


 叱った時とも、背筋を正した時とも、砕けている時とも、いずれとも違う夫人の声。

 ピアノという巨体をもってして始めて、ヴァイオリンという完成された形を持ってようやく支配できるホールを、たった一人の女性の声が支配する。

 その声が、客の心を支配するためのセリフを紡ぐ。


「偉大なる王よ、勇ましき竜よ。喜びを、しかし嘆き多き私をどうかお許しを、そしてお教え下さい。この世に魔王は…恐怖の日は二度とこぬのでしょうか?」


 紡いだのは『七竜と王の帰還』の有名な一シーン。

 開放された喜びに沸く民の中、未来の不安を感じ王の前へ身を投じた娘の問い。

 当時大団円が当たり前だった時代の、ハッピーエンドが当たり前だった時代の、そんな時代の戯曲化と作曲家が渾身の思いを込めて世に放った力作。

 異世界の者から伝え聞いたこの、


「明けない夜はない」


 から始まる、最後の一シーン。

 そのセリフを放ったのは、

 その続きである王のセリフ、


「しかし、暮れぬ昼もない」


 そしてこの場で王の役を引き受けたのは、


「故に、恐怖の来ない日などない」


 本物の王…ユウ王。


「しかし、だからこそ我らはここに誓い合おう。恐怖の来ぬ日がないように、喜びの来ぬ日もまたないことを。その日がひと時でも早く来るよう、我と竜が、我ら潰えし時は次の王と竜が、幾度でも剣を掲げると」


 夫人のそれに比べれば、明らかに質の劣るユウの台詞回し。だが役ではなく『本当に王である』ことと、


「だから次の王を作る手助けをして貰えると助かるんだけど、今夜とかいかがでしょうお嬢さん?」


 本来ならば『恋人と子供を生み育むよう促す』はずのセリフを『ユウ王』らしい言い回しに変え、客達は手を叩いて賞賛を送った。

 そして、その賞賛を合図に最後の演奏が始まる。

 ピアノとヴァイオリン、双方の超絶技巧と呼ばれる早引きや複雑な音色の組み合わせが、拍手の音を燃料に高まりを続け、

 続け、

 続け、

 続け、

 それにあわせて夫人とユウが手をとり、

 握り、

 掲げ、


「「「「「我らが国に喜びを!!!」」」」


 客人達もまた同じように拳を掲げ、そろいのセリフを述べたところで演奏が終わった。


「…ふぅ」


 息を吐き、フォードが笑顔を向けると、ホールには拍手の音が鳴り響いた。

 それは先ほど演劇上の『演出』としての拍手のそれとは違い、思い思いの拍手ゆえにバラバラで、そこに芸術性や意図なんてものは微塵も感じられない。が、だからこそ姫は強烈に感じた。


(―スゴイ)


 と。

 それしか言葉を生み出せない自分に、少々のくやしさを覚えながら。

 その、名前も素性も分からぬ人達の間に、しかし確かに感じる一体感に背筋を震わせながら。


(―スゴイ)


 と。

 お読みいただきありがとうございます。


 ついに99回…次回で100回。

 自分によく書き続けたと褒めるよりも、よくここまで読んで頂けたな…とお読みいただいている皆様への賛辞を強く感じる今日この頃。

 さてそんな100話目はどんなお話か…気にしていただけましたら、また次回。

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